砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > タイ王国のサトウキビ作機械化と導入が進む中型収穫機

タイ王国のサトウキビ作機械化と導入が進む中型収穫機

印刷ページ

最終更新日:2016年11月10日

タイ王国のサトウキビ作機械化と導入が進む中型収穫機

2016年11月

沖縄県農業研究センター 赤地 徹
大東糖業株式会社 前田建二郎
南大東島収穫機オペレーター 新城 健浩

【要約】

 沖縄県南北大東島は、サトウキビ作機械化の先進地として知られているが、その中心である大型収穫機とそれに連動する伴走・運搬トラックが老朽化し代替時期を迎えている。ここでは、世界の機械化の動向を注視しながら代替可能な収穫機の選択肢を拡大するため、主要生産国の一つであり、このところ機械化が活発に進められつつあるタイ王国を訪問し、その機械化の状況と導入が進む中型収穫機について情報収集を行ったのでその概要を報告する。
 

はじめに

 沖縄県の南北大東島では、外国製の大型収穫機(注1)Toft7000を基幹作業機に据えたサトウキビ作機械化体系が定着して20数年が経過した。これらの機械化体系が、今日までの当該地域のサトウキビ産業の維持発展に大きく寄与してきたことは疑う余地がない。

 しかし、多数の大型作業機の連年使用により、いくつかの問題点がクローズアップされている。まず、基幹作業機である大型収穫機とこれに連動する運搬トラックの老朽化が進み、代替時期を迎えている。Toft7000は世界で最も普及している収穫機のひとつであるが、その製造メーカーであるAustoft社がCASE IH社の傘下に入り、生産拠点を豪州からブラジルに移したため、市場の小さな日本への供給が困難な状況になっている1)。また、運搬トラックについても市販車をベースにサトウキビ()(じょう)への進入を前提にして、クリアランスや減速比、デファレンシャルギアの位置、タイヤ幅などの改造を行う必要があり、導入にはハードルがある2)。さらに、収穫時期の断続的な降雨により、湿潤な土壌条件下で収穫作業を行うのが常となっており、トラッシュの増加や刈り残しによる収穫ロスの発生など作業精度が低下するほか、降雨の程度によってはすべての収穫機が動けなくなり工場のプラントを一時的に停止せざるを得ない状況も発生している。加えて機械化体系の大型化が近年のサトウキビの生産力(単収)低下の要因のひとつとの見方も根強いことから、現地では、代替に当たって収穫機の小型化も含めた種々の取り組みが行われている。小型化を念頭にした収穫機の更新については、豪州のCANETEC社(注2)の中型収穫機TM2008が現時点では唯一の代替機種として導入が進められているものの、現場の要望を満たすに十分な作業機とはなり得ていない。

 このような状況に鑑み、今後の効率的な収穫機の代替に資するため、アジア地域で稼働している主に中型収穫機に関する情報を収集することとし、近年中型機の導入が活発に行なわれているタイ王国(以下「タイ」という)を2015年12月に訪問し調査を行ったのでその概要を報告する。

(注1)大型収穫機、中型収穫機の区分については沖縄県の分類に基づいている(表1)。
(注2)CANETEC社は豪州・クイーンズランド州・バンダバーグに残されたAustoft社の工場をベースに2009年に新たに立ち上げられたメーカーであり、収穫機を中心にサトウキビ関連作業機の開発・製造を行っている。最近Bundaberg Mobile Equipment & Engineering Pty Ltd(BMEE)から社名変更した。日本向けに開発したTM2008をベースにアレンジしたAX5000やToft7000に匹敵するAX7500などの収穫機を主力製品として世界市場への展開を進めている。

 

表1 収穫機の大きさによる分類

1.サトウキビの生産

 タイは、世界第3位のサトウキビ生産国、世界第2位の砂糖輸出国(2015/2016年度)であり(表2)サトウキビは重要な経済品目となっている。これまで行われてきたコメ担保融資制度(事実上の政府によるコメの買い上げ制度)が破綻し、インラック政権から交代したプラユット体制下でコメからサトウキビ、キャッサバの振興という大きな政策転換が図られたことや、乗用車(新車)のE20ガソリンへの対応が義務化されるなどエタノール(バイオマスエネルギー)政策が強化されていることも追い風となり、サトウキビ生産は増加傾向になっている3) (1)。主な産地を作付面積のシェアでみると東北部(ウドーンターニ県、コンケーン県など):43%、中部(カンチャナブリ県、ロッブリー県など):29%、北部(ナコンサワン県、カムペーンペット県など):23%、東部(チャンタブリー県など):4%となっている4)。製造業への流出による労働力不足が顕在化している中部のシェアが低下する一方で、東北部と北部のシェアが高まっている。今回調査を行った東北部の農家では、このところサトウキビとキャッサバの価格を見比べながら作付けする作目を決定しているとのことであった。

表2 主要国のサトウキビ生産量と砂糖輸出量

図1 タイのサトウキビ生産の推移

2.サトウキビ栽培の作業体系と機械化の現状

(1)サトウキビ栽培の作型
 タイのサトウキビ栽培には3つの作型がある。新植では雨季後の10月〜12月に植え付け、翌年12月〜翌々年2月に収穫する作型(After Rain Planting)と雨季前の2月〜5月に植え付け、翌年2月〜4月に収穫する作型(Before Rain Planting)である。前者は日本の夏植え(秋植え)に相当し、後者は春植えに相当する。このほか、日本と同じように収穫後の残株を活用した株出し栽培(Ratooning)が行なわれている(図2)。タイでは3回程度の株出しを行うのが一般的であるが、株出し回数は減少傾向にある。6回株出しまで行う農家もあるが、株出し回数が増えるに従って収穫茎のC.C.S.(可製糖率)は低下する。
 

図2 タイのサトウキビ新植の作型

(2)主要な作業5)と機械化
 植え付けから収穫までの栽培に係る主な作業は以下の通りである。

ア.圃場の準備
 植え付け前の圃場の準備として、30センチメートル程度の耕深で耕起・整地を行う。主にディスクプラウが使用されている(写真1)。また、機械収穫を行った圃場ではサブソイラによる硬盤破砕作業を行う(写真2)。
 

写真1 ディスクプラウ

写真2 サブソイラ

イ.植え付け
 蔗苗は30センチメートルにさい断した2〜3芽苗を使用し、植え溝に植え付け覆土する。大部分は手作業で行われている。畦幅は100〜130センチメートル、苗は50センチメートル間隔で植え付ける。機械植えでは畦幅が140〜160センチメートルになる。1畦2条植えの場合は130センチメートル(100〜140センチメートル)の畦幅で条間30センチメートルにして植え付ける。植え付け機としては、ビレットプランタ(写真3)や全茎式プランタ(写真4)が普及している。後に高い培土が必要な品種は広めの畦幅にする。植え付けた後、かん水や施肥をしながら管理する。植え付け後の11カ月間のかん水は非常に重要である。
 

写真3 ビレットプランタ

写真4 全茎式プランタ

ウ.かんがい
 タイのサトウキビ農家の13%が自らかんがいを行っているが、残りの87%の農家はかんがいを行わず雨に頼っている。タイ中部ではかんがいは最も重要であり、27%のサトウキビ圃場にかんがい施設が整備されている。その他の地方では、かんがい施設の整備は3%以下である。

エ.中耕・培土・除草
 収穫までの間に2回程度の中耕・培土を行うことが多い。中耕、培土、除草を行う作業機にはさまざまな種類があるが、小型トラクタに装着した牽引式のコンパクトディスクハロー(写真5)やコンパクトトゥースハロー(写真6)などを用いている。
 

写真5 コンパクトディスクハロー(提供:K.Saengprachatanarug)

写真6 コンパクトトゥースハロー(提供:K.Saengprachatanarug)

オ.追肥
 植え付け後、収穫までの間に1回程度の追肥を行う。機械を使用する場合はトラクタのPTOで駆動する小型の施肥機を用いる(写真7)。
 

写真7 PTO駆動の小型施肥機

カ.害虫防除
 サトウキビの主要な害虫には主に3種類があり、耕種的防除や薬剤による防除が併用されている。
(ア)シンクイハマキの防除:Uthong3など抵抗性品種の栽培、殺虫剤(カルボフラン、シペルメトリン、デルタメトリン)による防除、収穫残さの除去
(イ)コナジラミの防除:1ヘクタール当たり300キログラムの肥料の散布、雑草防除で薬剤防除が不要、薬剤(ジメトエート、カルボフラン)による防除
(ウ)コガネムシ類の防除:植え付け前に手作業で除去、キャッサバやパインアップルとの輪作、薬剤(エンドスルファン、BPMC)による防除

 薬剤防除ではブームスプレーヤ(写真8)やコンパクトスプレーヤ(写真9)が用いられる。
 

写真8 ブームスプレーヤ

写真9 コンパクトスプレーヤ

キ.病害防除
 サトウキビの病害には白葉病、黒穂病など主に4種類があり、その対策は耐病性品種の栽培や植え付け前の無病化処理など予防的な防除が中心である。
(ア)白葉病の防除:()病茎の除去、病害フリー苗(植え付け前にセ氏50度の温水に2時間浸漬、500ppmのテトラサイクリン塩酸塩に30分間浸漬)の使用、K88-102など耐病性品種の使用
(イ)GGSD病の防除:罹病株の除去、病害フリー苗(植え付け前にセ氏50度の温水に2時間浸漬)の使用、Uthong3など耐病性品種の栽培
(ウ)黒穂病の防除:耐病性品種(Uthong1、2、3、4)の栽培、植え付け時に罹病していない苗や道具を使用すること、罹病茎などの除去、病害フリー苗(植え付け前に2000ppmのプロピコナゾール液(500倍希釈液)または2500ppmのトリアジメホン液(400倍希釈液)に30分間浸漬)の使用
(エ)赤腐病の防除:耐病性品種(K84-200、K88-92、K90-54、K90-77、Uthong3)の栽培、罹病茎などの除去、他作物との輪作、3カ月間土壌を乾燥させること、病害フリー苗(植え付け前に750ppmのベノミル液(約1300倍希釈液)または750ppmのチアベンダゾール液(約1300倍希釈液)に苗を浸漬)による植え付け、病害が発生した場合は、圃場で薬剤を散布することもあるが、害虫防除と同じようにコンパクトスプレーヤなどが散布作業に使用されている。

ク.収穫
 タイではサトウキビの収穫は手刈りまたは機械刈りで行われている。近年、収穫機(写真10)の導入が活発に行なわれつつあるが、機械収穫率はまだ10数%であり手刈り収穫が中心であることに変わりはない。多くの農家は、コストの増大や収益性の低下を恐れ新しい技術を取り入れようとしない。平均的には1人で1日に1トンのサトウキビを収穫する。植え付けから収穫までの在圃期間は12〜14カ月であり、手刈り収穫では、特別な(なた)写真11)でサトウキビを地際から切断する。収穫後の株はそのまま残され翌年の収穫茎として栽培する。切断後、梢頭部を除去し8〜15本を1束にして積み込む。最近は収穫機のほかトラックへの積み込み用のケーンローダが導入され、主にタイ中部で効果を上げている。 収穫された蔗茎は、24〜48時間以内に製糖工場へ搬入する必要がある。運搬が遅れると原料品質が低下し製糖ロスの要因となる。タイの製糖期間は例年11月〜翌4月の約6カ月間である。
 

写真10 大型収穫機 Toft7000

写真11 手刈り用の鉈

ケ.運搬
 収穫したサトウキビの運搬は、生産者自らが行うほかコントラクタ、製糖工場が行う場合もある。運搬にはそれぞれの規模に応じて大小さまざまなトラックが使用されている(写真12)。今回訪問したウドーンターニ県の製糖工場(Kumpawapi Sugar Co., Ltd.)では、多くの運搬トラックが原料受入のために待機している光景が見られた(写真13)。トラックは数10キロメートルの長距離を運搬する事例もあり、工場での待機時間を加味すると1日の運搬回数が1〜2回で終わることも多いようだ。Kaewtrakulpong(2008)らの研究によると、さい断式収穫機と運搬トラックを組み合わせた作業体系では、全体の実作業量は、作業を行う圃場条件のほか、割り当てられたトラックの台数に大きく依存する6)、7)
 

写真12 単気筒エンジンの運搬トラック

写真13 工場で受け入れを待つトラック

コ.輪作
 地力維持や病害虫の予防のため、タイでは輪作が行われることが多い。サトウキビとの輪作作物はキャッサバかパインアップルである。どの作物を輪作体系の中に組み込むかはその販売価格とかんがいのコストに左右される。
 

3.タイで導入が進む中型収穫機の特徴

 タイでは、製造業への労働力の流出や人件費の高騰を背景に、サトウキビ作の収穫作業においても機械化の機運が高まっている。大規模経営を中心にして豪州から中古のさい断式収穫機Toft7000の導入が積極的に進められた。しかし、農家の経営規模はさまざまであり、むしろ小規模農家の比率が圧倒的に高い(表3)ことから、小型化により機動性を高めることへのニーズも大きいものがある。このような状況の中で、Toft7000より小さいCASE IH A4000やJohn Deere CH330などの中型収穫機が導入されるようになっている。また、数年前からToft7000のメンテナンスを担ってきたThai Roong Ruang Manufacturing Co., Ltd.(TRM)(注)も独自で中型収穫機M6/Sを製造・販売するようになっている。今回の調査では、これらの中型収穫機A4000、CH330、M6/Sの3機種について情報を収集した。なお、タイにおける収穫機の小型化のニーズに対しては、現地からの要請などにより小型収穫機の導入について、日本のメーカーが取り組んでいる事例もある。
 

(注)TRM社は、タイのサトウキビ産業において主要な企業グループであるThai Roong Ruang Sugar GroupTRRグループ)の中でサトウキビの機械化を担っている企業である。Toft7000のメンテナンスを通して得た技術を基にToft7000に匹敵する大型機種M8や中型機種のM6/Sを製造・販売するようになった。TRRグループは傘下に7社の製糖企業を有し、最近は日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受けエタノールの製造にも取り組んでいる。

表3 タイにおけるサトウキビ農家の経営規模

(1)CASE IH A4000
 Austoft社がCASE IH社に吸収される前から、Toft4000として開発・製造してきた機種であり、今回調査した3機種の中では最も古い歴史を持つ(写真14)。


 


 


 基本部分はToft7000と同様のコンセプトで設計・製造されており、メーカー資料によると、100〜110センチメートルの狭い畦幅にも対応(150センチメートルまで適応)でき、軽量化による機動性の向上と収穫ロスの軽減や株出し収量の増大につながることをセールスポイントにしている。7000シリーズとの部品の共通化によりコスト低減を図っているほか、レバーやボタンなどの操作系やメーターなどの表示機器類は操作、視認しやすいように効率的にまとめられている。メーカーでは、1時間当たり15〜20トンの作業能率が可能としている。

(2)TRM M6/S
 本機はタイの国産中型収穫機であり、CASE IH A4000をモデルにして開発され2011年から販売されている(写真15)。A4000よりも大型のエンジンを搭載、動力を伝達する油圧ポンプの容量を増やし輪距を拡大するなど、安定性を高める工夫が施されている。また、さい断直後のエキストラクタファンに加え、エレベーター最上部にも小型のファンを装備しトラッシュ除去機能を強化している。操作系はシンプルでレバーの配置などはA4000に近い。メーカーではA4000や後述のCH330同様に100〜150センチメートルの畦幅に適応でき、条間30〜50cmで2条植えのサトウキビでも収穫可能としている。また、作業能率は1時間当たり12〜15トンで、圃場のコンディションによるが1日当たり140〜150トンを収穫できるとしている。中国、インド、ベトナムなど周辺国から視察や引き合いがあるが輸出までには至っていない。隣国のカンボジアやミャンマーに農場を持つタイの大規模農家が現地へ導入し使っている事例がある。本機については、販売開始からまだ数年経っただけであり、その耐久性などについては今後の経過を見ていく必要がある。
 

(3)John Deere CH330
John Deere社の収穫機は、米国ルイジアナ州でサトウキビの作業機を製造・販売してきたCAMECO社を2006年に吸収合併したところから始まる。Toft7000に相当するCAMECO社の大型収穫機CHW2500やCHW3500を発展させたCH3520が現在の主力製品である。その、John Deere社が南米やアジア地域を主なターゲットとして開発した中型機がCH330である(写真16)。


 


 本機の大きな特徴は、さい断式サトウキビ収穫機では世界初となる「Articulated Steering System(前折れ式操舵システム)」と「フルタイム4WD駆動方式」である。前者は操舵時にトッパ、クロップディバイダ、ノックダウンローラと前輪が一体的に左右に45度折れ曲がる構造になっており、いわゆるスリーポイントターンなしでの畦替えを可能にするほか、狭い畦幅(メーカー資料では100〜150センチメートルの畦幅に適応)の圃場への進入に効果を発揮する。また、駆動方式がフルタイム4WDとなっていることも機動性の向上につながると考えられる。

 キャビン内の操作系や制御・表示機器類は、運転席の右側に集中的に配置されており、オペレーターの前方は操舵用のハンドルのみとなっている。タッチパネルディスプレイやコーナーポストディスプレイにより作業内容を的確に制御したり、各部の機器類に作動状況などについて種々のインフォメーションが表示されるなど多くのICT技術も取り入れられている(図3)。なお、今回調査したCH330は2015年度で生産を終了し、2016年からは後述するCH530へモデルチェンジをしている。





 

(4)John Deere CH530(参考)
 CH530は、2016 年からCH330の後継機として製造・販売が始まった機種である。メーカーとしては、大型機CH3520に匹敵する作業性能と中型機CH330の機動性を併せ持った機種を目指してモデルチェンジを行っている。CH330からの大きな変更点は、クロップディバイダや掻き込み口の作用幅を拡大し、高単収や2条植え(寄せ植え)のサトウキビへの適応性を高めたところである。このため、エンジンの出力を148キロワットから152キロワットへアップし、輪距を10センチメートル拡大するとともにタイヤ幅(後輪)を52センチメートルから60センチメートルと大きくして作業の安定性を向上させている。基本的な設計はCH330同様、CH3520の設計コンセプトを踏襲し、多くの部品を共通化して、導入やメンテナンスのコスト低減を図っている。前折れ式操舵システム(写真17)、フルタイム4WDをはじめ、大部分の操作を運転席右側のマルチファンクションレバーに集約していることや、コーナーポストディスプレイ、タッチパネルディスプレイによる風量、刈り高さなどの作業コントロールやインフォメーション表示機能などはCH330と同じである。

 

写真17 前折れ式操舵システム

図4 CH530の回転半径

(5)TM2008(参考)
 TM2008は、豪州のCANETEC社が日本向けに製造・販売している機種である。当初はワンマンタイプ(伴走車がつかない収納袋による自走搬出方式)から開発が始まった。現在は、収納・搬出方式(伴走車式、収納袋式)と走行方式(車輪式、履帯式)により3つのタイプが存在する。南北大東島へは 2010年度から導入されており、8台が稼働している(写真18)。なお、TM2008をベースに世界市場への展開を狙いとして開発されたAX5000がタイへ導入されているとの情報があったが、今回の調査では見ることができなかった。
 

写真18 中型収穫機TM2008(北大東島)

(6)UT200-K(参考)
 UT200-Kは、奈良県の魚谷鉄工株式会社が製造・販売している機種で、南北大東島で稼働する唯一の国産中型収穫機である(写真19)。製糖期の降雨に配慮して、走行部はクローラ式を採用している。エンジン出力に比して機体が重く(15トン)、走行に割かれる動力比が高くなるが、条件が整えば高い作業性能を発揮する。
 

写真19 中型収穫機UT200-K(南大東島)

4.調査対象機種の収穫能力、操作性、各種性能、耐久性など試乗の印象

 今回訪問したタイで調査対象機種の試乗をする機会を得た。あくまでも個人的な印象であることを前置きして、オペレーターや利用者としての立場からその所感について述べる。

(1)CASE IH A-4000
 試乗はできなかったが、収穫作業を見学した印象では、掻き込み口が狭くベースカッタの径が小さいので収穫能力はTM2008より劣るかもしれない。操作系については、Toft7000と同じメーカーで電磁弁などを使用しない機械式なので操作はしやすそうである。また、機体重が軽いのは大きなメリットだが、耐久性についてはTM2008と同じ程度と感じた。

(2)TRM M6/S
 収穫作業での試乗を体験できた。収穫能力はToft–7000には及ばずTM2008と同等と感じた。A4000と同じように操作系は機械式なので、Toft7000に慣れたオペレーターにとっては操作しやすいと思われる。耐久性については、Toft7000には及ばずTM2008よりも劣るかもしれない。A4000も同様だが、試乗したタイの圃場は砂地であり、南大東島の重粘土壌では走行に動力が多く割かれるため、本来の収穫作業への動力が不足することが懸念される。

(3)John Deere CH330
 収穫作業で試乗した印象では、収穫能力はToft–7000と比べると劣るが、TM2008よりは高いと感じた。操作系はマルチファンクションレバーに集約されており電気式であることから、Toft7000と大きく異なるため、機械式の操作系に慣れたオペレーターは多少戸惑いがあり評価が分かれるかもしれない。耐久性はToft7000には及ばないがTM2008よりは高いのではないかと思われた。その他、培土後の圃場でサトウキビが倒伏しているような場合、クロップディバイダにFloating side Wall(サトウキビの流れを良くするための案内板のようなもの)が無いため、ディバイダと地面の間に隙間ができサトウキビをうまく取り込めない可能性がある。Toft7000と比べてキャビンの位置が高いので乗り降りのアクセスに時間がかかり伴走トラックを待つ間にキャビンから降りてこぼれているサトウキビを拾うことなどがおっくうになるかもしれない。また、エレベーターがターンテーブル付近から倒れない(中央部付近で折れる)構造になっているため、チョッピングドラム(さい断機構)などの整備には難がありそうである。

(4)南大東島への導入の可能性について
 前述したように、南北大東島の機械化体系はToft–7000を基幹作業機として全ての作業が組み立てられている。特に南大東島においては、製糖工場の操業も大型機Toft7000の収穫能力を基に計画、運営されている。(1)重粘土壌で機械に対する負荷が大きいこと、(2)台風でサトウキビが倒伏する場合が多いこと、(3)翌日の天候が雨の予報で収穫機が稼働できないと予想される時は、翌日の工場の安定操業のために通常の1.5倍程度の収穫・搬入を行う場合があること、(4)作業機の数が増えるとオペレーターやドライバーなどの要員を確保する上で困難があることなどから、収穫機には余裕ある能力が求められる。特に人員確保は年を追うごとに難しくなっている。また、1台当たりの収穫量は、多い機種では全体の10%を超えることもあるため、故障などで休止するとその影響は非常に大きく、十分な耐久性や安定した部品供給も併せて求められる。このような状況に配慮すると、南大東島では限りなく現行のToft7000に近い能力を有していることが代替機に求められる要件となる。

 今回タイで視察した中型収穫機の中で上記の条件をクリアできる可能性がある機種は、機体重を除けばJohn Deere CH330が最も近いと思われる。その理由は、(1)前折れ式操舵システムにより大型並みに掻き込み口が広く収穫能力が高い(試乗感)こと、(2)大型機並みの素材、部品が使われ耐久性が高い(予想)こと、(3)世界有数の農機メーカー製であることから部品供給が安定していることなどである。できるだけ早い時期に南大東島での適応性などについて明らかになることを期待したい。
 

表4 調査機種の仕様とパフォーマンス

おわりに

 サトウキビの主要生産国の一つであるタイを訪問し機械化の状況などを視察する機会を得て、そのエネルギッシュな生産活動を目の当たりにした。メジャーな経済品目であるが故に、機械化への関心も非常に高いものがあり、技術開発はもとより新技術の現場への普及が加速度的に進められている。

 近年の労働力不足と賃金の高騰を背景に収穫機が積極的に導入されているが、伴走車を兼ねた運搬トラックとの組み合わせによる作業では、トラックの運搬距離や工場での待機時間などによっては、収穫機の能力を十分発揮できる状況にはなっていないと感じた。機械化が進められる中で、小型化を念頭に増えつつある中型収穫機には、南北大東島のToft7000の代替機種として選択肢に加えていいと思えるものもあった。南北大東島への導入に当たっては、日本での新たな排ガス規制(オフロード法)の基準をクリアする必要があるが、対応は可能だと思われる。大型収穫機に匹敵する作業性能を保ちながら機動性を高めるための工夫をしている新しい中型収穫機は、環境問題への対応という観点からも有望であり、今後世界の主流になっていく可能性がある。

 また、大規模農家の圃場や農業機械のディーラー、たまたま開かれていたカセサート大学での農業機械フェアで見た収穫機以外の植え付け機、中耕・培土機、施肥機、株出し管理機などの管理作業機の中には日本で利用できると思われるものがあり、継続して情報収集を行う必要性を痛感した。

 最後になるが、本調査に当たってコンケーン大学工学部のKhwantori Saengprachatanarug 博士には、訪問先との調整や移動ルートの検討などのコーディネートはもとより、関連資料の提供など多大なご指導、ご協力を賜った。ここに記して深謝の意を表する。

参考文献
1)赤地 徹(2015):日本におけるサトウキビ収穫機とその利用技術 −開発導入の経緯と今後の展望−、沖縄県農業研究センター研究報告 9:1-14.
2)赤地 徹・吉原 徹・前田建二郎・玉城 麿・宮平守邦・正田守幸・安仁屋政竜・亀山健太・井上英二(2016):沖縄県南北大東島におけるサトウキビの収穫・運搬作業体系のダウンサイジングに関する研究 −現行のサトウキビ収穫・運搬作業の類型化と実作業量の推定−、農作業研究(投稿中)
3)安藤象太郎・小堀陽一・寺島義文(2015):東北タイでのサトウキビ 多用途利用に向けて、砂糖類・でん粉情報10月号、独立行政法人農畜産業振興機構ホームページ https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001190.html
4)A. Meriot(2015):Thailand’s sugar policy: Government drives production and export expansion、Sugar Expertise LLC、 for the American Sugar Alliance (ASA) :1-32.
5)J. Zeddies(2006):The Competitiveness of the Sugar Industry in Thailand、 The institute of agricultural company apprenticeship (410b)、 University of Hohenheim:67-85.
6)K. Kaewtrakulpong、 T. Takigawa、 M.Koike、 H. Hasegawa、 B. Bahalayodhin(2008):Mechanization for the Improvement of the Sugarcane Harvesting and Transportation System in Thailand -A Case Study in Udon Thani Province-、 Journal of JSAM 70(2):51〜61.
7)K. Kaewtrakulpong、 T. Takigawa、 M.Koike、 H. Hasegawa、 B. Bahalayodhin(2008):Mechanization for the Improvement of the Sugarcane Harvesting and Transportation System in Thailand -An Application of Multi-objective Optimization-、 Journal of JSAM 70(2):62〜71.

 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713