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宮古島における防風林の役割と普及の取り組み

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最終更新日:2013年11月11日

宮古島における防風林の役割と普及の取り組み

2013年11月

那覇事務所 伴 加奈子
井 悠輔

【要約】

 沖縄県では、毎年のように台風が襲来し、農作物に大きな被害を与えている。サトウキビ栽培においても、台風を避けることは困難であり、安定的な生産を確保するためには、防風林によって台風の強風害、塩害を軽減することが重要である。本稿は、防風林の役割とともに、県内でも平地が多く台風の被害を受けやすい宮古島における防風林の普及の取り組みについて紹介する。

はじめに

 沖縄県における平成24年産サトウキビ生産量は約68万トンであり、2年連続の不作であった。不作の要因はさまざま考えられているが、台風による強風害、塩害の影響は毎年のように挙げられる。本稿は、台風による被害を軽減させる防風林に注目し、その役割と宮古島における取り組み事例について紹介する。

1.沖縄県と台風

 沖縄県は、台風の襲来地域であり、表に示すとおり、毎年、台風が襲来し、農作物に大きな被害を与えている。

 台風による被害は、強風による農作物の折損、葉片裂傷、落下などはもちろん、台風の強風によって舞い上がった海水による塩害が海岸沿いから内陸までの幅広い地域で見られる。塩害は、台風通過後1〜2週間後に被害が現れるが、海水中の塩分が農作物に付着することによって、農作物の水分吸収を阻害し、農作物を枯れさせるなどといった被害をもたらす。

 平成24年は、沖縄県には例年にない数の台風が短期間に襲来した。サトウキビは台風に強いとはいえ、続けざまに台風が襲来すると、折損・葉片裂傷が増えて、回復できなくなる。生き残ったサトウキビであっても、回復に長い時間を要するため、収穫までに登熟が進まず、品質的に劣ってしまう。

 以上のことから、沖縄県では、台風と向き合いながらサトウキビをはじめとした農作物を栽培する必要があり、台風による強風害や塩害を抑える方法の一つとして、防風林が効果的である。
 

2.防風林の効果

 防風林を設置することによって、風が防風林にぶつかり、分散されることから、防風林は台風による農作物への風害を軽減する効果的な方法である。また、風によって舞い上がった塩分が、防風林に付着することによって、塩害を軽減する効果がある。

 防風林の減風効果は、図1に示すように、樹木の高さHに対して、風上側に5倍(5H)、風下側に20倍(20H)と言われている。つまり、5メートルの樹木であれば、風下側100メートル先まで、減風の効果がある。

 また、防風林はある程度の密植が必要であるものの、密ぺい率6割が最も効果を発揮し、それ以上であると、太陽光を遮ってしまうなどの影響が出てくると言われている。
 
 防風林のサトウキビに対する効果は過去にさまざまな研究がなされており、その一例を図2に示す。宮古島の保良地区、福北地区において、無防風林区、防風林区における、サトウキビの葉数および平均ブリックス(注)Bx)を測定した結果、両地区の葉数と、福北地区の平均Bxにおいて、防風林区が無防風林区に優っていた。葉数が多いことから、防風林によって風害を軽減することができ、成長や登熟に良い影響を与えると考えられる。

注:ブリックスとは、搾汁液中の砂糖を含む可溶性固形分の割合。収穫期のサトウキビのブリックスの80〜90パーセントが砂糖分であるため、糖度を示す目安となる。
 
 さらに防風林は、防風効果や防塩効果の他にも、耕土の流出防止、二酸化炭素吸収による地球温暖化防止への貢献などの環境保全効果や、換金性のある果樹導入による経済効果など、さまざまな多面的効果が期待されている(図3)。
 

3.宮古島における防風林の重要性

 宮古島は、沖縄本島から南西へ約300キロメートルに位置し(図4)、標高の最高地点でも113メートルしかなく、平坦で低い台地である。
 
 平坦な地形であることから農耕に適しており、総面積の52パーセントが耕地である一方、森林面積は16パーセントと、県平均(46%)と比較して小さく、他の地域に比べて、風を遮る山岳などがないため、台風による強風害や塩害を受けやすい。また、農業産出額(図5)からわかるように、サトウキビや葉タバコといった台風の影響を受けやすい作物が多くを占めているため、台風被害により作物生産が大きく左右される地域である。

 特に、平成15年に襲来した台風14号は、電柱や風力発電用風車の倒壊など、約132億円(うち農林水産物の被害は約40億円)の甚大な被害をもたらした。その一方で、防風林の整備された地区での被害が小さかったことから、宮古地区では防風林の重要性が再認識されることとなり、その後の地域による防風林の維持管理活動の取り組みなどにつながっている。

 本稿では、①宮古島で防風林を整備している美(か)ぎ島(すま)みゃーくグリーンネットの活動 ②サトウキビ増産のために製糖工場が行っている防風林拡大の取り組み ③個人で防風林の整備を行っているサトウキビ生産者の取り組み−について紹介する。
 

4.地域協働による取り組み

〜美ぎ島みゃーくグリーンネットの活動〜
 宮古島では、先に挙げた平成15年の台風14号をきっかけに、公的な防風林の整備(グリーンベルト構想)が行われるようになった中、地域住民が主体となって、防風林などの植樹を行うボランティア組織、美ぎ島みゃーくグリーンネット(以下「グリーンネット」という。)が平成17年6月8日に設立された。

 グリーンネットは、宮古地区において造林などの緑化推進事業を行う宮古森林組合が事務局となり、個人および団体の会員から年会費を集め、防風林などの植樹や維持・管理活動を行っている。現在の会員数は個人218名、団体52団体となっている(平成25年5月末現在)。

 グリーンネットでは、森林を増やす目的で行う植樹の際に、数種類の樹木を混植している(写真1)。成長の速度が異なる樹木を植えることによって、早期に防風林の効果を発揮させ、なおかつその効果を長期的に持続させることに加え、病虫害などによるリスクを分散させる狙いがある。
 
 グリーンネットでは、植樹はもちろん、防風林が健全な状態で、本来の機能を発揮できる状態に保つための保育活動・維持管理活動に力を入れている。宮古地区では、土地改良事業などで整備された農地防風林などにおいて、適切な管理がなされず、防風林としての機能が十分に発揮できていなかった箇所などがあったことから、グリーンネットではこれらの管理が必要な防風林帯などにおいて、最低年1回の下草刈り・補植などをボランティア活動として実施している(写真2)。

 作業を実施する防風林帯(水源涵養林を含む)は11カ所と多く、これまでに延べ43回の活動を実施している(植樹作業も含む)。今年度はさらに4回実施する計画に加えて、高校生などのインターンシップを受け入れた活動も行う予定である。グリーンネットは、災害に強い島と花と緑の美ぎ島づくりを、100年の大計で持続的に行うことを目的とし、「植える」「育てる」「ふれあう」の3つの柱を軸に活動を行っており、高校生や子供と一緒に植樹を行うなど、教育の観点からも力を入れている。

 グリーンネット事務局は、今後の課題として、①資金の確保 ②作業参加者の確保 ③植樹後の維持管理を住民が行う体制づくりと意識づくり―を挙げる。下草刈りなど多くの作業が必要な育成途中の防風林帯がまだ多く存在することから、今後もボランティア参加者・地域住民による活動が継続的に行われるよう活動を続けていきたいとのことであった。
 

5.製糖工場による取り組み

〜沖縄製糖株式会社の活動〜
 グリーンネットや行政機関においては、島全体の緑化推進活動として防風林の整備を行っているが、ここでは、サトウキビ増産のための事業の一つとして、防風林用の苗木の購入助成を行う、沖縄製糖株式会社の取り組みを紹介する。

 同社では、先に挙げた平成15年の台風14号による被害や、相次ぐ台風被害による平成16年産サトウキビの大幅な減産(21万8000トン)を受け、災害に強い栽培環境を整えるため、平成17年より、防風・防潮林の苗木の購入に対する助成事業を始めた。

 同事業では、サトウキビ生産者に植栽活動の意識を高めてもらうため、無償配布ではなく、1本当たり100円での販売を行い(通常の取引価格は300円〜)、テリハボクを中心としてフクギ・イヌマキなど、これまでに1万本を超える苗の助成を行っている。

 一方、防風林を植えることによる作付面積の減少、防風林の近くのサトウキビの日照が遮られることを懸念し、生産性の向上に結び付かないと考える生産者も多いという。そこで、同社では、防風林の効果を生産者に理解してもらえるように、同社の実験ほ場の周囲に防風林を植えている。

 同社によると、写真3のように、農地の4辺を防風林で囲むことが最も効果的であるが、近年ハーベスタの導入が進む宮古島においては、ハーベスタの作業効率を考え、ほ場の2辺を防風林で囲むだけでもかなりの防風効果が期待できるとのことであった。この防風林(写真4)は、6〜7年前に整備されたものであるが、テリハボクは成長も早く、すでに防風機能を発揮していた。また、同社では管理作業がしやすいよう樹高を2〜3メートルの高さに剪定していたが、これでもサトウキビに対して十分な防風効果を発揮しているとのことであった。
 

6.サトウキビ生産者による取り組み

 先に述べたように、作付面積の減少や維持管理作業の発生などから、生産者個人で防風林を整備している例はそう多くはない。そのような中、個人で防風林を整備し、長年にわたり管理を行っているサトウキビ生産者にお話を伺うことができた。

 宮古島市平良でサトウキビ生産を行う南風原栄氏は、1.4ヘクタールのほ場の周囲に椿を中心とした防風林を整備している。サトウキビを搬出する道路を整備すると同時に、生垣として椿やハイビスカスを植え、その椿やハイビスカスは現在防風林として、北風からサトウキビを守り、塩害が軽減されたことで生育も良くなったという。また、南風原氏は椿を植えてから以前よりも野鼠の被害が軽減されたと感じており、「野鼠がサトウキビではなく椿の実をかじるようになったからでは」と話す。

 南風原氏は毎朝30分ほど防風林の剪定を行っている。ほ場の周囲には美しい並木が形成されており、花の咲く時期には見学に訪れる人もいるという。
 
 さらに、椿の種子から採れる椿油は食用・化粧品としての利用も可能である。宮古島の椿愛好家により2005年に結成された「宮古椿の会」では、実際に防風林や生け垣として植えられた椿の種子から椿油を搾油し、販売も行っている(写真6)。生産量が少ないため、現在は個人での取引しか行っていないとのことであるが、換金性果樹の導入など防風林の二次的な利用価値として参考になる事例であろう。
 

7.まとめ

〜サトウキビ栽培と防風林〜
 以上を踏まえ、サトウキビ栽培において防風林を整備する場合に以下の項目に注意する必要があると考えられる。

(1)管理が可能な範囲での植樹
 防風林が成長するまでは、下草刈り・補植といった植樹後の保育・維持管理作業が極めて重要である。これを怠ると、防風林の生育が遅れ、機能を十分に発揮しない。自らが管理できる範囲で植樹をすることや、雑草の発生を防ぐために、密植するなど工夫をしながら植樹することが必要である。

(2)機械作業を考慮した植樹
 サトウキビの栽培ではハーベスタなど機械を用いた作業も多く存在する。防風林によって、機械の進入経路を塞ぐことや、Uターンする空間を塞ぐことなど作業効率の低下を招かないよう注意が必要である。

(3)数種類の樹木による混植
 防風林は、植えた直後に効果を発揮するものでなく、樹木のある程度の成長後に効果を発揮する。成長速度の異なる数種類の樹木を植えることによって、防風林の効果を早期に発揮させることや、長期的に効果を持続させることが必要である。

 防風林を植樹する際は、サトウキビの栽培を思い浮かべながら、5年先、10年先を見据えて樹種の選定や配置を行うことが重要である。

 宮古地区をはじめ、沖縄県では、農薬の普及により、夏植え体系から、春植え、株出し体系にシフトしつつある。春植え、株出しは、夏植えに比べ台風の影響を受けやすいことから、今後、サトウキビを安定的に生産していくにあたり、台風対策として有効な手段である防風林の重要性はますます増していくだろう。

おわりに

 これまで土地改良事業では、効率的な土地利用に重点を置いた農業基盤の整備を進めてきたことから、積極的に農地防風林の整備が行われることが少なく、台風による被害を受けやすくなっている。しかし、近年、甚大な被害をもたらす台風の襲来を機にその効果が見直され、現在、土地改良事業の基盤整備や農地防災事業により農地防風林を整備するだけでなく、前述の地域や製糖工場による防風林の維持管理活動の取り組みが行われている。

 一方で、防風林は効果を発揮するまでに時間を要することなどから、その重要性が生産者に十分浸透していないのが現状である。沖縄県では、この状況を改善するため、毎年11月の第4木曜日を「防風林の日」と定め、植樹や講演会を開催し、防風林の重要性を広く県民に普及啓発するための取り組みを行っている。

 沖縄県の取り組みや本稿を通して、一人でも多くの方に防風林の重要性が伝わり、防風林によって台風被害を軽減することにより、安定したサトウキビ生産につながることを期待したい。

 最後に、業務ご多忙の中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆様に心から厚く御礼申し上げる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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