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フィリピンの砂糖事情

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最終更新日:2013年2月15日

フィリピンの砂糖事情〜AFTAによる関税引き下げに向けての生産性向上対策〜

2013年2月

調査情報部
 


【要約】

 フィリピンは伝統的に砂糖の主要な輸出国であったが、1990年代には生産が低迷し輸入国に転じた。2000年代には生産の回復により再び輸出国となったものの、天候不順などにより生産は安定していない。一方、フィリピンは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の自由貿易協定に基づき砂糖輸入関税(粗糖、精製糖)が漸次引き下げられ2015年に5%となることから、政府は2011年〜2016年において競争力向上を目標とするロードマップに基づき、ブロックファームと呼ばれる小規模農家の統合などによる生産性の向上、輸送道路の整備による流通の効率化などを進めている。また、さとうきび産業の経営安定を図るためのエタノール生産やコジェネレーションなどを推進している。

 フィリピンの砂糖産業は、生産性が高く、安価なタイなどからの輸入砂糖に対する競争力の確保が急務になっており、ロードマップに基づく改革の行方が注目される。

はじめに

 フィリピンの砂糖産業は、生産の回復により再び輸出国に復帰したものの、ASEAN自由貿易地域(AFTA)に基づき2015年にはASEAN諸国に対する輸入関税が5%に削減され、タイからの安価な砂糖の輸入増加が予想されることから、生産者および砂糖産業への影響が懸念されている。本稿では、再び輸出国に復帰し対日輸出も増加しているフィリピンの砂糖産業の生産、消費、貿易動向を概観し、砂糖関税の削減に向けた生産性の向上政策に基づくフィリピン砂糖産業の改革の行方を報告する。

1 生産動向

(1)さとうきび作付面積、生産量の動向

 フィリピンの砂糖生産量は、1992/93年度(9月〜翌8月)の210万トンをピークに1990年代は、都市化によるさとうきび作付面積の減少、代替作物との競合、干ばつ、萌芽茎の萎縮病の多発により低迷し、タイ、オーストラリア、ブラジルの3ヵ国からの粗糖輸入が増加した。その後、高単収品種の普及と、砂糖産業の近代化に向けた継続的な取り組みにより、2002/03年度以降は、2009/10年度を除き輸出国となっている。

 2000/01年度以降の生産動向をみると、作付面積は周期的な変動があるものの増加傾向にあるが、生産量は天候不順により大きく減産する年があるなど安定していない。
 
 さとうきび生産は、作付面積が10ヘクタール程度の約6万2000戸の小規模農家による生産が主体となっており、大規模な農場による生産は少ない。これは、包括的農地改革法(Comprehensive Agrarian Reform Law)に基づき、農地の集約が制限されていることによる。さとうきび生産状況を2007/08/-2011/12年度平均で見ると、1ヘクタール当たりのさとうきびの単収は59トン、砂糖収量5.6トンとタイ、インドネシアを下回り、ショ糖含有率は9.5%とタイを下回っている。

 フィリピンで生産される砂糖は、精製糖と主に輸出される粗糖がほぼ半々となっている。
 
(2)生産地域

 さとうきびの主要生産地域は、ビザヤ地域(ネグロス島、パナイ島、セブ島、レイテ島)、ルソン地域(ルソン島)、ミンダナオ地域(ミンダナオ島)である。当該地域には、精製糖工場では15工場がネグロス島(6工場)、パナイ島(3工場)、セブ島(2工場)、ルソン島(3工場)、ミンダナオ島(1工場)に立地し、製糖・精製糖工場では14工場がネグロス島(6工場)、レイテ島(1工場)、ルソン島(4工場)、ミンダナオ島(3工場)に立地しており、合計29の工場で砂糖が生産されている。また、4つのバイオエタノール工場が、ネグロス島(2工場)、レイテ島(1工場)、ルソン島(1工場)に立地している。

 2009/10年度の製糖工場のさとうきび搾汁量をみると、最大の生産地域はビザヤ地方に属するネグロス島で全搾汁量の56.5%を占め、次いでミンダナオ島が18.4%、ルソン島が15.5%と3島で90%以上を占める。
 
(3)製糖産業の生産状況
 
 フィリピンでは、現在、29カ所の製糖工場が立地しているが、2011/12年度現在で操業しているのは27工場(表5)である。2000/01年度に比べ1工場1日当たりの平均処理能力および平均処理量は向上しているが、平均処理量は平均処理能力を下回り、平均工場稼働日数も増加しておらず、工場の稼働効率は低い。ただし、1工場当たりの産糖量は、年による変動はあるものの増加傾向にある。
 

2 消費動向

 砂糖の消費量は、小売価格が安定していた2005年までは緩やかな増加傾向にあったが、小売価格が上昇を始めた2006年以降は2009年まで横ばいで推移した。国内砂糖価格が高騰した2010年〜2011年の砂糖消費量は、飲料メーカーにおける砂糖の代替甘味料としての異性化糖の需要の増加により減少したが、2012年には国内砂糖価格の下落により異性化糖の需要は減少し、砂糖消費量は2009年の水準に回復した。この背景には、異性化糖は主に米国からの輸入により供給されていることから輸送コストが高く、国内では通常、異性化糖価格が砂糖価格を上回っていることがある。

 これに対し、一人当たりの砂糖消費量は減少傾向にある。この要因としては、人口が年2%程度で増加しているにもかかわらず、甘味料全体の消費量は横ばいで推移している中で、砂糖価格の上昇を背景に飲料部門などにおける異性化糖および人工甘味料への代替が進み、それらの消費が増加傾向にあることが挙げられる。
 

3 貿易動向

(1)輸入

 フィリピンにおける砂糖の輸入関税は、関税割当においては50%、一般関税は65%(てん菜糖は50%)である。一方、ASEAN諸国に対してはAFTA協定により、当初2010年までに5%(粗糖、精製糖)に削減予定であったが、2015年を期限とする変更がなされた。現在、フィリピン政府は、2015年に向けて生産の向上を図るロードマップを作成し競争力強化を図っている。
 
(2)輸出

 フィリピンの最大の砂糖輸出先国は、米国である。米国はフィリピンなどの諸国に対し関税割当制度で特恵的なアクセスを認めている。国際価格にプレミアムを上乗せした価格で輸出できるため、フィリピンが輸入国であった時期も米国へ輸出が行われていた。また、米国が年度ごとに設定する関税割当数量について、米国内の需給事情により当初の設定数量に追加を行った場合、フィリピンからの対米輸出量も当該追加数量にそって増加している。2011/12年度の当初割当数量は14万4000トンであったが、7万6000トン追加され22万トンとなった。なお、米国以外の国・地域向けは、国内市場向けの砂糖に余剰が生じた場合に輸出される。

 米国への輸出量は米国の関税割当数量に応じて変動するため、国内の需給に大きな影響を与えている。天候不順により大幅な減産となり、生産量が消費量を下回った2009/10年度においても、米国割当数量の97%の17万8000トンが輸出され、その結果、輸入量が急増し、国内価格の高騰を招き、翌年度には、国内砂糖消費量の減少、異性化糖の輸入急増となった。

 このような需給バランスの変動の背景には、ケダン・システムという需給調整政策がある。
 

4 砂糖政策

(1)ケダン・システム(販売割当制度)

 砂糖の国内販売・輸出は、1986年の砂糖の流通を規制する一方で企業による自由な売買を認める行政命令第18号を受けて設置された砂糖統制委員会(SRA:Sugar Regulatory Administration)によるケダン・システム(倉荷証券を栽培農家と製糖工場の両方に割り当てる仕組み)により管理され、国内砂糖価格はSRAによるケダン・システムを通じて安定を図るものとなっている。砂糖は、次の5つの区分(ケダン)に分類される。

(1)“A”─米国の割当制度向け砂糖
(2)“B”─国内市場向け砂糖
(3)“B−1”─国内食品加工業者向け砂糖(輸出加工品を含む)
(4)“C”─備蓄在庫用の砂糖。必要に応じ“A”と“B”への再分類が可能
(5)“D”─輸出向け砂糖

 SRAは毎年度、予想される砂糖生産量、消費量に基づき上記の区分の割合を砂糖関連命令(SugarOrder)第1号として公表する。その後、砂糖生産が当初の見込みを超える場合はCやDに割り当てられるなど、砂糖生産量、消費量、在庫量の状況に基づき修正される。2011/12年度においては、A:8%、B:72%、D:20%が割り当てられていたが、生産量が当初見込みより増加したため砂糖関連命令第4号においてBの一部をDに再配分する措置が講じられ国内価格の安定が図られた。なお、2012/13年度におけるケダンの配分は、A:10%、B:82%、D:8%である。


(2)流通・価格

 ケダンは自由な売買が許可されていることから、生産者の多くを占める小規模農家は地元の小規模な流通業者にケダンを販売し、さらにより大きな流通業者に転売され、最終的に卸売業者、加工業者などがケダンを買い取り、保管されている砂糖を手にすることとなる。なお、ケダン・システムは、国内市場に供給される砂糖の総量を管理するものであることから、生産がピークとなる第一四半期における砂糖価格は安く、収穫の終わりには高くなる傾向がある。

 一方、国内砂糖価格は、直近の製糖工場の入札価格や直近3カ月の卸売価格の基づくSRAの推奨参考価格(SRP:Suggested Reference Price)により管理されている。

  国内価格は図3に示すとおり国際価格を上回る水準で管理されており、砂糖の密輸入が止まない要因となっている。また、2010年においては、さとうきび作柄の悪化による供給不足に加え生産段階における原油価格や肥料価格の高騰により国内砂糖価格が高騰し、米国向けの輸出量が増加する一方で国内の需給ギャップの解消を図る緊急輸入が実施され、高騰する国内価格によりSRPによる価格統制も一時中止されるなど、ケダン・システムによる国内砂糖供給量の管理は国内市場の混乱を招いている面もあり、今後の生産性向上・安定が重要課題となっている。


(3)さとうきび栽培農家と製糖工場の収益分配制度

 フィリピン政府は、ケダン・システムを通じ、栽培農家と製糖工場の間で砂糖および副産物(糖蜜)の数量を、個々の工場の砂糖生産量に基づき割り当てる収益分配制度(1952年6月発布の共和国法(RepublicAct−RA)第809号)を実施しており、製糖工場は収益分配制度に基づき投資を行う。

 この収益分配制度は、農家が栽培したさとうきびを原料とする砂糖と糖蜜に平等に適用されるため、糖蜜に対するケダンも、砂糖に対するケダンと同じ割合で栽培農家に割り当てられる。

 個々の栽培農家が受け取る金額は、その農家が納品したさとうきびの重量と、毎日の初搾汁の糖汁の質(糖汁の純度と糖度)によって決まる。同国の砂糖業界では、こうしたデータをはじめ、様々な技術的実績の指標をもとに、砂糖の歩留まりを算定している。

 砂糖の販売によって得た収益については、各製糖工場とさとうきびを納品した栽培農家に適用される配分率は、各工場の産糖量によって多少異なるが、最低60%、最高70%である。これは実際には、栽培農家が平均で収益全体の65%程度を受け取っていることを意味する。
 

5 関税削減に向けたロードマップ

 フィリピン政府は、AFTAの自由貿易協定に基づき砂糖輸入関税(粗糖、精製糖)が漸次引き下げられ2015年に5%となること、また、その後も引き下げられることも想定し、2011年〜2016年において競争力向上を図るロードマップを作成している。そのスローガンは、Gearing up Initiatives for AFTA 2015 & Beyondである。その概要は、以下のとおりである。


(1)目標

1)作付面積:40万ヘクタール⇒46万5000ヘクタール
2)1ヘクタール当たり収量:63トン⇒75トン
3)さとうきび1トン当たり砂糖収量:95キログラム⇒105キログラム


(2)現状と課題

 1)生産者の生産性と砂糖収量の改善
 生産者の約90%を占める零細農家の1ヘクタール当たりの単位収量は50トン、大規模生産者においては同100トン。
 1トン当たりの砂糖収量は、工場の効率性とさとうきびの品質によるが、工場は老朽化しており圧搾効率が悪く、さとうきびの品質のばらつきは大きく、天候による輸送の問題(悪路)がある。

2)製糖工場稼働率の改善
 近年の稼働率は約60%である。同一地域の製糖工場はさとうきびの奪い合いとなっている。製糖工場は、規模の大きな生産者に輸送費の補助を提供し、さとうきび確保を図っている。

3)バイオエタノール生産原料としてのさとうきびと糖蜜
 さとうきびと糖蜜をバイオエタノールの主要原料とするバイオ燃料法が2007年に成立し、2009年2月から5%、2011年には10%のバイオエタノール混合が義務付けられた。10%混合には約46万キロリットルのバイオエタノール燃料が必要だが、3つの工場で7万9000キロリットルを供給できるだけである。法は、国内供給を定めているが輸入により不足を補っている

4)コジェネレーション
 製糖工場は、砂糖生産用にバガス発電を行っている。2008年に再生エネルギー開発を奨励する再生エネルギー法が成立し、近隣地域への電力供給の可能性が高まった。

注:LMCによれば、2012年現在のバイオエタノール工場は4工場となり、生産能力は13万3000キロリットルに増加した。現在、新たな工場の建設が進められており、2013年までには生産能力が62万3000キロリットル程度に達するとされている。しかし、慢性的な生産効率の低さが指摘されており、エネルギー省では、エタノールの供給は、供給が不安定な国内生産より輸入を優先させるとしている。


(3)生産性向上に向けた政策

1)ブロックファーミング
 当該政策は、大規模生産のメリットを生かし、単収および砂糖収量を改善するために小規模生産者の統合を支援するものである。
 小規模生産者は、最低30〜50ヘクタールの“ブロックファーム”に統合される。各小規模生産者の土地所有権は守られ、土地所有者は、収益を分かち合う。10ヘクタール以下の小規模生産者は、30〜50ヘクタール以上のブロックファームに統合され、リース、合弁事業、共同経営などの改革の枠組を通じて、生産性の向上、収入の向上が図られる。各ブロックファームは専門のマネージャなどにより運営される。
 ブロックファームは、色々な政府機関からのサービスを優先的に受けることとなる。個人投資家は、直接投資などの支援により機械化や灌漑を進めることができる。製糖工場地域開発委員会(MDDC:Mill District Development Committees)がブロックファームをモニターし、SRAが全体を監督する。

2)拡大地域の指定
 SRAはMDDCと共同で、バイオエタノール生産を拡大できる潜在的地域と製糖工場へのさとうきび供給を増やすための生産拡大地域を指定する。同様に、バイオエタノール燃料生産に投資する者は、さとうきび生産に適する遊休地を求めることができる。

3)高単収品種などの開発

4)農場−製糖工場間の道路整備
 降雨により農場−製糖工場間の運搬が遮断される道路の整備

5)機械化

6)灌漑の整備
 

6 今後の砂糖産業

 今後のフィリピン砂糖産業を考察するうえで最も重要なのは、AFTAの自由貿易協定に基づく砂糖の関税の引き下げである。表11に示した関税の引き下げは、生産コストが安価なタイからの輸入の増加により、6万2000戸の生産農家や60万人におよぶ雇用を創出している砂糖産業に大きな影響を与える懸念がある。フィリピンでは包括的農地改革法に基づく農地集約の制限により小規模生産者が多いことから規模拡大による機械化が進んでいない。AFTAにおいて、非関税障壁の導入が認められる可能性もあるが、労働者賃金コストが上昇する中、アセアン関税削減に向けたロードマップに示されたブロックファーミングによる規模拡大と機械化や流通合理化などによる生産性の向上が不可欠となっている。

 他方、製糖工場においては、砂糖関税の削減により海外製糖企業との競争が激しくなる中で、製糖工場におけるさとうきび、糖蜜を原料とするエタノール生産の拡大により収入の安定を求めることとなろう。しかしながらエタノール生産においては、政府は2020年までにはバイオ燃料法に基づく自動車燃料へのエタノール混合比率を20%まで引き上げることも検討していることから、エタノール需要の増加が砂糖生産に影響を与える懸念も指摘されている。

 今後のロードマップの達成状況およびエタノール政策の動向が注目される。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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