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青色申告決算書を活用した農業所得の解析手法

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最終更新日:2015年1月9日

青色申告決算書を活用した農業所得の解析手法

2015年1月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 十勝農業試験場
生産システムグループ 主査(経営) 白井 康裕

【要約】

 畑作経営を対象に、青色申告決算書を用いて所得変化の要因を整理する解析手法を確立した。収入・経費の構成要素ごとに所得の変化率に対する寄与度を算出することで、所得変化に大きな影響を及ぼした要素の特定が可能になる。

はじめに

 青色申告制度は、所得税の確定・修正申告に際して、複式簿記の結果に基づいて申告する制度である。青色申告者が親族の青色事業専従者に支払う専従者給与の計上が許容される他、正規の簿記の原則による記帳を行った際に特別控除が認められるなど、制度の利用者に対する特典があることから、多くの農業経営者が納税申告時に利用している。本稿では、畑作経営を対象に、青色申告決算書を用いた農業所得の解析手法について紹介したい。

1. 解析の実践例

 解析のイメージをつかむため、十勝中央部の畑作専業経営(農産収入に占める畑作4品(麦類・豆類・ばれいしょ・てん菜)の収入割合が8割以上の経営)13戸を対象に、青色申告決算書を用いた農業所得の推移と基準年に対する所得変化の要因を例示する。なお、ここでは、専従者給与を控除する前の「差引金額(青色申告決算書36欄)」を所得として扱っている。

 まず、基準年を100とした指数により、所得の推移を折れ線グラフとして示した(図1)。この例では、基準年とした水田・畑作経営所得安定対策下の会計処理を始めた2008年度と比較すると、2012年度の所得は、13.9%増加していることが分かる。
 
 次に、所得変化の要因について、寄与度を算出し、樹形図として示した(図2)。ここで用いた寄与度とは、あるデータ全体の変化に対して、その構成要素である個々のデータの変化がどのように貢献しているかを示す指標であり、GDPの成長率に対する各構成要素(消費、公的需要、設備投資、輸出など)の影響度合いを示す際などに用いられている。図中に示した各要素の寄与度の合計は、基準年との所得の変化率に一致する。プラスの数値が大きな要素ほど、所得の増加に貢献しており、マイナスの数値が大きな要素ほど、所得の減少に影響していることを意味する。

 この例では、所得の増加に収入が寄与しており、中でも農産収入が増加したことが影響していることが分かる。また、農産収入の増加には、小豆、てん菜が大きく寄与しており、てん菜の収入増加には、価格と収量の双方が上昇したことが影響していることがうかがえる。

 このように、複数年の青色申告決算書を用いることで、所得の推移を把握することが可能になるだけではなく、所得の変化に大きな影響を及ぼした要素を特定できる。

図2を大きく表示 
 

2. 解析の手順

 青色申告決算書を用いた解析の手順を説明する。

  1. まず、複数年度分の青色申告決算書(青色申告決算書1頁の損益計算書、同2頁のA収入金額の内訳)を準備する。
  2. 次に、基準年を100とした指数を用いることで、所得の推移を把握する。
  3. その後、所得の変化率に対する寄与度を用いて、収入と経費が所得変化に及ぼした影響を把握する。
  4. さらに、収入や経費を構成する要素ごとに寄与度を算出し、所得変化に大きな影響を及ぼした要素を特定する。
  5. 最終的に、所得の指数は折れ線グラフとして、各構成要素の寄与度は樹形図としてまとめることになる。


 以下では、図1および図2に示した数値を用いて、具体的な計算方法について解説する。ただし、金額などは、図3に示した加工された値である。

図3-1を大きく表示

 
(1)所得額の指数化
 表1は、2008年度の所得額を基準年とし、各年の所得額について指数を求めたものである。当該年の所得額を基準年の所得額で割ることで、基準年を100とした指数が得られる。得られた指数は、基準年と比較した際の所得変化の程度を表す指標である。
 
(2)各要素の寄与度の算出
 次に、所得の変化率に対する各要素の寄与度を算出する方法について解説する(表2)。所得の変化率は、基準年との差額を基準年の所得額で割ることにより求められる。すなわち、所得の変化率は、先に求めた指数から100を差し引いた値である。所得の変化率に対する各要素の寄与度は、基準年との差額を求めた後に、その差額を基準年の所得額(ここでは11,390千円)で割ることにより求められる。

 なお、収入の寄与度は、「販売金額(青色申告決算書1欄)」から「期首棚卸高(同5欄)」を控除し、「期末棚卸高(同6欄)」を加算した当期分の収入で評価している。また、「経費(同35欄)」の寄与度は、その増加が所得にマイナスに作用するため−1を乗じている。さらに、収入の内訳として、農産収入と雑収入(家事消費と事業消費含む)に要素を分解している。
 
 同様の計算方法により、農産収入の内訳、雑収入の内訳、経費の内訳ごとに寄与度を算出することが可能である。なお、経費を構成する各費目の寄与度については、正負を逆転させるとともに、増加額が大きい費目順に示すことで、基準年との間で著しく増加した費目の特定が容易になる。

 また、作物の収入を構成する要素ごとの寄与度は、表3にあるてん菜の数値を基にすると、表4に示した計算方法を採る。図3-2の収入金額の内訳欄に記帳された販売金額、本年収穫量、作付面積のデータを基に各構成要素について基準年との差異を求めた後、その差異を基準年における所得額(11,390千円)で割ることにより算出される。
 

3. 青色申告決算書(損益計算書)の見える化について

 以上の解析に併せて、青色申告決算書の数値は、図4のようなグラフ化も可能である。図4は、青色申告決算書の1頁にある損益計算書(図3-1)を見える化したものであり、経営内における資金の流れを可視化している。このような図を基に、基準年(2008年度)と当該年(2012年度)の損益計算書を比較することにより、基準年との相違点が鮮明になり、当該年の問題を把握することが容易になる。

 図3-1の損益計算書を見える化した際、その1軸目は、「販売金額(青色申告決算書1欄)」「家事・事業消費金額(同2欄)」「雑収入(同3欄)」「期末棚卸高(農産物(同6欄)と農産物以外(同33欄)の合計額)」である。2軸目は、「経費(同8〜30欄)」と「期首棚卸高(農産物(同5欄)と農産物以外(同32欄)の合計額)」と「差引金額(同36欄)」である。3軸目は、「差引金額(同36欄)」に「繰戻額等(同37〜39欄)」を加算した額である。さらに、4軸目は、「専従者給与(同41欄)」をはじめとする「繰入額等(同45欄)」と「控除前の所得金額(同46欄)」の合計額である。最終的に、5軸目においては、「控除前の所得金額(同46欄)」から「青色申告特別控除額(同47欄)」を控除したものが、「当期の所得金額(同48欄)」となる。図4は、以上の関係を整理したものである。

 先に解説した青色申告決算書を用いた所得の解析は、基準年と当該年を比較した際、損益計算書を見える化したグラフ2軸目に表示された差引金額の幅に違いを生んだ原因の特定に役立つものだと言えよう。

図4を大きく表示
 

4. 解析を実践する上での注意点

 最後に、青色申告決算書を用いた解析を実践する上で注意すべき点を表5に整理した。解析例では、畑作経営の平均値を用いたが、個々の経営を対象にすることも可能である。ただし、公表時は、秘密保護の観点から3戸以上のデータを基にすることが望ましい。
 
 営農類型は、野菜などの価格変動に伴う影響を正確に把握するため、農産収入の構成比を基に、専業経営とそれ以外に区分する。これにより、同一地域内において営農類型間の比較が可能になる。

 用いる資料は、農業青色申告会などの指導の下で同一の手続きにより仕訳された決算書が望ましい。異なる仕訳体系の下で作成された決算書を用いる場合には、経費を構成する費目を幾つかのグループに集約した上で寄与度を算出する。

 基準年の設定は、原則として任意であるが、畑作経営や水田作経営において、交付金の計上が処理されていない2007年度や2011年度は避けるべきである。基準年の一例を挙げると、前年度の他に、水田・畑作経営所得安定対策の会計処理を始めた2008年度や2012年度がその候補になるといえよう。

おわりに

 ここで紹介した所得解析は、最低2カ年分の青色申告決算書を準備するだけで、誰でも実践可能なものである。実践例を参考に、既存の解析と組み合せるなど、生産現場の実情に即して本手法を発展させていただくことを期待したい。なお、十勝農業試験場生産システムグループのホームページでは、畑作経営を対象に解析を自動化したエクセルファイルのダウンロードが可能である。興味のある方は、ぜひご利用いただきたい。

ファイルのダウンロード先
http://www.agri.hro.or.jp/tokachi/keiei/blue%20return/blue%20return.html
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713