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さとうきび栽培省力化に向けて

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最終更新日:2011年9月9日

さとうきび栽培省力化に向けて〜多用途型栽培管理機の開発〜

2011年9月

沖縄県立農業大学校 助教授 玉城   麿  
沖縄県農業研究センター 総務企画総括 赤地   徹 
琉球大学農学部 准教授 鹿内 健志

はじめに

 小規模な生産農家がひしめく沖縄県のさとうきび作では、平成19年度から本格的に実施される品目別経営安定対策による直接支払制度に対応するため、新たな担い手としての生産法人や共同利用組織を中心とした受委託作業体系を早急に確立する必要があった。そして、これらの法人では新制度を前に受託作業体系の作業効率の向上に寄与する作業機や機械化システムの構築を望んでいた。そこで、沖縄県農業研究センターは、平成20年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業において、琉球大学や企業と共に、生産法人・集落営農等を支援するさとうきび機械化システムの開発に取り組み、ニーズに対応した汎用管理機と補植機を開発した。また、作業ロスが懸念される生産法人の作業計画を支援できるスケジューリングシステムの開発にも取り組んだ。本稿では、生産法人などが作業機を配備するにあたり、イニシャルコストの低減が可能となることを目的に開発した汎用管理機の開発の経緯、構造や機能について紹介する。

1.開発の背景

 沖縄県のさとうきび作は、収穫面積や単収の減少、担い手の高齢化などにより、2004/2005年期には生産量が最盛期の半分以下まで落ち込んだ。現在でこそ、生産量の減少は緩やかになっているものの、将来的には、生産者の高齢化に伴う労働人口の大幅な減少が予測されている。また、さとうきび生産量の減少は関連産業も巻き込んだ極めて憂慮すべき事態となっており、特に製糖工場の操業日数の減少は、さとうきびが主産業である離島地域の将来への展望にも少なからず影響を与えている。そもそも、さとうきびは土地利用型作物であり、沖縄県内で栽培されている他の作物と比較して台風や干ばつといった気象の影響を受けにくいものであることから、大規模に、効率よく管理できる生産者が有利であることは言うまでもない。そして、良好な生産管理体系を構築するためには作業効率に優れた作業機が不可欠である。

 一方、平成17年12月、農業経営の効率化と安定を図ることを目的とし、認定農業者や集落営農に対し、平成19年産から強力な支援を行うための新たな政策(経営安定対策)の支援方策が示された*1)。この政策は、これまでの農家支援策を見直し、諸外国に対して競争力のあるさとうきび産業を振興するため、認定農業者もしくは一定の要件を満たす農家を支援するものである。例えば、収穫面積が1ha未満の小規模農家は、一定の作業規模を有する受託組織へ耕耘や植え付け、収穫などの基幹作業を委託することで支援を受けられるといったようなものであった。しかし、当時、沖縄県における作業受委託の体制は十分に構築されているとは言えず、さとうきび生産法人*2)などの受託組織の数も大幅に不足していた。現段階では経営安定対策の効果は検証しきれていないが、作業受委託の環境整備を進める中で、機械化作業体系に対する関係者の頻繁な議論により、これまで曖昧であった生産管理上の課題も明らかになってきた。さとうきび栽培では大部分の作業において機械化技術ができあがっているものの、一経営体で機械化を完結するためには種々の作業機を装備する必要があり、大きなコスト負担を強いられることや、改良が必要な完成度の低い作業機も未だ存在する。また、最適な作業スケジュールを構築できるような手法が確立していないため、作業適期を失するなど機械化システムとしては未成熟と言わざるを得ない。

 このような状況の中、沖縄県農業研究センターでは、新たな受託組織の参入も想定しながら、作業機導入のイニシャルコストの低減が可能な機械化システムについて平成17年から研究を開始し、多用途型栽培管理機の開発を柱の一つと位置づけた。

2.開発の経緯

(1)多用途型栽培管理機の開発目標

 調苗作業を省略できる全茎苗植付け方式を採用した植付け機、平均培土や高培土などさとうきびの異なる生育ステージに適応した培土機、株出し栽培を前提にした機械収穫後の複数の管理作業に対応できる株出し管理機の3つの機能を有する多用途型栽培管理機を開発することとした。表1にさとうきび作の栽培管理の例を示す。通常、「耕耘」、「植付(肥料散布を含む)」、「平均培土(除草・肥料散布を含む)」、「高培土(肥料散布を含む)」などの作業はそれぞれの専用機で行われている。受託組織が独自でこれらの作業機を整備するには、少なくとも3種類の作業機(平均培土と高培土は同一機で対応)を保有しなければならない。多用途型栽培管理機はこれを1台で処理できることを目標とした。

 多用途型栽培管理機については、過去に2節苗対応の機種を開発しているが、駆動トラクタとして75.6kW(100PS(馬力))程度の大型が必要であったのに対し、ここで開発する多用途型栽培管理機は、45〜50kw(60〜70PS)級のトラクタを利用することを想定したことから、機体重量の軽量化に配慮した。また、耕耘、培土、植付けといった作業スタイルへの機能変更が容易に行えるよう、アタッチメントのモジュール化を検討した。さらに、汎用化はコスト負担を軽減することが大きな目的であることから、200万円程度の販売価格を目標に開発を進めた。当機の開発により300万円程度のイニシャルコストの低減が期待できる(表2)。Aは全茎式植付機を使用した場合、BはAで紹介した全茎式植付機よりも重量が嵩む二節苗植付機を使用した場合、Cが新たな汎用管理機の目標価格である。占有率はコストバランスや利用効率を考慮し、任意に設定した。
 
 
 
 

(2)多用途型栽培管理機の特徴

(2)−1開発機の概要

 開発した多用途型栽培管理機を図1に示す。当機はさとうきび作で一般的に普及している44.1kW(60PS)程度のトラクタで駆動可能である。砕土装置にはI社製小型ロータリBRH140VBを2台連結して使用した。植付機仕様ではロータリで掘削後、作溝機で植溝を作成する。苗積載棚には全茎苗が積載される。切断機構によって苗は25cm程度に切断され、植溝に落下する。落下した苗は覆土板により覆土された後、鎮圧輪で踏圧される。装着した2台の小型ロータリはスライド可能であり、耕耘仕様時には接近させ、培土時には左右へスライドし畦を跨ぐ設定が可能である(図2)。適応畦幅は120〜140cm、ロータリ耕耘幅は片側90cm、培土作業時の最低地上高は50cm程度、植付深さは地上から15〜20cmに設定可能である。本機には施肥および農薬散布機能も付加されている。作業能率は植付5.4a/h、培土3.2a/h程度が期待できる。
 
 
 
 
(2)−2覆土圧の確保

 培土作業時の覆土圧コントロールには特に配慮した。例えば、リジャーの幅を拡大し、苗に土塊が被らないようにする一方、覆土に必要な土塊は覆土板のみで確保する機構の開発に取り組み、マージほ場においては十分な管理が行えることを確認した(写真1)。
 
 
 
 
(2)−3アタッチメントのモジュール化による容易な仕様変更

 植付機から耕耘または培土機のスタイルに仕様変更する際には、苗積載棚を外す必要がある。苗積載棚の上部接続箇所をフック式にすることで(図3)、棚の脱着時間は4分/1人程度となり、経験の浅いオペレータでも作業が可能となった。具体的には、ロータリ側のフックが積載棚の接続部に引っかかり、積載棚を持ち上げると積載棚の下部にあるピン固定用接続部がロータリ側下部の接続部に引き寄せられる構造になっている。
 
 
(2)−4振動対策

 開発当初の機体において培土作業を実施した際、試乗した生産者から、機体振動の低減を求められた。そこで、機体の振幅を抑制するため、管理機前方に尾輪を設置し、振動抑制の状態を確認した(写真2)。その結果、オペレータからも振動が明らかに緩和され、作業条件が大幅に改善されたとの感想が寄せられた。
 
 

3.価格低減に向けた取り組み

 現行の各種作業機は沖縄特有の重粘質な土壌に対応しなければならないため、国内で使用される一般的な作業機と比べて大型となる。その分、これらを駆動もしくは牽引するトラクタは75.6kW(100PS)級など大型化する傾向がある。本開発では作業機の軽量化と低コスト化を図り、44.1kW(60PS)程度のトラクタでの作業が可能となった。これにより機材整備時のトラクタ販売価格を大きく低減できると考えられる。

 一方、開発機の価格は現在のところ目標には届かず、製造販売企業において低コスト化についての取り組みを行っているところである。価格低減が図られない要因には材料費や人件費の問題だけでなく、小ロット生産であるということも非常に大きく影響している。販売市場が南西諸島地域に限られる現状では、販売台数も多くは見込めない。今回の開発においても小ロット生産に関する問題が発生した。例えば、開発機のロータリ部分は既存の製品を利用しているが、多用途型栽培管理機に最適化のために改良を依頼しても、費用対効果の面から製造元は難色を示した。今後は、小ロット生産にも対応できる県内企業育成に加え、国外企業も視野に入れたグローバルな製品開発も模索する必要があると考えている。

4.製品課に向けた現状と課題

 多用途型栽培管理機は実用化に対応した作業精度と作業能率を確保できた。しかし、軽量化などにより、現状では作業適応地域が国頭マージおよび島尻マージ地域に限定されている。また、培土作業時の振動は軽減されたものの、金属疲労の蓄積なども懸念されていることから、現在、製造販売元において実用化に向けた改良が行われている。

謝辞

 本開発は、株式会社くみきの前代表取締役前川徹男氏の尽力によって進められたものである。本機の設計開発にあたっては、松本機工株式会社専務の松本重信氏にアドバイザーとして参画して頂き、多大な協力を頂いた。また、開発プロジェクト終了後も本機の販売に向け、品質向上に取り組まれている株式会社くみき営業部長の喜久山博一氏、南部営業所の下地豊氏に感謝申し上げる。さらに、沖縄県農林水産部糖業農産課、関係する生産農家にはプロジェクト期間中に定期的にお集まり頂き、貴重なご助言を頂いた。感謝の意を表する。

参考文献

*1) 農林水産省:経営所得安定対策等実施要網,
    http://www.maff.go.jp/j/syotoku_antei/s_youkou/index.html.

*2) 上野正実:さとうきび生産法人における機械利用と経営改善,砂糖類情報,2006年7月
    http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0607b.htm
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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