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タイの砂糖生産の実態と政策動向

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最終更新日:2012年1月10日

タイの砂糖生産の実態と政策動向

2012年1月

調査情報部 木下   瞬
前田 昌宏


【要約】
 ・タイの2010/11年度(10月〜翌9月)のさとうきび生産量は、約1億トンと前年度を約4割上回る大増産となった。
 
・増産の要因は、さとうきび価格が高水準であったため、雨季作の水稲など他作物からの転作が進んだこと。このほか、遊休農地の利用も進んだ。

・製糖工場は2010年と2011年に政府に計画が承認され、製糖能力を順次拡大する予定。

・政府は、ハーベスター購入への低利融資を行い、機械化を進める方針。

・2011年7月に発足した新政権の方針により、10月に実行された米に続き、さとうきびやキャッサバなどの基準価格も従来より高い水準に設定されるとの見方。

・短期的には、今後のさとうきび生産は2010/11年度の水準を維持していくとの見方が大勢を占める。

1.はじめに

 タイは、我が国最大の砂糖輸出先国であるとともに、砂糖需要が年々増加するアジアにおける重要な供給国である。一方で、タイのさとうきび生産は、大規模生産が一般的なブラジルと異なり、大多数の小規模生産者が担っている。また、主要輸出国と比較すると単収や糖度なども平均以下となっており、その生産基盤は不安定といえる。

 しかしながら、2010/11タイ砂糖年度(10月〜翌9月)にさとうきび生産量が1億トンに迫るなど、前年度から約4割増の大増産を成し遂げることとなった。現地の関係者をはじめ、この大増産を予期していた者はほとんどおらず、今後の同国の生産動向は関係者の注目を集めることとなっている。

 また、タイは「さとうきび及び砂糖法」の下、厳格な販売・価格管理制度や生産者への補助金などを内容とする産業保護政策を有している。このため、政策動向が産業に大きな影響を及ぼす。

 このような状況の中、本稿では、タイの砂糖生産の実態および政策動向、今後の見通しについて報告する。

 なお、本稿中の年度はタイ砂糖年度(10月〜翌9月)であり、単位換算には、1バーツ=2.58円(11月末日TTS相場)を使用した。

2.国際需給におけるタイの位置付け

 タイはブラジルに次ぐ世界第2位の輸出国で、2010/11年度の輸出量は630万トンと、世界の砂糖輸出の約12%を占める。2010/11年度は、ブラジルや豪州の天候不順などによる減産分をタイがある程度賄ったことで、世界の需給への影響は緩和された。

 タイの輸出先の大部分はアジア域内であり、インドネシアが最も多く、日本がこれに次ぐ。2010/11年度は、中国や韓国向けなどの輸出量が大幅に増加するなど、東アジアの輸入需要が高まっている。今後はASEAN自由貿易地域(AFTA)による関税削減で、カンボジアやフィリピンなどへの輸出も増加するものと考えられる。

 国際砂糖機関(ISO:International Sugar Organization)によると、中国やインドをはじめとするアジア諸国では、人口増加や所得向上を背景とした砂糖消費量の増加が見込まれ、2020年の世界の砂糖需要量は、2億100万トンと予測される。このうちアジア、オセアニア地域の需要量は、世界の需要の約半数を占める9450万トンに達し、国内消費を自国生産で賄えない国の輸入需要も、今後増加するものとみられる。このため、アジアの主要な砂糖供給国である豪州およびタイの生産動向は国際需給を見通す上で重要である。
 
 

3.生産動向

(1)2009/10年度までの状況

 さとうきびは北部および東北部、中部の3地域で広く生産される。図1に示したとおり、北部はナコンサワン県およびカムペンペット県、東北部はナコンラーチャシーマー県およびコンケン県、中部はカンチャナブリー県が、主産地となっている。
 
 
 さとうきびの農家戸数は約19万戸で、一戸当たりの平均栽培面積は約5ヘクタールと、大多数が小規模経営である。また、製糖業者による自社栽培は、ほとんど行われていない。農地の基盤整備も未実施で、分散錯圃(農家の所有農地が分散している状態)の農場も多いため、収穫作業などの機械化はあまり進まず手刈りが主流である。このため、生産者と収穫要員を合わせると、約60万人が従事しているといわれている。

 図2に示したように、2001/02年度から2009/10年度までのさとうきび作付面積は、100万〜110万ヘクタールの間で推移し、2002/03年の114万ヘクタールが最も多かった。毎年作付面積が変動する理由には、とうもろこしやキャッサバなどの他作物との競合が挙げられ、生産者は生産コストと販売価格に応じて、収益性の高い作物へ転作する。このため、総農地面積は拡大せずに、栽培作物が切り替わりながら、これまで推移してきた。

 タイでは90年代までに大規模な農地開発が行われ、利用可能な農地は限界まで拡大したといわれている。さとうきびについても、他の畑作物との競合もあることから、作付面積の飛躍的な増加は期待できないといわれてきた。

 一方、単収は向上の余地がある。大半の生産地ではかんがい設備が整備されておらず、天水に依存した栽培を行っている。このため、気象条件に左右されやすく、過去5年間の単収は1ヘクタール当たり50〜70トンである。これは、主要生産国のブラジルの同80トンや豪州の同90トンに比べて低いといえる。

 したがって、今後の増産に当たっては、単収の改善が最優先課題であることが関係者間の共通認識であった。
 
 

(2)2010/11年度の大増産の要因

 2010/11年度の作付面積は、生産者の生産意欲が増大し、大幅に増加することとなった。これは、後述するさとうきび価格が、国際価格の高騰を受けて2008/09年度から上昇し、2010/11年度には過去最高の水準に達したためである。この価格上昇により、生産者はさとうきびをより収益性の高い作物とみなし、作付面積の急激な増加につながった。

 生産に関して、タイでは基本的に生産者と製糖工場は栽培契約を結び、あらかじめ決められた数量を工場へ納入することとなっている。ただし、生産者は、契約を上回る数量を工場に納入することができ、逆に下回っても明確なペナルティはない。契約数量はあくまでも、工場が操業計画を立てる目安とみられる。また、工場は生産を行わない集荷業者とも契約でき、彼らは生産者からさとうきびを集め工場へ納入する。2010/11年度は、転作した農家が急増し、これらの多くは事前に工場と契約を結んでいなかったため、集荷業者らの納入が著しく増加したものとみられる。このため、工場側も製糖を開始するまで、大増産を認識できなかった。一説には、農家戸数が約3万戸増加したといわれている。

 農地面積をこれ以上拡大することは不可能とまでいわれたタイにおいて、2010/11年度はいかにしてさとうきびの作付面積を拡大することができたのか、関係者からの聞き取りによると、以下に示したほかの畑作作物からの転作が進んだことによるものとしている。このほか、遊休農地など従来使われてこなかった土地利用も進んだとされる。


・水稲
 高地で栽培される水稲で、特に雨季での一期作のものについては、もともと収量が低く収益性に乏しいため、さとうきびへの転作が進んだとされる。雨季作を行う地域では、かんがい施設が整備されておらず、畝を高くすることで水を確保している天水田がほとんどであり、さとうきびへの転作が容易であった。米は東北部が主産地であり、高位田も多いことから、条件不利地の転作が進んだものと考えられる。このほか、北部のカムペンペット県などでも転作が進んでいる。また、一部の製糖企業は、製糖工場付近の米農家に対して転作奨励金を支払い、独自に転作を推進している。


・キャッサバ
 2009/10年度に国内で初めて発生した害虫コナカイガラムシによってキャッサバは大きな被害がもたらされた。このため、2010/11年度に生産者はキャッサバの作付を敬遠し、さとうきびへの転作を進めた。

 しかし、2011/12年度は多雨により害虫の発生が抑制されたほか、有効な害虫対策も普及し始めたため作付面積は回復基調にある。キャッサバの農家販売価格も過去最高値を記録しているため、さとうきびの株を処分した後にキャッサバを植えた生産地もある。キャッサバの需要は国内外で高く、価格がさらに高騰すれば、さとうきびからキャッサバへの転作が加速する可能性もある。
 
 
・飼料用とうもろこし
 2009年、飼料用とうもろこしの農家販売価格は下落した。このため、2009/10〜2010/11年度にかけて、一期作の飼料用とうもろこしについては、比較的価格の高いさとうきびやキャッサバへの転作が進んだ。特に、北部のカムペンペット県や東北部のナコンラーチャシーマー県などで顕著である。

 飼料用とうもろこしは、養豚や養鶏など国内畜産の発展に伴い、国内需要も増加している。さらに洪水被害の影響もあることから、今後価格は堅調に推移していくと考えられる。
 
 

(3)2010/11年度の大増産による影響

 2010/11年度はさとうきびが急激に増産されたことで、生産現場や製糖工場、港湾など、多方面に影響を及ぼすこととなった。

 生産現場では、大増産によって収穫期の労働力が不足し、徐々に収穫作業に遅れが生じた。さらに、平年は乾季にあたる2〜4月にかけて季節外れの豪雨が収穫期を直撃したため、通常4月中に終わる収穫が6月上旬までずれ込んだ生産者もあった。さとうきび・砂糖委員会事務局(OCSB:Office of the Cane and Sugar Board)は、収穫期の豪雨の影響として、

1) 泥や土が付着したさとうきびの工場への持ち込み、
2) 5月以降に収穫されたさとうきびの糖度の低下、
3) 収穫不能によるさとうきびの刈り残しの3点を挙げている。

1) については、泥などの不純物が混入することによる砂糖の品質への影響はないといわれるが、工場側は施設のメンテナンスが必要となるなど追加コストが発生した。2) については、さとうきび1トン当たりの産糖量が目標の105キログラムを下回り、101.7キログラムとなるなどの影響があった。
 
 
 収穫期の労働力不足は、さらに焼畑の増大を引き起こしている。近年、焼畑による収穫されたさとうきびの工場への搬入量は増加傾向にあり、2010/11年度は約6400万トン(全体の約67%)に達し、過去最高となった。これは、茎を刈り取る作業を容易にするため、梢頭部および葉を焼却することで、労働力不足を補うためである。焼畑の増大は、環境破壊や健康被害の一因となるため、政府にとって解決すべき課題の一つとなっている。
 
 
 製糖工場では、さとうきびの大増産を予見していなかったため、2010/11年度の製糖は、例年通り11月28日から開始された。タイ製糖協会(Thai Sugar Millers Corporation)によると、2010/11年度に生産されたさとうきび約1億トンは従来の圧搾能力で処理できたとのことである。ただ、従来の7000万トン規模の収穫量でも収穫ピークとなる1〜2月にかけては、1日当たりさとうきび処理量(TCD)の限度に達し、受け入れが滞ることもあった。このため、搬入制限により、工場の前には受け入れを待つ生産者の長蛇の列ができたという。また、生産者の一部には搬入できず、収穫したさとうきびを自分で一時保管する者もあった。こうしたことから、1日当たり処理能力の限度に達する日数が前年度を大きく上回ったため、工場側は製糖日数を延長することで生産量の増大に対応した。各工場とも平均して50日前後製糖日数を延長しており、例年では4月中に終了する製糖作業が2010/11年度は6月11日に終了している。
 
 
 製造後の砂糖の保管については、通常、製糖工場段階や製糖企業のグループ段階、港段階のそれぞれに設置された倉庫間での在庫調整により、品質に影響がでないよう管理されている。しかしながら、OCSBによると、2010/11年度は、買い手がすぐにつかなかったことで、湿度が高い時期に保管期間が長期化し、湿気を含んで品質が劣化した砂糖も一部あったという。

 また、港湾では、生産量がピークに達する1〜3月にかけて、労働力や資材不足などの理由から混雑した。この混雑のため、バンコクの一部の港湾は一時閉鎖となり、滞船が長期化したことで、船舶業者が船混み割増料金を負担する事態も発生した。

 輸出業者は今回の港湾混雑を受けて、コンテナロード施設を拡充し、物流も見直しているため、2011/12年度に港湾混雑は繰り返さないと自信をにじませていた。

 以上のように2010/11年度のさとうきび生産は急増したが、増産する上での課題も浮き彫りとなった。ここでみえるタイの課題はさとうきびの労働生産性の低さと製糖工場の処理能力の限界であるといえる。これに対して政府がどう向き合うのか。次章以降でタイの政策について考察する。

4.砂糖関連政策の動向

(1)さとうきび価格の決定

 さとうきびについては、他品目と異なり1984年に制定された「さとうきび及び砂糖法」に基づき、さとうきび生産者と製糖業者との取引が厳格に管理されている。この制度下では、政府が工場買入価格である「さとうきび価格」の決定権を持っている。

 さとうきび価格の算定に当たっては、砂糖及びその副産物の糖みつの販売によって、砂糖産業全体で得た収益が基礎となる(収益の算出には、国内販売量、価格のほか、推定される砂糖生産量・輸出量・国際砂糖価格・糖みつ生産量・価格・輸送費・為替相場が使用される)。さとうきび及び砂糖法では、この収益を生産者と製糖業者が7:3の割合で分配することとしている。したがって、政府が算定した収益の7割を、生産者は工場からさとうきび代金として受け取る。なお、さとうきび価格には、当該年度の収益を推定して収穫前に公表される「期首価格」と、年度終了時の実績に基づき決定される「期末価格」が存在する。

 期首価格は低目に設定されるため、期末価格で差額分を精算払いされる場合が多い。逆に、国際砂糖価格の低迷などにより期末価格が期首価格を下回る場合、生産者と製糖業者の拠出金から積み立てられる「さとうきび・砂糖基金」(以下、基金という)から、製糖業者に対して補てん金が拠出される。このため、期末価格が期首価格を大きく下回った2006/07年度には基金の累積赤字額が、224億バーツ(約578億円)となるなど、基金の赤字解消は政府の解決すべき課題の一つとなっていた。

 なお、タイのさとうきび・砂糖政策の基本的枠組みについては、砂糖類情報2011年2月号「タイの砂糖産業をめぐる情勢」の(2)政策の記事を参照されたい。

(2)2010/11年度のさとうきび価格の状況

 2010/11年度のさとうきび価格(期首価格)は、さとうきび1トン当たり945バーツ(2,438円)となった。これは、CCS(可製糖率、さとうきびのしょ糖含有率、繊維含有率および搾汁液の純度から算出される回収可能な糖分の割合)10%の価格で設定されており、1%上昇するごとに56.7バーツが上乗せされる。

 このほか、政府は2010年12月、天候被害やドル安による為替などの影響緩和を目的として、生産者にさとうきび1トン当たり105バーツの追加支払いを行うことを閣議決定した。追加支払いの予算額としては、収穫量6800万トンを前提として、約68億バーツ(約175億円)を計上し、累積赤字の基金に対して、農業農協銀行から融資を行い、これを財源として2010/11年度中に全生産者に対して追加支払いが行われた。しかし、2010/11年度の収穫量は約1億トンの水準に達したため、追加支払いに約100億バーツ(258億円)の資金が必要となった。

 2010/11年度のCCSは平均して11.54%となっており、政府の追加措置105バーツを加算すると、生産者は平均してさとうきび1トン当たり1137バーツ(2933円)を受け取ることが可能である。この結果、さとうきび生産者の1トン当たりの手取り価格は追加支払いを含めると過去最高値となる。2010/11年度の期末価格および2011/12年度の期首価格の公表については、後述する洪水の影響で算定が遅れているが、いずれの価格も2010/11年度の期首価格を上回るとの見方が強い。
 
 
 一方、政府は累積する基金の赤字問題を抱えている。このため、2008/09年度にさとうきび・砂糖委員会(TCSB:Thai Cane and Sugar Board)は内閣の承認を経て、砂糖1キログラム当たり5バーツの国内販売価格の引き上げに踏み切った。この値上げ分は全額基金へ拠出され、基金の赤字解消に大きく貢献することとなっている。このため、当初2年間の時限措置であったが、2011/12年度も継続して実施されている。2010/11年度は前述の105バーツの追加措置によって100億バーツの資金が必要になったにも関わらず、40億バーツ(約103億円)程度の累積赤字に留まったとみられる。この引き上げ措置により、OCSBは2012年2月には赤字を完全に解消できるとみている。引き続き1キログラム当たり5バーツの基金への拠出も続けるかどうかは赤字が解消できた際に判断するとしている。

 1キログラム当たりの砂糖卸売価格について、値上げした後は、20.33バーツ(付加価値税7%含む。なお、実際の工場の手取り額は、1キログラム当たり白糖で14.00バーツ、精製糖で14.65バーツ)となったが、消費の減退は確認されていない。

(3)政権交代により見込まれる変化

〜農家保護政策の導入〜
 2011年7月の総選挙で政権与党となったタイ貢献党は、選挙時に掲げた「米の農家保護政策を担保融資制度とし、さらに農家当たりの制度利用上限を定めない」という公約を10月から実行している。これは籾を担保に、政府が指定した米価格を基に農家に融資を行う制度であるが、実質的には政府による買い上げ制度として機能している。また、特に注目すべきはその担保融資価格である。2011/12年度の米(白米5%籾米)の担保融資価格は、1トン当たり1万4800バーツ(約3万8200円)と前年度の最低保証価格(同1万1000バーツ)の約1.5倍の水準となっている。さらにこれは、2011年9月における農家販売価格の同9950バーツを大幅に上回る水準である。米については2012年2月までの時限措置となっているが、洪水の影響で米の被害が拡大しているため、期間が延長される可能性もある。同制度は、生産者が米を作れば作るほど利益を得られる仕組みであるため、実施時期的にも乾季に栽培可能な二期作以上の米の生産増大を誘導するとみられる。

 一方、米以外にキャッサバにも同制度を適用されることが濃厚であり、その場合、キャッサバ価格も米同様に引き上げが見込まれる。この場合、価格の面でさとうきびはキャッサバと競合することは必至であり、政策動向を注視する必要がある。


〜人件費の上昇〜
  タイの最低賃金は、ここ数年間で急激に引き上げられており、2011年1月以降、バンコク近郊で1日当たり215バーツ(約540円)、ナコンラーチャシーマー県は同183バーツ(約460円)、コンケン県は同167バーツ(約420円)となっている。与党のタイ貢献党は全国一律300バーツ(約750円)まで引き上げると公約に掲げているため、今後も、タイの人件費は段階的に引き上げられるとみられる。

 さとうきび生産は、小規模であり機械化も進んでいないことから、人手を要し、生産効率を犠牲にしながらも、低賃金を優位性に輸出競争力を有していた。しかし、最低賃金の引き上げは生産コストの上昇を招くため、関係者はタイ産の競争力低下につながることを懸念している。
 
 

5.今後の見通し

 今後もタイで増産体制が維持されるかどうかは、設定されるさとうきび価格によるところが大きい。また、2010/11年度は転作が進んだことにより、新植の作付割合が高かった。タイでは株出し回数が平均して2回程度であることからも、投入資金の回収を考えると、短期的な転作はあまり行われないとみられる。

 さらに、今後のさとうきび生産を見通す上でのカギとなる政策や製糖業者の取り組み、2011年の洪水の影響について以下のとおり考察する。


〜「かんがい整備」から「ハーベスター導入」へ〜
 政府は2011年2月、単収増を目的としたかんがい設備の整備に、20億バーツ(約50億円)の予算措置を行った。具体的には、スプリンクラー設置への低利融資で、農業農協銀行や基金より、生産者は30万バーツ(約77万円)を限度額とし、融資を受けることが可能となっている。しかし、前述のとおり2010/11年度は多雨のため、干ばつ対策への必要性が薄まり、2011年9月末時点での利用実績はわずかであった。

 一方、2010/11年度は、収穫量が高水準になったため、労働力不足による収穫作業の遅延が深刻な問題となった。このため、政府は収穫作業の機械化の推進を図ることとしている。具体的には、農業農協銀行から年間10億バーツ(2010〜2012年の3年間)、基金から10億バーツ(2011年のみ)の計40億バーツ(約103億円)を財源として、ハーベスター購入に対する低利融資の制度を設けている。これを利用して生産者はハーベスターを購入することが可能となった。ただ、融資には製糖工場が保証人となることが義務付けられているため、生産者の債務不履行時のリスクを工場が負う必要がある。OCSBは、本制度を活用することで、工場や大規模生産者がハーベスターを導入し、小規模経営から収穫作業を受託することで、効率的に収穫作業を行うことを企図している。

 今年度については8月の時点で35台のハーベスター導入が決定しているが、すべて工場が購入し、生産者から融資の申請はなかった。これについて、OCSBは保証人の設定がネックだったとみており、次年度は要件を緩和するなどで、生産者のハーベスター導入を推進する意向を示している。


〜工場のさらなる生産能力拡大を認可〜
 製糖工場の新設や移転、生産能力の変更については、政府の認可が必要である。2010年は5月に、12製糖工場が工場の移転や生産能力の拡大について計画申請を行い承認された。

 2010/11年度は増産により1日当たり処理能力の限界に達する工場が多く出てきたため、2011年も工場からの申請が増加し、3月と4月に新たに11工場の計画が承認された。計画の内容は以下に大別される。

a.工場の移転と圧搾能力拡大(1工場)
b.圧搾能力拡大のみ(1工場)
c.工場の一部移転と圧搾能力拡大(6工場)
d.工場の移転のみ(3工場)

 2010年と2011年に承認された計画がすべて実施されれば、タイ国内の1日当たりさとうきび処理能力は約30万トン増加し、年間1億トン規模の収穫にも従来の製糖日数(110〜120日)で対応できる能力となる。なお、計画は5年以内に実施されることとなっている。

 計画の申請が増加する背景には、さとうきび集荷の効率化を図ることにあり、よりさとうきび産地に近い場所へ多くの工場が移転申請している。タイでは産地ごとに各工場が分散し立地しており、前述のとおり栽培契約形態もとっていることから、工場間で競合することはない。生産者も生産コストに占める輸送コストの比重が高いため、ほ場から最も近い工場へ納入するようにしている。昨年からの工場移転は、昨今の原油価格の高騰を踏まえ、生産者が負担する搬入までの輸送コスト低減に配慮したものでもある。さらに注目すべきは、稼働率を向上させるため、工場が移転先でさとうきび作付地の新規開拓を行っていることである。工場が立地する地域は、さとうきび産地とするよう、工場は生産者に対して生産奨励を行うケースもみられる。
 
 
 
 
〜課題は品種改良、栽培技術向上〜
 生産性を向上させるには、生産者の大規模化とかんがい整備による単収の向上が必要となるが、これらは一朝一夕には進まない。かんがいについて、2010/11年度は多雨であったため、水源確保に苦慮することなく、一定の単収を確保することができた。しかし、今後、天候リスクを回避するためには、品種改良による干ばつに強い新品種などの開発や生産者段階の栽培技術向上が課題として残る。

 品種改良については、OCSBや畑作研究所などが中心に行っており、最近では製糖企業が自社開発を行う動きもある。しかし、生産者段階ではいまだに20年前の品種が主に使われており、効果的な新品種の開発が必要である。また、価格次第で頻繁に転作を行う生産者においては、知識が蓄積せず栽培技術が向上しないという問題がある。今後とも、大多数の小規模生産者に対するきめ細やかな栽培技術等の指導が求められる。


〜洪水の影響は限定的か〜
 タイでは2011年、過去50年で最悪の洪水被害に見舞われ、さとうきびの主産地である北部および東北部も被災した。OCSBは11月24日時点で、深刻な被害を受けたほ場は3200ヘクタール程度(さとうきび20万トン相当)と見ており、2011/12年度の生産に大きな影響はないとみている。タイで生産されるさとうきびは、比較的標高の高い場所で栽培されるため、水稲などに比べ被害は小さかったと考えられる。また、さとうきびは茎が丈夫なため、ほ場が一時的に冠水しても収穫するには影響を及ぼさない。

 2011/12年度の製糖作業は、作付面積から大幅に増産された前年度並みの収穫が見込まれるため、製糖工場は11月上旬から製糖を開始することで、雨季に入る2012年5月までに作業を完了させる予定であった。しかし、洪水によるさとうきびの収穫の遅延や、道路の冠水による工場への搬入停止などの理由から、軒並み製糖開始が遅れることとなった。当初は11月中の製糖開始も危ぶまれたが、最も早い製糖工場で前年度より2週間早い11月15日から開始している。このほかの工場についても中旬以降、順次製糖を開始している。


〜2011/12年度の生産見通し〜
 2011/12年度のさとうきび生産については、さとうきび価格が高い水準にあることから、さとうきび作付面積は前年度よりさらに増加している。前述のようにさとうきびへの被害も限定的であるため、収穫量は1億トンを超えるとみられる。

 一方、製糖工場も洪水被害を乗り越え、前年度より早い時期に製糖を開始している。圧搾能力も順次拡大しているため、砂糖生産量は12月15日時点で、78万トン(前年同期比131%増)と、前年度を大幅に上回る早いペースで生産されている。

 OCSBはさとうきびの増産と好調な製糖を受けて、CCSが前年度より上昇し、砂糖生産量は990万トン(製品重量ベース)と、過去最高に達すると予測している。

6.おわりに

 タイは2010/11年度にさとうきびを約1億トン生産することができた。この数量についてOCSBは、今後タイにおける生産量のベンチマークになるとしており、今後も維持されるとみている。しかし、動向を把握しにくい小規模生産者が多く、天候リスクもあることから、ふたを開けてみるまで分からない不安定な生産動向であると感じられた。

 他方で、政府関係者には、今後アジア域内の需給はひっ迫するとしながらも、輸出に依存している実態に警戒心を有している。リスクを軽減するために、バイオプラスティックなど砂糖以外の用途開発を進め、内需を増加させたい意向も有しているようである。最大で数十万トン規模の需要も見込まれるとしているが、現時点では政府による具体的な奨励策はなく、商業ベースでの実例もない。

 これまで、タイは世界第2位の砂糖輸出国として、国内のみならずアジア域内の輸出も主導するなど内外のバランスを重視してきた。今後10〜20年で人口減少期に突入するといわれているタイが、内需を喚起しつつ、現在の生産規模を継続できるか、引き続きその動向に注目したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713