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〜あまみ農業協同組合知名地区さとうきび部会正名支部の取り組み〜

生産者が主体となった組織活動でさとうきび増産を目指す
〜あまみ農業協同組合知名地区さとうきび部会正名支部の取り組み〜

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最終更新日:2016年2月10日

生産者が主体となった組織活動でさとうきび増産を目指す
〜あまみ農業協同組合知名地区さとうきび部会正名支部の取り組み〜

2016年2月

鹿児島事務所 篠原 総一郎

【要約】

 沖永良部島の知名町(ちなちょう)正名(まさな)集落では、さとうきび生産者が主体となって組織的な生産振興に積極的に取り組んでいる。比較的恵まれた地理的条件などを生かしながら、土づくりの実践や研修会などを通じて増産に取り組み、さとうきび生産量は平成26年産において島内の1割を占めるに至った。これらの取り組みにより、鹿児島県の平成26年度さとうきび生産改善共励会で最優秀賞を受賞した。

はじめに

 沖永良部島は、鹿児島市から南南西約550キロメートルに位置し、和泊町(わどまりちょう)と知名町からなる周囲約50キロメートルの島である。島の大半が隆起サンゴ礁からなり、島西部に標高240メートルの大山があるものの、比較的平たん地が多い(図1)。亜熱帯気候に属し、年間を通じて温暖であるが、夏から秋にかけては台風や干ばつ、また冬季においては季節風の影響を受けやすい土地柄にある。

 島の主要産業は農業である。生産者1戸当たりの平均耕地面積は約2.6ヘクタール(平成26年度)で、さとうきび、ソリダゴやキク、ユリなどの花卉(かき)、ばれいしょ、さといも、いんげんなどの野菜、畜産といった品目が複合的に営まれている。平成7年にばれいしょが、また25年にはテッポウユリ(えらぶゆり)が「かごしまブランド産地」に指定された。
 

1. 沖永良部島のさとうきび生産

(1)概要

 沖永良部島のさとうきび収穫面積の推移は図2の通りである。平成に入り減少傾向にあったが、農林22号の普及による株出し栽培面積の拡大やハリガネムシ防除用のベイト剤の普及などにより平成18年産ごろから回復傾向にあり、26年産では1385ヘクタールとなった。さとうきびは、島内の基幹作物であり、全作物耕地面積の約4割を占めている(表1)。

 さとうきびの作型別収穫面積、単収、生産量の推移をまとめたものが表2である。株出し面積の増加は、前述の通り農林22号とベイト剤の普及によるところが大きい。ただし単収、生産量については、ともに台風やメイチュウなどの被害により平成22年産から低迷している状況にある。

 同島は元来水源に乏しく、畑地かんがい施設は島の耕地面積の約3割にしか整備されていなかった。そこで、安定的な農業用水を確保するため、平成30年度を完成予定として、19年度から国営事業を中心とした地下ダム建設および関連施設整備が行われている(注)。完成後は島の耕地面積の約56%においてかん水が可能となる予定で、27年1月に知名町で、3月には和泊町で一部通水が始まったところである。現在は、生産者のかん水への意識啓発や、かん水を利用した営農の先導的役割を担う生産者を「畑かんマイスター」として認定するなど、ダム完成に備えた準備が進められている。

(注)同島における地下ダムを中心としたかんがい施設概要の詳細については、青木和志「畑かん営農の実践でさとうきびの高単収を実現」『砂糖類・でん粉情報』(2014年10月号)を参照。
 
 
(2)栽培の手引きを活用した生産振興

 沖永良部島では、和泊、知名両町およびあまみ農業協同組合(以下「JAあまみ」という)、同島の製糖企業である南栄糖業株式会社などが合同で沖永良部さとうきび生産対策本部(以下「対策本部」という)を構成しており、対策本部が中心となって島内のさとうきび生産振興を図っている。

 平成26年11月、対策本部は、大島支庁や両町の糖業振興会とともに「沖永良部 高単収さとうきび栽培の手引き」(以下「栽培の手引き」という)という生産者向け冊子を作成した(図3)。栽培の手引きでは、さとうきびを重要な基幹作物と位置付けた上で、「わが国はさとうきび栽培の北限にあるため、さとうきび本来の能力を引き出す栽培環境づくりが重要だ」と説いている。そして、生育に合わせた適切な管理、すなわち基本技術の実践が肝要であるとし、管理作業の年間スケジュールや土づくりのポイント、かん水の効果、病害虫対策など、基本的な事項について丁寧に解説している。ほ場の比較や病害虫被害、雑草などの写真も豊富に掲載し、また、かん水や堆肥などの効果をグラフを用いて具体的に示すなど、視覚に訴えた分かりやすい構成となっている。対策本部では、栽培の手引きを島内の生産者に配布し、JAあまみなど支援組織の現地指導の場でも利用してもらうなど、活用を呼び掛けている。
 

2. 正名支部の取り組み

(1)生産者が一体となって取り組む支部活動

 今回紹介するあまみ農業協同組合知名地区さとうきび部会正名支部(以下「正名支部」という)は、知名町南西部の正名集落のさとうきび生産者で構成されている組織である。知名町のさとうきび生産者を管轄しているJAあまみ知名事業本部は、従来、町内の各集落に配置した推進員に生産者に対する経営・技術指導などを担ってもらってきた。しかし平成23年から、さとうきび増産を一層推進させることを目的として、集落ごとに支部組織を設立し、組織を構成する生産者自らに生産振興を主導してもらうこととなった。

 同集落では82戸の農家のうち、さとうきびを生産する64戸全戸が正名支部に加入している。集落内ではハーベスタ7台(各生産組合所有4台、個人所有3台)、株揃え機10台、株出し管理機3台などが稼働している。

 さとうきび生産者の多くは、ばれいしょや葉タバコ、花卉などとの複合経営であり、ばれいしょの作付け期間が11月〜翌3月、葉タバコは2月〜6月末となっていることから、ばれいしょ収穫後に春植えを行ったり葉タバコ収穫後に新植夏植えを行ったりと、さとうきびを軸とした作付け体系を実現させている。また、集落内の畜産農家は5戸と多くはないが、牧草の更新タイミングでさとうきび作付けに切り替えるケースも見られるという。

 正名集落は、ほ場が全体的にほぼ平たんに立地し耕作が行いやすいなどの理由から、古くから黒糖生産が盛んであったといい、現在では島内有数のさとうきび生産地域となっている。昭和57年ごろから続けられてきた基盤整備が平成18年に完了し、ハーベスタの入りやすいほ場が増え、一層の増産を進めてきた。また、同集落の海岸の一部ではシャリンバイなどを用いて防風林を整備し、季節風などによる塩害防止にも努めている。

 平成26年度の集落内におけるさとうきび作付面積は160ヘクタールで、これは集落内の全耕地面積200ヘクタールの80%を占める。1戸当たりの平均耕作面積も3.1ヘクタールと、町内平均である2.4ヘクタールを上回っている。集落内のさとうきび収穫面積は年々拡大している状況で、島全体の収穫面積の1割に届かんとする勢いである(表3)。拡大の要因としては、集落内には規模拡大意欲の強い生産者が複数存在し、かつ収益性の低下などを理由に葉タバコからさとうきびに転換する生産者が近年増加していることが挙げられる。その結果、26年産では124ヘクタールという過去最大の収穫面積を達成したところである。
 
 この、積極的なさとうきび生産による増産の根本にあるのが、平成23年の正名支部の設立だったと解説するのが、支部設立以来支部長を務めている西田安村氏。西田支部長は、「設立以前は、どうしても対策本部やJAなど支援組織の世話になりながら生産しているという受け身の気持ちが大きかった。それが支部主導となり、生産者も支部の一員という意識が芽生え始めた。自分たちで行動しだすと、支援組織からの支援のありがたみが改めて実感できる」と話す。また、「支部設立によって生産者それぞれのさとうきび増産気運が一気に高まった。大規模や若手の生産者のみならず、支部の生産者は全体的に単収向上に対する意識が強く、団結力もある。一方で、葉タバコから転換してきた生産者などの新しい経営視点も取り入れられ、生産者間の競争意識も高まってきている」と支部の一体感を強調した。

 正名集落の「正名」とは、鹿児島県出身で、明治初期に全国の農業振興に貢献した前田正名を由来とするという説がある。彼の名前にあやかって集落農業の発展を目指すという意図があったとのこと。また、正名集落は沖永良部島の伝統芸能であるヤッコ踊りを継承する集落の一つとして知られている。この踊りは、古来より、台風などの災害に苦悩しながら農業を推し進める中で、そこから生まれた想いを唄や踊りとして地域の諸行事で披露したものが始まりと伝えられており、ヤッコ踊りを通じて地域住民の団結を強めてきたという経緯がある。これらの伝承を含めた地域の一体的な取り組みが評価され、平成12年度の農林水産祭(むらづくり部門)において天皇杯を受賞している。

 このような歴史に基づいた生産者おのおのの増産意識の高さを裏付けるかのように、集落の青年団の歌「正名字青年団歌」の歌い出しは、以下のようなものとなっている。

 「鳥より先に飛び起きて 増産見つめて農場へ愛と汗の努力にて 経済正名を建設す」
 
(2)支部における増産の取り組み

 正名支部では、生産者が一丸となって増産に励めるような環境づくりを目指して、「優良種苗の供給」「緑肥による土づくりの推進」「他集落の優良事例、ほ場での現地研修」の3項目を重点的に実施している。それぞれの活動内容は以下の通り。

ア. 優良種苗の供給
 正名支部では、単収向上には優良種苗の供給が欠かせないものと位置付け、供給体制を整備してきた。これは、生産者が各自で自家採苗を続けていると、劣化したり原料出荷できなかったりしたさとうきびが種苗用として用いられる可能性があり、モザイク病やわい化病などの病気に感染するリスクも高くなることから、減産傾向になるためである。このため、種子島にある独立行政法人種苗管理センター鹿児島農場の原々種を、知名町を通じて購入し、支部として所有している採苗ほ場に植え付けて管理を行っている。成長した優良種苗は集落内の生産者に配布し、適期での種苗更新を推進している。平成26年度には農林22号、30号の苗を2ヘクタール分用意し、配布した。

イ. 緑肥による土づくりの推進
 栽培の手引きでは、土づくりにおける指導項目として、 1)深耕、心土破砕の実施、 2)適正pHなどの診断に基づいた土壌改良、 3)堆肥や緑肥の投入を挙げているが、このうち、正名支部で重点的に取り組んでいるのが、マメ科緑肥による土づくりだ。

 さとうきび収穫後、ほ場の地力は消耗しており、収穫時に出る枯葉(ハカマ)をすき込むだけでなく、別途堆肥などの有機物を投入することが望ましい。しかしながら、島で確保できる堆肥量には限りがあるため、さとうきび増産基金事業を活用して、平成25年度から緑肥による土づくりを実施している。3月のさとうきび収穫後、4月に播種、7月にすき込みを行い、8月以降に新しいさとうきびを植え付けるというスケジュールとなる。成長した緑肥をそのまますき込むのは手間がかかるため、フレール型モアなどで一旦裁断したり、プラウを用いて深く混ぜ込んだりするなどの工夫を凝らしている。

 緑肥の利用は、地力増強の他、雑草繁茂の防止や、マメ科緑肥を用いることでイネ科のさとうきびとの連作対策にも効果がある。また、梅雨期までにある程度成長するようなタイミングで植え付けておくと、根張りが降雨による表土流出を防いでくれるという。

 平成25年度はクロタラリアを植え付けたが、花卉の害虫であるハモグリバエによる葉の食害を受けたことから、26年度からは葉面積が小さく被害の少ないセスバニアの栽培も開始した。直近では、27年度の新植夏植え前に約10ヘクタールの緑肥生産を行っている。堆肥の確保も可能な限り継続させながら、並行して緑肥の活用を進めていく方針である。
 
ウ. 他集落の優良事例、ほ場での現地研修
 県や対策本部の担当者などを講師に迎えて、1年に1〜2回の頻度で研修会を開催し、病害虫防除や効果的な施肥方法などを学んでいる。また、島内の他の地域の高単収ほ場などに赴き、現地にて実際にさとうきびを観察しながら、生産者から直接ノウハウなどを学ぶ機会も設けている。「研修を繰り返し実施することで、生産者が、自身に合った最良のさとうきび栽培方法を自然体で身に付けていくことができる」と西田支部長は話す。

 加えて、製糖終了時に開催する支部総会で、生産実績の報告や成績優秀生産者の表彰を行うなど、生産者の生産意欲を喚起する取り組みも実施している。
 
(3)課題と対策

 正名支部の今後の課題として、西田支部長は、単収の一層の向上、作業の省力化、後継者育成の3項目を挙げた。

 単収の一層の向上には、株出しの継続による地力低下や干ばつなどの災害被害をいかにして最小限に抑えていくかが重要であると、西田支部長は考えている。そのためには、生産者それぞれが栽培の手引きを活用して栽培技術を再確認していくとともに、土づくりや適期植え付けの指導や、干ばつが起こる前から恒常的に畑かんを利用してもらう啓発活動などを支部で積極的に実施していくことを計画している。

 作業の省力化に関しては、 1)集落内の作業受委託関係を再検討し、特に収穫作業と管理作業とが重複する1〜3月期において、より効率的な作業体制を構築していくこと、 2)肥料成分が時間をかけて溶出していく緩効性肥料を導入し、追肥回数を減らすこと、などを検討していく。ただし、緩効性肥料は通常の肥料と比較して高価格であること、施肥時期が異なることなどの制約があり、島全体で利用対象とする地域などを検討していく予定である。

 後継者育成については、2015年農業センサス(概数値)によると、島内の農業経営者1416人のうち857人が60歳以上であり、その割合は60%を超えている。正名支部に限っていえば、規模拡大意欲のある若手や後継者を確保できている生産者が一定数存在するものの、今後も支部活動を通じて、さらなる生産体制の強化を図っていくとしている。
 

おわりに

 平成28年度には、正名集落においても地下ダムの一部通水が始まる予定で、現在パイプラインなどのかん水設備設置工事などが急ピッチで進められているところだ。現状はモデル的な畑かん地区20ヘクタールと、ため池からのポンプ輸送によるかん水地区10ヘクタールでしかかん水が実現できていないため、地下ダム通水への期待は大きい。

 今回紹介したような、正名支部での生産者一丸となった取り組みが評価され、平成26年度には、さとうきび生産改善共励会(主催:公益社団法人鹿児島県糖業振興協会)の最優秀賞を受賞した。

 沖永良部島の平成27年産さとうきび生産量については、台風や干ばつといった大きな気象災害に見舞われなかったことで茎長が順調に伸長しているため、前年産と比較して約1万9000トンの増加見込みとなっている(平成27年11月現在)。これを受け、南栄糖業株式会社では、昨年より12日早い12月4日に操業をスタートした。同社が、鹿児島、沖縄両県の製糖工場の中で圧搾の先陣を切るのは初めてだという。

 西田支部長は「さとうきびをめぐる情勢は先行き不透明な部分もあるが、生産者一人ひとりが自信と誇りを持ってさとうきび生産に取り組めば、打開策は見えてくる。正名支部はその環境づくりを担っていかなくてはならない」と、支部活動の一層の推進を意気込む。

 正名集落の、皆が一致団結して物事に取り組むという気質は、作業受委託や出荷スケジュール調整が必須であるさとうきび生産の性質に合致していると考えられる。今後とも、正名支部の活動に注目していきたい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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