[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > その他 > 砂糖は脳を活性化する

砂糖は脳を活性化する

印刷ページ

最終更新日:2014年1月10日

砂糖は脳を活性化する

2014年1月

浜松医科大学名誉教授
NPO法人「食と健康プロジェクト」理事長 高田 明和

【要約】

 ブドウ糖は、人の記憶、認知力に影響を与える。ブドウ糖摂取により記憶力が向上することが明らかになっている。ラットの腹腔にブドウ糖を注入した試験では、海馬のブドウ糖量が増加し、位置記憶が向上したとの試験結果がある。また、ラットや乳児などを対象にした試験では、砂糖の摂取により快感反応が示され、ラットの側坐核、皮殻、視床下部の一部などが活性化することが示されている。

はじめに

 「砂糖が脳に悪い」と主張する学者は日本にも多い。その根拠は理解しにくいが、糖尿病のようなインスリン抵抗性(標的となる細胞でインスリンが作用しにくい状態にあること)の人は認知力に低下を来し、認知症に進展する可能性があるという論文によるものと思われる。

 米国ワシントン大学のコラートンら(Cholerton,B.,Eur.J.Pharmacol. 719;179,2013)は、インスリンが脳を保護する作用があり、糖尿病のようなインスリン抵抗性が認知症の危険を高めることから、インスリン抵抗性を減らす治療法を提案している。また米国ブラウン大学のデラモンテら(de la Monte S.M. Drugs 72;49,2012)は、「インスリン抵抗性は認知症の病因とされるアミロイド前駆体を増やし、βアミロイドの沈着を促進する」という最近の研究の総説を発表している。

 本誌2013年10月号で高尾らは、高齢者に砂糖とブドウ糖を投与した際に、砂糖負荷の正常人の血糖値はブドウ糖負荷の血糖値の半分であること、さらに砂糖負荷はブドウ糖と同じ程度に血糖値を上昇させ、決して砂糖負荷が急速な血糖値上昇をもたらさないことを示した。「砂糖が脳に悪い」という説を説く者は、砂糖が血糖値を上げ、結果としてインスリン抵抗性をもたらすという考えに基づいていると思われる。しかし、私たちの研究は明確にこれを否定し、砂糖は他の炭水化物に比べ、血糖値を上げないことを示している。このことは砂糖摂取が認知症につながるという説を明確に否定している。

 私たちは砂糖が脳に与える影響を三つの分野で検討しようとしている。それらはブドウ糖によりすでに検討されているものであるが、砂糖を与えて、そのような効果を研究した報告はない。

 第一は砂糖摂取が記憶、認知力に与える影響である。これは高齢者、認知症患者についてブドウ糖では行われている。

 第二は砂糖摂取が記憶の中枢の一つである海馬のブドウ糖濃度を増やし、記憶の過程で消費されたブドウ糖を補うということである。

 第三は砂糖を舌の味蕾にある砂糖受容体(スクロース受容体)に与えると、その刺激は顔面神経、舌咽神経を伝わって、脳の快感中枢とされる側坐核を刺激し、中脳水道周囲核を刺激してβエンドルフィンを出させることを示そうとするものである。

 本稿では、これらの三つの分野におけるブドウ糖の検討結果と、私たちが砂糖により検討しようとしている内容を紹介する。なお、本稿では蔗糖を砂糖と称する。

1.ブドウ糖と脳機能

 ウエールズのスワンセア大学のベントンら(Benton,D.J.Biosoc.Sci.28;463,1996)は、186名の20歳の女性に物語を聞かせ、どのくらい覚えているかを調べた。血糖値と記憶力を比較すると、血糖値が65mg/dl以下ではウェクスラー式知能検査(注)で8点程度だったのが、130mg/dl以上では14点になっていた。

 また別の研究では、137名の若い男性と47名の女性に朝食を抜いた後にブドウ糖を飲ませ、言語の記憶を調べたところ、水摂取後では8.6点だったのが、ブドウ糖摂取後では10.7点になっていた。しかし、朝食を摂取した場合にはブドウ糖負荷の影響はなかった。つまり朝食は脳の機能を高めることが示された。

  20歳の女性80名にブドウ糖を与え、例えば、「T」から始まる単語をできるだけ多く思い出すようにさせると、水摂取後では40点であったのに対し、ブドウ糖摂取後は45点であった。さらに彼らは、60〜80歳の高齢者に「サッカリン」と「サッカリンプラスブドウ糖」を与え、文章作成能力、文章の理解力を調べた。すると、図1に示すようにブドウ糖負荷はこれらの能力を著しく高めた。サッカリンのみではこれらの能力が良くならないことは、甘いという味覚の問題ではないことを示している。
 
 一方ゴールドら(Gold,P.E. Neurobiol.Learning and Memory 82;230,2004)は、認知症の患者にブドウ糖、あるいはサッカリンを与え、記憶をテストした。すると文章の記憶は、ブドウ糖群がサッカリン群の点数の約2倍になっており、言語の記憶も約25パーセント増えていた。さらに顔の記憶、位置の記憶、言葉の認識、言葉の意味などの理解も向上していた。

 このことはブドウ糖が脳の活性を高めていることを示しているし、それは認知症の患者についても言えることを示している。

(注)ウェクスラー式知能検査
 ディビッド・ウェクスラーによって開発された知能検査であり、「動作性IQ」「言語性IQ」「全検査IQ」が測定できる。

2.ブドウ糖は海馬の機能をよくする

 海馬は短期記憶の中枢である。記憶は海馬で処理され、大脳皮質のいろいろなところに送られ長期記憶になる。有名なH.Mという患者は、てんかん治療のために両側の海馬を摘出した。その結果、彼は記憶を長期記憶にすることができず、覚えたものもすぐに忘れてしまうことになった。神経細胞はブドウ糖をエネルギー源として使用し、神経細胞の活動はブドウ糖の消費を高める。ブドウ糖負荷が海馬のブドウ糖濃度を高めるか、さらにそれが海馬の機能を向上させるかは大きな問題である。ゴールドらは、海馬のマイクロダイアリシス(注1)を用いこれを検討した。

 まずラットに迷路実験をさせる。彼らの使用した迷路は交代行動と呼ばれる。中央の箱から四方長方形の箱が伸びている。ラットを中央の箱に入れるとラットは順番に細い箱に入り、出てくると次の箱に入るという行動を繰り返す。この際に途中で戻ったりせず、順番に4つの箱を探索すれば成功である。この実験を行っている間、ラットの脳の海馬から採取した液体のブドウ糖量を測定したものが図2である。迷路実験をすると明らかに海馬のブドウ糖量が低下する。そこで今度は腹腔にブドウ糖を注入し、同じ実験を行う。すると海馬のブドウ糖量は上昇する(図3)。そして、迷路実験の成功率は何もしないとき、腹腔に生理食塩水を注入した際は約55パーセントだったが、ブドウ糖を注入すると約75パーセントに上昇する。つまり、海馬のブドウ糖量が増加すると、位置記憶がよくなるのだ。

 私たちはモリスの水迷路(注2)という方法を用い、この実験を砂糖、ブドウ糖の比較において行うつもりである。

(注1)マイクロダイアリシス
 ブローブの半透膜により、物質を連続して回収する方法。この場合、ラットの海馬にカニューレを挿入し、液で還流させ、この液を適時採取し、ブドウ糖量を測定する。

(注2)モリスの水迷路
 空間学習、参照記憶のテストを行う手法の一つ。水を張った円形プールの水面下に浅瀬となるプラットフォームを置き、ラットをプールの端から入れて、プラットフォームに到達するまでの時間を測定する。このテストを複数回行い、到達までの遊泳時間を基に学習・記憶を測定する手法。
 

3.砂糖による脳の意欲の中枢(側坐核)やエンドルフィン放出への影響

 米国ウィスコンシン大学のベリッジら(Berridge,K.C.Neurobiol.and Behav.Rev.24;173,2000)は、動物およびヒトの摂食行動と脳への影響を研究した。

 ラットやマウスは好むものに対し快感反応(hedonic reaction)を示し、嫌いなものに忌避反応(aversive reaction)を示す。快感反応には、「舌を突き出す」「口をなめる」「手をなめる」などの反応があり、ヒトの場合には乳児で実験するが、「笑う」とか「眠りだす」などの反応を示す。一方、忌避反応にはラットやマウスで「ゲップ」「口を動かす」「口を指で触る」「頭を振る」などの行動があり、乳児では吐き出し、泣き出す。

 そこで「甘味(砂糖)」「水」「酸っぱいもの」「苦いもの(キニンなど)」を与え、反応を見た。するとラット、マウス、乳幼児ともに砂糖を与えたときは快感反応を示したが、酸っぱいもの、苦いものには忌避反応を示した。その際にラットなどの脳が活性化されるところを調べると、側坐核、被殻、視床下部の一部、脳幹のベンゾジアゼピン反応部位などが見いだされた(図4)。これをヒトを用いてfMRI(機能的磁気共鳴画像)により解明しようというのが私たちの目的である。それをヒトの脳を用いて図式化すると図5のようになる。
 
 
 砂糖など快感領域を刺激する物質を口に入れると、その刺激は顔面神経とか舌咽神経を伝わり、まず一時体制感覚野に向かう。その刺激は島という部分で忌避反応の場合には扁桃体に送られる。快感の場合には側坐核、被殻などに送られるのである。同時に中脳水道周囲核を刺激し、そこからβエンドルフィンを出させる。

 脳幹にも快感を感ずる部分があり、ボンベシンを伝達物質として用いていることが知られている。そのためにラット、マウスの大脳を切除しても甘いものには快感反応を示し、苦いものには忌避反応を示す。無脳症の乳児に甘いもの、苦いものを与えると快感反応、忌避反応を示すことが知られている。つまり甘いもの、苦いものに対する反応は進化の非常に早い時期に脳内に形成されるのだ。

 砂糖はブドウ糖ほど血糖値を上げないが、血糖値を上げることは事実である。すると快感をもたらし、脳を活性化するという性質をもっている。私たちはこれをヒトを用いて証明しようとしている。この系を図6に示す。
 

おわりに

 これらの結果はブドウ糖を用いて得られたものである。しかし、砂糖も血糖値を上げる。その上昇の速度はブドウ糖投与の際と変わらない。

 砂糖を用いて同じような研究はなされていない。私たちは、児童、生徒などに砂糖を投与して記憶、理解などが改善されることを示そうとしている。それにより、勉強に疲れたときに甘いものを与えても血糖値をあまり高めずに脳機能を向上させることを証明できる。また、高齢者に同じようなテストをすることで、高齢者の認知機能の衰え、認知症への移行を食い止めることができると考えている。

Sugar activates brain activities
Akikazu Takada
Prof.emeritus Hamamatsu Univ.School of Medicine, Chairman of NPO” International project on food and health”
Sugar enhances memory in humans. After taking sugar, memory functions improve and higher blood glucose levels result in better memory. Sugar injected ip increases glucose levels in hippocampus and improves orientation memory in rats.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.