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てん菜の適正施肥管理によるコスト削減

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最終更新日:2010年11月4日

てん菜の適正施肥管理によるコスト削減

2010年11月

道立総合研究機構北見農業試験場研究部 生産環境グループ研究主任 笛木 伸彦

肥料コストの削減ーてん菜の収益性向上のカギ

 てん菜は畑作物の中で最も施肥量の多い作物である。そのため、10a当たり生産費(87,663円)の24%を肥料費が占めており(図1)、肥料費は10a当たり21,039円にも上る。
 
 全道における10a当たり平均施肥量(平成21年度)は窒素17.0kg、リン酸29.0kg、カリ13.0kgで(てん菜糖業年鑑2010)、「北海道施肥ガイド2010」(平成22年3月 北海道農政部発行)に示されている数値と比較して、窒素とカリは施肥標準量レベルであるものの、リン酸は施肥標準量20〜22kgよりも明らかに多くなっている(表1)。すなわち、全道傾向で見ても減肥可能な余地があり、したがって肥料費を節約することで収益性を改善できる余地は十分にある。
 
 
 
 
 ただし肥料費を節約してはみたものの、そのせいで減収を招いては本末転倒である。そのような失敗をしないために、「北海道施肥ガイド2010」を活用し、収量性を確保しながら適正施肥(減肥)を実践することが重要である。

新しくなったてん菜の施肥標準量(表1)

 「北海道施肥ガイド2010」では、近年の増収傾向を反映させ、てん菜の基準収量を6000〜7000kg/10aに改訂した。これに伴い、窒素施肥標準量をおおむね2kg/10a増加した。また地帯区分を全道に一本化した。後述する土壌診断では、これらの施肥標準量を基礎に土壌の分析結果に基づいて施肥量を加減する。
 
 
 
 

3種類の土壌窒素診断―条件に応じて使い分ける

 これまでの試験研究の積み上げから、てん菜の土壌窒素診断には、
 A.作土の熱水抽出性窒素診断
 B.0〜60cm土壌無機態窒素診断
 C.Nスコア法
 の3種類の方法が整備されている。
 
 これらの3種類はいずれも全道で活用可能であるが、それぞれの特徴があり、以下のように使い分けるのが推奨される。

A.作土の熱水抽出性窒素診断

 熱水抽出性窒素(AC-Nともいう)は、てん菜以外の作物にも広く用いられるものの一つである。この熱水抽出性窒素の分析値に基づき、表2からてん菜の適正な窒素施肥量を求めるのが本法である。
 
 本法は、有機物があまり施用されておらず、土壌中の易分解性有機態窒素が主たる窒素供給源である場合に活用するとよい。なお熱水抽出性窒素の分析値は、通常3〜4年程度継続利用することが可能であるが、有機物を多量施用した場合など、施肥量を大幅に変更する場合には土壌診断の頻度を高めて、土壌養分の適正化をはかる必要がある。
 
 
 
 
 診断値の使用例を一つ示す。ここにAほ場とBほ場があるとする。両ほ場ともに普段あまり有機物が施用されていないが、熱水抽出性窒素診断値はそれぞれ、5mg/100gと2mg/100gであった。表2に基づくと、窒素施肥量は各々、Aほ場:16 kg/10a、Bほ場:24 kg/10a、となる。
 
 

B.0〜60cm土壌無機態窒素診断

 道内の畑作地帯の中には、冬季間の降水量が少なく硝酸態窒素が土壌に残存しやすい地帯で、野菜作跡地など多量の無機態窒素の残存が想定される場合がある。また、新規購入地や借地など、過去の有機物投入履歴が不明な場合も少なくない。このような場合には、0〜60cm土壌無機態窒素診断が活用可能である。
 
 本法を実践するには、まず「当年春の0〜60cm土壌硝酸態窒素量(kg/10a)」を求める必要がある。この分析は小型反射式光度計を用いて行うことができる(詳細は「北海道施肥ガイド2010」のp.39〜40を参照して頂きたい)。
 
 次に、後述する「Nスコア法」と同様に、「当年春の有機物施用量に対応したNスコア」を表3から求め、以下の手順(1)〜(5)に従って窒素施肥量を決定する。
 
(1)当年春に0〜60cm土壌無機態窒素を測定し、以下によりNスコア合計推定値を計算した後、窒素施肥量を決める。
 
(2)Nスコア合計推定値=
〔当年春の0〜60cm土壌硝酸態窒素量(kg/10a)×1.1+当年春の有機物施用量に対応したNスコア(表3)〕
 
(3)窒素施肥量(kg/10a)=21−Nスコア合計推定値
 
(4)得られた窒素施肥量は、ほ場条件に応じて±1(kg/10a)の範囲で加減する。
 
(5)上記で計算した窒素施肥量が4(kg/10a)未満であるときは、初期生育確保に最低限必要な窒素施肥量(スターターN)として4(kg/10a)を施用する。
 
資料:「有機物等の窒素評価に基づくてんさいの窒素施肥対応」(平成19年普及推進)
 
計算例:「当年春の0〜60cm土壌硝酸態窒素量(kg/10a)」は5.5 kg/10a。当年春にたい肥(単年施用と連用5年未満)を2t/10aと牛尿を2t/10a施用した場合、表3から「当年春の有機物施用量に対応したNスコア」は2×1+2×2.5=7となる。すなわち、「Nスコア合計推定値」は5.5×1.1+7=13.05となるので、窒素施肥量は21−13.05=7.95 (kg/10a)となる。
 
 

C.Nスコア法

 道内畑作地帯、特に道東地域では有機物が比較的多く施用される場合が少なくない。このような場合には、有機物から供給される窒素を考慮する必要がある。施用された有機物の量が把握できている場合には、土壌窒素の分析を必要としない「Nスコア法」が活用できる。Nスコア法の手順は以下の(1)〜(3)に示した。
 
(1)窒素施肥量(kg/10a)=21−前作収穫後から施肥前までのNスコア合計値
 
(2)得られた窒素施肥量は、ほ場条件に応じて±1(kg/10a)の範囲で加減する。
 
(3)上記で計算した窒素施肥量が4(kg/10a)未満であるときは、初期生育確保に最低限必要な窒素施肥量(スターターN)として4(kg/10a)を施用する。
 
計算例:小麦跡地にえんばく緑肥(N3kg施用)、牛ふん麦稈たい肥4t施用(4年に一度施用)
     春先に豚ふん尿スラリー2t散布した条件では、窒素施肥量=21−(3+1×4+1.3×2)=11.4(kg/10a)
 
 
 
 

リン酸、カリ、苦土の土壌診断と施肥対応

 リン酸、カリ、苦土の土壌診断と施肥対応は、施肥標準量(表1)とそれぞれ土壌(作土)の有効態リン酸含量(トルオーグ法)、交換性カリ含量、交換性苦土含量の分析値に基づいて行う。
 
 

たい肥や下水汚泥コンポストを施用した場合にはリン酸の減肥が可能

 「北海道施肥ガイド2010」には、たい肥および下水汚泥コンポスト施用に伴うリン酸の減肥可能量が新たに示された。すなわち、たい肥1tにつきリン酸1kg、石灰系下水汚泥コンポスト1tにつきリン酸5kg、高分子系下水汚泥コンポスト1tにつきリン酸7.4kg、の減肥が可能である。

多くの有機物に示されているカリ減肥可能量

 カリはたい肥や下水汚泥コンポストのみならず、てん菜茎葉などのほ場副産物、緑肥、液状有機物等を鋤き込み・施用した場合に減肥が可能である。詳細は北海道施肥ガイド2010を参照して頂きたい。

リン酸・カリ・苦土施肥量の計算例

 例えば、火山性土のほ場において、小麦収穫後の土壌診断の結果が、有効態リン酸含量:30mg/100g、交換性カリ含量:42 mg/100g、交換性苦土含量:40mg/100gであり、その後えん麦を後作緑肥として作付けし、かつてん菜作付け前までの期間にたい肥3t/10aを施用した場合について、以下に施肥量の計算例を示す。
 
 リン酸:火山性土なので施肥標準量は22kg/10a(表1)。有効態リン酸含量は30 mg/100gで基準値の上限なので、施肥標準に対する施肥率は100%(表4)。たい肥3t/10aの施用に伴いリン酸3kg/10aの減肥が可能なので(上述)、必要なリン酸施肥量は22−3=19kg/10aとなる。
 
 カリ:火山性土なので施肥標準量は16kg/10a(表1)。交換性カリ含量は42 mgK2O/100gで基準値を超えているので、施肥標準に対する施肥率は60%(表4)。さらに後作緑肥(えん麦)の作付けによってカリ10〜20kg/10aの減肥が可能で、さらにたい肥3t/10aの施用に伴いカリ3×4=12kg/10aの減肥が可能であることから、必要なカリ施肥量は16×60/100−(10〜20+12)=−12.4〜−22.4kg/10aとなり、すなわちカリ施肥の必要はない。
 
 苦土:火山性土なので施肥標準量は4kg/10a(表1)。交換性苦土含量は40 mg/100gで基準値内であることから、施肥標準に対する施肥率は100%(表4)。したがって必要な苦土施肥量は4kg/10aとなる。
 

減肥の実践に当たって

 生産現場からは「減肥しろといわれてもそれに見合った配合肥料がない」という意見が寄せられることが少なくない。実際、個々のほ場にあった配合肥料を製造し流通させるのは不可能である。そのような場合でも、できるだけ不要な肥料を省く工夫をすれば、かなり肥料の節約ができる。
 
 例えば、上記の例の場合、施肥量はリン酸:19kg/10a、カリ:0kg/10a、苦土:4kg/10aであり、さらにNスコア法で窒素施肥量も計算すると(後作緑肥えん麦作付け時に窒素施肥を4kg/10a施用したとすれば)、21−(4+3)=14kg/10aとなる。
 
 これに見合った配合の肥料は存在しないが、この配分にできるだけ近づけるためには、カリが少なく、窒素とリン酸の配合割合ができるだけ近い肥料銘柄を選んだ上でまずリン酸を基準に施肥量を決め、不足した窒素や苦土はあらかじめ全面散布しておくか、てん菜植え付け後の施肥カルチ時に補うなどで対応できる。あるいは、作条基肥(いわゆる畦切り時)の施肥は、リン安等を利用してリン酸施肥とそれに伴う窒素施肥のみとし、他の不足要素は全面散布や施肥カルチで補う、というやり方も考えられる。いずれにしても減肥=肥料の節約、には何らかの工夫が必要である。ぜひ挑戦して肥料コストの削減をはかって頂きたい。
 
 

土壌pH管理の重要性

 てん菜は畑作4品の中で最も土壌の低pHに弱いとされ、酸性障害が甚だしい場合には著しい減収をもたらす。実際、低収の原因が低pHであるのに肥料が足りないせいだと誤解し多肥化に歯止めがかからず、肥料コストを無駄に増やしている事例がある。
 
 移植栽培においても,土壌の低pHは初期生育を大幅に抑制するので減収は避けられない。さらに直播栽培では移植栽培の場合のような紙筒による保護がないため,土壌の低pHに加えて施肥による濃度障害などが加わって複合的にダメージが大きくなりやすい。
 
 低pHによる初期生育の障害・遅延を根本的に回避するには,石灰質資材を投入してほ場全体のpHを上昇させる以外に方法はない。移植栽培の場合には低くとも土壌診断基準値であるpH5.5以上に維持管理することが必要であり,直播栽培の場合にはさらなる酸性矯正が必須で、pH5.8以上とするのが望ましい。
 
 石灰作条施用は表7に示すように,移植栽培・直播栽培の両方において,初期生育向上に効果があり,増収が期待できる。石灰作条施用が有効である理由については,施肥位置(株間土壌)のpH上昇とこれに伴う硝酸化成の促進やリン酸の有効化,CECの増加など,株間(根圏域)の土壌環境を総合的に改善するためであろうと考えられている。
 
 
 
 

直播てん菜における施肥法

 直播の場合、施肥量の決め方については移植と同じであるが、その施肥法について注意する必要がある。前述のように、直播では紙筒による保護がないため、肥料による濃度障害等のダメージを受けやすい特徴があることから、全層施肥や分施、作条混和といった、てん菜の根圏域の肥料濃度が極端に高まらない施肥法を採用する必要がある。3つの施肥法の具体的な手順は表8に示した。
 
 
 分施と作条混和は全道で適用可能だが、全層施肥については春〜初夏に降水量の多い地帯では肥料の流亡に伴う肥効低下が懸念される場合がある。表9に示した全層施肥の適用条件を参考に、全層施肥が適用可能かどうかを確認するのが望ましい。
 
 

まとめ

 以上述べたように、てん菜の適正施肥管理によるコスト削減の実践には「北海道施肥ガイド2010」が不可欠である。同ガイドを正しく理解し、てん菜のコスト削減を成功させて頂きたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:情報課)
Tel:03-3583-8713



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