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てん菜栽培における省力技術の導入効果

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最終更新日:2012年11月9日

てん菜栽培における省力技術の導入効果

2012年11月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場研究部 
生産システムグループ 研究職員 山田 洋文

 


【要約】

 てん菜栽培において省力技術を導入している経営を対象として、生産費調査を実施した結果、省力化と低コスト化が確認された。また、畑作経営モデル分析の結果、省力技術は単独で導入するよりも、いくつかの省力技術を組合せて導入する方が、投下労働時間の減少や所得の向上に対して、より大きな効果をもたらすことが確認された。てん菜栽培は、他の畑作物栽培に比べて労働負担感が大きく、生産コストが高いため、このことが作付面積の減少に歯止めがかからない要因として指摘されていることから、省力技術の導入と定着により安定生産が期待される。

はじめに

 北海道におけるてん菜の作付面積は、昭和59年の7万5117haをピークとして縮小傾向を示し、平成23年には6万419haとなった。この要因として、栽培農家戸数の減少に加え、他の畑作物に比べて労働負担感が大きいことや生産コストが高いことにより、作付意向が低下していることが指摘できる(注1)。そのため、てん菜栽培においても、積極的に省力技術の導入を進めることで省力化と低コスト化を実現し、作付面積の維持、拡大を図る必要がある。

 そこで本稿では、すでにてん菜栽培において導入がみられる省力技術として、移植栽培における減肥・減量散布(除草剤)の導入、育苗センターの利用およびこれらを組合せた利用、さらに、省力化に大きく貢献すると考えられる直播栽培を取り上げ、生産費を用いた経済性評価により導入効果を確認するとともに、これらの省力技術の導入を前提とした畑作経営モデルを策定することで、経営全体の視点からも導入効果を確認する。

1.生産費の低減効果

 ここでは、省力技術の導入による生産費の低減効果を確認することを目的に、調査対象経営(注2)のてん菜栽培について、農林水産省が実施している『農産物生産費調査』に準じて、生産費調査を実施した。この際、10a当たりの投下労働時間と全算入生産費(円/10a)を計測するとともに、単収をもとに算出する重量当たり生産費(円/トン)の多寡について比較検討を行った。生産費調査は、北海道においててん菜の主要な産地である十勝および網走地域の市町村から、本稿で対象とする省力技術を導入した経営を調査対象(7戸)として選定し実施した。

 表1に、省力技術を導入した移植栽培および直播栽培を採用している経営における投下労働時間を示した。ここでは、調査対象経営における平均値を示しているが、移植栽培では『農産物生産費調査』結果と比較すると、育苗センターの利用による「育苗」、減肥・減量散布の導入による「基肥」および「除草」に係る投下労働時間が短縮していた。直播栽培では、「育苗」、「播種・定植」を中心に投下労働時間が短縮していた。このように、省力技術の導入は各作業における投下労働時間を短縮させ、家族労働時間を中心とした10a当たり投下労働時間の短縮に寄与することが確認された。特に、春期の作業における投下労働時間の短縮が可能になることから、作業競合の緩和が期待できる。
 
 
 次に、生産費調査結果の概要を表2に示した。省力技術の導入により、10a当たり投下労働時間は、家族労働時間を中心に短縮が可能であったことから、『農産物生産費調査』結果(農林水産省、平成19〜21年平均値)と比較すると、「家族労働費」が大きく低減することが明らかとなった。一方、育苗センターの利用に伴い、苗の運搬料の負担による「種苗費」の増加や利用料の発生による「賃借料および料金」の増加のように、代替となる費用が増加することが確認された。さらに、肥料費に着目すると、調査結果は平成21年産であるため、肥料価格高騰の影響を受けて、『農産物生産費調査』の平均値より高く算出された。しかし、減肥の効果により、平成21年産『農産物生産費調査』のみの肥料費(2万8582円)と比較すると、3000〜3600円程度低減していることが確認された。

 このように、省力技術の導入により、省力化が可能になることが確認された。また、10a当たりの全算入生産費が低減し、収量は維持されることから、重量当たり生産費(円/トン)の低減も可能になることが確認された。
 
 

2.移植栽培における省力技術導入の効果

 ここでは、経営全体の視点から省力技術の導入効果を確認するため、移植栽培を採用した40haの畑作経営モデル(注3)を策定し、基幹労働力の多寡により、所得の最大化を実現する作目構成、投下労働時間および所得を比較した(図1)。

 移植栽培を採用し、基幹労働力1名の場合、所得の最大化を実現する作目構成は、省力技術を導入しない(慣行のみの)ケースで、てん菜5.1ha、秋播小麦11.1ha、大豆6.5ha、小豆3.5ha、食・加工用ばれいしょ12.0ha、スイートコーン1.7haとなった。減肥・減量散布を導入すると、作目構成と投下労働時間(2541時間)は変わらないものの、所得が20万円程度増加することが見込まれた。育苗センターを利用すると、春期の労働競合が緩和されるため、所得の最大化を実現する作目構成は、てん菜7.2ha、秋播小麦9.9ha、大豆5.7ha、小豆4.3ha、食・加工用ばれいしょ12.0ha、スイートコーン0.8haとなる。てん菜や小豆の作付面積の拡大が可能になる一方で、省力的な作物の作付面積が縮小することから、投下労働時間(2652時間)と所得が増加することが見込まれた。これらの省力技術を組合せて利用する場合、育苗センター利用の場合と作目構成、投下労働時間に変化はないが、所得が増加することが見込まれた。

 基幹労働力2名の場合では、所得の最大化を実現する作目構成は、てん菜8.0ha、秋播小麦8.7ha、大豆10.0ha、食・加工ばれいしょ12.0ha、スイートコーン1.3haとなり、省力技術の導入によっても大きく変化しなかった。投下労働時間は、慣行のみ(2801時間)と比較して、省力技術の組合せでは2686時間となり、省力技術導入による効果が確認された。所得は、慣行のみでは728万2000円、育苗センターのみの利用では707万4000円となり、育苗センターの利用だけでは所得の減少が見込まれた。一方、省力技術を組合せて利用する場合、所得は738万7000円となることから、所得の増加には、省力技術を組合せた利用が重要であることが指摘できる。
 
 

3.直播栽培の導入効果

 ここでは、経営全体の視点から直播栽培導入による効果を確認するために、直播栽培を採用した30haの畑作経営モデル(注4)を策定し、基幹労働力2名の場合について、所得の最大化を実現する作目構成、投下労働時間および所得を比較した(図2)。
 
 
 野菜を導入しない畑作専業経営の場合、てん菜は移植栽培が選択され、作付面積は7.3haとなった。他作物の作付面積は、秋播小麦12.4ha、食・加工用ばれいしょ7.7haおよび休閑緑肥2.6haとなった。この際の投下労働時間は1887時間と試算され、所得は439万2000円と見込まれた。一方、たまねぎ等の野菜の導入がある畑野菜複合経営の場合、本モデルではたまねぎ(5.0ha)が導入されることから、春作業における労働競合の回避を目的として、てん菜は直播栽培が選択され、作付面積は5.0haとなった。他作物の作付面積は、秋播小麦11.1ha、食・加工用ばれいしょ4.1haとなり、面積当たりの収益性が低いでん粉原料用ばれいしょ0.9haや休閑緑肥3.9haの作付面積が増加する。この際の投下労働時間は2583時間と試算され、所得は818万8000円と見込まれた。投下労働時間と所得が増加する結果となった。このように、野菜等を導入するケースでは、春作業における労働競合回避を目的として省力的な直播栽培が選択され、作付けが維持されることが可能となる。

おわりに

 以上のように、てん菜栽培への省力技術の導入は、省力化と低コスト化に寄与することが確認された。また、畑作経営モデル分析の結果、省力技術の導入により、てん菜の作付面積が維持、拡大されるとともに、これらを組合せて導入することで、所得の増加が可能になること、野菜を導入する場面では直播栽培の選択により、所得の増加が可能になることが確認された。畑作経営では、今後も労働力不足が見込まれるため、てん菜の安定生産に当たっては、こうした省力技術の導入と定着を進めることが重要である。


注1)志賀[1]は、てん菜作付面積の縮小要因について、北海道十勝管内清水町における調査事例に基づいて、てん菜の収益性が畑作物のなかで相対的に低下したこと、移植栽培の労働負担感が増加したこと、経営規模を拡大した後の作付比率が低下していること等があると指摘している。

注2)本稿では、てん菜栽培における省力技術導入による省力化と低コスト化の可能性を検討するために、道内の農業関係機関より優良事例として推薦を受けた計7戸を調査対象とした。これらの経営では、本稿で対象とした省力技術を導入している。

注3)移植栽培を採用した畑作経営モデルは、十勝中央部の畑作経営を想定したもので、前提条件は以下のとおり。経営耕地面積40ha、基幹労働力1名ないし2名、補助労働力1名、検討したモデル「慣行のみ」、「減肥・減量散布(除草剤のみ)」、「育苗センター」、「省力技術の組合せ」、選択できる作物はてん菜、秋まき小麦、大豆、小豆、金時、食・加工用ばれいしょ、澱原ばれいしょおよびスイートコーンとした。経営モデル策定に当たっての制約条件等は、調査事例における作付実態および社団法人北海道てん菜協会[2]に従った。

注4)直播栽培を採用した畑作経営モデルは、北見地域の畑作経営を想定したもので、前提条件は以下のとおり。経営耕地面積30ha、基幹労働力2名、補助労働力1名、検討したモデルは減肥・減量散布の導入を前提に「畑作専業経営(たまねぎ導入なし)」、「畑野菜複合経営(たまねぎ導入あり)」 、選択できる作物はてん菜、秋まき小麦、たまねぎ、食・加工用ばれいしょ、澱原ばれいしょおよび休閑緑肥とした。

【参考文献】

[1] 志賀永一「てん菜およびばれいしょの作付減少の実態とその影響〜清水町を事例として〜」『てん菜関係調査報告』、農畜産業振興機構、2012年

[2] 山田洋文「てんさい栽培における省力技術導入の効果と導入条件」『高品質てん菜づくり講習会テキスト』、社団法人北海道てん菜協会、2012年
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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