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悲しい過去をもつ南国の酒

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最終更新日:2013年8月9日

悲しい過去をもつ南国の酒

2013年8月

東京農業大学 名誉教授 中西 載慶
 


 酒は、それぞれの国のそれぞれの民族が、自然と共生しながら地域の産物を巧みに利用し、優れた知恵とたゆまぬ努力によりつくりだしたものです。酒の原料や製造法はさまざまですが、いずれもその地域の気候風土と密接に関係しています。例えば気温の高いサトウキビ栽培の盛んな国では、当然砂糖からつくられる名酒があります。そこで、今回は、その代表ともいえるラム酒と黒糖焼酎にまつわる話を紹介します。

 酒は、果実や穀物などを原料につくられますが、原料と製造法の違いにより数えきれないほど多くの種類があります。それらの酒を製造法により分類すると、醸造酒と蒸留酒と混成酒の3つに大別されます。醸造酒は、果実などの場合はそのまま、穀物などの場合は原料を糖化したのち、酵母により発酵し清澄化して酒とします。蒸留酒は、醸造酒を蒸留してアルコール度数を高め、一般に木の樽やタンクなどに貯蔵してつくります。混成酒は、醸造酒や蒸留酒に果実、花、葉、根などを加えてつくります。それら酒類の代表的な酒と原料などを表に示しました。ちなみに、わが国の酒税法では、アルコールを1パーセント以上含む飲料を酒類と定義し、その製造から販売までのすべてにおいて、この法律に従う必要があります。また、酒税法では、すべての酒類を4種類18品目に分類し、それぞれ異なった税金が課せられています。
 
 少し前置きが長くなりましたが、ここからが本題のサトウキビからつくられる酒の話です。その代表は、なんといってもラム酒(ラム)です。ラムは、カリブ海諸島のキューバ、ジャマイカ、プエルトリコなどの代表的な蒸留酒です。その起源は、コロンブスの西インド諸島発見後、サトウキビが栽培されるようになった16〜17世紀ごろ、プエルトリコあるいはバルバドス島で始まったといわれています。ラムの語源は、サトウキビのラテン語名に由来するという説、原住民が飲んで騒いだ様子を表す言葉説、英国の海軍大将のニックネーム説など、さまざまあり、定かではありません。

 ラムの製造法は、比較的シンプルで、基本的には、糖蜜(サトウキビの搾り汁を煮詰め結晶化させた砂糖をとった残りの液で糖分は約60%)注1)を水で薄め35〜45℃で発酵注2)させた後、それを蒸留して樽に数年間貯蔵して完成です。ラムは、風味の異なるヘビーラム、ミディアムラム、ライトラムの3つのタイプに分類されます。その違いは、原料、発酵方法、蒸留方法、貯蔵期間などの違いに起因しています。ヘビーラムは、ジャマイカ産が有名で、色が濃く、香りが強く、成分的にも高級脂肪酸類やそれらのエステル類、アルデヒド類などが多く複雑な味わいです。ライトラムは、キューバやプエルトリコ産に多く、色は無色から淡黄色で、軽快な風味です。ミディアムラムは、その中間的性質です。いずれもアルコール度数が高い(37〜45%)注3)ので、一般には、水やコーラなどで割って飲まれているようです。

 ところで、ラムの本場カリブ海諸国といえば、強い日差し、浅黒い肌、陽気な人柄、軽快でビートの聞いた音楽や踊りなど、明るさを感じます。ラムはそんな国の人々にぴったりの陽気で賑やかな酒だと思います。しかし、ラムの発展には、二度と繰り返してはならない人身売買という人間の悲惨な歴史がかかわっているのです。17世紀ごろから、ヨーロッパでは、砂糖の需要が急速に高まりました。そこで、イギリスをはじめヨーロッパ諸国は、当時植民地であった西インド諸島で、大規模なサトウキビ栽培を展開し始めたのです。サトウキビ栽培には人手と労働力が必要不可欠です。そこで、 1)労働力を確保するために、西アフリカの人々を奴隷として西インド諸島に送り込んだのです。一方、砂糖製造時には、その廃棄物ともいえる糖蜜が生じます。 2)それを船に積み込んでアメリカのニューイングランドに運び、糖蜜からラムをつくったのです。 3)このラムを再び船に積んで主にアフリカなどに運び、販売・換金して、労働者(奴隷)を調達したのです。この 1)から 3)のいわゆる三角貿易が行われたのです。ラムの品質は当然価格に反映し、労働力確保の資金となります。そのことが、皮肉にもラムの酒質の向上と発展をもたらしたという一面もあるのです。今では、世界中で飲まれ、陽気で賑やかなイメージのラムですが、悲しい過去もあるのです。
 
 砂糖大国といえばブラジルですから、当然ブラジルにもサトウキビからつくるカシャッサ(ピンガともいう)という蒸留酒があります。その製造法は基本的にはラムと同様です。一般には、それに砂糖とレモンを加えたカイピリーニャとよばれるカクテルが好まれているとのことです。勿論日本にも、サトウキビからつくられる黒糖焼酎という特色ある蒸留酒があります。黒糖焼酎は、現在奄美諸島でのみ製造が認められ、他の地域ではつくることができません。その理由は、昭和28年に奄美諸島がアメリカから返還された時、黒糖焼酎製造の実績や地域産業保護の観点から、酒税法により米麹を使うことを条件に、奄美だけに黒糖を使った焼酎製造を認めたからです。その製造の概略は、まず蒸米に水と麹と酵母を加え一次発酵を行います(もろみという)。このもろみに、水に溶かした黒糖(サトウキビの搾り汁を煮詰めて固めたもの)を加え二次発酵します。発酵終了後、蒸留してタンクあるいは樽に入れ熟成させて完成です。なお、黒糖焼酎も昔は、米や米麹を使わず、ラムと同様の方法でつくられていたといわれています。

 酒の製造法には、その土地に生まれ育った人々の優れた知恵と経験の積み重ね、科学と技術の進歩などが刻みこまれています。大切に受け継ぐべき人類の財産です。

注1)サトウキビの搾り汁、搾り汁を煮詰めた時に生じるアク、蒸留廃液なども利用される。
注2)自然発酵の場合には、数種の酵母や細菌が関与し複雑な風味を形成する。最近は、優良培養酵母が用いられることが多い。
注3)45パーセント以上のかなり高いアルコール濃度のものも市販されている。

参考文献
吉沢淑編「酒の科学」朝倉書店(1995)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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