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新型吊下分離機の開発

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最終更新日:2011年10月7日

新型吊下分離機の開発

2011年10月

月島機械株式会社 エンジニアリング本部 機器設計部 
分離グループグループリーダー 阿部   研
渡會 知則

【要約】

 吊下分離機は、砂糖用遠心分離機として国内外で広く使用されており、月島機械の主力納入製品の一つとなっている。近年の国内外の市場・客先ニーズに対応するため、吊下分離機をリニューアルすることとした。2008年から2年間をかけ開発、実機テストを経て2010年より上市している。新型機は、既存機のシンプルで故障が少ない特徴は踏襲し、サイクル数増加とサニタリー性向上を果たした。また、接液廻り機構部に永久磁石を用い、消耗部品・摩耗粉がないユニークな機構も搭載した。

 開発した機構は、国内の機種に対しても適用でき、今後の装置更新需要を掘り起こす魅力がある。

1.はじめに

 砂糖の製造工程の終盤の分蜜工程においては、濃縮した糖液(白下)から砂糖の結晶を取り出すために、遠心分離機を用いて結晶と蜜とを分離する。有孔バスケットの内側に網(スクリーン)を張り、白下を装入して高速で回転させると、砂糖は内側に残り、蜜は遠心力により孔を通過して振り出される。

 吊下分離機は、砂糖用遠心分離機として国内外で広く使用されており、当社ではこれまでに2,000台を越える納入実績がある主力製品の一つとなっている。吊下分離機はバッチ式(*注)分離機であり、1バッチ(1サイクル)あたりの処理量がバスケットサイズや分離機の大きさを決定するため、各社1バッチ当たりの処理量別にラインアップを構成している。性能差は「1バッチあたりの時間がいかに短いか」で比較され、1時間当たり何バッチ稼働するかを「サイクル数」と呼んでいる。モータのトルク(回転力)が大きく、バスケットなどの回転部品が軽量であればあるほど、回転上昇/下降時間が短くなるほか、分離しやすいバスケットやスクリーンとすることでも分離時間が短縮され、サイクル数が増加する。また、砂糖を排出する掻き取り時間を短くすることでもサイクル数が増加する。

 近年、東南アジア・西アジアの砂糖工場は生産量を拡大してきており、吊下分離機も大型化してきている。また、価格的に安価な中国製も稼働し始めてきた。

 この市場状況に対応し、欧米の各社は、性能面での優位性を保つため、サイクル数を増加した新型機を開発している。また、国内の砂糖工場においては、稼働時間や使用期間が長い分離機に対して、バスケットや掻き取り装置、モータや制御盤などの主要ユニットを新規に更新することで対応している。更新する際、客先はより消費電力が少ないこと、消耗部品が少ないこと、摩耗粉が製品に混入しないことを要望し、当社においても最新設計のユニットを提案し更新している。国内のさまざまな工場と同様に、砂糖工場においても、消費電力削減や機械装置へのサニタリー性(異物排除などの衛生管理)向上に対する要求は厳しさを増してきている。

 このような市場背景・客先ニーズに対応するため、当社でも吊下分離機をリニューアルすることとし、2008年から実機テストを経て2年間をかけ開発、2010年より上市している。新型機は、既存機のシンプルで故障が少ない特徴は踏襲し、サイクル数増加とサニタリー性向上を果たした。また、接液(糖液と接する部分)周り機構部に永久磁石を用い、消耗部品・摩耗粉がないユニークな機構も搭載した。新型吊下分離機の外観図は図1のとおりである。

 本稿では、新機構の特徴や実機テスト結果も含め、新型機の開発結果を報告する。

(*注)バッチ式:「連続式」に対する用語で、機械による加工などを行う際に、途中で出し入れを行わずに処理を行う方式。
 
 

2.開発コンセプト

 吊下分離機に対する市場ニーズより、以下を柱とした。

2.1消費電力を増加することなく、1サイクル時間を削減する。

 吊下分離機はバッチ式で、供給・加速・振り切り・減速・掻き取りのそれぞれの工程に対して時間短縮する必要があるが、加速・減速時間を大幅に短縮しようとすると、大きなモータトルクが必要となり、電力消費量がアップする。一方で、掻き取り工程は、掻取装置がエアシリンダ(空気を内部に収める筒状の部品)で駆動する機構で構成されているため、シリンダストローク(ピストンの移動距離)の短縮やシリンダ作動速度を早くすることで時間短縮可能であり、モータトルクに頼らなくて良い。従って、第一に掻き取り時間を短縮する機構を開発し、搭載することとした。図2に吊下分離機の1サイクル工程と掻き取り時間短縮効果を示す。
 
 
2.2コンタミ(混入物)防止ニーズに対応し、コンタミ発生要素を根本から排除した機構を搭載する。

 接液となるバスケット周りから機械的に摺動する(すり合わさって動く)部品を削減し、特に回転部と固定部が摺動する部品を接液部周りから完全に無くす機構を搭載することとした。

 図3に示すように、当社の吊下分離機は従来からコーン型ケーシング(容器)で装置を覆っており、外部からのコンタミが入りにくい特徴があったが、内部機構をコンタミレスとすることでさらにその特徴を明確化した。
 
 

3.コンタミレスで、短時間掻き取りする機構の開発と設計

3.1バスケットバルブ下方開排出方式の採用

 遠心分離機からの砂糖の排出方式には、バスケット内部に設置されているバスケットバルブを上方にひきあげ、開口部(バスケットサポータの排出口)をあけ、砂糖をスクレーパで掻き取り排出する方式(上方開排出方式)と、バスケットバルブを下方にさげ開口部をあけて排出する方式(下方開排出方式)とがある(図4)。

 上方開排出方式(当社従来型)は下方開排出方式と比較し、排出時以外はバスケットバルブ下面とバスケット下面が接し開口部に蓋がされるため、マセキット(結晶と濃縮糖液の混合物)漏れが発生しないメリットがある。一方で、排出時はバスケットバルブのコーン部で砂糖の流路が狭くなることから、砂糖が排出されにくく、結果として掻取時間を短くできないデメリットがあった。

 新型機では短時間排出を可能とすべく、下方開排出方式を採用することとした。採用するにあたり、下方開排出方式を採用している製品の構造を把握した上でデメリットやリスクに対して配慮した。
 
 
《デメリットに対する配慮》

 下方開排出方式の製品では、バスケットバルブを保持する機構にバネやロータリジョイントなどの機械部品を用いていた。定期的な点検や消耗部品の交換を実施しなれば定位置で保持できず、マセキット漏れやコンタミ発生につながる機構である。

 当社の新型機は、機械的摺動もせず、半永久的に定位置保持力が持続する永久磁石を用いることでこのデメリットを解消した。図5にバスケットバルブ昇降装置の構造図を示す。支持部からの摩耗がなく、消耗部品も削減される。他社や類似機構を有する工業用機械と比べてもユニークな機構であり、特許申請中である。

 また、永久磁石の特徴に対し、バスケットバルブに加わる負荷や実機の設置環境に対して必要に応じて以下のとおり設計的な配慮をした(表1)。
 
 
 
 
《リスクに対する配慮》

 下方開排出方式は当社として初採用であり、砂糖排出口となるバスケットサポータの十分な強度を確保するため、強度解析を実施し、従来型と同等以上の強度を有する最適な形状とした。また、吊下分離機の下には砂糖搬送用のコンベアが配置される。特に複数台の吊下分離機がコンベア上に配置される場合には、バスケットサポータの回転風による砂糖の巻き上げが発生しないようにしなければならない。このため流体解析を実施し、従来型と同等以下の上昇流となる最適形状とした。

3.2大型スクレーパとコンタミ防止型垂直エアシリンダの採用

 短時間掻き取りに対しては、スクレーパの上下幅を拡大し、スクレーパを垂直作動させる垂直エアシリンダのストロークを減少させることが有効である。

 新型機には、マセキット供給時にマセキットとスクレーパが接触しない流路を確保する隙間を設けた上で、極力上下幅を拡大したスクレーパを採用することとし、従来の垂直エアシリンダストロークを695mmから200mmとした。

 また垂直エアシリンダは、ストロークを減少すると共に消耗部品を削減した新機構とした。

 図6に構造図を示す。消耗部品を削減し維持管理を容易で安価とすると共に、コンタミを防止した。 

4.運転性能評価テスト

 短時間掻取機構の作動安定性を評価する為、実機を製作し、運転性能評価を行った。実機のサイズは、特に今後海外の砂糖工場で拡販が見込まれる1.75tonバッチとした。主な従来機との仕様比較を表2に示す。

4.1無負荷運転テスト

 新たに採用した機構に対し、作動安定性と作動スピードを主に確認するため、無負荷運転と各機構の作動を繰り返し行った。永久磁石を用いたバスケットバルブの作動も含め、作動安定性は十分確保されており、目標作動スピードである掻き取り工程時間15(sec)以内で作動できるハードであることを確認した。

4.2実負荷運転テスト

 日本国内は精製糖工場が多く、機器のサニタリー性に対する要求も厳しい。国内展開も視野に入れ、海外でも原糖工場ではなく精製糖工場に実機を設置し、実負荷運転テストを実施した。

 このテスト結果をもとに、以下に示すさらなる改良を加えた。
 
 
 
 
●非圧縮性流体を用いたハイドロチェッカーによるスクレーパ安定作動装置の採用

  スクレーパの作動スピードを安定化させるために、非圧縮性流体が充満したシリンダ(以降、ハイドロチェッカーと呼ぶ)を配置し、安定作動を実現した。なお、駆動源は従来通りのエアであり、エア消費量も同様であるため、消費電力増加はない。

 ここで重要であるのは、接液部近傍に配置される掻取装置に、非圧縮性流体としてオイルを使用することは、従来型がエア駆動のみであったことに対して不利であり、食品機械では適用できない。従って、流体には水を用いた。

 ハイドロチェッカーを用いることで、目標スピードを達成し、安定して掻き取り出来ることを確認した。さまざまなマセキット性状や結晶の硬さで作動スピードが左右されず、装置としての安定性が向上した。

●新型掻取装置の電気的インターロックの追加

 実際の運転では、掻き取り時に砂糖がスクリーンから崩れて排出口を塞いだり、スクレーパに衝撃荷重が加わるなど、通常運転では発生しない状態が起こりうる。このような状態においても、掻取装置に過大な負荷が加わらないように、掻き取り中のスクレーパにかかる負荷をモータートルク値で監視し、掻き取り工程中はモータの能力を制限することにした。なお、このインターロックは、掻き取り動作中のみ有効とし、加減速など、他の動作ではモータ最大能力が発揮されるため、通常運転時のサイクル数には影響しない。

 このような改良を新型機に加えることで、安定運転と1サイクル時間が短縮可能であることを確認した。表3に実負荷運転結果を従来機との比較も含めて示す。
 
 

5.まとめ

 新型吊下分離機は、現在でも海外工場での需要が増加している1.75tonバッチ分離機を軸として開発完了し、2010年より受注活動を開始している。消費電力が低く、コンタミ防止可能なユニークな機構が搭載されており、サイクル数は欧米競合各社に引けをとらない実機が完成した。日本国内ニーズ対応・Made in Japanの特徴も分かりやすく色濃く出ており、海外のお客様に対しても魅力的な分離機であると自負している。また、国内向けは1.0tonバッチ以下が主流であり、今回開発した機構はスケールダウンすることで搭載可能であることから、機械的安全性に不安要素がない。サニタリー性に対して要求が厳しい異性化糖(ブドウ糖やセルロースなど)を生産するお客様に対しても、装置更新し満足していただける機構である。

 最後に、バスケットバルブ保持部に永久磁石を用いた機構は、機械的摩耗やコンタミを削減したいさまざまな工業機器に対する先駆けとしても注目して頂きたい新機構であり、今後当社のさまざまな装置への応用も期待される。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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