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ベトナムの砂糖事情

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最終更新日:2013年10月10日

ベトナムの砂糖事情

2013年10月

調査情報部 植田 彩

【要約】

○ベトナムの砂糖産業は、1995年に制定された「Sugar Program」により、急速な成長を遂げた。この政策終了後は、砂糖生産の伸びは停滞している。近年は小規模製糖工場の集約・統合による生産効率の向上を目指している。

○サトウキビは、全国あらゆる地域で栽培されているため、栽培品種や栽培方法は多種多様である。また、かんがい設備の導入や機械化は進んでいない。一方、近年、サトウキビ価格が下落しており、サトウキビ生産者の作付け意欲減退が懸念されている。

○ASEAN自由貿易協定(AFTA)による2015年施行予定の関税撤廃により、価格面において国際競争力が乏しい同国における砂糖産業の衰退が危惧されている。

○今後の同国における砂糖産業の課題は、最新設備の導入や経営の集約化による製糖工場の効率化および副産物の利用による生産コスト削減である。

1.はじめに

 1990年代に入り、経済成長に連動してベトナム国内の砂糖需要は増加し、国内需要の半分以上を輸入に頼っていた。輸入への過度の依存から脱却するため、国内の砂糖生産の振興を図る「Sugar Program」を1995年に制定し、同国の砂糖産業は急速な成長を遂げた。その結果、1992/93年砂糖年度(10月〜翌9月)に10万トンほどであった砂糖生産量は、2001/02年度には100万トンを超える大幅な増産となった。このプログラムの目的は、 1)国内製糖産業の確立 2)農村地域の振興 3)貧困農民の救済−であり、稲作などに適さない農村地域に、有力な商品作物を根付かせようとするものであった。コメや野菜に比べ、さほど肥沃な土地を必要としないサトウキビ栽培と、製糖工程を必要とする砂糖産業は、農村の自立的な発展、工業化を達成し、農民の貧困化を解決するものとされた。

 2011/12年度砂糖生産量は、130万トンを超えたものの、世界第2位の生産量となるインド、第3位の中国、第4位のタイなど、近隣のアジア諸国と比べると低い水準であり、ここ数年、生産量の伸びは停滞している。また、近年、ASEAN自由貿易協定(以下「AFTA」という。)による関税撤廃により、生産性の高いタイからの輸入増加が予測され、砂糖産業への影響が危惧されており、同国の砂糖産業は新たな局面を迎えている。

 本稿では、ベトナムの砂糖事情について、調査会社社構研の報告に基づき紹介する。なお、為替レートは1ドン=0.0047円、1ドル=98.8円(2013年9月末日TTS相場)を使用した。

2.サトウキビ生産の動向

(1)作付面積と生産量の推移
 「Sugar Program」では「2000年までに砂糖生産量100万トン」を目標としていた。サトウキビ作付面積は、2000年に30万ヘクタールの水準に達したものの、2005/06年度は30万ヘクタール以下となった。その後回復したものの、2007/08年度以降は4年連続で減少した。2012/13年度は、29万7500ヘクタールと以前の水準並みに回復すると予測されている(図1)。

 また、生産量を見ると、2007/08年度の1700万トンを境に、その後は減少し、2009/10年度以降は約1500万トン台でほぼ横ばいで推移してきた。2012/13年度は作付面積の拡大などにより、1900万トンと前年度から大幅増の予測となっている。
 同国のサトウキビの単収は、1ヘクタール当たり60トンと世界の主要生産国に比べ低水準にある。2010/11年度の地域別の単収を見ると、北部は1ヘクタール当たり53.9トン、中部は同52.2トン、南部は同73.7トンと、地域により格差が生じている(表1)。

 この主な原因は、水資源が豊富である南部に比べ、北・中部は天水を利用したかんがいのためである。また、ハノイ農業大学によると、 1)気温、湿度および日照時間 2)生産者の生産意欲 3)栽培品種−の差もその原因と指摘している。
(2)生産地
 ベトナムは、南北に約1,650キロメートルと細長い国土を有している。同国のサトウキビは、亜熱帯性気候で四季のある北部から中部、熱帯性気候の南部までほぼ国土全体で栽培されている(図2)。北部の山岳地域(トゥエンクアン省、カオバン省、ソンラ省、ホアビン省)では、開墾によりサトウキビが栽培され、沿岸地域(タインホア省、ゲアン省)では、コメや野菜などの栽培に適さない内陸部でサトウキビが栽培されている。中部では、南部沿岸地域(クアンガイ省、ビンディン省、フーイエン省、カインホア省、ニントゥアン省、ビントゥアン省)と中部高原地域(ザライ省、コントゥム省、ダクラク省、ダクノン省)でサトウキビが栽培されている。同国最大の農業生産地域である南部では、東南部地域(ドンナイ省、タイニン省)とメコンデルタ地域(ロンアン省、ベンチェ省、チャーヴィン省、ソクチャン省、ハウザン省、キエンザン省、カマウ省)を中心にサトウキビが栽培されている。

 経営形態を見ると、市場経済の導入と、対外開放政策を打ち出したドイモイ政策以降に急増した家族経営と、製糖工場が運営する場合の二通りがある。
 なお、栽培地域が南北にまたがっていることから、栽培方法は多種多様となっている。同国サトウキビ研究所によるサトウキビの栽培歴は以下のとおりである。
 また、機械利用の状況を見ると、共同購入やリース利用などにより耕運機が導入されている程度であり、ハノイ農業大学によると、農地の約60パーセントで使用されているという。一方で、収穫機は、過去に、中国製の収穫機などが導入されたが、故障が多く、普及には至らなかった。また、ハノイ農業大学や農業機械研究所などで収穫機の開発が進められたものの、開発に要する時間と費用の過多により断念しており、現在も手刈りによる作業が行われている。

3.砂糖生産および消費の動向

(1)生産量および消費量の推移
 1992/93年度の砂糖の需給は、生産量は11万2000トン、消費量は15万6000トンであり、不足分を輸入で賄っていた(図3)。1995/96年度以降、「Sugar Program」により生産量は増加し、1998/99年度には生産量が消費量を上回った。2000年に入ると、さらに生産は拡大し、政策目標であった年間生産量100万トンは、2001/02年度に実現された。しかし、2000年に「Sugar Program」が終了し、砂糖産業への補助政策が打ち切られたため、その後の生産量は、ほぼ横ばいで推移した。同プログラムにより建設された製糖工場は、小規模なものが多かったため、生産効率の低い設備での生産が中心となり、生産の停滞を招くこととなった。

 一方、経済成長と人口増加を背景に、国内需要は堅調に増加し、2001/02年度には再び消費量が生産量を上回り、不足分を輸入で賄う状況に陥った。さらに、2007年1月のWTO加盟により、外国産との競合が高まったことで、2008/09年度生産量は100万トンを下回った。その後、小規模な製糖工場などの集約・統合による再編が進められた調整期を経て、工場の生産能力の向上により生産量は回復し、2011/12年度の生産量は130万トン、消費量は135万トンとなっている。

 なお、同国の砂糖生産には、遠心分離機にかけずに砂糖を製造する手工業的砂糖生産(Handicraft)がある。これにより生産された砂糖(Handicraft糖)は、2000/01年度に30万トン近く生産されていたが、2004/05年度にはコスト高の問題から18万トンと大幅に減少している。
 また、同国の1人当たり砂糖消費量は図4のとおりである。2006年の1人当たり年間消費量は、17.04 キログラムと1995年以降最も多かった。その後は、16キログラム台をほぼ横ばいに推移している。ベトナム農業農村開発省(以下「MARD」という。)によると、個人消費向けは、砂糖全体の消費量の約30パーセントであり、業務用向けが約70パーセントである。
(2)製糖工場の状況
 表2はベトナムの製糖工場に関する主要指標を示している。「Sugar Program」による約7億5000万米ドルの設備投資によって、1995/96年度には12であった工場数は、2000/01年度には43工場に増加した。その後、砂糖生産は停滞期に入り、工場数は40工場前後で推移している。生産能力は、1995/96年度の1日当たり1万2700トンから、2011/12年度には同11万2千トンと大幅に増加している。
 次に、表3は製糖工場の実績(2011/12年度)を示している。かつて、製糖工場はすべて国営企業であったが、2000年に民営化された。ただし、1日当たりの原料処理能力は工場により差が大きく、同1,000〜3,000トンの小規模工場から同5,000〜9,000トンの大規模工場と様々である。今後は、小規模工場(同3,000トン以下)の集約・統合による再編が課題となっている。

 また、外国資本の進出は、1990年代末から開始された。フランス系資本ブルボン社の合弁工場「Bourbon Tay Ninh」、英国系資本Tate & Lyle社の合弁工場「Tate & Lyle」、台湾系資本の合弁工場「Viet Nam-Taiwan」、インド系資本の合弁工場「KCP」などが相次いで進出した。これらは大規模な製糖工場を建設したものの、当初予想したほどの収益が確保できず、現在、フランス系資本ブルボン社と英国系資本Tate & Lyle社は撤退している。
 生産者は、製糖工場と契約栽培を行っており、サトウキビ価格は両者間で市場価格を参考にし、CCS(注)10の価格を決定する。製糖工場は生産者への支援(肥料、苗などの提供、耕運機のリース、サトウキビの搬入など)をすることにより、生産者からサトウキビを確保している。

注:CCSとは可製糖率といい、サトウキビのショ糖含有率、繊維含有率および搾汁液の純度から算出される回収可能な糖分の割合のこと。

4.砂糖価格の動向

 砂糖の工場出荷価格、卸売価格、小売価格の推移は図5のとおりである。2003年から2008年にかけて、工場出荷価格はキログラム当たり4,600〜6,500ドン(21.6〜30.6円)、卸売価格は同4,000〜7,700ドン(18.8〜36.2円)、小売価格は同7,500〜1万900ドン(35.3〜51.2円)で推移していた。しかし、2009年に入り、国内生産量の落ち込みによる需給ひっ迫と、国際砂糖価格の高騰により、これらすべての価格は前年の価格水準の約2倍まで上昇し、それ以降も高止まりを続けている。2013年の工場出荷価格は、1キログラム当たり平均で1万4000ドン(65.8円)、卸売価格は同1万4800ドン(69.6円)、小売価格は同2万800ドン(97.8円)であった。なお、小売価格は、都市と地方との間に差がある。ハノイやホーチミンといった大都市に比べ、南部の中心都市カントーでは1キログラム当たり2,000ドン(9.4円)近く安価である。

5.砂糖貿易の動向

(1)輸出入額の推移
  2012年のベトナムの砂糖輸入額は、3346万米ドル(33億600万円)であった(図6)。同国では精製糖(RE糖)と粗糖(RS糖)が輸入されているものの、精製糖の輸入額がそのほとんどを占めている。同年の輸入相手国は、タイが80パーセント以上を占めており、続いてマレーシア14パーセント、インド3パーセントとなっている。また、ベトナムの国内市場価格がタイの砂糖価格よりも高価であることから、年間30万〜50万トンの砂糖が、ラオス、カンボジアを経由し、密輸入されているとみられている。
 一方、同年の輸出額は、3423万米ドル(33億8200万円)であった(図7)。輸出相手国は、中国が90パーセント以上を占めており、続いてシンガポール3パーセント、シリア1パーセントとなっている。中国は、拡大する国内需要を賄うため、ベトナム産粗糖の輸入が増加している。中国の輸出代金の支払いは、ほぼ即金であることから、ベトナム販売業者には魅力ある顧客であり、同国向け輸出が拡大する要因の一つとなっている。しかし、粗糖の中国向け輸出量の急増により、国内の砂糖需給のひっ迫化をベトナム政府は懸念し、2012年には粗糖の輸出抑制策に転じ、同年の中国向け輸出額は3181万米ドル(前年比81.0%減、2億8000万円)大幅に減少した。
(2)WTO加盟
 2007年1月の世界貿易機関(WTO)加盟により、ベトナム政府は3,800品目に及ぶ関税の引き下げ、サービス分野の開放、農業分野の補助金の廃止に合意した。これにより、2014年までに関税が段階的に引き下げられる。砂糖は関税割当が設定され、WTO加盟時に5万トンの輸入割当を決定、その後、毎年5パーセント増加することを約束した。なお、WTO加盟以前には、政府は輸入数量の制限措置を砂糖に適用し、特定の業者のみに砂糖の輸入許可を与えていたが、この措置は、WTO加盟交渉の中で市場アクセスへの自由に違反すると指摘され、廃止された。

 政府は、WTO加盟およびFTAなどの交渉の進展の中で積極的な輸出振興策を展開し、輸出支援優遇融資の拡大や奨励金などの交付を行ってきた。砂糖の国内市場価格が大きく変動した際、政府が設置した価格安定基金から砂糖購入企業へ補助金を交付することにより、砂糖産業を保護してきた。しかし、1999年の輸出奨励基金と価格安定基金の統合により輸出助成基金が設立された。同基金は輸出助成としての性格が強く、また、砂糖産業は輸出産業と位置付けられていなかったことから、輸出支援優遇融資や奨励金などの交付対象から除外された。しかし、2000年以降、政府は砂糖部門の投資企業への利子補給、2004年以降は、砂糖産業の設備投資に対して優遇金利による融資や付加価値税の免除などを行った。

(3)AFTAをめぐる状況
 1992年にアジア諸国連合(ASEAN)の先行加盟6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ)により、AFTA-CEPT(CEPT:共通効果特恵関税)協定の署名がなされ、AFTAはスタートした。3年後の1995年に、ベトナムはASEANに加盟し、AFTAに参加した。

 ASEAN事務局の公表データでは、2009年8月にはASEAN加盟10カ国(先行加盟6カ国+ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)のCEPT適用品目の関税率5パーセント以下(0%含む)の品目数が99.1パーセントを占めている。ベトナムではセンシティブ品目はなく、一時的例外品目を除けば、すべての品目が関税率5パーセント以下に含まれている。当初、砂糖はセンシティブ品目であったが、現行税率は5パーセントとなっている。2010年には先行加盟国6カ国がCEPT適用品目の関税を0%に引き下げた。ベトナムは、CEPT適用品目の関税引き下げ期限を2006年とし、関税撤廃の時期は2015年としているものの、現時点で政府はロードマップを公表していない。ベトナム農業・農村開発政策戦略研究所によれば、現在、砂糖の市場動向をみながら、MARDとロードマップを作成中とのことである。

 これら関税の撤廃は、砂糖産業に深刻な影響を与えると危惧されている。同国の砂糖産業は、他の甘しゃ糖生産国と比べ生産効率が低く、価格面では国際競争力が乏しい。そのため、価格優位性のある外国産の砂糖が国内で流通すれば、国内市場の半分近くが奪われるのではないかとの懸念がある。また、安価な外国産砂糖が流通することで、国内価格が下落し、国内のサトウキビ生産者の収益性悪化も懸念されている。

6.今後の砂糖産業の課題

 前述のとおり、ベトナムの砂糖産業は、1990年代後半から「Sugar Program」による巨額な投資が行われ、サトウキビ農地の造成と製糖工場の建設が進められた。その結果、40以上の製糖工場が稼働することになり、国内の砂糖需要に対する供給体制は確立した。しかし、「Sugar Program」の終了とともに生産の伸びは停滞しているため、今後も増加見込みである国内需要に応えるべく、同国の砂糖生産体制は、現在、以下の問題点について見直しが求められている。

(1)製糖工場の処理能力の限界
 「Sugar Program」により多くの製糖工場が設立されたため、製糖工場の1日当たり原料処理能力は1,000〜2,000トンと、低水準にある。また、製糖工場で使用されている設備の多くが中国製の中古であることから、生産効率が低い。

(2)製糖工場の低い稼働率
 サトウキビ生産者は、製糖工場とサトウキビ栽培契約を締結するものの、市場価格の動向により契約を無視し、他工場に販売してしまうため、製糖工場は十分な集荷が出来ず、結果、工場の稼働率低下を招いている。また、地域によっては集荷範囲に差があり、サトウキビが集荷できずに20〜30パーセントの稼働率しか確保できていない製糖工場もあるという。

(3)サトウキビの集荷効率の低さ
 サトウキビ生産者1戸当たりが所有する平均ほ場面積は、0.5〜1ヘクタールと小規模であることに加え、圃場は点散している。

(4)政府主導による製糖工場再編の停滞
 政府は、小規模工場の集約・統合または撤退を促す方向で検討に入っているが、依然として40工場程度の砂糖企業が存続している。現在、年間原料処理量が15万トン以下の工場は8工場(このほかに2011年データでは圧搾量が不明の工場が2つある)あり、これら小規模工場の再編が課題となっている。

7.おわりに

 現在、ベトナム砂糖産業は、製糖工程での最新設備の導入、小規模経営の集約などによる生産効率の向上が課題となっている。また、バガスによる売電などの副産物の利用などによる収支の改善が求められる。一方、砂糖の生産地域の一部では、サトウキビ産地の集積度の低さ、集荷圏の広さから、効率的な製糖工場への集荷が困難であり、製糖工場の稼働率を低下させているなど、サトウキビ栽培の集約化が求められている。

 さらに、安価な外国産砂糖の国内流通量が増加し、同国の砂糖産業の衰退が危惧される中、最近の国際砂糖価格下落により、同国のサトウキビ市場価格は下落傾向にあり、収益性は低下している。このため、生産者の生産意欲は減退しており、収益性の高いキャッサバ、コーヒー、カシューナッツ、トウモロコシなどへの作付転換による生産量の減少も危惧されている。

 今後、AFTA によるASEAN域内での市場競争はより激しさを増すことが予想されており、同国では、砂糖産業全体の集約・統合を推し進め、国際競争力をもつ産業として確立させることが望まれる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713