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地域だより

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最終更新日:2014年11月10日

「南西諸島における家畜糞尿を核とした地域資源循環利用に関する意見交換」の開催について

2014年11月

那覇事務所 伴 加奈子

 平成26年10月22日(水)、国頭郡金武町において、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター(以下「九州沖縄農業研究センター」という)の主催による「南西諸島における家畜糞尿を核とした地域資源循環利用に関する意見交換」が行われた。  

 南西諸島においては堆肥導入による土壌改良が有効であるが、堆肥用副資材が慢性的に不足するなど利用が難しい状況にある。そのため、関係機関が協力して耕畜連携による地域資源循環型農業の構築を目的に研究や実証試験を実施している。

 今回は、モデル地区として実証試験を実施している金武町内の施設および現地ほ場を見学し、関係者との意見交換を通して現状を把握するとともに課題などを明らかにするため、金武町役場、沖縄県畜産研究センター、沖縄県北部農林水産振興センター、JA、株式会社アースノート、生産者など約30名が参加して、現地視察および意見交換会が行われた。

1 現地視察

(1)株式会社金武町有機堆肥センター

 金武町地域ではおおよそ9000頭の豚、210頭の肉用牛、280頭の乳用牛が飼養されており、金武町有機堆肥センターでは排出される家畜糞尿を収集し、年間約3000トンの堆肥を製造している。

 搬入された家畜糞尿は糞などの固形物と、尿などの液体に分離される。固形物はオガクズなどの副資材と混合され、発酵レーンで通気・水分調整などを行いながら1日1回攪拌(かくはん)し、約40日で製品化される。堆肥副資材として、金武町地域のバイオマス活用としてのキノコ廃菌床の利用技術が研究・実用化されており、今回の視察ではちょうど搬入された廃菌床を見ることができた。
 
 
 
 固液分離された糞尿のうち尿などの液体は、バキュームカーにより回収され、町内6カ所にある貯留槽に貯留されたのち、液肥として散布される。
 

(2)液肥貯留槽

 町内6カ所にある液肥貯留槽のうち、前原地区の1カ所を視察した。町内6カ所の貯留槽で合計1万5000トンの貯留が可能であり、年間約2万4000トンを液肥として散布している。施肥量はサトウキビ向けが最も多く、全体の4割を占め、ほかに牧草地・水田などに散布されている。現在、高水分の家畜排せつ物を処理し速効性有機畜産液肥の製造ができるメタン発酵処理について研究が行われている。さらに、液肥製造の際に発生するメタンガスによる電力の供給なども期待されている。
 

(3)サトウキビ栽培実証試験ほ場

 液肥の利用促進のため、施肥量の約4割を占めるサトウキビに関して、化学肥料との代替効果・肥効(肥料が農作物に与える効果)について作型ごとに栽培実証試験が行われている。

 今回視察を行った夏植えほ場では、以下の通り試験区を設定し、生育試験を行っていた。

 基肥/追肥
 1)化学肥料/化学肥料(慣行区)
 2)液肥・堆肥/液肥
 3)化学肥料/液肥
 4)液肥/液肥

 9月中旬に行われた生育調査から、10アール当たり収量見込みが 1)〜 3)については約15トン、 4)については約11トンとなり、追肥に関しては化学肥料を液肥で代替可能であることが示唆されている。
 
 液肥を追肥で施用する際、作物が既に生長してしまっていることから、バキュームカーのホースを引っ張ってくるなどの重労働が必要となってくる。このため、現在バキュームカーのホースとほ場常設のホースを連結させるという効率的な散布方法についても検討を行っているところである。
 
続いて視察を行った株出しほ場では、以下の通り試験区を設定し、生育試験を行っていた。 

基肥/追肥
 1)化学肥料/化学肥料(慣行区)
 2)化学肥料/液肥
 3)堆肥/液肥

 9月中旬に行われた生育調査から、10アール当たり収量見込みはすべて6トン前後となり、堆肥/液肥区においても慣行区並の収量が得られる可能性が示唆されている。
 
 また、サトウキビの他にも、金武町で広く栽培されているタイモ(田芋)についても液肥施用の栽培試験が行われていた。
 

2 意見交換会

 室内での意見交換では、金武町役場から、金武町における家畜糞尿の有効利用について概要説明があった。金武町では約20年前から、浄化処理方式での農家負担増を軽減するとともに、耕畜連携による地域循環型農業を目指し、糞尿タンクなどの整備を行ってきた。しかし、適切な量の液肥散布ができなかったことにより作物障害が発生したことなどが原因で、液肥利用は低迷しており、現在は利用料を無料化して利用促進を図っている。今後は、液肥利用料の有料化を視野に、九州沖縄農業研究センターの研究成果の活用、液肥の濃縮(運搬の負担軽減のため)、散布形態・方法の再構築、オペレーターの教育などを通して、液肥の利用拡大を図っていくこととしている。会議ではこのほか、液肥散布における臭気抑制技術の開発や、バイオエタノールの原料となる高収量ソルガムへの液肥施用などについても意見交換が行われた。

 地域で発生する家畜糞尿はサトウキビ生産における有機肥料として有効に活用できる地域資源である。その利用については課題も多いものの、今回紹介があった通りさまざまな側面から研究がなされており、家畜糞尿から製造される堆肥や液肥の施用など地域資源循環利用の促進を通して、サトウキビの安定生産、生産コストの低減にもつながっていくことを期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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