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さとうきびの省力化栽培技術

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最終更新日:2012年10月10日

さとうきびの省力化栽培技術〜ハーベスタ採苗とビレットプランタの利用〜

2012年10月

鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場 馬門 克明・樋高 二郎
※(現鹿児島県大隅地域振興局曽於畑地かんがい農業推進センター) 


【要約】

 さとうきび栽培においてハーベスタをはじめとする機械化は必要不可欠であり、大部分の作業工程が機械化されてきているが、採苗・植付の省力化は不十分な状態である。近年、ハーベスタ採苗とビレットプランタによる省力的機械化体系が現場で導入されつつあるが、適正な植付本数等不明な点も多いことから、現在これらの課題に取り組んでいる。現段階の試験結果では、ビレットプランタ植付時の必要苗数は慣行苗数の1.5〜2倍程度が必要と推察される。

1.はじめに

 従来、さとうきび栽培では人力作業が多く、なかでも収穫と採苗作業が最も労働負担が大きい作業とされていた。現在のさとうきび栽培において機械化は必要不可欠であり、特に高齢化の進行とスケールメリットを生かす規模拡大に対応するためにも今後ますます重要性を増すものと思われる。

 収穫においては平成5年頃からハーベスタの普及が始まり、年々改良が加えられ現在では機械収穫率が83.7%(鹿児島県平成23年産)まで増加し、収穫作業は格段に省力化されている。一方、植付作業は全茎式ケーンプランタ(全茎苗を人力で投入し、25cm程度に切断しながら植え付けていく機械)の開発により省力化が進んだものの、採苗作業は従来どおり手作業で行われていることから適期植付ができない原因の一つとなっており、これが規模拡大の制限や減収の要因となっている。

 このような問題に対し、ハーベスタ採苗とビレットプランタ(ハーベスタで採苗した苗を植え付ける機械)による植付作業は省力効果が高いことから、近年現場で導入されつつある。しかし、ハーベスタによる採苗は、苗として利用できない梢頭部や硬化苗(芽が硬化し発芽が劣る苗)がある程度入ってくることから植付本数を増加する必要があるが、必要苗数についてはっきりしたデータがないのが現状である(全茎式ケーンプランタは、人力植付の1.5倍程度)。このため、現在、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場ではハーベスタで採苗した苗の損傷程度や、植付に必要な苗数について検討しているところである。今回はその一部について紹介する。

2.さとうきび栽培の作業内容と採苗作業の実態

 さとうきび栽培の労働時間は、ハーベスタの開発・普及以前は10a当り約160時間を要していたが、ハーベスタと全茎式ケーンプランタの普及により約30時間まで短縮されてきている。しかし、採苗作業時間はさとうきびの刈り取り、脱葉、選別を未だに手作業で行っているため、10a当りの作業時間は12時間必要で全体の40%を占めている(図1、2)。
 
 
 
 

3.ハーベスタ採苗とビレットプランタによる省力効果

 ハーベスタとビレットプランタを利用した採苗から植付までの10a当り作業時間は6.4時間(沖縄県データ)で、これまでの全茎式ケーンプランタを利用した体系の15時間に比べ大幅な省力化が期待される(図3)。
 
 

4.これまでの研究の取り組み

 前述のような課題解決のため、現在次のような試験を実施している。今後、さらにデータを積み重ねる必要があるが、現時点での結果等について紹介する。

1)適切な切断長の検討

 切断長を長くすると苗1本当りの節数は増加し出芽数の増加にもつながるが、必要な種苗量も増加する。そこで、ハーベスタの採苗における適切な切断長について小型ハーベスタを供試し検討した。

 芽子の調査はハーベスタ採苗前と採苗後に実施し、健全芽子、硬化芽子、機械等による損傷芽子、側芽が伸長した伸長芽子、虫害に区分した。春植えに用いた採苗用ほ場は、生育期間が約12カ月で、立毛状態(サトウキビを収穫する前の状態)で健全芽子の比率が74.5%であった。ハーベスタ採苗後の健全芽子の割合は22cm設定で68.4%、27cm設定で70.9%となり、ハーベスタによる健全芽子の損傷は少なかった。夏植えに用いた採苗用ほ場は、前作収穫後株出し管理を行い生育期間が約9カ月で、立毛状態で健全芽子の比率が92.3%であった。ハーベスタ採苗後の健全芽子の割合は22cm設定で79.3%、27cm設定で83.4%となり、切断長が短いと芽子の損傷割合がやや高まる傾向がみられた(図4)。

 立毛状態で健全芽子率が高い方が、採苗後の健全芽子率も高く維持される傾向がみられることから、ハーベスタ採苗を前提とした採苗用ほ場は、健全芽子比率の高い生育期間の短いものが適当と推察された。
 
 
2)適正種苗量の検討

 ハーベスタで採苗した苗を、人力植付の慣行二節苗(人力収穫したさとうきびを健全な芽子をもつ二節に切断した苗)に対し、植付本数を1.5倍、2倍区に設定し、生育、収量に及ぼす影響について検討した(図5)。
 
 
 ハーベスタ採苗した区のa当り発芽数は、春植え試験の植付61日後で慣行二節苗の528本に比べ植付本数1.5倍区で478〜553本と同等からやや少なく、2倍区で622〜692本と多かった(図6)。夏植え試験の植付43日後で慣行二節苗の525本に比べ植付本数1.5倍区が514〜561本とほぼ同等で、2倍区で683〜792本と多かった(図7)。これまでの試験ではハーベスタ採苗した区は植付前の水浸漬を行っていなかったことから、発芽率が慣行二節苗(水浸)区に比べ10〜30%程度低い条件下での試験結果となった。

 以上のように、慣行二節苗と同等の発芽数を確保するためにハーベスタ採苗によるビレットプランタ植付時の必要苗数は、慣行苗数の1.5〜2倍程度必要と推察されるが、さらなるデータの蓄積を行うとともに、苗の水浸漬等による発芽率向上についても検討する予定である。
 
 
 
 

5.今後の課題と展望

 ビレットプランタでの植付には、健全芽子率の高い苗を用いることでなるべく種苗量を少なくすることが求められる。このため、種苗生産については種苗専用のほ場を設け、優良種苗生産を行うことが重要である。確実に発芽させ茎数を確保することで収量が安定するとともに、その後の株出し栽培時の萌芽数も確保されることから、今後は採苗用さとうきびの省力的栽培技術の確立も急がれる。

 営農集団や受託組合では、収穫作業の受託面積拡大が進んでいるが、ハーベスタ採苗を利用したビレットプランタによる植付技術が確立されれば、採苗・調苗作業が軽減されるとともに適期植付が促進されることで、機械化一貫体系による省力化が進み、さらなる規模拡大が期待される。

 なお、本試験は(社)鹿児島県糖業振興協会の技術開発事業により実施中のものである。また、本試験の実施に当たり文明農機(株)にご協力をいただいた。ここに記して深く感謝の意を表する。

引用文献

 日本農作業学会「玉城麿.ビレットプランターを基幹とする機械化されたサトウキビ作業の工程(春植え).沖縄県立農業大学校」
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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