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ブラジルの砂糖・エタノール産業を巡る状況

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最終更新日:2012年12月10日

ブラジルの砂糖・エタノール産業を巡る状況
〜2011/12年度の減産と最近の問題について〜

2012年12月

調査情報部 日高 千絵子
 


【要約】

 世界最大の砂糖生産・輸出国であるブラジルは、2011/12年度に6年ぶりの減産となった。この要因は、天候不順、株出し回数の増加、収穫の機械化など複数の事柄が重なったことにより、さとうきびの単収が大幅に減少したことである。単収は2〜3年以内に平年並みに戻るとみられ、生産性の回復により2011/12年度に大幅に増加した砂糖・エタノールの生産コストは低下すると見込まれる。しかしながら、人件費や肥料代などの上昇により、長期的には生産コストは上昇傾向で推移するとみられる。生産コストの上昇などで国内燃料市場におけるエタノールの競争力が低下しており、このことはブラジルの砂糖・エタノール産業の今後の成長見通しを不透明にしている。政府と業界間でエタノールの支援策が検討されているものの、政府が長期的なエネルギー政策におけるエタノールの位置付けを明確にしなければ、さとうきび生産への投資が停滞し、結果的に砂糖生産が減少する可能性もある。ブラジルの砂糖・エタノール産業が国際砂糖需給に与える影響は大きく、今後も動向を注目する必要がある。

1.はじめに

 世界最大の砂糖生産・輸出国であるブラジルは、国際砂糖需給に大きな影響力を持ち、国内需要の約6割を輸入に頼る日本にとっても動向が注目される国である。同国の特徴として、多くの工場がさとうきびから砂糖とエタノールの両方を生産していることが挙げられ、エタノールの動向が砂糖生産に与える影響は大きい。

 ブラジルの砂糖生産量は世界の需要増加などを背景に増加を続けてきたが、2011/12年度はさとうきびの減産で6年ぶりに減少し、このことは国際砂糖価格上昇の一因となった。さとうきび生産量は今後数年以内に減産前の水準に回復するとみられているものの、最近では業界収益の両輪をなすエタノールを取り巻く環境が厳しくなっていることから、同国の生産が再び成長軌道に乗るか、先行きが不透明となっている。

 このような状況を踏まえ、今般ブラジルの砂糖・エタノール産業について現地調査を行ったのでその結果を報告する。なお、本レポートの年度はブラジル砂糖年度(4月〜翌3月)であり、為替レートは1レアル=40円、1米ドル=79円を用いた。

2.2011/12年度の動向

(1)生産状況
  〜6年ぶりの減産〜


 ブラジルのさとうきび生産は中南部地域(サンパウロ州、ミナスジェライス州、ゴイアス州、パラナ州)が9割を占めている。中でもサンパウロ州が最大の産地となっており、同州の生産量はブラジル全体の約6割を占める。さとうきび生産は砂糖・エタノール工場による生産が7割を占め、残りはサプライヤーと呼ばれる生産者が生産している。中南部地域におけるさとうきびの栽培サイクルは夏植え(1〜3月に植付けを行い、翌年の6〜9月に収穫)が主体となっている。春植え(10〜11月に植付けを行い、翌年の10〜11月に収穫)、冬植え(5〜9月に植付けを行い、4〜5月に収穫)も行われており、同地域では4〜11月を通して収穫が行われている。

 さとうきび生産量は、砂糖、エタノール需要の増加を背景に拡大を続けてきたが、2011/12年度は前年度比10.2%減の5億6099万トンに減少した。さとうきびの減産を受け、同年度の砂糖生産量は前年度比5.5%減の3596万トン、エタノール生産量は同17.8%減の2270万キロリットルに減少した。なお、エタノールの減少率が砂糖に比べ大きいのは、さとうきびの砂糖への仕向け割合を高める工場が多かったためとみられる。近年、国際砂糖価格の上昇を背景に砂糖向けの割合が高まっている。
 
 
(2)減産の背景
  〜天候不順、株出し回数の増加、収穫の機械化で単収低下〜


 2011/12年度の減産は、単収の低下によるところが大きい。同年度のさとうきび収穫面積は806万ヘクタールと前年度から8.7%増加した一方で、単収は1ヘクタール当たり67.0トンと、前年度から13.5%低下した。これは過去5年間の平均(76.3トン)と比較しても低い水準である。単収低下の主な要因は、次の3点とされる。
 
 
1)天候不順
  〜降雨不足や霜害が生育に影響〜


 ラニーニャ現象の影響により2010年5〜8月の降雨量が少なく、2011/12年度に収穫されるさとうきびの生育に悪影響を与えた。2011/12年度に入ってからも5月の降雨量が不足した上、低温が続き6月末にはサンパウロ州、マットグロッソ・ド・スル州およびパラナ州で降霜があり、さとうきびの組織が壊死するなどの被害が発生した。さらに、気温や湿度、日照量などの悪条件が組み合わさったことにより、ブラジルでは例年ほとんど見られない出穂現象がサンパウロ州、ゴイアス州などで起こり、さとうきびの単収、糖度の低下をもたらした。
 
 
2)株出し回数の増加
  〜更新停滞と新規ほ場の減少が背景〜


 図5が示す通り、さとうきびは株出し回数を重ねると単収が低下するため定期的に植え替え(更新)が必要となる。ブラジルさとうきび産業協会(UNICA)によると、中南部地域では通常5〜7回の株出しをした後に更新が行われており、収穫されるさとうきび全体の平均株出し回数は3.2回となっている。2011年の平均株出し回数は、2008/09年度以降の更新停滞と新規ほ場の減少を受け、3.6回に増加した。
 
 
○更新停滞

 更新が停滞した要因は、大企業については、土壌水分が必要な時期の降雨不足や季節外れの大雨などの天候不順で作業が行えなかったこととされる。一方、中小企業については、天候不順に加え、2008年に発生した世界金融危機以降の資金繰り悪化が大きく影響している。ほ場1ヘクタールを更新する費用は平均5000〜6000レアル(約20万〜24万円)とされ、資金不足から更新を先延ばしにする中小企業が多かった。現地調査会社によると、砂糖・エタノール事業者全体の30%は過重債務で新規の借り入れを行うことができないとされる。ブラジルのItau銀行は、UNICAの依頼を受け同国における砂糖・エタノール産業の負債状況を調査した。この結果によると、工場のさとうきび圧搾能力1トン当たりの負債額は2005/06年度から2008/09年度にかけて5倍に急増し、その後も高水準で推移している。
 
 
 負債の増加は、2005/06年度から2008/09年度にかけてエタノールブームが起こり、多くの事業者が多額の投資を行ったことが要因とされる。エタノールブームの背景には、国内外の需要拡大見込みがあった。国内では、2003年のフレックス車発売以降、エタノール需要が大幅に増加し、長期的な市場の拡大が見込まれた。フレックス車はガソリンもエタノールも使用でき、両者の価格を比較しながら燃料を購入できる点が消費者に評価され、急速に普及している。国外についても、2005年に米国で「再生可能燃料基準」が定められ、一定量のエタノール使用が義務付けられたことや、原油価格の高騰により各国で代替エネルギーへの関心が高まったことから、エタノール需要の増加が期待された。しかしながら、2008年の世界金融危機で状況は一変する。この時期、多くの事業者は主に海外の金融機関からドル建てで融資を受けていたが、金融危機後、銀行などの金融機関が貸付金の回収を急いだ上、急激なドル高レアル安で返済負担が増加した。また、サンパウロ州では後述する収穫時の火入れ禁止の決定を受け、機械化に伴うハーベスターの購入費用などの負担も増加した。とはいえ、すべての砂糖・エタノール事業者が経営難に陥っているわけではない。現地調査会社は、ブラジルで伝統的にさとうきび生産を行ってきた事業者は健全な経営を維持しているものも多く、資金不足の問題を抱えるのは、エタノールブームに乗って十分な準備のないまま新規参入した事業者が多いと指摘している。


○新規ほ場の減少

 砂糖・エタノール工場の新設が減少し、それに伴いさとうきびの新規ほ場が減少していることも、平均株出し回数増加の一因となっている。UNICAによると、中南部地域における砂糖・エタノール工場の新設数は2008/09年度の30基をピークに減少し、2011/12年度はわずか3基となった。新設数の減少は、2008年を境に砂糖・エタノール産業の投資先が新規工場から既存工場に移ったためとされる。政府、業界関係者はこの背景について、エタノールブーム時の経験から、外資系企業をはじめとする新規参入者がさとうきび生産の難しさを知り、自社で工場を新設し、さとうきび生産を行うよりも、ノウハウを有する既存工場を買収した方が事業の成功率が高く、効率が良いとの考え方が広まったことがあると述べた。最近では、政府によるガソリン価格の抑制でエタノール市場の見通しが不透明なことも、新設数が減少している要因として指摘されている。これについては3章で詳述する。
 
 
3)収穫の機械化
  〜火入れ禁止で収穫の機械化が進む〜


 近年、さとうきび収穫の機械化が進められていることも単収低下の一因とされる。中南部地域における収穫の機械化率は年々上昇しており、2011年には80%となった。この背景には、最大産地のサンパウロ州で収穫時の火入れによる大気汚染や森林火災を防止するため、2006年6月、勾配が12%未満または150ヘクタール以上のほ場については2014年までに、勾配が12%以上または150ヘクタール未満のほ場については2017年までに火入れを禁止することが州政府と生産者間で合意されたことがある。なお、近年新たにさとうきび生産が始められたミナスジェライス州、ゴイアス州、マット・グロッソ・ド・スル州などでは、初めから機械収穫が行われるケースが多い。

 現地調査会社によると、一部のほ場では収穫の機械化で単収が平年から15%減少したとされる。大型ハーベスターは、踏圧による土壌硬化で不萌芽や生育不良などの問題をもたらした。ハーベスター運転手の経験不足から株を短く切りすぎてしまい、翌年度の株出しに悪影響を与えるなどの問題も発生している。また、火入れを廃止したことで病害虫が発生し易くなったほ場もあるとされる。

 現場では収穫の機械化に伴う問題への対応が進められており、ハーベスターの軽量化やタイヤ幅の拡張による重量の分散、畝間を広く確保することでハーベスター通行による畝への土壌踏圧を回避する、などの取り組みが行われている。いずれの関係者も機械収穫による単収の減少は一時的な現象であり、今後数年以内に問題は解消されるとの認識で一致していた。
 
 

3.砂糖・エタノール産業の情勢

〜エタノールの競争力低下が問題〜

 政府、業界関係者とも、2011/12年度は天候が回復し、ほ場の更新が進んだことから、2〜3年以内に単収は平年並みに戻るとみている。しかしながら、ブラジルの砂糖・エタノール産業の今後の成長見通しについては、関係者の間でも不透明感が高まっている。この背景には、国内燃料市場におけるエタノールの競争力低下がある。


(1)産業の概要
  〜砂糖生産とエタノール生産は密接に関係〜


 ブラジルには430の砂糖・エタノール工場があり、約7割は砂糖とエタノールの両方を生産している。さとうきびの砂糖とエタノールへの仕向け割合は、工場によって異なるものの、おおむね50:50となっている。工場の設計上、砂糖・エタノールの仕向け割合の変更には限度があり、変動幅は5〜10%程度とされる。ブラジルのさとうきび生産量は、砂糖、エタノール需要の増加を背景に長年に渡り増加傾向で推移してきた。とりわけ、2005/06年度以降の増加はエタノールブームによるところが大きく、エタノール生産を拡大するためさとうきび生産量を増やした結果、砂糖生産量が増えた面もある。ところが、2011年以降は以下に述べるようにエタノールを取り巻く環境が厳しくなっており、このことが今後の砂糖生産にどのような影響を与えるのか注目されるところである。
 
 
(2)エタノールの競争力低下
  〜生産コストの上昇とガソリン価格抑制が背景〜


 国内燃料市場におけるエタノールの競争力低下は、砂糖・エタノール産業にとって大きな問題となっている。競争力低下の背景には、生産コストの上昇と政府によるガソリン価格の抑制策がある。


1)生産コスト
  〜長期的には上昇傾向で推移する見込み〜


 州立サンパウロ大学農学部のさとうきび・砂糖・エタノールの生産コスト調査グループ(PECEGE)によると、近年、砂糖とエタノールの生産コストは上昇傾向にある。生産コストの上昇は、コストの75%を占めるさとうきびの生産コスト上昇による影響が大きい。さとうきびの生産コストは地代、人件費、肥料・農薬代の上昇や収穫の機械化に伴う投資で上昇している。なかでも、さとうきび生産コストの25%を占める地代は砂糖・エタノール価格の上昇などを背景に大幅に上昇している。なお、2011/12年度における生産コストの大幅な上昇は、単収の減少によるところが大きく、今後、単収が回復すれば生産コストは下がるとみられている。しかしながら、人件費や肥料・農薬代などは今後もブラジルのインフレ率(年率5%程度)と同水準かこれを上回る水準で上昇すると見込まれていることから、長期的には生産コストは上昇傾向で推移するとみられる。
 
 
2)ガソリン価格の抑制
  〜政府はインフレ懸念から値上げに慎重〜


 ブラジルで生産される砂糖の約7割は輸出市場向けとなっている。前述の通り、砂糖の生産コストは上昇傾向にあるが、2009年以降、国際砂糖価格は世界的な供給ひっ迫を背景に高水準で推移し、さらに、2011年9月以降はドル高・レアル安の傾向にあることから、砂糖については輸出による収益の増加がコスト増の吸収を可能にしている。
 
 
 一方、エタノールは約8割が国内市場向けとなっている。なお、エタノールには含水エタノール(水分含有率約5%)と水分を除去した無水エタノールがあり、エタノールのみで燃料として使用される場合は含水エタノール、ガソリンに混合する場合は無水エタノールが使用される。ブラジルではガソリンに18〜25%のエタノールを混合することが義務付けられている。エタノールの燃費はガソリンの70%であることから、消費者はエタノール価格がガソリン価格の70%を下回ればエタノールを選択する。例年、国内エタノール価格はさとうきびの収穫が終了し、エタノール生産が行われない12〜3月に向けて上昇し、新年度の生産が開始される4月以降は、ガソリン価格の70%を下回る水準に下落する傾向がある。ところが、2011/12年度は生産が開始されてからもサンパウロ州など一部の州を除き、エタノール価格はガソリン価格の70%を上回る水準で推移した。この背景には、エタノール価格の上昇と政府によるガソリン価格の抑制がある。エタノール価格の上昇は、生産コストの上昇と、2011/12年度にさとうきび生産量が減少した上、多くの砂糖・エタノール工場が収益性の高さから砂糖生産を優先した結果、エタノール生産量が大幅に減少したことが要因とみられる。

 ブラジルではガソリンの卸売価格(製油所出荷価格)は政府の管理下にあり、国際価格の変動に関わらず2005年9月以降リットル当たり1.5レアル前後の水準で保たれている。2012年6月、政府はガソリン卸売価格を7.83%引き上げたものの、税率の引き下げにより小売価格は従来と同水準となっている。
 
 
 ガソリンに対する価格優位性の喪失で、含水エタノール販売量は2011年以降減少が続いている。業界は政府によるガソリン価格の抑制がエタノールの競争力を損なっていると不満を強めており、ガソリン価格を引き上げるよう政府に求めている。また、ガソリン価格を国際価格に連動させるなど将来の価格を予測可能にする価格決定方式の導入を求める声も多い。
 
 
 しかしながら、政府はインフレに対する懸念からガソリン価格の引き上げに非常に慎重である。ガソリン価格は国民が日常で頻繁に目にするものであり、値上げは国民にインフレの印象を強く与えると考えられている。また、政府担当者は、ガソリン価格を国際価格に連動させても、今後国際価格が大幅に下落する可能性もあることから根本的な問題解決にはならず、むしろエタノールの生産コストを下げることの方が重要であると述べた。

4.政府の対応状況

〜エタノールの増産を模索〜

 含水エタノール価格が高水準で推移し、ガソリン需要が増加しているが、国内生産では需要の増加に対応することができず、ガソリンの輸入量が急増している。ブラジルは産油国であり原油の輸出も行っているが、原油からガソリンを精製する製油所の能力が不足している。現在、国営石油会社ペトロブラスが4基の製油所を建設中であるが、いずれも稼働開始が延期を重ねている。最も早いものでも稼働開始は2014年とみられ、少なくとも今後2年間はガソリン生産量の増加が期待できない。このため、ブラジルはガソリン需要の増加に対し、当面は輸入で対応せざるを得ない。ただ、これにも問題がある。関係者によれば、港湾の燃料関連の処理能力は既に飽和状態にあり、今後ガソリン輸入が滞る恐れがある。ガソリン生産量の増加が短期的には見込めないことから、政府は国内燃料需要の増加に対し、当面はエタノールの増産で対応するとみられる。
 
 
(1)更新、新規ほ場開発に融資
  〜条件が厳しく、利用は低調〜


 政府は、既存の砂糖・エタノール工場の生産能力に対しさとうきび生産量が不足しているとの認識から、2011/12年度に大きく落ち込んださとうきびの生産性を回復させるため、2012年1月に国立社会経済開発銀行(BNDES)を通じてさとうきびの更新、新規ほ場開発に対し総額40億レアル(約1600億円)の融資を行うプラン(Prorenova)を打ち出した。しかしながら、Prorenovaの利用は低調とされる。この理由として業界関係者は、BNDESの融資条件が厳しく、手続きが煩雑で時間がかかりすぎることを挙げた。例えば、借り入れ条件として砂糖・エタノール工場はさとうきびの供給契約を結ぶサプライヤーについても一定の環境基準を満たすことが求められている。工場によっては契約サプライヤーの数が100にも上るケースがあり、全てのサプライヤーに対応させることは困難であると指摘された。また、Prorenovaは民間銀行が仲介する融資制度であり、民間銀行がさとうきびの更新に対する融資に消極的なこともProrenovaの実績が低調な要因として挙げられた。銀行は、更新費用は砂糖・エタノール工場の運転資金とみなしており、運転資金に対する融資は一般的にリスクが高いと考えられている。


(2)砂糖生産の制限
  〜可能性は極めて低い〜


 2011年4月、一部報道で政府はエタノール供給を確保するため砂糖輸出の制限を検討していると伝えられた。この可能性について政府、業界関係者にヒアリングしたところ、政府が砂糖の生産、輸出を制限することはあり得ないだろうとの意見で一致していた。関係者によると、確かにエタノール価格の高騰時に政府内でさとうきびの砂糖とエタノールへの仕向け割合の管理や砂糖輸出に対する課税などが一時は検討されたが、現在これらの議論は全く行われていないとのことであった。この理由として、1)砂糖は年間輸出額が約150億ドル(約1兆1850億円)とブラジルの農産物輸出額の16%を占める重要な品目であること、2)エタノールの収益性が低迷するなか、国際価格の上昇により砂糖が砂糖・エタノール産業の採算性を確保していること、3)ブラジルは国際砂糖市場のメインプレイヤーとしての責任があり、食品である砂糖を犠牲にしてエタノール生産に傾斜すれば、国際的な批判が避けられないこと、などが挙げられた。


(3)新たな支援策を検討
  〜業界と協議中、2012年内に公表か〜


 現在、政府と業界間でエタノール支援策が協議されている。UNICAなど業界側は2012年8月、ガソリン価格の引き上げ、エタノールの課税率引き下げ、環境規制の一部緩和、さとうきびの単収増加・収穫技術の向上など研究開発に対する資金援助を求めた。政府はこれらの要望のほか、フレックス車のエタノール燃費の改善、バイオプラスチックの消費拡大などエタノールの需要喚起、農薬、肥料、機械購入に係る税金の免除など生産プロセスに対する減税なども検討している。協議を踏まえ、農務省、鉱山エネルギー省、開発商工省、財務省の代表者が構成する省間連絡委員会(CIMA)が政策案を策定し、大統領が最終的に判断を行うこととなっている。支援策の決定時期について特に期限は定められていないが、政府関係者によると、政府は2012年内に業界側に案を提示するとみられている。これは、1〜3月はさとうきびの更新、新規作付けが盛んに行われる時期であり、年内に政策を提示しなければ投資が停滞し、2014/15年度の生産に悪影響を与えるとの危機感があるためである。

5.おわりに

 砂糖・エタノール産業の関係者は、エネルギー効率やリスク分散の観点から、ブラジルでは今後も大半の工場が砂糖とエタノールの両方の生産ラインを持つとみている。このことから、砂糖とエタノールは引き続き密接な関係を維持するとみられる。

 2011/12年度の減産は、天候不順や株出し回数の増加、収穫の機械化など複数の要因が重なったことでさとうきびの単収が大幅に低下したことによる。単収は2〜3年以内に平年並みに戻るとみられ、単収が回復すれば、2011/12年度に大幅に上昇した生産コストは低下すると見込まれる。とはいえ、人件費や肥料代などは今後も上昇傾向で推移すると予測されていることから、長期的には生産コストは上昇傾向で推移するとみられる。生産コストが上昇する中、政府はエタノールと競合するガソリンの価格引き上げに慎重であり、エタノール市場の見通しは不透明となっている。

 現在、政府と業界間でエタノールの支援策が検討されているものの、多くの関係者は、その場しのぎの政策ではなく、政府が長期的なエネルギー政策におけるエタノールの位置付けを明確にしなければ、業界は投資をためらうだろうと指摘している。しかしながら、近年ブラジル近海で海底油田の発見が相次いでいることもあり、政府は今後も増加が見込まれる国内燃料需要に対し、エタノールで対応するのか、それとも製油所の能力を拡大し、ガソリンで対応するのか決めかねている状況とされる。この状況が長引けば、さとうきび生産への投資が停滞し、結果的に砂糖生産の減少をもたらす可能性もある。また、2009年以降、砂糖・エタノール産業の収益を支えた砂糖についても、世界的な供給過剰から今後、国際価格は軟化するとみられており、砂糖・エタノール産業はさらに厳しい状況に陥りかねない。ブラジルの砂糖・エタノール産業の動向が国際砂糖需給に与える影響は大きく、今後どのような展開を見せるか、引き続き注視していく必要があるだろう。
 
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713