砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > お砂糖豆知識 > ナトリウムイオン電池へのしょ糖加熱分解物の利用

ナトリウムイオン電池へのしょ糖加熱分解物の利用

印刷ページ

最終更新日:2013年4月10日

ナトリウムイオン電池へのしょ糖加熱分解物の利用

2013年4月

東京理科大学 理学部 教授 駒場 慎一

はじめに

 リチウムイオン電池は、繰り返し充放電が可能な二次電池の一つです。1991年に日本で実用化され、今日ではスマートフォン、ノートパソコン、ゲーム機の電源として必要不可欠な電池です。最近では電気自動車用の電源や太陽光、風力発電の蓄電技術としても注目されています。図1に示したように、元素の周期表をみるとリチウムは原子番号3番、元素記号はLi、最も軽い金属で、電池の負極に用いることで優れた蓄電性能を発揮します。

 しかし、リチウムは希少金属(レアメタル)資源で、その資源は南アメリカ大陸に偏在しており、我が国は、その資源の全量を輸入に依存しています。我々の研究グループは、脱リチウム、脱レアメタルの将来型蓄電池を実現するために「ナトリウムイオン電池」の研究に取り組んでいます。図1に示すように、リチウムとナトリウムは周期表で隣り合っていて、化学的性質がよく似ています。リチウムをナトリウムに置き換えるというアイデアのもと、豊富な資源のみを用い、レアメタルのコスト変動や供給リスクのない将来型電池として、ナトリウムイオン電池を開発しました。そして、この電池の負極に、しょ糖の熱分解によって得られる炭素が、性能を高めるのに有効であることを明らかにしました。
図1

二次電池の蓄電性能

 図2には、実用化されている二次電池のエネルギー密度を比較しています。エネルギー密度とは、同じサイズや重量の電池が蓄えることのできる電気エネルギーを示しています。カーバッテリーで使われている鉛電池、コードレス電話などに使われているニカド電池、ハイブリッド自動車に使われているニッケル水素電池に比べ、リチウムイオン電池は最も蓄電性能が高いことが分かります。この違いの主な原因の一つが、電池の電圧です。水溶液を電解質溶液に用いる電池では、1.5〜2ボルトの電圧が限界ですが、リチウムイオン電池では電圧を4ボルトにまで上げることができる結果、エネルギー密度も高めることができるわけです。
図2

「リチウム」を「ナトリウム」に置き換える

 リチウムイオン電池では、充電と放電にともなって、正極と負極の間でリチウムイオン(Li+)が移動することで蓄電します。リチウムイオン電池の蓄電性能を維持しつつ、リチウムをナトリウムで置き換えたのが、「ナトリウムイオン電池」です。図3に示すように、充電では正極から負極へ、逆に放電では負極から正極へナトリウムイオン(Na+)が移動します。それに伴って、正極と負極に含まれているナトリウム量が変化します。我々はリチウムイオン電池の知識と経験をもとに、2005年にナトリウムイオン電池の研究に着手しました。最初に負極の寿命を大幅に向上させることに挑戦し、並行して高い容量を示す正極の研究開発を手がけました。過去のリチウムイオン電池の経験と知識が、ナトリウムイオン電池の成功を導くきっかけを与えてくれました。2009年には、ナトリウムイオン電池の動作に初めて成功し、現在では世界中で活発に研究されるようになりました。図3に示したように正極、負極、電解質など、新しい材料が次々と報告されています。
図3

ナトリウムイオン電池の蓄電性能

 私たちの研究室では、上述した正極、負極、電解液の成果をもとにナトリウムイオン電池を開発しました。その一例が図4です。この図では、充電と放電における電圧の変化を示しています。室温において約3ボルトの二次電池として安定的に充放電できます。エネルギー密度を見積もると、リチウムイオン電池の約60%を達成しています。今後さらに新しい高性能材料を作り出すことができれば、リチウムイオンの性能に肩を並べる可能性を秘めています。
図4

しょ糖の加熱分解生成物を用いたナトリウムイオン電池

 これまでの研究から、ナトリウムイオン電池の負極材料としてはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)が代表的で、その蓄電性能はハードカーボン1グラムあたり約250mAh/gであることが知られていました。負極材料に使われるハードカーボンは黒色の炭素粉末で、リチウムイオン電池として、既に実用化された実績があります。

 そこで、ナトリウムイオン電池としてハードカーボンを詳しく調べる研究に着目、しょ糖の熱分解によって得られるハードカーボンを取り上げました。しょ糖は、砂糖の主成分であり我々の生活にはありふれたものです。図5に示す方法によってハードカーボンを調製したところ、その蓄電性能を300mAh/gまで高められることが分かりました。図6には電池評価の実験結果を示しています。この図から、充放電を50回以上繰り返してもおよそ300mAh/gという高い容量を維持できることが分かります。従って、しょ糖の加熱分解によって得られる炭素粉末をナトリウムイオン電池に応用すれば、その蓄電性能を向上させることが出来ます。さらにこのように容量が向上する原因について調査を進め、ハードカーボンのナノメートルレベルの構造変化が関与していることが分かりつつあり、詳しく調べています。原料に使う糖類や加熱条件の違いを研究すれば、ナトリウムイオン電池の蓄電性能をさらに高めることも可能になると期待できます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713