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お菓子事情と若手技術者の可能性

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最終更新日:2011年12月9日

お菓子事情と若手技術者の可能性

2011年12月

東京製菓学校 教育部次長 梶山 浩司

日本のお菓子事情

 日本のお菓子は一般的に従来からあった和菓子と洋風の素材を利用する洋菓子とに分類できます。この分類は、歴史的な背景に基づくものですが、さらに保存性によってそれぞれ生菓子、半生菓子、干菓子に分けることもあり、多種多様です。

 これに対し、海外のお菓子に対しては、もう少し単純な見方をすることが多いようです。例えばフランスで作られるお菓子はフランス菓子、ドイツではドイツ菓子、スイスではスイス菓子とそれぞれひとまとめにした形で呼ぶことが多くなっています。もちろんどの国もその国の中で地域性があり、○○地方の菓子などと呼び分けている事はありますが、日本ほど菓子の種類の多い国は珍しいと言えるのではないでしょうか。お菓子の種類の多さはそのまま私達の生活に大きな魅力となり、さまざまな場面でさまざまなお菓子を楽しむ事が出来る。私達日本人はお菓子によってさまざまな恩恵を受けているとも言えるのではないでしょうか。

お菓子を少し分解して見ましょう

 お菓子は元々嗜好品として存在し、食事と食事の間食として重宝されてきました。デスクワークの多い都市部に比べ、農業地域ではお菓子が比較的大きいように思いますが、これも間食としてのお菓子の役割から、消費エネルギーの多い生活の場面では、カロリー供給のために大きめのお菓子が求められてきたということでしょう。お菓子がさまざまな場面で必要に応じた大きさや形、さらには甘さも異なっているのも必要から生まれたものと考える事が出来ると思います。

 甘さという感覚については、地域のみならず、年齢や職業に応じて違ってきます。お菓子は甘くて当たり前でしょうがその甘さをさらに分解すると、糖度、甘味度などの言葉にぶつかると思います。糖度はお菓子に含まれる砂糖の割合、甘味度は甘さを感じる度合です。糖度はお菓子の日持ちと密接に関係しています。日持ちとは文字通りお菓子の賞味期限の事で、一般的に砂糖の使用量に応じて日持ちも長くなると考えても差し支えないと思います。使用量を増やせば当然お菓子は甘くなり、甘すぎるお菓子が敬遠されると砂糖の使用量は少なくなります。そうすると菓子の賞味期限も短くなるという事になります。そこで甘味料としては糖度を保ちつつ甘味度だけを下げた甘くない糖類が使われるようになります。人の甘さの感覚は甘味度として表示されており、甘味度と糖度は違うものとして認識されるべきでしょう。甘味度は糖度計のように計測する器具は無く蔗糖の甘さと比較した官能テストで集計されます。この値自体がかなり曖昧な数値でもあります。甘さの感覚は一人の人でも体調によっても大きく変わり、甘いものを必要なときに食べると美味しく感じ、必要ではないときに食べると甘く感じると言う事も良くある話です。一般的には甘いものが必要なときに美味しく感じるように私達の体が出来ていると言う事になるのでしょうか。

お菓子は太る?

 お菓子は大好きだけど太るから・・・なんて答える人は今でも多く耳にしますが、本当にそうなのでしょうか?実は日本は世界的に見ると砂糖の消費量が157カ国中104番で消費量の多い国の約40%程度(*注1)であることはあまり知られていないと思います。また、砂糖を食品学上「糖質」と呼んでいましたが、2000年から「炭水化物」に統一されました(*注2)。砂糖は純粋な炭水化物であり、でん粉系の食べ物、穀類や芋類などに多量に含まれており、エネルギー量もほぼ同じです。ですから人の体は食べた炭水化物の合計総量が消化吸収されており、砂糖だけが太る。甘いものが太ると言う事は全く根拠がないということになります。

(*注1)出典:「和菓子噺」藪光生(全国和菓子協会専務理事)
(*注2)科学技術庁(当時)が2000年に発表した「五訂日本食品標準成分表」で表現が統一された。

消費者の嗜好の変化

 一時はお菓子のおいしさについての表現が、「このお菓子甘くておいしいね」から、「このお菓子甘くなくておいしいね」に変ったように思われましたが、最近また、「やっぱりお菓子は甘いほうがおいしい」という声が聞こえてきます。現代のように食料が豊富でなかった時代には甘さは貴重であったし、甘ければ何でも売れた時代があったことも聞いています。しかし食料事情がある程度安定し、豊富な種類のお菓子が流通する現在の日本では、お菓子は情報化社会の中で環境に合わせ、買い分け・食べ分けられていると考えてもよいのではないかと思います。

お菓子の将来

 お菓子はこれからどのように変化していくのでしょうか?この問題は常に考えられてきた事ですが、今を生きる若者がお菓子をどのように守っていくのかを考えるとおのずからこの問いの答えも見えるのかも知れません。お菓子を学ぶスタイルも変化しており、昔は徒弟制度の厳しい環境の中で、大事に技術が受け継がれてきましたが、昨今はお菓子を学ぶ専門学校など学校教育の場でお菓子を学ぶ若者が増えてきました。この事だけでもお菓子に興味を持つ若者が増えてきた事・お菓子作りを職業として考える若者が増えている事が分かります。

 お菓子作りに関わろうとする若者には、お菓子作りを職業にして、もっと多くの人達の笑顔を観たいと夢を膨らませ、このお菓子の業界に足を踏み入れる若者、日本でお菓子を勉強した後世界に飛び出し、日本のおいしいお菓子を世界に紹介したいと考える若者、逆に世界に飛び出しお菓子作りを学び、新しいお菓子を私達に紹介してくれた業界の先人達の姿を追い掛ける若者、海外から日本のお菓子を学ぶ為に留学する若者などさまざまな生き方が見られます。

伝統菓子としての和菓子

 日本のお菓子の中で和菓子は世界的に見てもかなり特異性を持つお菓子に分類できると考えられますが、その中でも特徴のある素材はやはり餡でしょう。豆を加工した食品は世界中たくさんありますが、豆そのものを加工し菓子の素材にしたものは世界中探しても日本だけでしょう。マメ科の植物は世界で3番目と言う大きなグループを形成(*注3)しており、比較的手に入りやすく栄養成分的にも優れていることは広く知られている事ですが、お菓子を主食にする訳もなく、また、お菓子を食べて健康になろうと考える人もいないと思う中で、世界中誰しもが健康には興味を持っていると言われる現代社会の中でお菓子の在り方も変化してきました。ある意味、お菓子の持つパワーと可能性は無限であると言えます。そんな可能性を持ち、新しく生まれる菓子は、菓子作りを目指す若者の夢の中・心の中に存在していると言っても過言ではありません。

 和菓子・洋菓子が融合し新しいお菓子が世界に広がる日もそう遠くは無いでしょう。日本はお菓子先進国。そのお菓子業界を担う若者をしっかりとサポートし応援していく事・お菓子の歴史や伝統的な製法を正確に伝えていく事など若者の可能性を十分に発揮できる環境を整備しながら温かく見守っていきたいものです。

(*注3)出典:財団法人「日本豆類基金協会」ホームページ
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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