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南大東島向けさとうきび新品種「Ni28」(農林28号)の特性と利用

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最終更新日:2012年6月11日

南大東島向けさとうきび新品種「Ni28」(農林28号)の特性と利用

2012年6月

沖縄県農業研究センター 作物班 主任研究員 内藤 孝
 

【はじめに】

 サトウキビは、離島が多い沖縄県において重要な作物である。県内の生産地の中でも、特に南大東島、北大東島の大東地域は、サトウキビ生産では県の総収穫量の約10%を占める。この地域は、1戸当たり耕地面積が県の平均を大きく上回り、約6ヘクタールである。耕地面積が大きいこともあり、大型ハーベスターによる収穫をはじめとした、サトウキビ作の機械化が国内で最も進んでいる。

 一方、この地域は、年間降水量が沖縄県の平均よりも20%程度少ないうえに、台風による暴風の被害を受けやすい。また、耕地は、隆起珊瑚礁に由来する石灰岩上に、特徴的な赤い強酸性土壌(大東マージ)が分布する。全般に土層が浅く保水性も乏しいため、深刻な干ばつ害が発生する年も多いなど、県内でも特殊な生産環境にある。

 南大東島におけるサトウキビ栽培の作型は、春植え20%、夏植え5%、株出し栽培(収穫後に萌芽したひこばえ(収穫株から生えてくる若芽)を利用する栽培型)が75%である。株出し栽培は、植付けにかかるコストや労力が抑制され、土地利用効率も高く、収益性が良いこともあって、同島の主力の作型である。

 南大東島の主力品種は、台湾から導入した「F161」である。「F161」は発芽、伸長性が良好ではあるが、耐干性や株出し性ではやや劣る。過去30年以上にわたって利用されている「F161」に変わる品種として、いくつかの品種が導入された経緯はあるが、上記の不良環境要因などで広く定着していない。近年育成した「Ni26」は同地域に適用できる数少ない品種の一つであるが、黒穂病への抵抗性がやや弱いこともあり、10%程度の普及に止まっている。

 そのため、南大東島では台風や干ばつ害に強く、収量性に優れ、株出し性が高く、黒穂病に抵抗性の品種が強く求められていた。そのニーズに応えるため、沖縄県農業研究センター作物班(旧農林水産省さとうきび育種指定試験地)では収量性や、繰り返しの株出し栽培が可能なこと(多回株出し性)、黒穂病抵抗性を重視して選抜を行い新品種「Ni28」(農林28号)を育成した。

 ここでは「Ni28」の来歴、育成経過、主要特性等を報告する。

1.品種の来歴と特徴

(1)来歴

 「Ni28」は沖縄県農業研究センター作物班(当時は沖縄県農業試験場作物部サトウキビ育種研究室、以下、「育成地」)において1994年、「RK87-81」を種子親、「F172」を花粉親として人工交配を行いその後代から選抜した(図1)。 実生から3次選抜までを同センター宮古島支所(当時は宮古支場)で行い、1996年に選抜を開始し、1999年3月に「RK96-6049」の系統名を付与した。その後、系統適応性検定試験と葉焼け病特性検定試験、黒穂病特性検定試験を行った。

 これら試験を経て、2002年度からは生産力特性検定試験および名護、宮古島、石垣島の各地に配布して奨励品種決定調査、また各地域製糖工場による現地適応性検定試験を実施した。

 その結果、南大東島における現地適応性検定で、株出し多収性や萌芽性に優れると評価され、2009年の育種委員会で、南大東島向けの奨励品種として推薦された。翌2010年4月には沖縄県農作物奨励品種に決定し、2011年3月には農林水産省の認定を受けて、品種名を「Ni28」、認定番号を「さとうきび農林28号」とすることが決定された。
 
 

(2)形態的、生態的特性および品質特性

 「Ni28」の葉は、中央から先端に向け垂れる傾向にあり、草型は“中”である。葉色は、「F161」よりも淡い。葉身長は「F161」と同等で、葉鞘の毛群は“微”である。蔗茎の形態は“糸巻”で蔗茎の基本色は「F161」、「Ni9」と同じ“黄緑”、複合色は「F161」と同じ“淡紫”である。茎径は“細”で「F161」よりも細い(写真1、写真2)。
 
 
 
 
 「Ni28」の発芽性は“中”で「F161」にやや劣る。萌芽性は“良”、分げつ性は“やや強”で「F161」より優れる。登熟性は“早”で早期高糖品種としても利用可能である。

 「Ni28」の2月における甘蔗糖度は「F161」よりも高い。収穫後の品質劣化の進行は遅く、品質の保持力が高い。収量性は“多”で「F161」よりも多い。出穂性は“中”で出穂が「Ni9」よりも少なく「F161」よりも多い。葉焼け病抵抗性は“やや強”である。

 黒穂病特性検定の結果、「Ni28」の発病率は1.4%であり、標準の「NCo310」の82%や「NiF8」の8%よりも低い発病率を示し、“極強”である。さび病抵抗性は“やや弱”で「F161」より劣るが「Ni9」並みでやや目立つ程度である。

 「Ni28」の台風接近時の耐折損性を、育成地と現地で、2002年から2008年までの間に調査した結果は、標準品種より低く、判定は“強”であり、「Ni9」と同等で「161」より強かった。耐倒伏性は“やや強”で「F161」よりは優れ「Ni9」と同等である。脱葉性は“やや難”で「F161」に比べると劣る。

(3)原料茎の特性および収量性

 「Ni28」は春植えでは茎数において、「F161」よりやや少なく、茎長や1茎重は「F161」よりわずかに低かったが、株出し1回目および2回目で茎数において「F161」より多く、株出し2回目では茎数、茎長、1茎重で「F161」を上回った(表1)。

 同時に蔗汁品質と収量性、可製糖量について調査したところ、「Ni28」は、蔗汁品質では、圃場ブリックスの上昇が作型や時期にかかわらず「F161」より早期から高く(図2)、春植え、株出し1回目、株出し2回目では甘蔗糖度および可製糖率が「F161」同等以上であった。現地での収量性は、春植えの原料茎重が「F161」より低いため、春植えの可製糖量は「F161」よりやや少ないが、株出し1回および2回では、品質、収量共に「F161」以上となった(図3)。
 
 
 
 
 
 

2.栽培における注意点

 「Ni28」の栽培において、最も注意する点は、春植え時の収量、糖量が標準品種に対してやや劣る点である。

 この対策として、南大東島では、密植栽培により茎数を確保する方法を行っている。

 実際面として、機械化が進んでいる同島では、苗調達を圃場からハーベスターによって行い、催芽のため一時水浸漬したチョッピング苗を、ビレットプランター(さい断式植付機)で植付ける方法がとられている。この方法で植えた場合、苗の量は通常の春植え栽培の約1.3倍投入される。この植付け量で密植栽培を行うと、「Ni28」は品質はそのままに、原料茎重が増加する。その結果、同様に密植した「F161」に比較すると可製糖量は増加し収益性は高くなり、収量や収益の目減りが大きくならない工夫となっている。

 その他に留意が必要な点としては、(1)南大東島が、現在唯一の適応地域であること、(2)さび病への抵抗性がやや低いこと、(3)葉鞘の毛群が、管理作業や手刈り収穫時に支障となる−などがある。

 これらを把握することが栽培上必要であり、特に奨励地域以外での導入に際しては、密植を考慮しながら、充分な試作が必要と考える。

3.おわりに

 以上述べた様に「Ni28」は、南大東島において株出し収量に優れ、黒穂病への抵抗性が高く、台風による折損に強い、早期から高糖の品種である。

 株出し栽培における多収品種の育成は、沖縄県の大きな育種目標である。過去に本県で普及した「NCo310」や「Ni9」はどちらも株出し性が高く、収量性も良好であった。しかし、両品種とも黒穂病への抵抗性が低く、その後の生産や普及の障害となった。

 そのため、黒穂病への抵抗性が高い「Ni28」の育成は、目標への一つの成果および通過点ととらえ、さらに今後の育種素材としても重要と考えている。

 また、早期高糖性品種は、地域の製糖開始時期を前進化させることで、農作業の労働力分散に寄与することができる。実際に南大東島においては、早期高糖の「Ni28」や「Ni26」、同時に認定された「Ni29」などの活用により、製糖開始の前進化も進められてきており、今後の生産振興へ期待されている(図4)。

 さらに現地において「Ni28」の株出し栽培で茎数が多くなる性質は、機械収穫後の萌芽が早い傾向にも影響していると見られ、耕作者には収穫後の管理作業開始や欠株確認などへ早期の対応が可能となり、株出し栽培を行う上での、安心と栽培意欲の喚起に役だっている。

 これらのことを含め、「Ni28」は、土壌や気候の悪条件や大型機械などの影響で、既存品種では株出しの単収が下がりやすかった南大東島において、今以上の低コスト・高収益と地域の生産安定に寄与するものと期待している。

 「Ni28」は南大東島で「Ni9」や「F161」の代替品種として、当初、約200 haの普及を見込んでいたが、23/24年期の生産状況では、新植で大幅に栽培面積を広げいる。今後は適応地域の拡大も進めていきたい。
 
 
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