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さとうきび新品種「農林31号」の特性と利用

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最終更新日:2013年10月10日

さとうきび新品種「農林31号」の特性と利用

2013年10月

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
九州沖縄農業研究センター作物開発・利用研究領域
主任研究員 服部 太一朗

【要約】

 「さとうきび農林31号」は、夏植えで多収となるさとうきび新品種である。中太茎で脱葉性や耐倒伏性も良好であるため、手刈りでも機械でも収穫しやすい。夏植えと手刈り収穫が併存する沖縄県宮古地域を主な普及対象地としており、同地域で普及が拡大している農林27号と組み合わせて利用することで、同地域のさとうきび増産と生産安定性の向上に寄与することが期待される。

はじめに

 本誌でもしばしば触れているが、南西諸島は台風や干ばつなどの気象災害が多く、保水力や肥沃度の低い土壌条件がそれらの気象災害の被害を助長するという、さとうきびの生育には厳しい環境下にある。台風や干ばつの発生頻度が高い沖縄県宮古地域では、こうした条件下でも収量が比較的安定している夏植えの割合がもともと高かったが、さとうきびの芽子を食害する土壌害虫の防除に用いられていた塩素系殺虫剤の使用が禁止されたこともあり、1980年代以降は夏植えの割合がさらに高くなっている。宮古地域は、同時に、手刈り収穫の割合が高いという特徴も有している。近年、ハーベスタ収穫の割合が急激に増加しつつあるが、それでも“ゆい”の助け合い文化の下で、手刈り収穫が大勢を占めているのが現状である。

 このように、他の地域に比べて、夏植えと手刈り収穫の割合がいずれも特徴的に高い宮古地域において、さとうきび生産性の向上を図る際には、まずは、こうした栽培型、収穫体系に適合度が高く、従来品種よりも収量性に優れる品種の普及を進めることが効果的であろう。また、今後想定されるハーベスタ収穫割合の増加も念頭に置き、手刈り収穫から機械収穫への移行がスムーズに行えるような特性を併せ持つ品種であることが望ましい。

 九州沖縄農業研究センターでは、宮古地域に向けて、夏植えで高糖多収となり、脱葉性や耐倒伏性などにバランス良く優れるため収穫しやすい「さとうきび農林31号(以下「農林31号」という。)」を育成した。本品種は、現在、宮古地域で栽培面積が拡大している農林27号とともに、同地域の普及品種である宮古1号や農林8号を代替し、地域としてのさとうきび生産性と安定性を高めていくことが期待されている。本稿では、農林31号の来歴や特徴、栽培上の注意点などについて紹介する。

1.品種の来歴と特徴

(1)来歴
 農林31号は、台湾の品種「F161」を母親(種子親)、沖縄県農業研究センターの育成系統「RK89−1053」を父親(花粉親)として、1997年に実施した交配で得た種子から、九州沖縄農業研究センターが選抜・育成した品種である(図)。「F161」は脱葉性や黒穂病抵抗性に優れるものの糖度上昇がやや遅く、結果として糖度がやや低いという特徴があるため、早期高糖性を有する「RK89−1053」との交配により品質面の改良を狙った。

 交配種子は1998年夏に播種し、翌1999年度から選抜試験を開始した。2001年度に「KY99−176」の系統名を付与した後、育成地を含む南西諸島各地で生産力を評価するとともに、耐病性を評価する特性検定試験も並行して実施した。その結果、沖縄県の宮古地域と本島北部地域での成績が良好であり、黒穂病や葉焼病への抵抗性にも優れていたことから、2005年度以降は、宮古地域と本島北部地域を対象とする奨励品種決定調査に供試した。

 本島北部地域での奨励品種決定調査では、春植えと株出しのいずれの試験でも一茎重が安定して大きいという特性が認められたが、株出しでの収量性に劣る場合があったことから、試験は打ち切りとなった。

 一方で、宮古地域での奨励品種決定調査では、春植え、株出し、夏植えの3作型のいずれにおいても標準品種と同等以上の可製糖量が得られ、特に夏植えでの成績が良好であった。さらに、中太茎で脱葉性や耐倒伏性にも優れるなど、手刈り収穫の割合が高い宮古地域のニーズに合致した特性を有していたことから、2011年度に同地域向けの沖縄県の奨励品種候補に選定された。

 以上の結果を受けて、2013年4月に「さとうきび農林31号(品種登録名KY99−176)」として農林認定を受けるとともに、2013年6月には宮古地域を普及対象とする沖縄県の奨励品種に正式に採用された。
(2)形態および生態的特性
 農林31号の外観は、宮古地域の普及品種である農林8号や農林27号と比較的類似している。すなわち、いずれも「立葉」で(写真1)、節間の形と横断面は「円筒型」および「円」(写真2)、芽子の形と突出度はそれぞれ「円型」および「強」である(写真3)。各品種の識別には、農林31号では葉鞘の毛群が「少」であり、「極少」の農林8号や「無」の農林27号と異なる点、および農林31号には「浅〜極浅」の芽溝(節部の芽子の付け根から節間上方に伸びるスジ状のへこみ)があるが、農林8号と農林27号には芽溝が無い点が指標となり得る。そのほか、農林31号と農林8号では節間部の蝋物質が「極多」であるが、農林27号では節間の蝋物質が「少」である点でも違いがある。また、同じく宮古地域の普及品種である宮古1号との識別には、同様に宮古1号は葉鞘の毛群と芽溝がいずれも「無」であることのほか、宮古1号の葉身長が「やや長」で、農林31号の「やや短」に比べて長いこと、葉身の葉焼病の程度にも差異があることなどが指標として利用できる。

 農林31号の発芽性は、農林8号や宮古1号と同程度の「高」であり、良好な発芽が期待できる。一方、分げつ性は「やや弱」で、「中」の農林8号や宮古1号より劣る。また、萌芽性は「低」であり、「中」の農林8号や宮古1号より劣る。初期伸長性は「やや弱」で、「中」の農林8号や宮古1号に劣る。登熟の早晩性は農林8号と同程度の「早」である。出穂性は「中」で農林8号より出穂しにくく、梢頭部の側枝発生も比較的少ない。風折抵抗性は「やや強」であり「強」の農林8号よりやや劣るが、「中」の宮古1号より優れている。そのため、折損被害が懸念される風当たりの強いほ場などでは、宮古1号の代替として農林31号を導入することが推奨される。脱葉性は「やや易」であり、「易」の農林8号よりやや劣るが、「難」の宮古1号より脱葉しやすい。耐倒伏性は「強」で、「やや強」の農林8号より優れており収穫しやすいほか、夏植えで生じやすい倒伏による障害茎や枯死茎の発生率低下にも寄与すると考えられる。総じて、農林31号は脱葉性や耐倒伏性、出穂性がバランス良く優れており、手刈り収穫しやすい。また、機械収穫時にも作業性が良好でトラッシュも除去しやすく、中太茎のため原料茎の飛散による収穫ロスも少ないと考えられ、機械収穫への適応性は高いと言える。

 サビ病類に対する抵抗性は「中」であるが、黒穂病抵抗性は「強〜極強」と極めて優れており、葉焼病やモザイク病、梢頭腐敗病への抵抗性も「強」であるなど、総じて耐病性に優れている。メイチュウ抵抗性は農林8号と同程度の「中」である。
(3)収量性および品質特性
 農林31号は、前述のように分げつ性と初期伸長性、および萌芽性にやや劣り、植え付けあるいは株出し処理後の生育は総じて緩慢である。そのため農林31号は生育初期の十分な分げつ発生と茎伸長が期待できる温暖な気象条件が適している。また、夏植えすることで、生育初期の温度環境はさらに良好となる。普及対象の沖縄県宮古地域はこうした環境条件、栽培体系に合致する地域であり、全作型で良好な成績を示し、特に夏植えで安定した高糖多収性を示す。沖縄県農業研究センター宮古島支所における夏植え5作の試験結果では、全ての試験で農林8号より多収となり(表)、5作平均での原料茎重は農林8号比で118パーセントと高水準であった。また、甘しゃ糖度も農林8号を下回ったのは夏植え5作中1回のみで、5作平均では農林8号比で103パーセントの甘しゃ糖度を示した。なお、同支所では春植え6作、株出し5作の試験も実施したが、春植え6作平均の原料茎重は農林8号比で110パーセント、株出しでは同100パーセントであり、甘しゃ糖度の農林8号比は春植えで97パーセント、株出しで同99パーセントであった。

 他方、育成地がある種子島のように、さとうきびにとっては比較的低温条件にある場合は、初期生育がより緩慢となり本来の早期高糖性が発揮できないことに加え、萌芽も不安定となり、株出しでの収量性が大きく劣る結果となった。

2.栽培上の注意点

 既に触れたように、栽培に際しては初期生育がやや緩慢で、株出し萌芽性に劣るという農林31号の特性に注意を払う必要がある。すなわち 1)夏植えを原則として 2)多回株出しは控える 3)株出しする場合は、収穫後速やかに適切な株出し管理を行うとともに、必要な場合には補植を行う−といった点に注意すべきである。

3.おわりに

 以上のように、農林31号は、夏植えでの収量性や収穫時の作業性に優れ、宮古地域の作型、収穫体系に合致する品種である。宮古地域で普及が進んでいる農林27号の不安定要因である風折抵抗性や黒穂病抵抗性を補完する形で、多収化と安定化に寄与することが期待される。また、農林31号と農林27号の初期生育速度の違いを踏まえて、早い夏植えには農林31号を、やや遅い夏植えには農林27号を利用するというように、両品種を組み合わせることで特定時期への労働の集中化が回避でき、適期植え付けの実現にも効果を発揮するであろう。さらに、農林31号は夏植えで早期高糖であることから、他の作物との輪作を考える際の選択肢の幅を広げることにも役立つと考えられる。適材適所の品種利用を実現するには、個々の品種の特性に対する生産者や製糖関係者の関心と理解が欠かせない。本稿が、農林31号に興味を寄せて頂く一助となれば幸いである。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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