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イネヨトウの生態と防除について

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最終更新日:2012年2月10日

イネヨトウの生態と防除について

2012年2月

沖縄県農業研究センター 病虫管理技術開発班 研究員 永山 敦士

 

【要約】

 イネヨトウは沖縄県では年間6〜7世代、鹿児島県では5〜6世代繰り返す。成虫は数十個から150個程度の卵を塊で産み付けるため、幼虫による被害が集中する。幼虫は生長点や節を加害しながら複数の茎を渡り歩き加害するため、1頭が及ぼす被害が大きい。被害を予防するためには、イネヨトウの餌となるイネ科雑草の徹底的な管理、および植え付け時または株出管理作業時の浸透移行性のある粒剤施用がもっとも効果的である。被害が見られた場合は葉鞘と茎の隙間に薬剤が充分入り込むように散布・処理することが大切である。イネヨトウは茎の内部に入り込み、いったん発生すると防除が困難であるため、初期予防が重要である。

はじめに

 近年、南西諸島各地でメイチュウによる芯枯れや茎の折損被害が多発している。サトウキビの害虫においてメイチュウとは一般的にカンシャシンクイハマキTetramoera schistaceana Snellen (Lepidoptera: Tortricidae)とイネヨトウ Sesamia inferens Walker (Lepidoptera: Noctuidae)の2種を指す。

 例年、春に新植圃場や株出圃場で見られる芯枯れは、カンシャシンクイハマキかクシコメツキ類幼虫(ハリガネムシ)によるものがほとんどで、イネヨトウによる被害は局所的に見られる程度である。しかし、2011年の台風2号襲来後、台風被害からサトウキビが回復しないという報告が沖縄県内各地から寄せられ、関係機関が調査したところ、イネヨトウによる被害が多発していることが判明し、中には被害圃場率が8割を超える地域も見られた。2011年12月現在、被害が収束した地域はわずかながらあるものの、沖縄島北部地域および周辺離島では依然として被害が発生し続けている(図1−aおよびb)。

 本稿では、防除の一助にしていただくためにイネヨトウの生態についての詳細と、被害の予防と防除を行う際の注意点について報告したい。
 
 
 
 

1.イネヨトウの分布と寄主植物

 イネヨトウはアジア、オセアニア地域に広く分布している。鱗翅目ヤガ科の昆虫で、日本国内では本州以南のほとんどの地域に分布している。

 イネヨトウは和名の示すとおり古くからイネ、主に陸稲の害虫であった。現在もサトウキビ以外に雑穀や飼料用作物の害虫でもある。野生寄主植物は、ナンゴクワセオバナやネピアグラス、ソルゴー、オヒシバ、ツノアイアシ、イヌビエなどの茎径が太めのイネ科植物から、エノコログサなどの細めのものまで寄主範囲はイネ科植物全般と考えて良い。若齢幼虫は細い茎のイネ科作物で生活しているが、中齢以降の幼虫はより太い茎の植物を好み、サトウキビはイネ科植物の中でも茎径が太く、摂食旺盛期のイネヨトウの幼虫にとってはもっとも好まれる寄主植物の一つである。

2.生態

(1)卵

 卵は直径0.5〜0.8mmで高さが0.35〜0.4mmで、中心部にややくぼみがあり、産下直後は淡黄色で、ふ化直前には卵内幼虫の頭部を確認できるようになる。産卵場所は若い葉鞘と茎の隙間に、十数個から150個程度の塊で産下される。卵期間は25℃で8日前後。(図2−a)
 
 

(2)幼虫

 ふ化幼虫は1週間程度卵塊の周辺の葉鞘の内側や茎表面を集団で摂食する。そのため、葉鞘が部分的に壊死する。中齢幼虫以降になると茎内に喰入し生長点や節を好んで食べる。老齢幼虫は短期間で複数の茎を次々に渡り歩き食害する(図2−b)。老齢幼虫の体長は26〜34mm、薄紫色からピンク色で頭部は黒褐色である。幼虫期間は25℃で35日前後。
 
 

(3)さなぎ

 終齢幼虫は枯れた葉鞘と茎の隙間に糸と葉鞘で簡単な蛹室を作り、蛹になる(図2−c)。まれに食害した坑道内で蛹になることもある。色は褐色、体長は雄で12〜18mm、雌は14〜19mmと雌の方が一回り大きい。蛹期間は25℃で約12日。
 
 

(4)成虫

 体長は雄では10〜15cm、雌では11〜15cm。頭部は黄褐色で、はねの真ん中よりやや後ろにはっきりとした黒点を1つ有する(図2−d)。雄の平均寿命は25℃で5日、雌は4日と他の鱗翅目害虫に比べて短い。雌雄成虫とも日中はサトウキビの株元などに潜み動かない。日没4時間後に雌は性フェロモンを放出して雄を呼び、日没5時間後に交尾が成立する。交尾は80分程度で終了する。そして翌晩には250〜300個の卵を産卵する。
 
 

3.被害

 25℃におけるイネヨトウの1世代の日数は約57日である。最近10年の年平均気温は鹿児島県奄美市で21.8℃、徳之島町で19.4℃、沖縄県那覇市で23.3℃、宮古島市で23.8℃、石垣市で24.4℃であることから考えると沖縄県では6〜7世代、鹿児島県では年間5〜6世代程度であることが推察される。Miaらは沖縄島におけるイネヨトウ幼虫の発生は大きなピークが4〜5回、小さなピークが2〜3回であると報告しており、推定の世代数よりピークの回数が多いのは、世代がオーバーラップしているためだと考察している。このことは、イネヨトウは年間を通して常時発生していることを意味している。従って、イネヨトウは沖縄県、鹿児島県においては、被害に対し常に注意を払う必要がある。

 次に、イネヨトウの成虫が卵を塊で生み付けるのは先に述べたとおりだが、そのため、被害は産卵された場所を中心に同心円状に拡がる(図3−a)。畦畔けいはんの雑草などから幼虫が侵入した場合は圃場周縁部に沿って連続的に被害が見られる場合がある。一方で、カンシャシンクイハマキの場合は1〜3卵を葉の付け根に生み付けるため、被害は圃場全体に不連続に見られる(図3−b)。

 イネヨトウの幼虫は生長点や節を摂食・加害するため、芯枯れや生理的な生育不良を引き起こしたり、節を加害するため折れやすくなり風害を助長する。また、傷口から侵入した赤腐菌にサトウキビが感染し、糖が分解されてしまうため、糖度の低下を引き起こす。収穫茎は鞘頭部のやや下あたりの節が詰まった部分を食害される場合が多いため、被害地域ではその部分にイネヨトウが発生していないかどうか注意する必要がある。

4.天敵

 イネヨトウ幼虫の主な天敵としてはサカグチホシアメバチとズイムシサムライコマユバチが挙げられる。特に、有望な天敵であるズイムシサムライコマユバチ(図4)の発生のピークは4〜6月と8月である(Miaら、1999)。また、寄生率は最高で80%に達することから、イネヨトウの発生動態に大きな影響を与えていると考えられる。しかし、8月を過ぎるとコマユバチの発生量は低くなる。

5.被害の予防

(1)雑草の管理

 イネヨトウやカンシャシンクイハマキの幼虫は茎に喰入し加害するため、殺虫剤の効果が植物体表面に生息する害虫よりも低い。また、イネヨトウの幼虫はカンシャシンクイハマキとは異なり、積極的に複数の茎を渡り歩き成長していくため、1頭当たりの及ぼす被害は大きくなる。

 イネヨトウの被害を受けないようにするためにもっとも大切なことは予防である。先に述べたとおり、イネヨトウの幼虫はさまざまなイネ科植物を餌とするため、圃場周縁部や法面のりめんに生えているイネ科雑草はすべてサトウキビにおける被害発生の原因となり得る(図5)。特に若齢幼虫にとって茎の細い雑草はよりよい生息空間となる。従って、圃場内はもとより圃場周縁部のイネ科雑草をしっかり管理し、サトウキビ以外でのイネヨトウの生息場所を減らすことにより、サトウキビにおける被害発生の可能性を抑制することが出来る。圃場内の雑草の管理は植付直後の土壌表面処理剤による発芽抑制や、中耕・培土後の梅雨入り前の表面処理剤散布が効果的である。雑草が繁茂してからの除草は手間がかかるため、表面処理剤を適期使用し、必要に応じて茎葉散布剤を使用するとよい。なお、除草剤は薬剤の登録内容に従い使用すること。

(2)植付時・株出管理時および培土時の粒剤処理

 植物体が小さい間、幼虫は多数の茎を餌として必要とするため、発生すると被害は甚大となる。このことから根からの浸透移行性のある薬剤を植付時や株出管理時に処理しておくことが、雌の飛び込みにより生み付けられた卵から羽化した幼虫に効果的である。被害を受けている圃場に散布しても、その後根から吸い上げられて効果が現れるまで時間差が生じるため、計画的に薬剤を使用する必要がある。処理する際は根から吸収させられるように土壌にしっかり混和するよう注意する。

(3)被害を受けている圃場の乳剤処理

 繰り返しになるが、イネヨトウの幼虫は茎内に侵入し加害するため、直接薬剤に触れさせることは難しい。カンシャコバネナガカメムシ(沖縄名:ガイダー、鹿児島名:チンチバッグ)は長年にわたり防除が行われてきた害虫で、その防除については多くの農家の方々が習熟している。カンシャコバネナガカメムシの防除に対し、イネヨトウを防除する際に意識しなければならないのは、両者の居場所の違いである。カンシャコバネナガカメムシは春の防除時期には多くが未展開葉部に潜んでいるため上から薬剤を処理することが効果的であるが、イネヨトウは葉鞘の開いた部分から茎に喰入している。そのため、イネヨトウを防除する際には茎と葉鞘のポケットの部分に十分に薬剤が入るよう充分意識して丁寧に散布することが重要である(図6)。被害が激しい場合は2〜3週間後に再度処理すると効果的である。秋以降の収穫予定圃場への薬剤散布は天敵に大きなダメージを与える可能性があるため注意が必要である。

最後に

 サトウキビは南西諸島における基幹作物であるため、サトウキビがまとまった面積で栽培されている地域がほとんどである。一度サトウキビの害虫が発生するとそれを収束させるには多くの労力と時間がかかる。早期解決のためにも戦略を立て、地域全体で取り組むことが重要である。

引用文献

 東清二・大城安弘(1969)琉球農業試験場病理昆虫研究業績第22号:1−22 沖縄産さとうきび害虫に関する研究 第4報 イネヨトウSesamia inferens Walkerについて

 Mia A., (1999) Appl. Entomol. Zool. 34(4):429-434 Seasonal changes in infestation level of sugarcane by the pink borer, Sesamia inferens (Lepidoptera: Noctuidae), in relation to a parasitoid, Cotesia flavipes (Hymenoptera: Braconidae), on Okinawa Island

 Nagayama et. al. Appl. Entomol. Zool. 39(4):625-629 Emergence and mating behavior of the pink borer, Sesamia inferens (Walker)(Lepidoptera: Noctuidae)
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