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さとうきび優良種苗の安定供給のために

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最終更新日:2012年7月10日

さとうきび優良種苗の安定供給のために〜原原種の生産・配布について〜

2012年7月

独立行政法人種苗管理センター 沖縄農場長 鈴木 常司
 

【はじめに】

 さとうきびは栄養体である蔗茎を用いて種苗を増殖しますが、増殖率が低く、ウイルス病、細菌病等に感染するとその種苗(蔗茎)とともに病気が広まり、減収する特徴があります。種苗管理センターでは系統導入時の無病化や各種検査を行い病気を取り除くとともに、厳格な栽培管理の下で種苗増殖の基礎となる原原種を生産・配布しています。さらに、原原種は原種ほ⇒採種ほの採種体系の中で増殖され、さとうきび栽培農家に渡ります。

1.さとうきび優良種苗供給の必要性

 さとうきびは台風、干ばつ等の自然災害の常襲地帯である鹿児島県南西諸島及び沖縄県における代替困難な基幹作物として地域の経済社会を支える重要な作物です。また、さとうきびは、栄養繁殖性植物であるため種子での増殖が困難で、栄養体を増殖し確保する必要があります。しかし、増殖率が10倍程度と低いうえに、ウイルス病や細菌病等にひとたび感染すると薬剤散布等の一般的方法では防除が不可能であり、種苗を介して病気が伝染・拡散します。これらの罹病した種苗を農家等が自家増殖し繰り返し生産を行うと、生産地ではウイルス病や細菌病が蔓延し、収穫量が減少するなど大きな影響を及ぼすことがあります。このため、健全無病な優良種苗を安定的に農家に生産・供給し、さとうきびの生産性を向上させることが必要になります。当センターでは、優良種苗生産の元となる種苗をさとうきび原原種として生産・配布しています。

 国は、さとうきびの生産振興を図るため、昭和30年代後半、蔓延していたさとうきびの重要病害のモザイク病やわい化病等に感染していない優良種苗を供給することを目的に、「さとうきび原原種農場」として昭和40年に鹿児島県種子島に鹿児島農場を、昭和53年には沖縄本島に沖縄農場を開設し、2農場による生産体制が整備されました。これにより、国、鹿児島県・沖縄県及び市町村等による原原種−原種−採種の3段階増殖の流れによる採種体系が整い、健全無病なさとうきび種苗が農家に普及し反収増加の効果が出ています。

 なお、平成13年には組織が国から農林水産省の所管する独立行政法人種苗管理センター鹿児島農場と沖縄農場に移行しましたが、従来にも増して健全無病苗供給の重要性を認識し業務を進めています。
 
 
 さとうきび原原種の配布数量は平成6年度から原料さとうきびの品質取引導入にともない高糖品種への転換で需要量が増加し、平成11年度には290万本と品質取引への移行の前年度の241万本に比べ大幅に増加しました。近年は、やや減少傾向ですが、230〜240万本の生産・配布を維持しています。また、台風の常襲地帯にあることや植付け期における干ばつなど自然災害を受けやすいことから、安定生産の確保が重要な課題となっています。
 
 

2.さとうきび原原種の生産体系(種苗管理センターにおける増殖)

 前述のとおり、さとうきびは蔗茎(栄養体)を用いて増やすため、1年間の栽培で10倍程度にしか増えません。また、種苗伝染性病害に感染すると病害防除は困難なことから、新品種の導入の段階で増殖の基礎となる健全無病な元種を作出確保し、その後は各増殖段階の基本ほ場(網室隔離栽培)→増殖ほ場(網室隔離栽培)→原原種ほ場(ほ場栽培)において徹底した検査(検定)と淘汰及び感染防止を図りながら無病種苗の数量を確保します。また、品種特性の維持と発芽性に優れることも求められることから、栽培期間中の肥培管理、ほ場の巡回観察、収穫時の選別の徹底により品質維持を図っています。

 新品種等の優良種苗の早期普及に当たっては、育種機関での奨励品種決定試験の段階から当センターに導入し、温湯消毒等により無病化した元だねの予備増殖を行い、奨励品種決定後の配布に備えています。最近は新品種の早期普及への要望も強く、より増殖率の高い側枝苗(注1)技術を導入して普及までの期間短縮と一定量の苗の確保を図り、配布申請があればいつでも応じられるような体制を強化しています。

(注1)生育途中のさとうきびの梢頭部(生長点)を切除し、側芽を発芽させ、側枝になった段階でまたその梢頭部部分を切除する作業を数回行い、一つの節から20〜30本の側枝を作り、それを分解し1本ずつペーパーポットに鉢上げを行い、機械で原料ほに移植を行う苗生産の方法。
 
 
 
 

3.主要な種苗伝染性病害と検定方法及び防除法

a)モザイク病

 病原はウイルス(Sugarcane mosaic virus及びSorghum mosaic virus)で、健全株への伝搬は、主にアブラムシで媒介され、一度感染した株は農薬等で完治することなく、罹病株から採った種苗はほとんどが発病するとともに感染源となります。被害は生育時の感染では比較的少ないものの、罹病苗を用いたり、株出し栽培では発芽・萌芽の遅れや生育不良をひきおこし、茎数・茎長に影響し、10%程度の減収になります。

 当センターにおける検定方法及び防除法は、新導入系統の予備増殖や配布品種の基本ほ段階は、肉眼検定(観察)による健病の判定とELISA検定(酵素結合抗体法)(注2)により潜在感染株の有無を確認して行います。農場用種苗(基本ほ、増殖ほ)の生産においては、網室栽培を行い媒介アブラムシから隔離するとともに定期的に薬剤防除を実施し徹底した感染防止を図っています。また、原原種ほでは露地栽培となるため、生育期間中10〜12回の肉眼検定を行い、微細な症状の変化をを見逃さないように注意し、発病株があれば感染源とならないよう早期に抜き取りを行うほか、農薬によるアブラムシの適期防除で感染防止を図っています。

(注2)ELISA法は、ウイルス粒子表面のタンパク質とそれに特異的に対応する抗体で起きる抗原抗体反応を利用した血清学的検定法である。この方法は、検出感度が高く、大量検定に優れるという特徴がある。種苗管理センターでは、主に模式図に示した二重抗体ELISA法を用いている。試料にウイルスが存在する場合には、基質が酵素で分解され黄色く発色する。
 
 
b)わい化病

 病原は細菌(Leifsonia xyli subsp. xyli)で、健全苗・株への伝搬は汁液伝染によって起こり、極めて感染力が強く、モザイク病同様一度感染すると農薬等では完治することなく、罹病株からの採苗は全て発病するとともに、収穫や調苗時に刃物等を介して感染します。

 病徴は外観上の変化はとくに認められず、成熟した茎の節下部を鋭利な刃物で切断すると維管束部に僅かに変色(赤褐色)が見られるのみで、生育中の健病判定は困難です。

 被害は新植時やさとうきびの生育に適した環境下では被害が少ないようですが、株出し栽培における干ばつ等の不良環境下では茎数、茎径、茎長にかなりの影響が及ぶとされ、被害程度は10%を越えるものと思われます。

 農場における検定方法及び防除法は、新導入系統についてはPCR法(遺伝子診断法)によって罹病の有無を判定し、罹病が確認された種苗は温湯消毒(50℃の湯に2時間浸漬)により健全化を行うとともに、健全が確認されるまでは専用施設(ガラス室)で隔離栽培します。一方健全種苗についても万全を期するため同様に温湯消毒を行っています。また、配布品種の元種になる基本ほ植付け用種苗においても実施し、さらに、収穫時には品種、ほ場が変わる毎に刃物を消毒しています。
 
 
c)白すじ病

 病原は細菌(Xanthomonas albilineans)で、健全苗・株への伝搬は野鼠、害虫による食害によって起こり、この病気も一度感染すると農薬等では完治することはなく、罹病株から採苗した種苗で発病するとともに、収穫や調苗時に刃物等を介して感染します。

 病徴は葉に一本または数本の白色条斑が葉の基部から葉先まで現われ、種苗伝染したものが生育初期に発病すると葉全体が白くなり、下部が枯死します。

 被害発生は乾燥地や未熟畑で多いとされ、欠株が増えると減収します。

 農場における検定方法及び防除法は、わい化病に準じて行っています。なお、ほ場で白すじ病の特徴的な病徴である白線(ペンシルライン)を発見した場合、その株は掘り起こし、ほ場外で焼却処分にします。NiF4が白すじ病の感受性品種とされており、その血統を受け継ぐ品種は注意を要します。
 
 
d)黒穂病

  病原は糸状菌(Ustilago scitaminea)で、罹病株から抽出する鞭状物から胞子が飛散し、種苗の芽子及び生育中のさとうきびの側芽芽子に接触した場合、胞子から発芽した菌糸が侵入し伝染するとされています。鞭状物抽出の最盛期に芽子が露出しやすい株出しや夏植えでの感染が多い傾向にあります。また、感染した芽子が種苗として用いられると、植え付けたほ場で発病し、それが新たな感染源になります。

 病徴は細茎の叢生と細身の葉身がやや立葉を呈した後、穂ばらみ状(注3)となり病名の由来の黒穂状の鞭状物を抽出します。極めて細茎化することと鞭状物を抽出した茎が枯死に至ることが多いことから、収穫量が減り著しい減収をまねきます。

 農場における検定方法及び防除法としては、ほ場巡回による罹病株の早期発見と農家ほ場の株出し栽培における鞭状物抽出最盛期を中心にした殺菌剤散布を行っており、これらにより感染防止の徹底に努めています。

(注3)穂が出る前に、穂を包んでいる部分がふくらむこと。
 
 

4.原原種配布体制

 原原種の配布については、鹿児島農場が主に鹿児島県の南西諸島地域、沖縄農場が沖縄県全域を対象としていますが、台風等の気象災害でどちらかが減収した場合には2農場間で補完する体制となっています。

 種苗としてのさとうきびは、大型で繊細なことから取り扱いに注意し、原原種収穫の際には芽子の保護のため葉梢を残して、発芽及び初期生育の優れた成熟茎を丁寧に収穫するように努めています。また、通常は収穫と出荷がほぼ同時で進行しますが、台風等の影響で輸送状況が乱れ配布先への到着が遅れる心配がある場合や、現地の原種ほの条件が悪化した時には、収穫を延期するなどし、極力新鮮で良好な状態の種苗を届けられるよう調整を図っています。また、輸送時の荷積みの際にも丁寧に扱うこと、港等での船積みまでの間も日陰に置くよう運送業者にも協力を求めています。

 前述しましたが、さとうきびは増殖率が低いため、原原種配布までの増殖段階で急激に増やし数量を確保することは難しく、とくに新品種は急激な需要の増加により配布先の要望を満たせない場合があります。需要量と生産量の乖離をできるだけ少なくするためには、県、育種機関等との打合わせ等による密接な連携の強化及び市町村、製糖工場、栽培農家等から需要動向等の情報を入手し的確な対応を行うことが重要と考えています。
 
 

5.気象災害への対応

 平成23年は春先の低温、日照不足による初期生育の不良(発芽及び分げつ不良)、台風襲来、夏季の干ばつ及びメイチュウの発生により原原種生産も大きな影響を受けました。

 とくに、沖縄農場においては、5月下旬から度重なる大型台風の襲来により平成23年に配布の原原種は茎の折損、湾曲、塩害等により生育不良、側枝伸長などの被害がありました。また、平成24年の配布用として平成23年に原原種ほに植付けた苗も倒伏、潮害により生育が緩慢となり、24年春植用は生産計画を大幅に下回る結果となりました。このため、関係される皆様のご理解とご協力の下で、原原種の不足への対応として、(1)春植用原原種の配布時期を遅らせて生産量の確保を図ること(2)夏植用の原原種を春植用として前倒し収穫し、配布を検討すること(3)鹿児島農場の原原種の生産余剰を沖縄県へ配布すること(4)防風林等の再整備の対応を行うこと―としました。さらに、種苗不足により原料用さとうきびの種苗への転用も見込まれるため、県等が行う種苗の無病性確保に向けた技術指導への協力や生産者への病害虫防除の徹底を呼びかけるパンフレットを作成し、配布することといたしました。
 
 
 
 

おわりに

 健全無病で発芽に優れた原原種苗を安定的に生産し配布することが、さとうきび原原種生産農場の使命と認識しています。その一環として、当センターでは平成24年度からさとうきび原原種の生産・配布業務にISO9001に準拠した品質マネジメントシステム(QMS)を導入し、計画・実施・評価・改善のPDCA(Plan−Do−Check−Act)サイクルに合致する体系の構築を進めてまいります。鹿児島県、沖縄県をはじめ種苗供給体系に関わる皆様により満足していただける品質の原原種生産を目指し、今後もなお一層の努力を重ねて参りたいと思いますので、皆様には忌憚のないご意見やご要望をお寄せください。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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