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国際砂糖価格下落下におけるタイ砂糖生産の動向

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最終更新日:2013年8月9日

国際砂糖価格下落下におけるタイ砂糖生産の動向

2013年8月

調査情報部 審査役 河原 壽
調査情報部          植田 彩

【要約】

○2012年に入り国際砂糖価格が下落する中、タイのサトウキビ最低価格は農家希望の1トン当たり1,000バーツを上回ったことから、サトウキビ生産者の生産意欲は依然として高い。

○キャッサバの害虫発生により、キャッサバからサトウキビに作付転換が進んだ。その後、害虫発生の終息によりキャッサバ生産の収益が回復し、サトウキビからキャッサバへ再び作付転換が進んでいるものの、急激な転換はない模様。

○製糖工場では、サトウキビの増産を図るため、農家の囲い込みによるサトウキビの生産拡大を図っている。

○同国の砂糖産業は、近年の労働者賃金の上昇、労働者不足に対応するためハーベスターなどの機械化を進めており、労働集約型産業から資本集約型産業に移行しつつある。

○国際砂糖価格が下落する中、同国の砂糖産業は生産性の向上を図りつつ、アジアにおける砂糖供給国として引き続き発展するものと推察される。

○バイオ燃料政策では、原料である糖蜜を確保するため、サトウキビの単収向上が目標として定められている。

○一方、バイオエタノール混合義務によりエタノール需給がひっ迫すれば、ケーンジュースを原料としたエタノール生産の検討が行われる可能性がある。

○また、バイオ燃料政策により、バイオディーゼルの原料となる油ヤシとサトウキビの競合の可能性があり、砂糖生産への影響が懸念される。このため、今後のバイオ燃料政策の動向を注視する必要がある。

1.はじめに

 タイは、2005/06年度にはブラジル、インド、中国、米国、メキシコ、豪州に次ぐ砂糖生産国であったが、2008年以降の国際砂糖価格の高騰やキャッサバからの転換を背景に生産が大幅に増加し、2012/13年度はブラジル、インド、中国に次ぐ生産国になると見込まれている。また、輸出量もブラジルに次ぎ、世界第二位と見込まれている。

 一方、2011/12年度に入ると世界の砂糖需給は緩和し、2012/13年度の砂糖生産量は消費量を2年連続で上回ると見込まれている。また、同国内ではキャッサバの害虫発生の終息により、キャッサバからサトウキビに作付転換した農家が、再びキャッサバに作付転換する可能性も指摘されている。

 本稿では、サトウキビ作付面積の40パーセント、キャッサバ作付面積の50パーセントを占める東北部地域(ナコンラチャシマ県、ウドンタニ県、マハーラサカーム県、コンケン県)の現地調査を踏まえ、今後のサトウキビ生産の動向を考察する。

 なお、本稿中の砂糖年度とは10月〜翌年9月である。単位換算には、1ライ=0.16ヘクタール、1バーツ=3.21円(2013年7月末日TTS相場)を使用した。

2.サトウキビの生産動向

(1)収穫面積、生産量の動向
 サトウキビ生産に影響を与える国際砂糖価格は、2008年以降、主要生産国の気象変動などによる減産で上昇傾向となり、ニューヨーク粗糖相場(期近)は、2008年の1ポンド当たり12.11セントから2011年には同27.14セントまで上昇した。2012年には、主要生産国の生産回復により生産量が消費量を上回り、同21.53セントまで下落したもの、依然として高水準を維持していた。そのためタイのサトウキビ収穫面積は、2008/09年度96万ヘクタールから、2010/11年度は126万ヘクタールと大幅に増加した。同国のサトウキビ生産は、多くは天水かんがいに依存するため変動幅が大きいものの、作付面積の増加により、2012/13年度生産量は1億トンを超える見込みであるなど増加傾向にある(図1)。単収も、品種改良および中部地域などのかんがい設備の導入により増加傾向にあり、2012/13年度では1ヘクタール当たり77トンと見込まれている(図2)。なお、今回、現地調査を行った4県(ナコンラチャシマ県、ウドンタニ県、マハーラサカーム県、コンケン県)のサトウキビ収穫面積は図3のように推移している。

 一方、タイのキャッサバ収穫面積は、2009年の害虫(コナカイガラムシ)発生によりサトウキビなどへ作付転換されたことから、2008/09年度の133万ヘクタールから、2010/11年度は114万ヘクタールに減少した。

 これら2008年以降の国際砂糖価格の高騰や同国で発生した害虫被害からキャッサバの単収が大幅な減少となったことなどにより、キャッサバからサトウキビへの作付転換が増加し同国のサトウキビは大幅に生産拡大を遂げた。
 
(2)主要生産地域
 サトウキビの主要生産地域は、東北部、中央部、北部地域である(図3)。この3地域の全国のサトウキビ生産量に占める割合は、順に41パーセント、32パーセント、27パーセントである(図4)。また、図5、6、7のとおり、主要生産県は、カンチャナブリ(中央部)、ナコンサワン(北部)、ナコンラチャシマ(東北部)、コンケン(東北部)、スパンブリ(中央部)などである。
 
(3)生産者の動向
 タイのサトウキビ農家は8ヘクタール未満の小規模農家が主体であるが、今回の調査では、購入や借地によって1,000ヘクタール以上の規模でサトウキビ栽培をするような農家も出てきており、徐々にではあるが大規模生産者も増えている模様である。

 また、8ヘクタールを超える中規模以上の農家の中には、小規模農家からサトウキビを買付け・工場に搬入するブローカー農家の存在もある。製糖工場との栽培契約は、小規模農家との間で締結されるケースと、このブローカー農家との間で締結されるケースの2種類がある。

 製糖工場の中には、農家を囲い込み、稲作からサトウキビへの作付転換により、サトウキビの増産を図っているものもある。具体的には、製糖工場が 1)栽培契約を行った農家へ生産資材を提供、 2)水が不足する地域においてはかんがい設備への投資、 3)ハーベスターを導入した収穫作業の請負、といったものである。これら精糖工場によるプロモーションは、農家との信頼関係を構築している。
 
(4)製糖企業の動向
 タイでは、国内に複数の製糖工場を運営する財閥などが経営する7社の製糖企業(Mitr Phol Group、Thai Ekalak Group、Tamaka Group、Thai Roong Ruang Group、Banpong Group、Kumpawapi Group、Wang Kanai Group)と1社で1製糖工場を運営する製糖企業が20社ある。タイ製糖協会によれば、製糖工場は新規工場を含め50工場が稼働しており、2012/13年度のサトウキビ処理量は合計で1億2500トン、1日当たりの処理量は1万4200トン、平均稼働日数は141日である(表1)。
 
 同国の砂糖産業は、近年の労働者賃金の上昇や労働者不足により、労働集約型産業から資本集約型産業に移行しつつある。

 同国の労働者最低賃金は、2013年1月に全国一律300バーツに引上げられ、賃金水準の低い農村部では、相対的に大幅に高い賃金水準となった(バンコクなど6都県およびプーケット以外では、2011年1月に183バーツ(約587円)→2012年4月に255バーツ(約819円)→2013年1月に300バーツ(約963円))。この政策は、製糖工場が雇う季節労働者の賃金負担を増加させ、製糖コストの上昇を招いている。他方、サトウキビ生産では、農業労働者への最低賃金引上げは適応されないものの、より賃金の高いサービス産業などに対して農村部から労働人口が流出しており、収穫作業などの労働者賃金が上昇している。このため、サトウキビの生産コストは、肥料などの農業生産資材の価格上昇も反映し上昇傾向にある。

 労働者不足に対応するため、製糖企業はハーベスターの導入など機械化を進めている。そのため、株式市場への上場により資金調達を図る企業が増えている。近年の労働者賃金の上昇および生産現場での労働者不足は、製糖企業に対し労働集約型産業から資本集約型産業への移行を迫るものとなっている。

 さらに、再生可能・代替エネルギー政策の推進により、製糖企業の収益構造は変わりつつある。同国のバイオ燃料政策は、15カ年エタノール開発計画:2008-2022(The 15 Year Ethanol Development Plan:2008-2022)に基づき行われてきたが、2012年からは、新たな再生可能・代替エネルギー開発計画(The Renewable and Alternative Energy Development Plan for 25 Percent in 10 Years(AEDP2012-21))が押し進められ、2013年1月のレギュラーガソリンの販売停止以降、レギュラーガソリンにエタノール混合したガソリン販売に切り替わったことで、エタノール需要が増加している。

 同国のエタノールは、サトウキビおよびキャッサバを原料に生産される。エタノール生産の81パーセントを占めるサトウキビ由来のエタノールは、現在、ケーンジュースを原料とした生産が禁止され、糖蜜を原料とした生産が行われている。また、砂糖生産の副産物であるバガスを原料とした発電および売電が行われており、これが製糖企業の重要な収益源となっている。製糖企業は、エタノール生産やバガスによる発電および売電への投資など経営の多角化、白糖の生産といった付加価値化を進めており、収益構造の悪い企業は大手企業に組み込まれ、企業のグループ化、寡占化が進む状況にある。

3.貿易動向

 タイ政府は、糖業法により援助基金を設立した1961年以降、国内砂糖産業の育成に力を注いできた。砂糖純輸出国となった70年代は輸出促進がさらに進み、その後、世界的な砂糖輸出国として成長を遂げた(図9)。2011/12年度の輸出量は、726万トン(粗糖換算、前年度比18.5%増)と世界の砂糖輸出量の12パーセントを占め、ブラジルに次ぐ輸出国となっている。表2のとおり、主な輸出相手国は、経済発展や人口増加など需要拡大が続くアジア諸国であり、アセアン自由貿易協定(AFTA)の関税削減により、その割合は増加傾向にある。輸出先としては、インドネシア向けが最も多く、2012年のインドネシア向け粗糖・白糖輸出量は、155万トン(前年比20.2%増)となっている。また、カンボジアやマレーシア向けも増加傾向にある。日本は、2011年までインドネシアに次ぐ第二の輸出先であったが、中国の砂糖消費量の拡大や、アセアン中国自由貿易協定の先行関税引き下げ措置により、中国向けが2012年に大幅増加となったため、中国に次ぐ第三位となっている。
 
 また、1990年代以降から価格の高い粗糖以外の精製糖、白糖などの輸出が増加している。2011年の白糖輸出量は235万トンであった(表3)。白糖輸出量は年によって増減はあるものの、砂糖輸出量に占める割合は30パーセント以上となっている(図10)。主な輸出先国はイラン、イラクをはじめとした中東地域諸国とインドネシア、カンボジアなどの東南アジア諸国である。
 
 アセアン諸国の砂糖需給は表4のとおりであり、タイの輸出量が他の国に比べ圧倒的に多くなっている。同国の砂糖業界関係者によると、隣接国であるミャンマー、ラオス(カンボジアではサトウキビの生産はない)の砂糖生産コストは高く、価格面においても同国は優位性をもつとのことであった。
 

4.砂糖の主要政策

 タイでは、国内向け砂糖供給の確保や産業保護のため、サトウキビおよび国内向け砂糖価格並びに流通量は政府の管理下にあり、その執行機関は、工業省内に設置されたサトウキビおよび砂糖委員会事務局(Office of Cane and Sugar Board、以下「OCSB」という。)である。

(1)収益分配方式
 タイの砂糖産業が砂糖およびその副産物の糖蜜から得た収益は、農家7、製糖企業3の割合で分配される。この計算に基づき、サトウキビ価格が算出される。

(2)割当(クォータ)による販売管理
 製糖企業に対して販売量を規制する割当制度が存在し、国内向けのAクォータ、輸出向け粗糖のBクォータ、さらに、A、Bクォータの余剰分の輸出向け砂糖となる粗糖、精製糖、白糖などの全てが対象となるCクォータの3つに分類される。国内向けのAクォータの数量および価格は毎年政府によって決定される。Bクォータの価格は、政府機関(農業省、工業省、商務省、財務省)4名、サトウキビ農家9名、製糖企業3名、タイサトウキビおよび砂糖組合(TCSC)1名の計17名で構成される委員会により、国際価格に基づき、入札により決定される。なお、Bクォータ価格はCクォータの参考価格となる。詳しい内容については、「砂糖類情報」2011年2月号「タイの砂糖産業をめぐる情勢 〜砂糖生産の現状と今後の見通し〜」を参照されたい。

(3)サトウキビ価格
 製糖開始に当たっては、政府が当該年度に推定される砂糖産業全体の収益を算出し、その7割がサトウキビ代金として農家に分配される(収益の算出には、Aクォータ割当量、価格のほか、推定される砂糖生産量・輸出量・国際砂糖価格・糖蜜生産量・価格・輸送費・為替相場が使用される)。これがサトウキビの「期首価格」として収穫前に公表される。

 年度終了時に、全ての実績に基づき砂糖産業の得た収益を再計算し、サトウキビ「期末価格」が決定される。期末価格が期首価格を上回った場合には、製糖企業は価格上昇分を生産者に精算払いする。逆に下回った場合には、製糖企業や農家の拠出金からなる「サトウキビ・砂糖基金」(Cane and Sugar Fund、以下「基金」という。)から製糖企業へ価格差分の補てんが行われる。しかしながら、農家は当該補てんに係る返済の義務はない。「基金」に生じた負債は、政府系の農業・農業協同組合銀行(Bank for Agriculture and Agricultural Cooperatives、以下「BAAC」という。)からの借入れで賄われ、結果として「基金」は多額の負債を抱えることとなった。このため、2007年に工場売渡砂糖価格は1トン当たり1万4000バーツ(約4万5000円)から1万9000バーツ(約6万1000円)に引上げられ、引上げられた5,000バーツ分がBAACへの返済資金に充てられ、現在、「基金」の負債は解消されている。

 また、2013年3月、生産者のサトウキビ生産コストの上昇に対応するため、BAACからの融資を原資として「基金」から1トン当たり160バーツ(約514円)が農家支払いに追加して支払われることとなった。なお、当該支払いは、上記5,000バーツの原資から返済される。

(4)ゾーニング制度
 タイ農業協同組合省(以下、「OAE」という。)は2013年2月、農業経済指定地区を業種別に設けるという同国政府の方針に基づき、6品目(コメ、キャッサバ、パーム油、天然ゴム、サトウキビ、飼料用トウモロコシ)について、土壌の適合性などを考慮し、栽培地域を指定する農地ゾーニング制度を公表した。この制度では、適地適作による農家の収入安定を図ることで、農産物の供給および市場価格の安定を目的としている。なお、当該ゾーニング制度は、94〜98年に行われたエコノミックゾーンとほぼ同じ内容である。OAEによれば、エコノミックゾーンが浸透しなかった原因は、農家にとってこの制度を利用するメリットが明確でなかったからとしている。今回のゾーニング制度では、制度の利用は義務化されていないものの、制度で定めた土地で生産を行った農家に対し、担保融資制度などを適用させるなどのメリットを検討している。ゾーニング制度の再導入により、政府は生産性の向上を図る。

 今回の調査では、2月のこのゾーニング制度発表をうけ、現在、各県の地方農業事務所で、品目ごとの準備が行われていた。ナコンラチャシマ県では、制度の利用により作付奨励している品目以外の作物が、干ばつや病害虫により損害を被った場合、補償の対象外とする可能性があるとのことであった。しかし、農家の作付品目の決定要因としては、作物の価格が重視されていることから、今回の制度によるサトウキビ生産への影響は限定的である、との見方もあった。

(5)ハーベスター購入に係る低利融資制度
 タイ政府は、労働力不足への対応および生産コスト削減のため、BAACから年間10億バーツを2010〜2012年の3年間で30億バーツ、「基金」から10億バーツ(2011年のみ)の、計40億バーツを原資として、ハーベスター購入に対する低利融資の制度を設けた。2012/13年度は、「基金」からの融資を30億バーツに増額して低利融資を行っている。OCSBによると、2012/13年度の融資枠は、ほぼ消化されているという。ナコンラチャシマ県の調査では、中規模(50〜100ライ(8ha〜16ha))以上の農家による制度の利用があるとのことであった。なお、購入されるハーベスターは豪州からの中古品である。

5.今後の砂糖産業の動向

(1)国際価格低下の影響
 2012年以降の国際砂糖価格は低下しているものの、サトウキビ栽培は通常2年の株出しを行い、新植から3年間は作付を転換することは少ないことから、急激なサトウキビ生産の縮小は少ないとの見方が多い。サトウキビ農家は1トン当たり1,000バーツ(約3,210円/トン)の売上収入があれば満足とされる中、2012/13年度のサトウキビ期首価格は、国際砂糖価格の下落により、前年度の1トン当たり1,000バーツから同950バーツ(約3,050円/トン)に引下げられた。しかし、同年度は生産費の上昇を緩和するため、「基金」から同160バーツが支出されることから、同年度サトウキビ最低価格は同1,110バーツ(約3,563円/トン)となり、農家の生産意欲は依然として高い。さらに、サトウキビでは、期首および期末の年2回の支払いなどといった政策による優位性が、作付面積を安定させる要因の一つとなっている。

(2)主な競合品目の動向

  1)キャッサバとの競合
 キャッサバ生産量の2割程度を占める最大の産地ナコンチャラシマ県では、2009年の害虫発生に伴う大幅な単収減により農家の収益が悪化し、キャッサバからサトウキビへの作付転換が進んだ(図11)。
 
 しかし、害虫発生の終息によりキャッサバの単収が回復し、農家収益が改善されたことで、サトウキビに作付転換した一部の農家は、再びキャッサバに作付転換している。

  一方、サトウキビおよびキャッサバの両方の主生産地となっている東北部地域の一部では、サトウキビ価格とキャッサバ価格の変動が、毎年の作付面積の変動に強く影響している。今回調査で訪れた、同地域のウドンタニ県農業事務所の話では、株出し回数は0〜1回と少なく(同地域の他県では、株出しによりサトウキビの単収が半減するため、株出しを行わない場合もある。)、キャッサバの単収を1ライ当たり4トン(25トン/ha)とした場合、キャッサバ価格:サトウキビ価格=3:8よりもキャッサバ価格が高くなれば、サトウキビからキャッサバへ作付転換が進むという。
 
 表5、6は、キャッサバ最大の産地ナコンチャラシマ県のサトウキビとキャッサバ栽培農家からの生産コスト聞き取り結果である。サトウキビについては、生産費の上昇を緩和するため「基金」から支給される1トン当たり160バーツにより、サトウキビ(株出し2、3回目)の収益がキャッサバ(かんがい設備無し)を上回っている。一方、かんがい設備を有するキャッサバ農家では、単収が1ライ当たり8トン(50トン/ha)と大幅に向上することから、キャッサバ農家の収益はサトウキビ農家の収益を大幅に上回っている。

 この他、農家の栽培品目の決定には、収益性に係る品目間の競合の他に、搬入先の加工工場などの有無も大きく影響している。近隣に加工工場や工場の集荷場がない場合、輸送コストが高くなるからである。言い換えれば、サトウキビと競合する作付品目の加工工場が近隣に建設されれば、当該地域の農家の作付品目は大きく変わる可能性がある。
 
  2)コメとの競合
 2013年6月、コメ担保融資制度の価格引き下げ(1万5000→1万2000バーツ/トン(約4万8000円→約3万9000円/トン))が公表された。コメの作付面積は、担保融資制度の価格引上げにより大幅に増加してきた。このため、サトウキビの収益性が他品目より高く維持される中でのコメ担保融資価格引下げは、コメからサトウキビへの作付転換が進む可能性を指摘されている。

(3)バイオ燃料政策の影響

  1)サトウキビ単収向上目標
 エタノール原料である糖蜜の生産を拡大するため、OAEは、品種改良、土壌改良、施肥方法、ハーベスターの導入などにより、現在のサトウキビ平均単収を、1ライ当たり11トン(68.8トン/ha)から同13トン(81.3トン/ha)とする目標を示している。なお、バイオ燃料政策では、工業省の目標としてかんがい設備の導入も図ることにより、同15トン(93.8トン/ha)を掲げている。これら政策に基づく単収の向上により、サトウキビ生産量は増加することが予想される。

  2)ケーンジュースからのエタノール生産
 現在、サトウキビ由来のエタノール生産は糖蜜以外を原料とすることは禁止されている。例として、工場周辺の土壌のカドミウム汚染の問題から食用向け農作物を栽培できないことにより、1社のみにケーンジュースからのエタノール生産を政府が許可している。OAEによると、バイオ燃料政策によるエタノール需要が増加し、バイオエタノールの需給がひっ迫した場合、今後ケーンジュースからのエタノール生産許可は検討される可能性があるとのことであった。なお、現在の同国エタノール需給は、国内生産量が消費量を上回っており、バイオ燃料の使用を義務付けした自国の政策によりエタノール需要が増加したフィリピンなどへ輸出している状況にある。

  3)バイオディーゼル
 タイのバイオ燃料政策により、ディーゼルに5パーセントの油ヤシ由来のバイオディーゼルを混合することが義務づけられている。バイオディーゼルの導入が推進されたことによる、油ヤシを原料とするバイオディーゼルの需要の拡大から、油ヤシの生産が増加している。

 油ヤシの主要生産地域は南部地域であるが、調査で訪れた東北部地域のナコンラチャシマ県の農家では、バイオディーゼル需要の増加を背景に、サトウキビから油ヤシへの作付転換を図っていた。村長でもある農家の話では、油ヤシは、栽培等に機械を必要としないことから初期投資が少なく、苗を植えてから3年で現金収入が可能となり(その3年間は他作物の間作による収入が可能)、その後、30年間程度は安定した収入が得られるとのこと。また、サトウキビは年に1回の収穫で現金収入が年に2回ある一方、油ヤシは1カ月当たり2回の収穫(22本/ライで15日ごとに660kgの収穫)で現金収入が月に2回あるとのことであった。これらのことから、この農家は作付意欲が高い油ヤシへ作付転換を図っていた。また、現在、バイオディーゼル工場が近隣にないことから、60キロメートル離れたチョンブリ県のバイオディーゼル生産企業が集荷している。バイオ燃料政策により油ヤシ由来のバイオディーゼルの需要が増加していることから、近い将来、工場が近くに建設されること、油ヤシ価格は現在のキロ当たり3〜4バーツ(チョンブリ県までの輸送費控除後の価格)より上昇することを、村長の農家は予測していた。OAEの統計によると東北部地域の油ヤシ作付面積は、4年間で7,677ヘクタール(2009年)から1万6444ヘクタール(2012年見込み)と大幅に増加する見込みとなっている。

 サトウキビから油ヤシに転換された場合、30年程度はサトウキビを再び作付する可能性は低く、バイオ燃料政策を背景としたサトウキビから油ヤシへの作付転換は、サトウキビ生産に少なからず影響を及ぼすこととなる。
 
(4)海外展開の動向
 タイの製糖企業のラオス、カンボジアなど近隣諸国への進出は、EUのLDC諸国(後発開発途上国)に対するEBA政策(武器・爆弾以外の全輸入品を数量制限なしに無税輸入を認める制度)により、国際砂糖市場よりも有利に砂糖を輸出できることを背景に進められてきた。しかし、2013年6月にEUは、砂糖政策の見直しを決定し、生産割当を2017年に廃止することとしたため、LDC諸国に対するEBA政策も見直される。このため、近隣諸国への製糖企業の展開も見直される可能性がある。

 一方、同国内では、今年に入り新たに10の工場が認可された模様で、合計60の製糖工場となり、1億4000万トンのサトウキビ圧搾能力を保持することとなる。そうなれば、同国内ではサトウキビの獲得競争が強まり、同国砂糖企業資本によるラオス、カンボジアなどのサトウキビ農地開発が本格化する可能性があるとされている。

(5)今後の砂糖産業
 タイの製糖企業では、生産コスト上昇に対応するため、ハーベスターの導入などの機械化が進められる中、エタノール生産やバガスによる発電および売電という新たな収益源への投資が拡大している。

 一方で、サトウキビ生産は、他品目との競合があるものの、生産コストの上昇を受け、1トン当たり160バーツが追加支給されることから、農家が望む同1,000バーツが確保され、サトウキビ生産意欲は依然高い。

 バイオ燃料政策では、エタノール原料である糖蜜を確保するため単収の向上が目標として定められている一方、ディーゼル原料である油ヤシの需要もた高まっていることから、サトウキビから油ヤシへの作付転換も懸念される。

 このような中で、バイオディーゼルの混合率を、5パーセントから7パーセントへの引上げが検討されている。政策が実現すれば、バイオディーゼルの需要は拡大し、懸念される油ヤシとサトウキビとの競合が生じる可能性が大きくなる。また、同国では、現在、ガソリン消費量(2000万リットル/日)よりもディーゼル消費量(5000万リットル/日)が多いことから、油ヤシとの競合が生じた場合、サトウキビ生産への影響は大きいと推察される。

 さらに、今回の調査で、エタノール需給がひっ迫すれば、ケーンジュースから直接エタノール生産も検討される可能性があることがわかったことから、バイオエタノールおよびバイオディーゼルに係る政策が砂糖生産に与える影響は大きくなる可能性がある。ただし、エタノールの同国内供給量は国内需要量を上回り、フィリピンなどへ輸出している現段階では、その可能性はないと推測される。

 今後、砂糖生産において影響を及ぼすものとしては、 1)ケーンジュースから直接エタノール生産が行われる可能性、 2)バイオディーゼル政策によるサトウキビから油ヤシへの転換の可能性、と推察される。

 なお、タイのバイオ燃料政策が与える砂糖産業およびでん粉産業への影響については、次月号で報告する。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713