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ロシアにおける最近の砂糖事情

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最終更新日:2013年4月10日

ロシアにおける最近の砂糖事情

2013年4月

調査情報部


【要約】

 ロシアは世界有数の砂糖消費国かつ輸入国である。近年は国際砂糖価格の上昇を背景に生産量が大幅に増加し、輸入量は減少してきたが、最近の国際価格下落でてん菜の生産意欲が低下しており、今後輸入量が増加に転じる可能性もある。政府は関税制度により国内生産者を保護しているが、2012年のWTO加盟に伴い、粗糖の上限関税の引き下げが合意された。将来的にさらなる輸入関税の引き下げなどが求められる可能性もあり、動向が注目される。

1.はじめに

 ロシアは砂糖の年間消費量が580万トンに達する世界有数の砂糖消費国であり、国際需給に大きな影響力を持つ。従前は国内供給の大半を輸入に依存してきたが、近年は国際砂糖価格の高騰などを背景に生産量が大幅に増加し、輸入量が急減するなど砂糖需給の変動が大きくなっている。本稿では、このような同国における砂糖需給の動向および砂糖産業の情勢について報告する。なお、本稿の砂糖年度はロシア砂糖年度(7月〜翌6月)、砂糖の数量は断りがない限り粗糖換算である。また、為替レートは1米ドル=93.5円を使用した(2月末日TTS相場)。

2.砂糖需給の概要

(1)需給動向
 ロシアの砂糖生産量は、ソビエト連邦崩壊に伴う経済混乱と政府の砂糖産業に対する政策の不透明さから1990年代に200万トンを割り込む水準にまで落ち込んだが、2000年代に入ると、砂糖産業への投資再開、製糖工場の整理統合、てん菜生産から製糖まで行う垂直統合型企業の増加などを背景に増加傾向で推移している。とりわけ、2011/12年度は国際砂糖価格の高騰を背景としたてん菜の作付け増加を受け、砂糖生産量は546万トン(前年度比84.2%増)と記録的な増産となった。2012/13年度についても、砂糖生産量は529万トン(同3.1%減)と前年度を下回るものの500万トンの水準を維持するとみられている。国内生産の増加により、近年、砂糖の輸入依存度は大幅に低下している。
表1
 一方、消費量は1990年代に食料不足を背景に安価にカロリーを摂取できるパン類や菓子類の需要が伸びたことから、年間600万トンを上回る水準にまで増加した。しかしながら、最近では人口減少などの影響により消費量は580〜590万トン程度で頭打ちとなっている。ロシアは出生率の低下に加え、社会情勢の不安などを背景に平均寿命が低下しており、人口が減少している。なお、2008/09年度および2009/10年度における消費量の減少は、2008年に発生した世界金融危機の影響による景気後退で一人当たりの消費量が一時的に落ち込んだことを受けたものである。近年、一人当たりの消費量は年間41キログラムでほぼ横ばいとなっている。
図1
 表2は砂糖消費の内訳を示している。消費は家庭用の割合が最も多く、2011/12年度時点で60%となっているものの、所得向上や食生活の変化による加工食品、飲料の消費増加で、業務用の割合が増加傾向にあり、相対的に家庭用の割合は低下しつつある。
表2
(2)貿易動向
 ロシアは国内供給の多くを輸入に頼ってきたが、2011/12年度以降は国内生産の拡大により輸入量は大幅に減少している。輸入の大半は粗糖であり、輸入粗糖は端境期に製糖工場で精製される。かつての主要輸入先はキューバであったが、同国の減産による輸出減少などを受け、現在は大半の輸入先がブラジルとなっている。また、主にベラルーシから年間20〜30万トン程度の白糖も輸入している。
表3
 一方、ロシアは年間10〜30万トン程度の白糖を輸出しており、輸出先は無税アクセスが認められているCIS諸国のカザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンなどとなっている。白糖の輸出は輸入粗糖を精製して再輸出する形が一般的となっているが、2011/12年度においては、てん菜の記録的な増産を受け、国産白糖の輸出も行われたとみられている。

(3)価格動向
 ロシア国内の砂糖価格は、国際粗糖価格(ニューヨーク粗糖先物市場)に連動しつつも、それを上回る水準で推移している。これは、国内砂糖産業の保護を目的に輸入関税が設定されていることが影響している。こうした背景に加え、2010/11年度の国内価格は、2010年夏季に発生した深刻な干ばつ被害による大幅な減産を受け、国際価格を大幅に上回る水準で推移し、2011年1月の平均砂糖卸売価格は1トン当たり1265米ドル(約11万8278円)に達した。2011/12年度に入ると、記録的な増産により国内価格は大幅に下落し、2012/13年度は前年度に引き続き豊作となった上、国際価格も下落していることから、平均卸売価格は2012年11月時点で同774米ドル(約7万2369円)となっている。
図2
(4)砂糖以外の甘味料の動向
 ロシアでは、果糖含有率42%の異性化糖(以下HFCS42 )とブドウ糖を除いて、砂糖以外の甘味料は生産されておらず、国内供給は輸入に頼っている。HFCS42 の生産は2006年に開始され、生産量は年間3万2000トン(白糖換算)程度となっている。砂糖以外の甘味料の消費量は少量であり、これらの中ではブドウ糖の消費量が最も多いが、2011年時点で6万9000トン(白糖換算)と、砂糖消費量の1.3%にすぎない。
表4

3.砂糖産業の概要

(1)てん菜生産の状況
 てん菜は主にロシア西部と南部で生産されている。主要産地は西部となっており、国内生産の50〜60%を占める。全製糖工場(77工場)のうち45工場は西部に位置する。南部は国内生産の20〜30%を占め、20工場がある。このほかヴォルガ川沿岸やシベリア地域でも生産が行われており、これらの地域に12工場がある。てん菜の作付けは4月から6月にかけて行われ、収穫は8月半ばから11月末まで行われる。ロシアは冬の寒さが厳しく土壌が凍結するため、12月以降はてん菜の収穫が困難となる。
図3
 ロシアではソ連時代の集団農場が改組して生まれた協同組合および民間農業企業による大規模生産が多い。協同組合は生産の合理化が進まず、農業機械の老朽化や栽培方法の近代化の遅れなどの問題を抱えるものも多い一方、民間農業企業は協同組合に比べ生産性が高いものが多い。また、てん菜の生産から製糖まで行う垂直統合型の製糖企業も増えている。垂直統合により製糖工場はてん菜の安定的な供給確保を可能にしている。

 表5は2012/13年度から過去10年間のてん菜の生産動向を示している。この期間において、てん菜生産量は最も多い年で4762万トン(2011/12年度)、最も少ない年で1936万トン(2003/04年度)と変動が大きい。生産量の変動は小麦、大麦、ヒマワリなど他作物との競合によるてん菜作付面積の増減と、天候による単収の増減が影響している。単収は年によって変動しつつも、農業の近代化などで増加傾向にあり、2003/04年度にヘクタール当たり21トンだったものが、2012/13年度時点で同38トンとなった。なお、2010/11年度の減少は深刻な干ばつ被害によるものである。単収は今後も増加の余地があるものの、EU加盟国のようにヘクタール当たり60〜80トンを実現することは難しいとみられている。これは、ロシアでは冬の厳しい寒さで作物に被害が発生する可能性が他国に比べ高く、また、こうした被害発生リスクを考慮して生産者が肥料などの使用量を抑制する傾向にあるためである。さらに、ロシアはてん菜種子の輸入依存度が高く、これらの種子が必ずしもロシアの気候に適していない問題もある。政府はてん菜種子の自給率を将来的に4割以上に高め、より適性の高い品種を栽培することで単収の増加を図りたいとしている。2011年3月にはVoronezhでてん菜種子工場が稼働を開始した。
表5
 てん菜の代金は、てん菜から生産される砂糖および糖蜜の69.5%を生産者に分配する形で支払われる。生産者は現物(砂糖、糖蜜)あるいは現物相当の現金で支払いを受けることができる。2006/07年度から2011/12年度までの期間の平均てん菜価格は、トン当たり60米ドル(約5610円)であった。なお、ロシアでは家畜飼料の需要が少なく、ビートパルプの大半は乾燥後ペレットの形状に加工され、輸出されている。ビートパルプの輸出収益は全て製糖工場のものとなっている。

(2)砂糖生産の状況
 現在、国内には77のてん菜糖工場がある。1日当たりの平均てん菜処理能力は約4000トンと10年前の約2700トンに比べ増加しているものの、主要国の平均(5000〜5300トン)注と比べると小規模である。2011/12年度の稼働日数は、てん菜の記録的な増産により157日間と前年度から大幅に増加し、2012/13年度についても豊作により稼働日数は130〜140日間とみられている。

 近年のてん菜生産の拡大により、新たな課題が浮き彫りになった。2011/12年度は大幅な増産で収穫期間が例年よりも長くなった結果、一部のてん菜は土壌の凍結により収穫することができなかったとされる。また、同年度のてん菜収穫量は4600万トンであったが、このうち製糖処理されたのは4000万トン程度であったとみられている。これは、冬季の低温で凍結状態にあったてん菜の一部が、気温上昇などに伴って腐敗し、糖度が著しく低下したため砂糖生産に使用できなかったためである。この問題を解決するには、製糖工場の処理能力の拡大や、収穫したてん菜の管理技術の向上が必要とされる。

 注:てん菜生産40カ国の加重平均値
表6
 てん菜糖の生産コストについて国際競争力を比較したところ、ロシアは労働賃金が低いなどの強みがあるものの、てん菜の単収が他国に比べ低く、また製糖工場も小規模なため、最終的な生産コストはほぼ世界平均並みとなっている。
表7
 77製糖工場のうち32工場は輸入粗糖の精製も行っている。また、極東に輸入粗糖の精製のみを行うPrimorsky工場もある。輸入粗糖を精製する工場は比較的南部に多いが、これは黒海に近く粗糖輸入を行い易いためである。ただ、2011/12年度および2012/13年度はてん菜生産の増加により、輸入粗糖の精製量は大幅に減少している。

 図4は主要製糖企業の市場シェアを示している。これらの企業は自社の農場でてん菜のほか小麦やヒマワリの生産も行っている。
図4

4.砂糖関連制度

(1)輸入関税制度
 ロシアは粗糖および白糖に対して関税を課している。粗糖の関税は2004年に導入された可変輸入関税制度となっている。この制度は、国際価格の低迷時に高額の関税を設けることで国内生産者を保護することを目的としており、関税は国際価格に反比例する(図5)。また、国内で生産された砂糖が販売される時期には高く、輸入粗糖の精製が行われる時期には低く設定される仕組みとなっている。すなわち、8月1日から4月30日までの期間は、関税の上限が1トン当たり270米ドル、下限が140米ドルとされ、5月1日から7月31日までの期間は、上限が同250米ドル、下限が50米ドルに引き下げられる。関税は毎月、前月のニューヨーク粗糖先物市場の平均価格に基づいて設定されている。なお、2011/12年度は国内生産の大幅な増加を受け、政府は通常とは異なる関税制度の運用を行い、端境期の粗糖輸入関税を一貫してトン当たり140米ドルで維持した。一方、白糖については年間を通してトン当たり340米ドルの関税が課せられる。

 2012年8月22日、ロシアは156番目のWTO加盟国となった。WTO加盟に当たり、8月1日から4月30日までの関税の上限を、2014年に現行の270米ドルから250米ドルに引き下げることが合意された。白糖の輸入関税引き下げについては、現時点では合意されていない。
図5
(2)貿易協定
 ロシアは独立国家共同体(CIS)と自由貿易協定を結んでおり、その国内で生産されたてん菜を原料とする白糖の無税アクセスを認めている。ベラルーシは国産白糖の多くをロシア向けに輸出し、国内供給は輸入粗糖を精製して賄っている。しかしながら、CIS諸国のてん菜から生産された白糖と輸入粗糖を精製して作られた白糖を区別することは困難であり、後者が主にベラルーシから不正輸入されていることが両国間で問題となっていた。このような状況を受け、2007年に両国は協定を結び、ベラルーシからの白糖輸入量が制限されることとなった。輸入数量は毎年決定され、2012年は20万トンと設定された。

5.おわりに

 ロシアの砂糖産業は、1990年代にソ連崩壊に伴う混乱で大きく落ち込んだが、2000年代に入ると業界への投資再開などから生産量は増加傾向となっている。とりわけ2011/12年度は国際砂糖価格の高騰を背景に大幅な増産となり、輸入量は大幅に減少した。このことは世界的な砂糖供給過剰の一因ともなった。しかしながら、最近の国際砂糖価格の下落や穀物価格の上昇を受け、てん菜の生産意欲は低下しており、2013/14年度の作付面積は前年度から2割減少するとみられている。このような状況から、ロシアの砂糖生産量が今後も500万トンを上回る水準を維持できるかは不透明であり、輸入量が増加に転じる可能性もある。また、ロシアは2012年にWTOに加盟し、将来的に輸入関税の引き下げなど砂糖市場の自由化を求められる可能性もある。仮に実現すれば国内砂糖産業に大きな影響を与えるとみられ、このことは国際砂糖需給の変動要因ともなり得るため、引き続き動向が注目される。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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