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スポーツ成績向上のための栄養学

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最終更新日:2012年8月10日

スポーツ成績向上のための栄養学

2012年8月

日本食育協会理事
大阪府サッカー協会スポーツ医学委員会
管理栄養士 吉川 珠美

 

【要約】

 トレーニング効果向上、ケガの防止、パフォーマンス向上のために、食事によるコンディショニングはアスリートにとって不可欠です。特に糖質は、運動に利用するエネルギー源として重要な役割を果たしており、スタミナの維持には試合前の糖質の補給が欠かせません。

 運動はエネルギー獲得機構、強度、持続時間によっていくつかの種類に分類されますが、糖質はいずれの運動においてもエネルギーを供給するために重要な働きをしています。

 持久的能力向上のためには、試合前の糖質摂取を増やし筋肉内のグリコーゲン貯蔵量を高めることが重要ですが、無理なく糖質摂取を行うには、砂糖を使った間食などを上手に取り入れることも重要なポイントです。

 また、運動後の速やかな糖質摂取が疲労回復に有効であり、砂糖など吸収の早い糖質は特に有効です。

食事によるコンディショニングについて

 アスリートたちが体力を向上し、目的とする勝利を達成するためには食事によるコンディショニングが欠かせません。

 コンディショニングとは、その競技において最高の能力を発揮するために心身の状態を調整することを言います。多くのアスリートたちは大切な試合の前にさまざまな方法でコンディショニングを行っています。例えば科学的なトレーニングや医学的サポート、メンタルトレーニングもコンディショニングの方法です。

 中でも食事によるコンディショニングはアスリートにとって不可欠なものと言えます。なぜなら食べ物は私たちの身体の材料そのものだからです。例えばどんなに一流のシェフが腕をふるっても、食材が腐っていたなら美味しい料理はできません。同じようにどんなに素晴らしいトレーニング方法があったとしても、どんなに意欲を持っていたとしても、アスリート自身の身体の材料である食事の質が悪かったならば、しっかりした身体をつくることは不可能なのです。その結果、トレーニングの効果が現れにくいだけでなく、疲れやすかったり、ケガをしやすいということも起こってくるのです。

 特に糖質は、食事中に含まれる栄養素の中でも運動に利用するエネルギー源として重要な役割を果たしています。糖質は血糖として血液中に存在するほか、筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます。このうち筋グリコーゲンは直接その筋肉の運動のエネルギーとして利用され、血糖や肝臓のグリコーゲンは脳のエネルギー源として集中力を維持する働きがあります。

 糖質が不足したまま運動することは、ガソリンが足りないままレースに出る車と同じ状況といえます。試合前にしっかりと糖質を補給することはスタミナの維持に不可欠なのです。

運動の種類とエネルギー代謝

 パフォーマンス向上のための糖質の摂取法を考えるために、まず運動の種類と利用されるエネルギー源の関係を考えてみましょう。

 オリンピックの競技にもさまざまな種目があるように、運動の種類によってエネルギーとして利用される栄養素の種類やその代謝過程も異なります。運動時に筋肉は体内のエネルギー通貨であるATPという物質を利用しますが、体内に蓄えることができるATPはわずかしかないため、食事から摂取した栄養素を用いて速やかにATPを再合成します。

 100m走や砲丸投げなど短時間で激しい運動では筋肉中に蓄えておいたクレアチンリン酸(CP)という物質を使ってATPを再合成します。CPは代謝のプロセスが少ないため即座に大量のATPを供給することができますが、貯蔵できる量が少ないため持続時間は短くなります。200m走や400m走などの中距離になると筋肉に蓄えておいたグリコーゲンを分解してATPを産生します。この筋グリコーゲンは摂取した糖質から作られることは先ほどお話しました。さらに持続的な運動になると酸素を用い、グリコーゲンや脂肪をエネルギー源としてATPを産生します。脂肪は高エネルギーですが代謝にたくさんのプロセスが必要で時間がかかるため、急激な激しい運動にはこの代謝経路を利用することはできません。

 このように運動はエネルギー獲得機構や強度と持続時間によってハイパワー系、ローパワー系、それらが混じったミドルパワー系の競技に分類されます。(表参照)
 
 
 また、CPやグリコーゲンを利用する場合には酸素を用いないので無酸素性の運動、脂肪を利用する際には酸素が必要となるため有酸素性の運動と分類されることもあります。

 有酸素性の運動では体内に蓄えておいた脂肪を利用するため、体脂肪の量だけで換算すると大量のエネルギー源が利用できるように思われます。しかし実際には脂肪を代謝するプロセスには糖質も必要なので、体内に貯蔵しているグリコーゲンの量がスタミナを決定する要因になります。

 つまり、糖質は無酸素性と有酸素性のいずれの運動でもエネルギーを供給するために重要な働きをしているのです。

試合前の糖質摂取

 実際にこれまでに行われてきた研究結果から、糖質摂取量が多いほど筋グリコーゲンの貯蔵量が多く、持久的能力が高まることが明らかにされています。またトレーニング期の食事では筋肉の材料となるたんぱく質の摂取に重点を置かれがちですが、トレーニングそのもののエネルギー源となる糖質の摂取が少なければ、たんぱく質がエネルギーとして利用されてしまうため筋肉量を増加させることはできません。このようなことから国際的にもアスリートは体重1kgあたり7〜10gの糖質を毎日摂取すべきであるとの見解がなされています。

 さらに試合前の食事では、エネルギー源となるグリコーゲンをできるだけたくさん筋肉や肝臓に蓄えるために糖質の摂取量を増やします。「グリコーゲンローディング」とよばれる方法では試合3日前から1日の総摂取エネルギーの70%を糖質から摂取する高糖質食をとりいれます。この方法により筋肉中のグリコーゲンの量を通常の2〜3倍、肝臓では2倍に高めることができると言われています。

 アスリートにとって糖質をしっかり摂取してグリコーゲン貯蔵量を高めることはたいへん重要なのですが、糖質をご飯だけで補おうとするのは実際は食べにくい食事内容となります。例えば先ほどの「1日に体重あたり7〜10gの糖質」という量を体重70kgの選手で考えてみると490〜700gになり、丼ご飯に換算すると4〜6杯にも相当します。これだけの量のご飯を毎日食べるのは、いくら激しい練習をこなすアスリートでも容易ではありません。試合前の緊張状態では胃腸の働きが低下し、大量のご飯を食べることは選手の負担になりかねません。

 そこで糖質を無理なく摂取するためには、砂糖を使った間食などを上手に取り入れることも重要なポイントといえます。例えばカステラなどの焼き菓子やきんつばなどの和菓子は食べやすく、しっかりと糖質が摂取できるので多くのアスリートが間食として利用しています。

 ただし、菓子類を選ぶ際にはバターなどの油脂をたくさん使ったものは、胃腸に負担をかけたり血液の粘度を増して逆に心肺機能を低下させることがあるので、できるだけシンプルに糖質が補えるものが良いでしょう。真空パックの羊羹などはコンパクトで日持ちもするので海外遠征に持参するのにも便利です。

回復のための糖質

 また、運動後の速やかな糖質摂取は疲労回復にも有効であることが報告されています。図は運動直後に糖質を摂取した場合に筋グリコーゲンがすばやく回復することを示しています。つまり1日に2試合あるような場合では、1試合目が終わったら速やかに(できれば30分以内に)吸収の早い糖質を摂取することで消耗したグリコーゲンを回復させ、次の試合までに筋肉の疲労を回復させることが可能となります。

 砂糖はご飯や麺類などの糖質よりも吸収の速度が早く、インスリンの分泌を促進するので、より速やかに筋肉や肝臓のグリコーゲンとして蓄積されます。運動後はできるだけすぐに吸収の早い糖質を補給することが、消耗した筋グリコーゲンを回復させるために有効です。

 ただし、試合の約30分前に大量に吸収の早い糖質を摂取すると、インスリンの作用で逆に低血糖を起こしてしまう恐れがあります。試合直前の食事ではご飯などの吸収がゆっくりである糖質を選び、グリコーゲンローディングをする際や疲労回復のためには砂糖などの吸収の早い糖質を上手に補う、という具合にカロリーだけでなく糖質の吸収の速度やタイミングを考えて摂取することも重要なのです。
 
 

終わりに

 厳しい練習や試合のプレッシャーにさらされているアスリートにとって、食事はストレス緩和にも重要な役割を果たしています。砂糖を使った間食には、筋肉や肝臓にグリコーゲンを補充する働きに加え、気持ちをリラックスさせてストレスをやわらげてくれる働きもあります。競技アスリートだけでなく日常的にスポーツを楽しむ方々にも、上手に間食を利用してコンディショニングやパフォーマンスの向上に役立てていただけることを願っています。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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