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でん粉からバイオ燃料を作る

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最終更新日:2017年1月10日

でん粉からバイオ燃料を作る

2017年1月

京都大学大学院農学研究科 谷村 あゆみ、岸野 重信、小川 順
龍谷大学農学部 島 純

【要約】

 微生物の機能(発酵)を用いたバイオ燃料生産の研究が行われるようになって久しい。われわれは、バイオ燃料の原料としてでん粉に着目した。簡便なバイオ燃料生産技術を探索する中で、自然界から採取した酵母がでん粉を分解、発酵する能力を有していることを見いだした。本研究にて特定した酵母を用いることにより、エネルギー問題への寄与だけでなく、非可食でん粉の新たな利用方法の確立にもつながることが示された。

はじめに

 われわれは、微生物を用いて有用物質を作ることを目的として研究を行っている。対象とする微生物はカビ、細菌、酵母などである(それぞれの違いや特長については、文末の参考文献に挙げたWebページ1), 2), 3)などを参照)。これらの微生物は栄養素を取り込み、分解あるいは合成することで生命を維持しており、その過程で生じた化合物をわれわれは「有用物質」として利用している。発酵食品はその最たるものであろう。例えばカビが作る味噌やチーズ、 細菌が作る納豆やヨーグルト、酵母が作るパンやアルコール飲料を得ている。

 他方、微生物は食品だけでなく化成品や燃料の原料となる物質の生産にも有用である。2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村博士がゴルフ場にて採取した菌から感染症の治療薬を開発した話は記憶に新しい。実際、微生物によるファインケミカルやバイオ燃料(バイオエタノール、バイオディーゼル)生産を目的とした新規微生物の収集やメカニズムの解明は世界中で行われている。その一翼を担うわれわれは、微生物による物質生産を探索する過程で、酵母がでん粉を分解、発酵し、バイオエタノールやバイオディーゼルを生産することを見いだした。

 本稿では、これまでに得られた研究成果を紹介するとともに、でん粉を原料としたバイオ燃料生産の可能性について概説する。

1.でん粉について

 でん粉は、水に溶けるでん粉(アミロース)と溶けないでん粉(アミロペクチン)に分けられる(図1)。われわれが今回の研究で用いたのは、アミロースである。図中の六角形1つがブドウ糖(グルコース)1分子を表しており、どちらも「単糖」であるグルコースが多数つながった「多糖」である。ア ミロースはグルコースがつながった直線状の構造を、アミロペクチンは多数の枝分かれを有する複雑な構造をとっている。それぞれの含有割合はでん粉を蓄積する植物の種類によって異なる。

 われわれが想定しているバイオ燃料原料となるでん粉は、食べられないでん粉(非可食でん粉)であり、具体的には、食品廃棄物、食品工場排水、飲食店排水などである。いもの加工工場やうどん屋の廃 棄物や排水はでん粉含有量が多く、有力な原料供給源になり得ると考えている。でん粉を含む排水の河川への流出は環境汚染の原因となるが4)、バイオ燃料に変換することができれば、エネルギー生産だけでなく環境浄化にも寄与できる可能性がある。
図1 でん粉の構造

2.発酵によるバイオ燃料生産

 基本的に、酵母はグルコースのような単糖をエネルギー源として発酵を行う。従って、酵母による発酵の前にでん粉をグルコースまで分解する必要がある(図2)。多糖を単糖に分解することを「糖化」と言う。ごはんをよくそしゃくした際、甘味を感じた経験はおありだろうか。唾液中のタンパク質(酵素)によって米飯のでん粉がグルコースに糖化されたためである。

図2 でん粉の糖化と酵母への取り込み
 一般に、でん粉をバイオ燃料の原料にする場合、糖化は「アミラーゼ」と呼ばれる酵素を用いて行う。先述の、唾液中に存在する酵素もアミラーゼである。よって、でん粉を発酵の原料とする際は、アミラーゼによる糖化の工程を加えなくてはならない。このような、酵素を添加して発酵を行うプロセスのことを「同時糖化発酵」(Simultaneous saccharification and fermentation、以下「SSF」という)という(図3)。SSFは、糖化の効率および、バイオ燃料の収率が高い反面、(1)アミラーゼの購入コスト、(2)糖化の手間コスト、(3)設備コスト−などにより製造コストが高くなると言われている。さらに、アミラーゼは50度前後で糖化の効率が最大となるため、温度管理コストも掛かることが指摘されている。
図3 酵母を用いたバイオ燃料の製造方法(SSF)

 これらSSFのデメリットを克服できる可能性がある方法が存在する。一貫バイオプロセス(Consolidated bioprocessing、以下「CBP」という)である(図4)。

図4 酵母を用いたバイオ燃料の製造方法(CBP)

 糖化のための酵素を添加せず、酵母のみで糖化も発酵も行うという1ステップの画期的な方法である。プロセス全体の低エネルギー化も期待できるため、実現に向けて多くの研究が行われている5, 6CBPに使う酵母には高い発酵能力だけでなく高い糖化能力が求められるため、現在のところ遺伝子組み換えによる酵母の機能改変が研究の主流となっている。しかし、遺伝子組み換え酵母の流出を防ぐための設備コストや維持コストが掛かってしまうため(図5)、自然界にない遺伝子組み換え酵母を用いるのは現実的ではない。

図5 酵母を用いたバイオ燃料の製造方法(遺伝子組み換え酵母)

 われわれは、「簡便さ」、「安全性」、「高い効率」の両立を目指しつつ、CBPによるバイオ燃料の実現を見据えて研究を行っている。高い機能を持つ酵母を自然界から見いだすことを足掛かりとし、メカニズムの特定やプロセスの最適化を試みている。

3.でん粉からバイオエタノールを作る

 酵母は、グルコースを取り込み分解してエタノールを生成する。可燃性および揮発性の高いエタノールは、石油代替燃料となり得る。現在のところ、エタノールはガソリンに混ぜて使用することが想定されており、エタノールのブレンド率は自動車の性能との兼ね合いもあり、バイオ燃料先進国である米国でも10%である7), 8)。 エタノールは価格が安いこともあり、発酵によるバイオエタノール生産の研究はここ数年、下火になりつつあるような印象を受けている。出口志向ではない研究は理解が得られにくいからであろう。2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅博士の受け売りではないが、「どれだけ役に立つか」はサイエンスの尺度ではないことは明らかだ。ちなみに、大隅博士の受賞対象となったオートファジーの研究は、酵母を用いて行われた。2年連続で微生物に関する研究が受賞対象となったことは、微生物に関わる者にとって望外の喜びである。

 さて、一時の勢いはなくなったとは言え、酵母によるバイオエタノール生産はいまだバイオ燃料研究の主流と言っても過言ではない。多くの研究者が目標としているのは、稲わらや間伐材といった未利用植物資源(セルロース系バイオマス)からのバイオエタノール生産である。セルロース系バイオマスからSSFでいかに高濃度のエタノールを得るかが中心的な話題であったが、10年ほど前から少しずつCBPに関する研究が現れ始めた。われわれは、セルロース系バイオマスではなく、でん粉をCBPの原料とすることに決め、(1)アミラーゼを生成し、でん粉をグルコースに分解できる、(2)生じたグルコースをエタノールに変換できる−という2つの特性を併せ持つ酵母の探索を行った。

 でん粉はセルロースと同じくグルコースが集まった多糖であり、セルロースよりも糖化が容易であることから、この研究を行うことはセルロース系バイオマス利用への第一歩となると考えたためである。それまで一般に、酵母はアミラーゼを生成せず、でん粉の分解はしないと認識されていた。なかなかチャレンジングなことを試みたものである。

 地道な実験が功を奏してか、京都大学構内の土壌などから分離した約530株を用いて探索を行った結果、10%のでん粉を含む培地から1リットル当たり6グラム以上のエタノールを生産する酵母を3株見いだすことができた(表1)(いずれの酵母も、独立行政法人理化学研究所(注)バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)に寄託済み)。

 (注)組織名称は、実施当時の名称。
表1 でん粉からエタノールを生産する酵母

 さらに、10%のでん粉を含む培地からのエタノール生産能力の時間変化を測定したところ、ATY839が最も優れており、培養7日目で1リットル当たり約8グラムのエタノールを生産し、10日目においては同9.2グラムに達していた(図69。さらなる解析により、ATY839の高いでん粉発酵能力は、アミラーゼ生成能力の高さやグルコース発酵能力の高さによるものだということが分かった。ATY839は、でん粉を分解する強力なハサミと、多量のエタノールを生産できる元気な体を持つ特異な酵母なのである。この研究により、アミラーゼを添加しなくても酵母のみででん粉からバイオエタノールを生産できることが証明された。CBPによるバイオ燃料生産の実用化への大きな一歩である。なお、ATY839のゲノム解析は進行中であり、近いうちにこの株のユニークな特性についてさらに明らかになることが期待される。

図6 エタノール濃度の時間変化

4.でん粉からバイオディーゼルを作る

 酵母が生産する物質は、エタノールだけではない。一部の酵母は、取り込んだ栄養素を油脂に変換し、菌の体内に蓄積することが知られている10。ヒト同様、酵母も体内に脂肪を貯めるのである。菌体内に蓄積された油脂は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸が多く含まれ、バイオディーゼルに適していると言われている。また、油脂は食品や化成品の原料にもなり、エタノールよりも汎用性が高い。そのため、酵母を用いた油脂の生産の研究は近年、勢いを増している。

 
2015年の年末、全日本空輸株式会社と株式会社ユーグレナが共同で会見を行い、2020年までに微細藻由来の燃料を実用化する予定であると発表し11。その成否はともかく、グリーンな燃料が市場に出回る時代がそこまで来ているというのは感慨深い。このように、酵母や微細藻の他、カビや細菌も油脂を生産できる。生産能力などは微生物の種類によって異なり、一長一短である。どれが一番良いかという話ではなく、それぞれが特長を生かしてバイオディーゼル生産の選択肢の一つとなればよいのではないだろうか。酵母を使うメリットは、(1)生育が早い、(2)光合成を行わないため広大な土地が不要、(3)さまざまな原料を油脂に変換できる−などが挙げられる。

 
この中で、3つ目がポイントである。これまで述べたように、酵母はアミラーゼを生成する能力を持つ種類が存在するため、CBPで「でん粉からエタノール」ができるなら「でん粉からバイオディーゼル」もできる可能性があるかもしれない。そのような考えから、独立行政法人理化学研究所(注)の高島らが利尻島、西表島などから分離した酵母約120012をもとに、でん粉を油脂に変換する酵母の探索を行った。その結果、調べた酵母の4割以上に、でん粉を油脂に変換する能力が見られた。さらに探索を続け、油脂の蓄積能力が特に高かったCryptococcus terricolaに属する2株を選抜した(表2)。

 (注)組織名称は、実施当時の名称。

表2 でん粉から油脂を生産する酵母

 その2株を用いて、5%のでん粉を含む培地からの油脂生産能力の時間変化を観察した(図7)。2株とも高い油脂含量を示し、でん粉からCBPにより油脂の生産も可能であることが分かった。これらの酵母に蓄積した油脂は、バイオディーゼルの原料となっているなたね油の組成と類似していた。性状の面から見ても、酵母がでん粉を変換した油脂はバイオディーゼルへの応用が可能であることが示された。

図7 油脂含量の時間変化

おわりに

 本研究により、でん粉を原料として酵母のみの力でバイオエタノールやバイオディーゼルの原料が生産できることが分かった。これにより、バイオ燃料研究の新たなページが開かれたわけだが、課題も多い。まず、植物によってでん粉の種類やそれらの含有割合が異なるため、糖化および発酵能力に優れた酵母の探索や発酵技術の開発がさらに必要な点である。麺のゆで汁から食品廃棄物まで、あらゆるでん粉を対象に研究を行っていきたい。加えて、収率の向上、培養時間の短縮にも挑戦していかねばならない。

 意外と思われるかもしれないが、日本はバイオ燃料の分野においては第一線にはいない。日本は、本気度で東南アジア諸国に負けており、第三線がいいところであろう。実用化の先進国は米国とブラジル。研究の面では中国の独り勝ちという印象である。技術的な説明はかなり割愛したものの、本稿をきっかけに酵母を用いたバイオ燃料研究や非可食でん粉の利用に興味を持っていただけたら幸いである。理解者を一人でも多く増やすことが、日本のバイオ燃料研究の推進や、未利用でん粉の活用促進につながるはずである。

 
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(注)の戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)によって実施された。また、紹介した研究の一部は、独立行政法人理化学研究所(注)バイオリソースセンター微生物材料開発室の大熊盛也博士、高島昌子博士、遠藤力也博士、および明治薬科大学微生物学教室の杉田隆博士との共同研究により行った。

(注)組織名称は、実施当時の名称。

参考文献

1)独立行政法人製品評価技術基盤機構 「微生物いろいろ」

http://www.nite.go.jp/kids/bio/04_01.html

2)日本水産株式会社 「酵素を作り出す三大微生物」

http://www.nissui.co.jp/academy/taste/13/

3)三井農林株式会社 「微生物を知ろう」

https://www.mitsui-norin.co.jp/mmid/knowledge/yokota/index2.html

4)渡辺昌規(2009)「うどんのゆで汁で2,3度美味しい:ゆで汁からのバイオエタノール 生産と水資源リサイクル(大学発!美味しいバイオ)」『生物工学会誌』(8712号)614-615. 公益社団法人日本生物工学会

5Mattila H Kuuskeri J Lundell TSingle-step single-organism bioethanol production and bioconversion of lignocellulose waste materials by phlebioid fungal species」『 Bioresour. Technol. 2016, 22254-261

6G.S. Jouzani M.J. TaherzadehAdvances in consolidated bioprocessing systems for bioethanol and butanol production from biomass: a comprehensive review」 『 Biofuel Res. J., 2015, 5152195

7)『World Ethanol & Biofuels ReportOct. 21, 2014

8)経済産業省「平成26年度主要エタノール生産国(ブラジル)における企業動向等に関する調査」

9Tanimura A Kikukawa M Yamaguchi S Kishino S Ogawa J Shima J Direct ethanol production from starch using a natural isolate, Scheffersomyces shehatae: Toward consolidated bioprocessing」『Sci. Rep 2015, 229593

10Tanimura A Takashima M Sugita T Endoh R Kikukawa M Yamaguchi S Sakuradani E Ogawa J Shima J Selection of oleaginous yeasts with high lipid productivity for practical biodiesel production」『Bioresour. Technol  2014153230

11)日本経済新聞電子版「ミドリムシ燃料を20年実用化 ユーグレナ、航空機向け」

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ01I20_R01C15A2TI5000/

12Takashima M Sugita T Van BH Nakamura M Endoh R Ohkuma MTaxonomic Richness of Yeasts in Japan within Subtropical and Cool Temperate Areas」『PLoS ONE 2012, 711)』e50784

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