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てん菜糖副産物の有効利用

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最終更新日:2011年11月9日

てん菜糖副産物の有効利用
〜ライムケーキを活用した凍結路面対策の検討〜

2011年11月

独立行政法人土木研究所寒地土木研究 所寒地道路研究グループ寒地交通チーム 
総括主任研究員 高橋 尚人

 

【概要】

 積雪寒冷な地域では冬期間に凍結路面が発生し、凍結路面は車両の走行速度の低下やスリップ事故の原因となる場合があります。冬期間の道路交通の安全確保のため、凍結路面対策が重要な課題となっています。凍結路面対策として凍結防止剤・すべり止め材の散布を行っていますが、北海道循環資源利用促進協議会では未利用資源の有効活用の観点からてん菜糖を製造する過程で発生するライムケーキを固形化し、すべり止め材として利用することを検討してきました。本稿では、協議会における検討の概要と寒地土木研究所が行ったライムケーキすべり止め材の散布試験について紹介します。

はじめに

 北海道は多雪寒冷な厳しい気象条件を有しています。道内の多くの市町村では12月から翌年3月にかけて平均気温が零度を下回り、積雪日数も平均すると100日を超えます。冬期間における道路交通の安全を確保するため、除雪などの冬期道路管理は欠かすことができない重要な事業となっています。

 冬期道路管理には道路から雪を取り除く除雪、凍結防止剤・すべり止め材散布などの凍結路面対策、雪崩や吹雪対策などの防雪対策などがあります。我が国では、1990年代初頭にスパイクタイヤの使用が規制されてから凍結路面(図1)が多く見られるようになりました。冬期の走行速度の低下や冬型事故の発生が問題となり、対策として凍結防止剤・すべり止め材の散布が本格化しました。凍結防止剤とは、路面凍結を防いだり路面上の雪氷を融解するもので、主に塩化ナトリウムと塩化カルシウムが使用されています。すべり止め材とは散布して路面をすべりにくくするもので、主に砕石(小さく砕いた石)と砂が使用されています。すべり止め材は、凍結防止剤の効果の現れにくい、道内でも低温・多雪な旭川、稚内、網走などで多く使用されています。
 
 

1.ライムケーキの活用可能性の検討

 ライムケーキは、てん菜から砂糖を製造する過程で、抽出した糖汁から不純物を取り除くため、糖汁に消石灰と炭酸ガスを投入し、ろ過によって糖汁を取り出したあとに残った残さです(図2)。ライムケーキは、平成19年度は約21万6000トン発生し、約8割は再資源化されましたが、約2割は廃棄物として処分されています(図3)。

 北海道循環資源利用促進協議会(以下、「協議会」)では、ライムケーキを固形化し、すべり止め材として利用することを検討しました。これが実現すれば未利用資源の有効活用、リサイクルの促進につながり、また、ライムケーキすべり止め材は散布後に破砕し、路外に流出することから、砕石と砂を散布した場合に必要となる春先の路面清掃の負担軽減が期待できます。また、道内の製糖工場は、上川、十勝、網走などすべり止め材の散布が多い地域に所在しているので、各工場でライムケーキすべり止め材を製造できれば、輸送コストの縮減も期待できます。

 協議会での検討は、平成17年度より、「路面維持資材へのライムケーキの利用検討ワーキンググループ」(座長:NPO法人北海道産業技術支援協会 河端淳一氏)を設置し、成分・性状等の分析、造粒方法の検討、散布効果の試験等を行いました(表1)。当研究所では、検討項目のうちライムケーキすべり止め材の散布試験を行い、散布効果を検証しました。
 
 
 
 
 
 

2.散布効果の計測

 ライムケーキすべり止め材で路面のすべりやすさを改善できるか否かは、ライムケーキすべり止め材の実用可能性を検討する上で重要な検討項目です。本稿では、当研究所が行った散布効果の計測に関する試験とその結果を紹介します。

(1)試験道路での散布試験

 散布効果を確認しないまま実際の道路にライムケーキすべり止め材を散布することはできないので、最初に当研究所の苫小牧寒地試験道路(全長2700m)(図4)で試験を行いました。試験は複数年行い、ライムケーキすべり止め材の形状と硬度を検討しました。本稿では、平成20年度冬期に実施した試験の結果を紹介します。

 試験は、試験走路に散水して凍結路面を作成し、凍結路面にライムケーキすべり止め材と、比較のために現在すべり止め材として使用している砕石を散布しました。その後、道路交通を再現するために車両を走行させ、一定台数が通過する毎に路面のすべりやすさを計測することでライムケーキすべり止め材の効果の有無を確認しました。

 路面のすべりやすさは、連続路面すべり抵抗値測定装置(図5)で計測しました。この装置は、車両後部に設置した測定輪で路面のすべりやすさ「すべり抵抗値」を計測します。すべり抵抗値は0〜100程度の整数値で、路面がすべりやすいほど小さく、路面がすべりにくいほど大きな値を示します。すべり抵抗値の目安は、一般道路で路面が乾燥している場合には90程度、凍結したすべりやすい路面では45程度以下の値になります。
 
 
 
 
 試験に用いたライムケーキすべり止め材は3種類(以下、ライムA、ライムB、ライムC)で、ライムAは、それまでに実施した試験で効果の高かったもので、硬度は4.7kgf(注)、三角柱形状です。三角柱形状としたのは、路面上での転がりを防止し、定着性を高めるためです。ライムBは、製造後一年経過したライムAで、硬度は5.7kgf、三角柱形状です。ライムCは、硬度は4.1kgfで、路面上での転がりにくさを考慮して不定形球状にしたものです(図6)。試験ではライムケーキすべり止め材の散布量を50g/uとしました。

(注)kgfは重量キログラムといって1Kgの重さの物体が受ける重力の大きさで、ここでは物体の硬さを示す単位として使用している。
 
 
 図7に試験の結果を示します。試験では、砕石を50g/u、100g/u、150g/u散布しましたが、図の判読上、砕石については150g/uの結果のみ示します。散水する前のすべり抵抗値は約90で、乾燥した良好な路面状態でした。散水後には路面が凍結し、すべり抵抗値は40〜60程度に低下しました。砕石を散布した路面では、散布後にすべり抵抗値が60程度に向上し、試験終了までほぼ同じ値を保ちました。ライムケーキすべり止め材を散布した区間ではライムAの散布効果が最も高く、すべり抵抗値は最大で85、試験終了時にも80近い値を示しました。ライムB、ライムCは、砕石よりも高いすべり抵抗値を示しましたが、ライムAには及ばない結果となりました。
 
 
 なお、散布直後のすべり抵抗値は、ライムA、ライムB、ライムCのいずれも砕石より低い結果となりました。路面状態の変化を観測したところ、ライムケーキは、車両走行に伴って徐々に破砕し、路面上に広がっていくことが確認できました(図8)。この、破砕して路面に広がることが路面のすべり抵抗値を向上させたと考えられます。ライムケーキすべり止め材を散布してから効果が得られるまでに砕石より時間を要するので、実際に使用する場合には、このようなライムケーキすべり止め材の特徴に留意して散布することが必要になります。
 
 
(2)実道での散布試験

 試験道路での試験結果を踏まえ、国土交通省北海道開発局の協力を得て一般国道274号線鹿追町で散布試験を実施しました(図9)。試験に用いたのは、試験道路での試験で最も高い散布効果を示したライムAで、散布量は安全を考慮して75g/uとしました。試験は平成21年1月20日に実施しました。試験当日の天候は晴れで、路面状態はブラックアイスバーン(氷膜)でした。

 散布前後のすべり抵抗値の計測結果を図10に示します。試験では砕石との比較を行うことができませんでしたが、試験道路での散布試験と同様にライムケーキすべり止め材散布直後にすべり抵抗値が低下し、その後は時間経過とともにすべり抵抗値が上昇する傾向を確認しました。また、春には散布区間の路肩残留物の確認と成分検査を行いましたが、砕石を散布した区間との違いや問題となる状況は見られませんでした。
 
 
 
 

3.おわりに

 試験結果から、ライムケーキすべり止め材は砕石に比べて散布効果が現れるまでに時間を要するものの、凍結路面のすべり抵抗値を向上させる効果があることを確認しました。実道での試験は一度だけでしたが、ワーキンググループで行った種々の検討の結果も踏まえ、ライムケーキを凍結路面対策に活用することは技術的に可能と考えられます。

 今回は、ライムケーキの凍結路面対策への利用可能性を検討しましたが、アメリカやカナダでは、凍結防止剤(塩化ナトリウム)の路面付着性を高めるために凍結防止剤に粘性のある砂糖の溶液を加えて散布している州があります。また、スウェーデンでは、凍結防止剤に砂糖を少量混合して散布した例が報告されています。砂糖とその副産物に限らず私たちの周りには、使用法に気付かないまま眠っている未利用の資源があることは間違いありません。未利用資源の活用を含めて、冬期道路管理の効率化、環境負荷低減に資する研究開発に取り組んでいきたいと考えています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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