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徳之島サトウキビ生産の作業受託組織の経営効率性に関する分析と考察

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最終更新日:2014年7月10日

徳之島サトウキビ生産の作業受託組織の経営効率性に関する分析と考察

2014年7月

宇都宮大学農学部農業経済学科      准教授 神代 英昭
東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程 今井 麻子
独立行政法人農畜産業振興機構調査情報部    前田 絵梨

【要約】

 徳之島のサトウキビ生産では、収穫作業を中心に作業受委託が進展しているが、農地基盤整備の状況や受託組織間の競争などにより地域ごとの効率性に差が生じている。島内の受託組織を対象に実施したアンケート調査の結果を基に、受託組織の経営効率性についての実態を分析したところ、ほ場の単収や作業効率を反映しきれていない作業料金設定やほ場の分散問題など、効率化を進める上で解決すべき課題が見えてきた。今後は、地域の条件やほ場条件に即した弾力的な料金設定や、地区担当制など作業効率性を高める方向を検討する必要性があると考えられる。

はじめに

 サトウキビは台風や干ばつに強く、これら自然災害の常襲地帯である鹿児島県南西諸島や沖縄県においては、地域経済を支える基幹作物となっている。しかしながら、サトウキビ生産現場では、生産者数の減少や高齢化などの進行により、生産基盤の強化が急務になっている。今後も栽培面積を確保するためには、作業受委託や集落営農による作業の共同化や効率化を進めることなどが必要である。

 このような状況の中、当研究グループは、作業受委託を進展させてきた徳之島のサトウキビ生産について、平成23年度から作業受委託に焦点を当てた調査を実施してきた。平成23年度、24年度の調査結果については、本誌2012年7月号、2013年6月号で報告したところである。本稿では、これまでの調査結果を踏まえた上で、平成25年度の調査結果を中心に報告する。

1. 徳之島のサトウキビ生産における作業受委託の現状と本調査の目的

(1)徳之島のサトウキビ生産における作業受委託の現状

 徳之島は、サトウキビ生産における作業受委託を進展させてきた地域である。特に島内のハーベスタ収穫率は90%を超えており、収穫作業を中心に、作業受委託が重要な位置付けにある。しかしながら、地域ごとに見ると、農地基盤整備の状況や作業を受託する組織間の競争状態などの地域差により、作業受委託の効率性に差が生じている。また、徳之島は平成23年産、平成24年産と不作に見舞われ、生産者のみならず作業受託組織(以下「受託組織」という)にとっても厳しい経営状況を生み出している。

 特に受託組織にとって大きな負担になっている費用は、燃料費および機械修繕費である。燃料費は、離島という条件において既に割高な上に、近年の原油価格の高騰が負担をさらに大きくしている。また、もう一つの機械修繕費は、受託作業を行う地域のほ場条件に大きく左右される。例えば、基盤整備事業が行われておらず、岩が地中に隠れているようなほ場や、砂地で金属部品の摩耗が早いほ場では、部品交換・修理の頻度が高くなる。さらに機械の老朽化とともに機械修繕費は大きくなる上に、一部の機械を修理する際に島外への輸送が必要であり、その分費用もかさんでしまう。

 費用が増大する一方、それを回収するための作業料金は固定化される傾向にあり、燃料費の高騰は作業料金に反映されない。また、地域一律の作業料金設定は、ほ場条件の差から生まれるリスクを受託組織が負担することを意味する。このようなリスクは豊作であれば見えづらいものの、近年の不作によって問題が表面化した。特に、受託面積が大きくなるほど、深刻な状況にある。

 作業受委託に支えられている徳之島のサトウキビ生産において、島全体での生産の安定化・効率化を図るためには、受託組織の安定化・効率化を図ることが重要である。そこで今回は、受託組織の経営効率性についての実態を分析するとともに、徳之島のサトウキビ生産の効率化や安定化に向けた今後の課題やその解決策についても提案してみたい。

(2)過去2年間の調査と平成25年度調査の関係性

 1年目(平成23年度)は、徳之島3町の生産者138戸を対象としたアンケート調査を実施し、サトウキビ生産に関する意識と行動の定量的な把握を試みた。その結果、生産者の意識・行動における個人差や地域差が非常に大きいことを明らかにし、島全体の生産のあり方を考える際には、個人差や地域差を配慮して対策を講じることが重要であると指摘した(注1)

 2年目(平成24年度)は、対象の異なる2つのアンケート調査(「天城町全域の受託組織33組織」 「天城町内の3集落の生産者86戸」)の結果を総合して、作業受委託の現状について整理した。その結果、設立時期や担当地域によって、受託組織が直面する課題や意識・行動が異なることや、全体的に受託組織にとって不利な状況が生まれており、将来的な不安につながりかねないことなどを明らかにした(注2)

 ところで過去2年間の調査を振り返ってみると、生産者や受託組織に関するアンケート調査が中心であったため、各主体の意識・行動の差が大きいことは明らかにできても、その差がなぜ生まれているのか(要因)、そしてその差がどのような結果につながっているのか(因果関係)は、明らかにできなかった。そこで3年目(平成25年度)の調査では、要因や因果関係を強く意識しながら、検討することを試みた。具体的な調査手法としては、まず徳之島全域の受託組織を対象に、作業受託と自作経営に関するアンケート調査を実施した。そしてその結果を、南西糖業(株)が保有する「電脳手帳」の出荷実績データと連動させ、受託組織の経営効率性について考察していく。

(注1)詳細は、「徳之島におけるさとうきび生産者の意識と行動把握の必要性と現状」『砂糖類情報』2012年7月号を参照。
(注2)詳細は、「徳之島のサトウキビ生産における作業受委託の現状〜受託組織に対するアンケート調査を中心に〜」『砂糖類・でん粉情報』2013年6月号を参照。

2. 平成25年度調査におけるデータ入手と分析の方法

(1)アンケート調査による受託組織のデータ入手

 徳之島全域の受託組織67組織に対し、調査票を用いた対面ヒアリング形式でアンケート調査を行った。実施時期は平成25年11月中旬である。具体的な調査項目は、作業受託については「受託組織のタイプ」「開始時期」「受託内容」「受託料金体系」「経営方針」など、自作経営については「世帯内労働力」「雇用労働力」「保有機械」「農薬・肥料費」「水利費」などとし、得られたデータを分析に使用した。

(2)南西糖業(株)の「電脳手帳」の再集計による作業受託実績データの入手

 徳之島では従来から、製糖工場が各地区に担当員(業務委託契約調査員)を配置し、ほ場ごとの植え付け、生育、収穫・出荷状況を記録するとともに、そのデータを集計し製糖工場に報告する仕組みを構築していた。この仕組みを生かしながら先進的にIT化を進め、平成16年産以降は「電脳手帳」システムを導入し、出荷・搬入に係るデータをほ場ごとに収集し、活用している。収集されたデータの具体的内容は、「サトウキビの作型」「品種」「植え付け面積」「収穫量」「収穫・搬出作業の担当者と実施日」などである。本調査に当たってはアンケート調査と連動させ分析することを目的に、ほ場別に収集されている「電脳手帳」データを、収穫・搬出作業の担当者(受託組織)ごとに再集計した上で分析に用いた。

(3)受託組織の経営効率性に関する分析方法

 経営体がいかに効率的に運営されているかを判断する目安として、投入される資源(入力)と産出される成果(出力)の比率に注目し、より少ない入力でより大きな出力が得られる方が効率的であると見なす考え方がある。

 この考えに基づき、まず投入される資源(入力)のデータとして、(1)で得られたさまざまな受託組織の資材や費用の投入データを利用し、産出される成果(出力)の技術的な限界(生産フロンティア)を求めた(注)。具体的な投入データとして、「世帯内労働延べ日数」「雇用労働延べ日数」「機械の種類とその能力(馬力)」「自作サトウキビ経営面積」「化学肥料・有機肥料・除草剤費」「年間光熱費」「かん水費用」「機械修理費」「作業委託料」を用いた。

 そこで求められた技術的な限界と、産出された成果(出力)の実際値を比較することで、経営効率性を計測している。産出された成果(出力)の実際値のデータとして、(2)で得られた実際の経営成果(収穫作業の受託料金と自作分のサトウキビ販売代金)を利用した。

 今回の対象期間は、両者のデータの整合性が確保できた平成23、24年産の2カ年である。この手法により各受託組織の経営効率性を計測するとともに、特に効率性が低い経営を取り上げ、その要因についても分析する。ちなみにこの効率性の指標は、基本的に0から1の間に分布し、1に近づくほど、技術的な限界に近く、効率性が高いことを意味するものである。

(注)実際の資材や費用の投入データから、線形計画法により投入要素の線形結合としてのフロンティアを導出する、包絡分析法(DEA:Data Envelopment Analysis)による。

3. 受託組織の経営効率性に関する分析結果

(1)受託組織の経営効率性の差の分布状況

 まず全体的に、受託組織の経営効率性においてどの程度のばらつきがあるかを計測したところ、図1のようになった。この図の横軸は効率性の計測結果であり、縦軸はその頻度を表す。
 
 今回の効率性の計測結果をみると、効率性の高い1付近に分布が偏っていることが分かる。特に平成23年産はその傾向が顕著に表れている。ただし注意を要することだが、今回行っている各年産内の効率性の計測は、特定年における経営間の相対的比較を行うことに近い考え方である。そのため、特定年の分布状況において効率性の高い1に偏っている結果が得られたとしても、それがそのまま絶対的に効率性の高い経営がそろっているという状況を表すわけではない。例えば、不作で島全体の生産状況が悪くなった年には、収穫量が全体的に悪くなり、効率性の差が出にくくなってしまう。今回の分析対象期間が、不作であった平成23年産と平成24年産であったことも、効率性の高い1付近に分布が偏った計測結果に影響している。今後は、平年時にもデータを積み重ねて検証する必要があるだろう。ただし、ある意味特殊な状況下にあった今回の計測結果においても、効率性の最小値は両年ともに0.1付近であり、効率性の改善が求められる経営体も少なくなかった。また不作の年にこそ、豊作の年には見えづらい作業受委託に関する問題点が見えやすくなるという声も、ヒアリング調査で確認できた。

 そこで以下では、受託組織の経営効率性に影響を与える要因に関して、データを基に分析していく。今回は作業受託のデメリットに関して尋ねた結果(図2)を踏まえて、3つの要因(「作業受託規模と効率性」「作業受託規模と自作経営の単収」「作業受託のほ場条件と効率性」)に絞って分析していく。
 

(2) 受託組織の経営効率性の差の要因分析

ア. 作業受託規模と効率性
 まず作業受託の規模を表す指標として、収穫量および収穫面積に注目し、経営効率性との関係を分析する。

 第1に、受託組織ごとの収穫量を、作業受託規模指標としてみたものが、図3である。収穫量が多くなるほど、効率性は高くなり、効率性の指標が1に近づいていく傾向が読み取れる。南西糖業鰍ノよると、ハーベスタ1台当たりの収穫可能量は年間100日操業の場合、約2000トンとされているが、まさに、その2000トン付近から効率性が1に近い値に集中しており、計測結果を裏付けている。
 
 第2に、受託組織ごとの収穫面積を、作業受託規模指標としてみたものが、図4である。収穫面積が拡大するとともに、効率性が高くなっていることは、収穫量の場合と同様である。ただし、収穫量の場合と異なるのは、一定以上の規模を超えても、効率性が1に集中していくとは言いがたいことである。特に、収穫面積が40ヘクタール未満の受託組織では、効率性の指標の分散が大きい。
 
 以上のことから、作業受託の効率性への影響力が大きい作業受託規模指標は収穫量であることが読み取れる。受託組織は規模拡大の手段として面積拡大を目指すわけだが、たとえ面積拡大を実現できたとしても、実際には受託したほ場の生産実績が高いか、あるいは低いかで、経営に与える影響は大きく異なるのである。

イ. 作業受託規模と自作経営の単収との関係
 図2では、自作分の作業・管理が不自由なことが作業受託のデメリットとして指摘されていた。作業受託の面積が拡大するにしたがって、自作分のサトウキビ経営が後回しになる傾向が強く、植え付け・管理作業が遅れたり、収穫に関しても、本来は機械を入れるべきではない雨天時に自作経営を優先せざるを得ない結果、単収が低下してしまうようである。

 平成25年度調査でも、この2年連続した不作の中で、受託を縮小し、自身の経営に専念する方針に切り替えるという受託組織も一部存在した。しかし、島全体のサトウキビ生産が作業受委託に依存する傾向が強い現状において、受託組織が受託規模を縮小させるということは、作業受委託やサトウキビ生産の継続性を揺るがす問題となりかねない。

 そこで、作業受託規模が自作経営の単収に及ぼす影響についてみてみる。ハーベスタ1台当たりの収穫面積と、自作経営の単収との関係を見たものが図5になる。
 図5によると、ハーベスタ1台当たりの収穫面積が増えたからといって、自作経営の単収が低下するといった傾向は明確にはみられなかった。ただし、一定の収穫面積規模に到達するまでは自作経営の単収の分散が大きいものの、収穫面積が拡大するにつれて単収の分散が小さくなっている。このことは、比較的規模の大きい受託組織では自身のサトウキビ経営は安定しているが、規模の小さい受託組織では安定しづらいことを示唆している。この結果の背景には、受託組織の交渉力の差が影響していると予想される。多くの受託組織では、受託面積の維持・拡大のための工夫として、委託農家から伝えられた作業時期の要望に、積極的に応える傾向にある。しかしながら、収穫繁忙期に各委託農家からの細かい要望に個別に対応することは、手間や時間を要する。

 ヒアリング調査によれば、一定以上の受託規模を抱える受託組織では、機械オペレーター以外に、委託農家との意向調整を引き受ける人材や環境が整えられている。一方で、規模の小さい受託組織では、機械オペレーターが日々収穫作業を行いながら、委託農家との意向調整も併せて行わざるを得ないため、面倒な交渉を避ける傾向がある。また、受託規模の小さい受託組織であれば、一定量の収穫面積を維持していくためには、顧客離れを懸念し、委託農家の要望を積極的に受け入れざるを得ないという状況もある。特に、自作経営の面積を十分に確保できていない場合に、こうした傾向がより強くなる。従って、受託組織の交渉力の差が、自作経営の単収に影響を与えていると考えられる。

ウ. 作業受託のほ場条件と経営効率性
 図2では、委託農家の単収が低く作業が割に合わないことや、一度受託すると断れないことが、作業受託のデメリットとして指摘されていた。

 受託組織は委託農家との関係を、血縁・地縁などの人間関係に基づいて、長期的に構築する傾向が強く、その結果、収穫面積に変動が少なく安定している。一方、自然災害や病害虫発生などによって、単収や収穫量は年により大きく変動し、受託組織の経営効率性に対し大きな影響を与える。受託組織は、製糖期の製糖工場の操業計画に基づいて、一日の処理量を割り当てられるが、その後の具体的な作業の場所や手順は、ハーベスタのオペレーターの判断で進められている。割当量を確保することが優先されるため、単収の低いほ場を請け負う場合、ハーベスタを稼働させる面積を増やす必要があり、その分、燃料費・人件費などのコストが掛かってしまう。逆に、単収の高いほ場であれば、コストが抑えられる。

 そうした意味で言えば、ほ場の単収は受託組織の経営効率性に関わる大きな要因となるが、根本的な要因である単収の不安定性を緩和できるのは、多くの場合委託農家であり、受託組織は直接的には影響力を発揮しづらい(注)。そのため各受託組織は、委託農家の質を確保していくことによって、経営の効率化を図ろうとする。より安定的で生産性の高い委託農家を確保できれば、一定量の収穫量を安定的に確保することができ、受託組織の経営の効率化につながるからである。どのランクの顧客をどれだけ確保できるかが、経営にとって重要な課題の一つといえる。

 次の図6は、全受託収穫量のうち、JAの作業料金表(詳しくは後述)において最も条件の悪いDランク(単収が10アール当たりおおむね3トン未満)の収穫量が占める割合と、経営効率性の関係を見たものである。条件が悪いほ場の割合が高まると、経営効率性も低下傾向にあるといえるだろう。

(注)受託組織ができる委託農家への単収向上の方策の一つとして、「株揃え」作業がある。平成24年度の調査結果でも指摘したように、連続した不作、さらに地域の高齢化による管理作業の粗放化の懸念に対して、多くの受託組織が、ハーベスタ収穫後の無料サービスとして株揃えを実施している。しかしながら、連続した不作により疲弊した受託組織において、これ以上、株揃えを無料で行うことは、厳しいという声も多く聞かれる。株揃えを行うことの費用対効果を委託農家のみならず、受託組織の視点からも吟味する必要があるだろう。この点については今後の課題とし、株揃えの導入前後のデータを追加しながら検討していきたい。
 

4. 徳之島のサトウキビ生産の安定化・効率化に向けた課題と改善提案

(1)受託組織間のほ場条件の違い―参入時期との関係―

 単収や作業効率の違いが受託組織の経営効率性に大きな影響を与えていた。またアンケート調査では、参入時期の遅い受託組織ほど、単収の低いほ場や作業効率の悪いほ場しか残っていないという意見が多く聞かれたため、このような受託組織においては経営効率性が低いと考えられる。

 このうち、単収の違いは実際にどの程度存在しているのか、「電脳手帳」の出荷実績データを用いて確認していく。具体的には、「電脳手帳」のほ場別生産実績データにおける単収を参照し、JAの作業料金表(表)における4つのランクに区分したうえで、収穫量ベースの各ランクの構成割合を計算した。なお、この段階においてJAの作業料金表の4つのランクを利用するのは、あくまでも、ほ場条件の良し悪しを再集計するための指標という目的に限定し、実際の作業料金水準とは無関係である(この件の詳細は後述する)。

 4つのランクごとの収穫量ベースの構成割合と、受託組織の作業受託への参入時期の関係を図7で表した。その結果、Bランクの収穫量の割合は、作業受託への参入時期が早いほど高く、参入時期が遅く新しい受託組織ほど低下していく傾向がみてとれる。一方で、条件の悪いCランクやDランクの収穫量の割合は、参入時期が遅いほど、上昇傾向にある。

 受託組織の数が次第に増加する時期には、血縁・地縁の人間関係を基礎にした受委託関係が既に構築されてきた。そういう状況の下で参入の遅い受託組織による新たな顧客の開拓は困難であり、比較的、条件の悪いほ場でも積極的に引き受けてきたのであるが、そうした状況がデータからも明らかになった。

(2)JAの作業料金表における作業料金体系の目的と実態

 このように受託するほ場条件に大きな差異が存在する状況では、各受託組織は本来ならば、良質なほ場や委託農家を確保していくことによって経営の効率化を図ろうとするであろう。しかし前述したように、血縁・地縁の人間関係を基礎にした受委託関係が強固なため、短期的な委託農家の切り替えは難しい。

 そこで受託組織の経営改善のために考えられる次の手段は、ほ場の単収および作業効率に合わせる形で、作業料金を細かく設定することであろう。徳之島においても、平成19年産以降は、JAがハーベスタの料金表を設定しており、単収が低いほど、作業料金が高くなるような料金体系(表)となっている。

 ただしJAの作業料金表は、地域の基準としての役割を果たしているものの強制力はなく、実際の作業料金はあくまでも当事者間の交渉で決定されている。実際の作業料金の選択肢を見ると、作業料金については、ほとんどがBランクに、それに次いでAランクに決定する傾向が強く、C・Dランクはほとんど設定されていない(図8)。しかし図7で見たように、単収がC・Dランクに相当するほ場は確かに存在しており、実際のほ場条件と料金決定の間にギャップが生じているのである。
 
 ヒアリング調査によると、このように実際の作業料金の選択肢が少なくなる傾向は、豊作年に委託農家へ還元するという目的から始まったようである。受託組織からみれば、単収が低く作業条件の悪いほ場からは高めの作業料金を徴収したいところだが、委託農家へのサービス意識からすべてBランクに固定されたのである。

 その後、受託組織の設立が進み、組織数が増えていく中で、Bランクを基本に設定するというスタイルがますます浸透していった。一度固定された料金を再調整しようとすれば、合意形成に至るまでに甚大な困難を要する。そのため、JAの本来の料金表のように単収に応じて作業料金を変化させることが難しく、多くの受託組織でBランク以外を設定する機会が非常に限られてきた。つまり、委託農家の生産リスクを受託組織が担っている状態である。豊作になれば問題が少ないのだが、不作になればなるほど受託組織の負担が大きくなる。徳之島では高齢化が進行し、管理の粗放化が懸念されている段階にあり、管理作業の機械化や受委託の潜在的ニーズは高まりつつあるが、それに応えられるだけの段階には追い付いていない。そうすると、管理作業の粗放化が進み、さらに単収が下がってしまう事態も想定される。長期的にみれば、委託農家の単収向上の意欲を引き出す仕組みが重要になるのだが、その対策はまだ十分とはいえない。

 また、顧客が獲得できないことを理由に、すべてのほ場に最も低額のAランク料金を適用した受託組織も存在している。この受託組織では、2年連続の不作の影響から、Aランクを続けることが厳しくなってきたが、顧客離れの懸念や委託農家との交渉の煩わしさを考えると、個別受託組織レベルで料金設定を改定することが困難であり、続けざるを得ないとしている。顧客獲得が難しい受託組織であればあるほど、交渉力は弱く、経営を悪化させる要因になっていることを示している。

 以上のように実際の作業料金の選択肢が少ない現状は、受託組織に大きな損失をもたらしている可能性がある。そこで、JAの料金表に従って弾力的な料金設定を行った場合と、現在の各受託組織の料金設定の間に、どの程度の差額が生じているのかを、受託組織単位で試算したものが、次の図9になる。また図10は、図9の試算値と自作経営面積割合の関係を、実際の作業料金の選択肢別に示したものである。
 
 
 平成24年産の差額の平均は64.6万円、平成23年産は68.6万円であった。また、自作経営面積割合が少ない受託組織ほど、差額が大きい傾向にある。これらはJAの作業料金表に従っていれば得られていたはずの損失金額を意味している。ちなみにこの金額は、機械修繕費(平成24年産)の平均113.3万円の57%に相当する。アンケート調査の際に、この2年間の連続した不作によって、機械修繕費の支払いが厳しいという声を多くの受託組織から耳にしたが、単収や作業効率に即した弾力的な料金設定により、一定の経営改善効果が期待できそうである。

 ただし、長年続けられてきた料金設定の仕組みを変えるために、どのような方法を取ればよいのかは極めて難しい問題である。この問題を考える際の一つの参考になるのが、「株揃えの無料サービス」の有料化の動きである。平成23年度の調査結果でも指摘したように、「株揃えの無料サービス」も、当初は株揃え機の普及活動の一環として無料で行うことで、株揃えが翌年の生産実績にプラスの効果があることを知ってもらうということがスタートであった。しかしながら、株揃え機の普及が進み、効果についても一定の認知が得られるようになっても、既に無料化が定着する中で、個別受託組織レベルで有料化に踏み切ることは難しく、特に参入が遅い受託組織の多くでは、個人の意志とは関係なく無料にせざるを得ない状況が生まれていた。しかし連続した不作により疲弊した受託組織において、これ以上、株揃えを無料で行うことは、厳しいという声も多く聞かれるようになった。そこで天城町のハーベスタ協議会では、これまで無料サービスとして定着してきた「株揃え」作業を一律で有料化することを、平成25年産より決定した。受託組織が一体となり、交渉力を持つことで、適正な作業料金の設定が可能になった良い例と言えるだろう。

(3)ほ場の分散問題と作業効率性向上のために

 これまでは、現在のような人間関係に基づいた作業受委託関係を前提に、受託組織の経営効率性を向上させる手段を考察してきた。しかし、図2でほ場が一層分散することが作業受託のデメリットとして指摘されていたように、長期的には、地区担当制など作業効率性を高めるような方向も検討していく必要性があるだろう。ただし、地域全体のサトウキビ生産・製糖の長期的な効率化を考えるためには不可欠だとしても、長年続けてきた関係の大幅な変更を伴う意見調整や交渉は困難を要する。

 そのための有効な手段として、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を用いた、生産状況や作業受委託状況の視覚化と情報共有が挙げられる。例えば、図11からは受託組織ごとに担当するほ場が非常に分散している状況が分かる。また図12をみれば、一つの地域にさまざまな受託組織が入り込んでいる状況も分かるだろう。作業受委託は人間関係に基づき契約が結ばれているために、現時点で受託するほ場は必ずしも地理的に集約しているわけではない。そこで将来的にある程度の地区を割り当てた上で、受託組織間で担当ほ場を組み替えるなど、ほ場の集約化・団地化を図れば、ハーベスタの移動による時間のロス、燃料費の節減に寄与し得る。特に、管理作業の機械化が求められる段階になりつつある徳之島で、管理作業は収穫時期の収穫作業と並行して行われているため、受託組織にとってもいかに収穫の計画を立て、効率的に機械を稼働させていくかはますます大きな問題となるだろう。現在のように、各受託組織が、個別に委託農家の細かいスケジュールの要望に応えながら、植え付け・管理作業を担い、収穫を行っていくことは非常に困難であり、個別の受託組織の対応だけに頼るのではなく、受託組織間でより地域一丸となり、サトウキビ生産・製糖を支えていくための新たなシステムが求められている。そのためにも、こうしたGISなどのツールの利用の価値は高まりつつある。
 

おわりに

 これまでの調査で、ハーベスタ収穫率が90%を超え作業受委託が進展している徳之島でも、地域ごとにその効率性に差が生じていることが分かった。平成25年度の調査ではその要因を分析し、受託組織間のほ場条件の違いが大きいこと、単収や作業効率を反映しきれていない作業料金設定が行われていること、受託ほ場の分散が大きいことなどの現状や、作業受委託の効率化を進める上で今後解決すべき課題が見えてきた。さらに今回は、これらの課題の改善のための一案も検討した。本報告が、徳之島のサトウキビ生産の安定化・効率化に資すること、また、同様にサトウキビ生産を行う鹿児島県南西諸島および沖縄県で作業受委託を進める上での一助になることを願うところである。

 最後に、3年間にわたり実施してきた徳之島のサトウキビ生産における作業受委託に関する調査について、徳之島のサトウキビ生産者、受託組織の皆さま方ならびに南西糖業鰍はじめたくさんの関係者の皆さまに多大なご支援・ご協力をいただきましたこと、この場を借りて深く感謝いたします。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713