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砂糖摂取と糖尿病の関係

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最終更新日:2016年4月11日

砂糖摂取と糖尿病の関係

2016年4月

NPO法人「食と健康プロジェクト」 理事長 高田 明和
昭和女子大学生活科学部 尾 哲也、小川 睦美、石井 幸江、清水 史子

はじめに

 糖尿病の患者数は世界的に増加しており、人類の健康を脅かす病として各国の政府も対策に乗り出している。図1は世界各国の糖尿病患者数の推計を示したものであり、日本は第10位にランクされている。日本でも糖尿病の患者数は増加しているが、糖尿病という名前から砂糖との関係が連想され、「砂糖摂取は糖尿病の原因の一つであり、その摂取抑制は糖尿病の予防治療に必要だ」と主張されている。しかし、日本人の砂糖消費量は年々減少しているにもかかわらず、糖尿病の受療率は増加している(図2)。つまり、砂糖の消費量と糖尿病の間には相関が認められないのである。

 

 

 われわれは「砂糖が糖尿病の原因である」との主張が本当に根拠のあるものかどうかを検討している。研究の詳細は本誌2013年10月号「健康な中高齢者へのスクロース負荷と血糖値の変化について」、2014年11月号「健康な中高年男性と若年男性への糖負荷時の血糖値の変化について」を参照されたい。なお、この研究は米国の栄養学の雑誌に掲載された1)。本稿では、今までの研究成果を基に砂糖と糖尿病の関係を紹介する。

研究の概要

 若年男性(20.6±1.6歳、n=35)と中高年男性(62.4±9.6歳、n=44)に早朝空腹時に50グラムのブドウ糖、蔗糖の溶液を投与した。また、コントロールとして同量の水を与えた。

 中高年男性の血糖値の変化を見ると、ブドウ糖あるいは蔗糖投与後、血糖値は同じように上昇した(図3)。その後、蔗糖投与時の方が血糖値は早く低下した。蔗糖投与の場合に血糖値が急速に上昇し、ブドウ糖投与時よりも上昇する場合があるという主張があるが、そのようなことはないことを示している。一方、若年男性の場合、血糖値はブドウ糖投与時の場合と蔗糖投与時の場合では同じように上昇し、蔗糖投与時の血糖値の低下はブドウ糖よ りも若干早い程度であった(図4)。

 

 

 蔗糖、ブドウ糖を投与した際の中高年男性の血漿中インスリン量の変化を図5に示す。蔗糖投与後30分のインスリン量はブドウ糖投与時の半分くらいであった。若年男性の場合には蔗糖、ブドウ糖投与時のインスリン量はあまり変わらなかった(図6)。

 

 

 図7に中高年男性、若年男性にブドウ糖または蔗糖を投与した際の血糖値の増加量を示す。若年男性において、ブドウ糖を投与した際の方が蔗糖を投与した際よりも血糖値は増加する傾向にあったが、有意ではなかった。一方、中高年男性では、ブドウ糖投与の方が蔗糖投与よりも血糖値は有意に増加した。蔗糖投与時の血糖値の増加は、中高年ではブドウ糖投与時の74.3%であり、若年者ではブドウ糖投与時の82.8%であった。

 

 図8に中高年男性、若年男性にブドウ糖、蔗糖を投与した際のインスリンの分泌量を示す。中高年男性では、蔗糖投与時のインスリン量はブドウ糖投与時の34.2%であった。一方、若年男性の場合にはブドウ糖投与時の76.2%であった。

 

 これらの結果は蔗糖摂取がブドウ糖摂取よりも急速に血糖値を高めることはないこと、さらに若年男性では蔗糖摂取がインスリン分泌を促し、血糖値の増加を抑制していることを示している。

 さらに、われわれは食事摂取頻度調査票を用い、蔗糖、甘味飲料水摂取の量とBMIの関係を調べた。図9に示すように摂取量とBMIには有意な関係はなかった。また蔗糖摂取の多い人はむしろ空腹時血糖値が低いことが示された(図10)。一方、脂質との関係では蔗糖摂取は中性脂肪を増加させないことも示されている(図11)。

 

 

 

 これらは肥満、脂質異常、高血糖を主要な症状とする糖尿病の原因として蔗糖摂取が考えられないことを示唆している。

考察

 前述の通り糖尿病の増加は世界的に問題になっている。そして砂糖摂取と糖尿病の関係を疑う意見も多く出されている。われわれは中高年男性と若年男性に蔗糖、ブドウ糖を投与し、さまざまな血液の変化を調べた。

 グリセミック・インデックス(GI)はJenkinsら2)によって提唱されたもので、食べ物の血糖値上昇能の指標とされる。しかし、Woelver,T.M.S and Bolognesi,C.ら3)が示したように血糖値は食品により異なる。つまり含まれるブドウ糖の量だけでなく、どのような食品であるかによりGIは異なるのである。

 われわれは、構造のはっきりしている蔗糖とブドウ糖を投与し、GIが年齢により異なることを示した(図34)。また蔗糖はブドウ糖の半分しかブドウ糖を含まないのに血糖値の上昇は、ブドウ糖の50%以上である。つまり、同じ量のブドウ糖を含む食品でもその種類により血糖値上昇能は異なるのである。

 特に若年男性の場合、ブドウ糖投与による血糖値の上昇はインスリン分泌の上昇で抑えられるのに、蔗糖投与の場合にはブドウ糖投与と同じくらい(82.8%)血糖値が上昇した。このことはGIの測定に関して、年齢や食品の種類に注意を払う必要があることを示している。

 さらに重要なことは、糖尿病になりやすい中高年男性において、蔗糖摂取がブドウ糖に比べ血糖値の上昇が低いことである。一般に砂糖、つまり蔗糖を摂取すると血糖値が急上昇し、それが糖尿病の一因になると言われる。しかし、今回の研究は蔗糖摂取が血糖値を異常に高めないことをはっきりと示している。

 蔗糖摂取は肥満をもたらし、血糖値を上げ、糖尿病の一つの特徴とされる脂質異常をもたらすのだろうか。図91011に示すように、中高年男性、若年男性の蔗糖や甘味飲料水の摂取はBMIにも血糖値にも、中性脂肪の量にも影響を与えなかった。

 特に重要なことは空腹時血糖値である。甘いもの、つまり蔗糖を多く摂取する人が、それだけで常に血糖値が高くなるとは言えな い。糖尿病の高血糖には別の因子があることを示している。これらのことは蔗糖などの摂取が糖尿病を引き起こす重要な因子であることを否定するものと思われる。
 しかし、なぜ蔗糖が若年者で血糖値を高めるのだろうか。
 最近Suez,J.ら4)は、人工甘味料が腸内細菌に作用して、血糖値を高めることを示した。つまり、甘さが血糖値を高めるのである。彼らはマウスに5週間、サッカリンを投与し、血糖値を測定した。すると図12左図に示すようにサッカリン投与の場合の方がブドウ糖投与の場合よりも血糖値が高くなったのである。これが腸内細菌によるものである可能性を調べるために、抗生物質を投与しサッカリンを与えた。すると図12右図に示すように抗生物質を投与した後にサッカリンを与えても血糖値はブ ドウ糖投与以上に高くならなかった。さらに彼らはサッカリン投与後のマウスの糞便を採取し、これを正常マウスの腸内に与えたところ、サッカリン投与で血糖値は高まったのである。

 つまり、サッカリンのような甘味そのものが血糖値を高める可能性があるのである。このことは蔗糖の代わりにサッカリン、その他の人工甘味料を摂取すると腸内細菌に変化を与え、ブドウ糖を腸内で大量に作り出し、これが腸管から吸収され血糖値を高めることを意味する(図13)。血糖値の上昇を防ぐために人工甘味料を摂取することは逆効果であることが示されるのである。

 一方、若年者で蔗糖投与がインスリン分泌を増加させることについて、Just,T.ら5)は甘味の刺激が脳を介してインスリン分泌を増加させることを示している。これらの研究は血糖値の上昇には今まで考えられていた因子以外の多くの因子が関与していることを示していて、今後の解明が待たれる。

 

 

謝辞
 この研究は伊藤記念財団、NPO法人「食と健康プロジェクト」の助成を受けた。
【参考文献】
 1)Takao,T., Ogawa,M., Ishii,Y., Shimizu,F., Takada,A. Different glycemic responses to sucrose and glucose in old and young male adults. J.Nutrition and Food Sciences. 2016;6:1 
 http://dx.doi.org/10.4172/2155-9600.1000460
2)Jenkins DJ, Wolever TM, Taylor R for carbohydrate exchange. Am J Clin Nutr. 34:362-366
3)Wolever TM, Bolognesi C(1996) Source and amount of carbohydrate affect postprandial glucose and insulin in normal subjects. J Nutr. 126;2798–2806
4)Suez J, Korem T, Zeevi D, Zilberman-Schapira G, Thaiss CA, Maza O, Israeli D, Zmora N, Gilad S, Weinberger A, Kuperman Y, Harmelin A, Kolodkin-Gal I, Shapiro H, Halpern Z, Segal E, Elinav E. (2014) Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.Nature. 514;181-186.
5)Just T, Pau HW, Engel U, Hummel T(2008) Cephalic phase insulin release in healthy humans after taste stimulation? Appetite.51:622-627.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713



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