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地域の特産品を活かした食材

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最終更新日:2012年8月10日

地域の特産品を活かした食材〜ゆず皮の佃煮〜

2012年8月

東京家政学院大学 地域連携・研究(町田)センター 山岡 義卓
東京家政学院大学 現代生活学部生活デザイン学科 教授 小口 悦子

 

【要旨】

 神奈川県相模原市藤野地区では平成21年度より東京家政学院大学と共同で同地区の特産品であるゆずを用いた商品開発プロジェクトを実施した。藤野地区では、主にゆずの果汁を加工食品の原料として使用しているが、外皮や薄皮は十分に利用されていなかった。そこで、これら未利用資源の有効活用を目指して検討を進め、ゆずの皮を用いた佃煮を開発し、発売した(商品名「ふじの煮」)。「ふじの煮」は現在、藤野地区を中心に販売され、同地区のおみやげ品として着実に販売数量を伸ばしている。本稿では地域と大学の連携により新しい価値が生み出された一事例として、「ふじの煮」の開発経緯や製造方法、特徴について紹介する。

1.「ふじの煮」開発の経緯

 東京家政学院大学は地域貢献を研究、教育に次ぐ大学の第三の使命と捉え、自治体や金融機関との協力のもと、積極的に地域社会との連携を進めている。本学の連携は、理工系の大学で一般的に行われている産学連携のように教員が中心となって受託研究や共同研究を行うだけでなく、地域社会と密接に繋がり、学生が連携の中心を担うことで“若者力”を活用していくことを特徴としている。こうした取組みの一つとして、本学では平成21年度より神奈川県相模原市藤野地区と連携し、同地区の特産品であるゆずを用いた商品開発プロジェクトを実施した。

 藤野地区は神奈川県北部に位置し、東京都と山梨県と接する山と湖に囲まれた自然豊かな地域である。本学からは公共交通機関を使って約1時間、車では30分程度と近距離にあり、本学の地元地域のひとつである。藤野地区では特産品であるゆずの加工品の製造販売による地域活性化に取り組んでいる。藤野商工会などの出資により町おこし会社として有限会社ふじのを設立し、さまざまなゆず加工品の開発および製造を行ってきた。同地区で収穫したゆずは、一部を除いてほぼ全量搾汁し、果汁としてゆずポン酢やゆずワインなどの加工品の原料としている。一方、果汁を搾った後の残渣(搾りかす:外皮や薄皮、種子を含む)のうち、一部の外皮は、ジャムに加工利用されているが、生産量に見合う用途がなく廃棄処理されていた。しかし、搾汁後の残渣にもいくらかの果汁は含まれており、また、皮はゆず独特の香りを有しており、利用可能性があると考えられた。

 こうした背景から未利用資源であるゆずの残渣を用いた商品開発により、ゆずの有効活用を図ると同時に藤野地区のゆずを今以上に広くアピールできることが期待された。そこで、本学との連携により、ゆずの皮の有効利用をテーマとした商品開発プロジェクトがスタートした。

 プロジェクトには5名の学生が参加した。学生たちは現地の農場や加工場の視察を行い、地域の現状やゆず加工の特徴などを学んだうえで商品アイデアの提案を進め、ゆずワインゼリー、ゆずジャムパン、ゆずスフレ、ゆず炊き込みごはん、ゆずの佃煮、ゆずのレアチーズケーキ、ゆずのビスケット、ゆず酒(焼酎漬け)などを提案した。商品提案と並行して栄養成分分析を行い、藤野産のゆずと高知県産等他地域のゆずとの比較や、青ゆず(完熟前のもの)と黄ゆず(完熟したもの)との比較を行い、商品開発のためのバックデータとして提供した。また、研究活動だけでなく地元の藤野地区で行われた「藤野ふる里まつり」や「かながわ商工会まつり」等のイベントに参加し、プロジェクトの活動をアピールするとともに開発商品(試作品)のアンケート調査を実施した。

 こうしたプロセスを通じて学生が提案した商品のうち、ゆずの佃煮は有力な新商品の候補となるとの判断がなされ、平成22年度以降、製造方法や製造場所の検討等商品化のための準備作業が進められた。その結果、平成23年7月に商品名「ふじの煮」として有限会社ふじのより発売された。商品の容器包装には「本品は、東京家政学院大学との共同研究により開発した商品です。」との説明が記載されている。
 
 
 
 
 
 

2.「ふじの煮」の製造方法と砂糖の役割

 「ふじの煮」の原材料は、ゆず皮、砂糖、しょうゆ、かつお節、調味液、調味料、根しょうが、白ごま、唐辛子である。ゆず皮は、果汁搾汁後の残渣を用いる。工業的な生産においては調味液や調味料を使用しているが、家庭ではおよそ次の方法で調理することができる。

(1)かつお節でだしを取り、砂糖、しょうゆ、酢を入れて火にかける。
(2)煮立ったところで細切りにしたゆず皮としょうがを入れ、再び煮立てる。
(3)あら熱を取ったところで、ごま、かつお節、唐辛子を加え、完成。

 原料の配合割合や加熱時間など製造方法の詳細はノウハウでありここに記載することは差し控える。ゆずを用いた加工品はゆずの香りと風味をしっかり残すことが肝要であり、この点において試行錯誤を繰り返し、調理方法に工夫を凝らしている。

 本品の製造方法における砂糖の役割を記載すると、独特の粘りのある食感が得られること、外観につやが出ること、保存性が増すこと、ゆずの皮の苦味をやわらげることなどが挙げられる。なお、これら砂糖のもたらす効用の多くは、「ふじの煮」に限らず佃煮全般にあてはまるものでもある。

3.「ふじの煮」の特徴

 「ふじの煮」の特徴は、原料や風味などについて、大きく3つあると考える。

 一つは未利用資源であったゆず皮を使用している点である。「ふじの煮」は果汁を搾汁した後の残渣として大量に得られるゆず皮を原料に使用している。ゆず皮はゆずジャムの原料にも使用されているが、ゆずジャムは皮の色や形がそのまま商品に残るため外観がきれいなゆずの皮しか使用できない。すなわち味に問題がなくても表面に黒い斑点があるようなゆずは、ゆずジャムの原料には使用できない。一方、「ふじの煮」は砂糖やしょうゆと煮るため濃い茶色の外観を呈する。そのため果実の外観を問わずに原料として用いることができる。このように未利用資源を有効に活用できることが本品の大きな特徴のひとつである。

 二つめは風味である。ゆずの最大の特徴は、ゆず独特の香りにある。そのため、ゆずの加工品開発においてはゆずの香りをうまく引き出すことが求められる。しかし、煮るなどの加工をすることや味の濃いものと合わせることにより、ゆずの香りは損なわれる可能性がある。本品は、製造工程を工夫することにより、ゆずの香りを損なうことなく製品化することに成功している。

 最後は、ゆずの新しい食べ方を提案しているという点である。「ゆず」と「佃煮」をキーワードにインターネットで検索を行うと、ゆずの佃煮のレシピがいくつか見つかるほか、高知県や鹿児島県などのお土産品としてゆずの佃煮が販売されていることがわかる。しかし、その数は少なく、多くの人にとってゆずを佃煮にして食べることは珍しく、斬新なことと受け止められる。さらに、本品はご飯と一緒にいただいておいしいことはもとより、冷奴やキュウリなどの野菜との相性も良く、一般的な佃煮に比べても幅広い食べ方が可能である。

4.今後の課題と展望

 「ふじの煮」の開発においては、研究を基盤として大学と地域社会が継続的な繋がりを維持する中で学生が中心となって活動することにより具体的な成果に結びついている。“若者力”の活用が地域貢献に繋がることを裏付ける事例であり、本学における連携のモデルケースのひとつとなると考えられる。

 一方、藤野地区では、今後さらにゆずの生産量が増大していくことが見込まれ、それに伴い新商品開発、生産能力の向上、販路拡大が求められる。こうした流れにおいて本学には「ふじの煮」に続く新商品の開発が期待される。また、生産や販売など本学の専門領域だけでは対応できないテーマについては近隣の他大学や支援機関と連携することも考えられる。こうしたことも考慮し今後も藤野地区との密接な関係を継続し、さらなる地域貢献を目指していきたい。

参考文献

 山岡義卓,小口悦子,海野知紀:ゆずの利用法開発をテーマとした家政学系女子大学の地域連携の取り組み−相模原市藤野地区における事例−.東京家政学院大学紀要(51):pp59-66(2011)
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