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与論島のさとうきびの生産を支える作業受託の取り組み

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最終更新日:2017年2月10日

与論島のさとうきびの生産を支える作業受託の取り組み〜鹿児島県与論町 町繁一氏〜

2017年2月

鹿児島事務所 岸本 真三市

【要約】

 与論島の町(しげ)(かず)氏は、与論町ハーベスター連絡協議会会長として、島のさとうきびの生産を支える重要な役割を担っている。島の作業受託の先駆けとなるとともに、オペレーターの人材育成や継続可能な受託体制の整備など親子2代にわたりさとうきび生産への多様な取り組みを行っている。

はじめに

 与論島は、薩南諸島の最南端に位置し(図1)、与論町の1町からなる。隆起珊瑚礁で形成された島は、「東洋の海に浮かび輝く1個の真珠」と称される。広さは、周囲23.65キロメートル、面積20.55平方キロメートルであり、面積の54%の1110ヘクタールが農地である。地理的には、亜熱帯に位置していることから、年平均気温が摂氏21.6度と温暖な気候である一方で、降水量は同諸島の中で最も少ないことが特徴である(図2)。

図1 与論島の位置

図2 平年の年間平均降水量

 また、島の農業は、主要作物の生産戸数の過半をさとうきびの生産者が占めており、出荷額としては、畜産に次いで大きい状況にある(表1)。

表1 主要作物の販売実績(平成26/27年期農協共販額)

1.与論島におけるさとうきび生産状況

(1)生産実績
 与論町における過去5年間(平成23年産から27年産)のさとうきびの生産実績を振り返ると、25年産は6月から9月の生育期における干ばつ(降雨のなかった半旬(5日間)が9回あり、そのうち降雨のない半旬が最長4半旬続いた影響)から過去最低の1万6080トンであった(表2)。しかし、26年産と27年産は2万2968トン(前年産比43%増)、2万6706トン(同16%増)と大幅に回復し、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会主催のさとうきび生産改善共励会における「地域(島別)の部」の優秀賞を2年連続受賞した(図3)。

表2 与論島における6月から9月までの半旬の降水量

図3 与論島におけるさとうきびの生産実績

(2)品種の特徴
 鹿児島県のさとうきびの品種は、農林8号が46.0%を占めているが、与論島においては、干ばつに強い農林23号が61.8%を占める(図4)。これは、先に触れたとおり、与論島が他の島より降水量が少ないことに起因していると考えられる。

図4 平成27年産鹿児島県の品種および与論島の品種構成

(3)島内圃場の特徴
 与論島のさとうきびの()(じょう)は、地域によって異なるもののおおむね固い粘土質であり、地中には石や珊瑚由来の岩の塊が多く、耕起・整地には、高馬力のトラクターを用いる必要がある(写真1)。

 また、与論島は他の生産地域と比較すると1筆当たりの栽培面積が11.1アールと小区画で、ハーベスタによる収穫に適さない圃場もあることから、ハーベスタ収穫率が62.1%と他の島より約20ポイント以上低い(表3図5)。

写真1 圃場を掘り返した際に出る珊瑚由来の岩

表3 平成27年産さとうきび栽培圃場筆数および一筆当たり栽培面積

図5 島別ハーベスタ収穫率

(4)年齢構成の特徴
 鹿児島県におけるさとうきびの生産者の年齢構成を見ると60代以上が6割を超えている(表4)。与論島も同様の年齢構成であり、若手の生産者の育成が大きな課題となっている。

表4 平成27年産年代別の生産者数および割合

2.町繁一氏の取り組み

(1)与論島におけるトラクターによる作業受託の始まり
 町繁一氏(52)の父の(はん)(えい)氏(89)は、45年前に与論島で初めてさとうきび生産の機械化や作業受託を始めた人物である。当時の事情を知る与論島製糖の光富広次長は「昔は、機械を保有しているのは製糖工場だけであり、畦立ては、ブルドーザーに装着したリッパー(削岩機械)で引いた後の溝を鍬で調整して畦を整えていた。また、未舗装の道路が多かったため、トラクターの用途は専らぬかるみにはまった運搬車両を引き上げることであった」と語る。

写真2 町親子が管理する亜熱帯植物の緑がまぶしい植物園にて(左:繁栄氏、右:繁一氏)

 その頃の繁栄氏は、南島開発(現在の与論島製糖)の車両部長として、さとうきび生産に関係する車両および機械の管理のほか、道路事情が悪く、機械化も進んでいない島に適した丈夫でメンテナンスにかかる手間が少ないトラクターなどの機械の選定業務に従事していた。

 時代の流れとともに与論島のさとうきび生産を取り巻く環境が厳しさを増す中、繁栄氏は、地域農業の将来を考えるに当たり、仕事で培った知見を生かして、生産者を支えたいという気持ちが強まり、定年を待たずして会社を退職。そして、与論島の圃場に適した60馬力(4万4130ワット)以上あるトラクターを購入した後、与論島で初めての作業受託をなりわいとする経営をスタートさせた。
 これが、与論島におけるさとうきびの作業受託の起源である。


(2)繁栄氏からのノウハウの継承
 繁一氏は、トラクターによる作業受託専門業者として、日夜、駆け回る父の姿を見るうちに、自然と家業を手伝うようになった。

 当時はまだ島内の区画整備が進んでおらず、トラクターでの出入りが1カ所しかない圃場などが多かったため、作業は困難の連続であったが、繁一氏は父から的確なアドバイスを受けて、作業受託のノウハウを着実に積み上げていった。繁栄氏の教えは、技術面に限らず、自身のモットーである「生産者の圃場を大切に、生産者が喜ぶ仕事をする」という考え方から伝えられており、繁一氏もその思いを強く受け継いでいる。

 作業受託を推進していく中、増えていく生産者からの依頼に応えるため、トラクターを買い増しして「耕起」「整地」「畦立て」の用途に応じてトラクターを使い分けて、アタッチメントの取り替えにかかる労力の軽減や時間の短縮を図った。

 また、与論島に適したさとうきび生産を考え、試行錯誤するうちに、3回の株出しを可能とする植溝の深さ30センチメートル以上の深溝畦立てを行うようになっていった。この方法は、現在の与論島のさとうきび生産に広く定着した技術の一つとなっている(写真3)。

写真3 深溝畦立ての様子

 繁栄氏は平成28年、高齢を理由に引退した。しかし、繁栄氏に対する生産者からの信頼は厚く、いまだに繁栄氏に依頼が来ることもしばしばある。繁一氏は、受託作業に対する造詣の深さ、生産者からの信頼、生産者ごとのきめ細やかな対応など父の偉大さを感じる日々であると言い、「父の頭の中には、与論島のすべての生産者の圃場の場所が完璧に入っているが、自分はそれに遠く及ばず、植え付けを終えた圃場を間違って掘り返してしまったこともあった」と笑う。

写真4 繁栄氏が購入したトラクターと繁一氏

(3)ハーベスタの導入へ
 
繁一氏は、収穫体系が手刈り中心からハーベスタに移行しつつある状況を踏まえ、平成17年に生産者組合「ユンヌ結さとうきび生産組合」(以下「組合」という)を設立し、ハーベスタ導入に踏み切った。島の言葉で「ユンヌ」とは与論島のこと、「結(ゆい)」とは、地域で集まって助け合うという意味であり、「与論島のみんなで助け合ってさとうきびを生産していこう」という願いを込めてこのような組合名とした。

 
ハーベスタを導入した当初、生産者から「ハーベスタによる土壌踏圧の影響で単収が下がるのではないか」といった不安の声が寄せられたというが、繁一氏の丁寧な仕事ぶりが生産者の信頼を得て、次第にハーベスタによる収穫が定着し、10年が経過した今では生産者から応えきれないほどの依頼が来るようになっている。

 
生産者からの依頼の中には、手刈り用で畦立てした圃場(注)であっても収穫時にハーベスタでの収穫に変更する場合もあることから、ハーベスタでも圃場に入りやすいよう生産者ごとに畦立てを工夫するなど細やかな対応をしている。現在の組合員数は18名、収穫受託面積は53ヘクタール(26年産実績)、保有機械はハーベスタ2台(うち組合1台、個人1台)、トラクター4台(組合1台、個人3台)、耕転機1台(個人)である。

(注)一般的に、手刈り用の畦幅は120センチメートル、ハーベスタ収穫用の畦幅は130センチメートルである。



(4)労働力確保と人材育成
 
繁一氏の受託概要は図6の通りであるが、1月から3月にかけて収穫作業と春植えの耕起・整地・畦立ての作業が重なり多忙を極める。特にハーベスタの作業においては、オペレーター1名、補助員2名の3名体制で実施する必要があることから、人材確保が課題となる。そのため、補助員の勤務時間を午前・午後と短く時間を区切ることで短時間でも手伝ってもらえるよう人材確保に努めている。

 
現在の労働力は、常時雇用として平成28年からUターンで戻ってきた同級生1名の常時雇用者と約20名(うち3名がハーベスタのオペレーター)の臨時雇用者である。
 

図6 町繁一氏の作業受託の概要

 繁一氏への島のさとうきび関係者からの期待は大きく、現在、与論町ハーベスター連絡協議会会長を務め、生産者とオペーレーターをつなぐ活動にも尽力している。与論島にあるハーベスタ12台のうち10台が同協議会の会員が所有していることから、増え続ける収穫委託のニーズに応え、島全体の収穫作業を効率的に行うため、年5〜6回は協議会の会員で集まるなど、日頃から連携を図っている。

 このほか繁一氏は、オペレーターや補助員の労働環境の改善にも取り組んでいる。27年までは雨天時や深夜まで収穫作業を行っていたが、安全確保や健康を配慮して、現在は雨天時の作業を中止し、作業時間は7時半から18時までとするなど、継続して働ける環境を整えた。

 この結果、数多くの業務を限られた時間でこなせる新たなオペレーターの育成が急務となったものの、指導に当たっては、単に運転・操作さえできれば良いというものではなく、父の教えの「生産者の圃場を大切に、生産者が喜ぶ仕事をする」という視点の大切さも教え込んでいる。

 最近は、現場で活躍する女性のオペレーターも現れているほか、繁一氏の下で経験を積み、28年から本格的に自作地での栽培に取り組んでいる藤田克仁氏(写真5)が調苗班(注1)のメンバーとして活動するなど地域の未来を担う人材が着実に育ち始めている。これについて繁一氏は「今後も多様な人材が活躍できる場を提供していきたい」と語る。

写真5 調苗班としても活躍する藤田氏

 その言葉の通り、藤田氏は、さとうきび生産に非常に意欲的で、高齢農家や兼業農家に対するサポートを広げたいとも考えており、平成28年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会(注2)において与論島の生産者代表として登壇するなど繁一氏と同じくさとうきび関係者から活躍を期待されている人物の一人となっている。

(注1)調苗班とは、効率的に調苗作業を進めるため、島内を三つの区域に分けて主に3名で活動しており、調苗班が所有する圃場で育苗した苗を生産者からの注文に応じて配布する組織である。調苗班の活動は、生産者から「必要な数量の苗を必要な時に入手できることから計画的に作業が行える」と高評価を得ている。この取り組みにより、兼業の生産者の生産増や夏植えの推進が見込まれている。
(注2)平成28年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の模様は1月号を参照されたい。



(5)課題と今後の展望
 与論島のさとうきび関係者(あまみ農業協同組合、与論町糖業振興会、与論町、与論島製糖、生産者、与論町ハーベスター連絡協議会など)は、日頃からさとうきび生産のさまざまな課題の解決に向けて、意見を交わしており、それぞれが新たな取り組みを手掛け始めている。

 最も大きな課題は、「人手不足」である。島内だけでは人材確保は困難であるため、与論町が中心となって、インターネットや東京での説明会の開催などを通じて島外から農業支援員を募ることを計画している。受け入れに当たっては、通年雇用ができるように、サトイモなどさとうきび以外の生産者との連携や、宿泊場所の確保などの新たな課題もあるため、「島全体での取り組みを模索している。この取り組みにより特に若手の人材確保が図れればさとうきびの生産の後押しにつながる」と与論町産業振興課の山下秀光主幹兼係長は語った。

 与論町糖業振興会は、機械化に対応した圃場への転換に向けて、ミニトラクターでの中耕に対応した畦幅115〜140センチメートルの実証圃場でのさとうきびの栽培を今年産から始めている。これは、植え付け本数は減ってしまうが、中耕作業を機械化できるまでに畦幅を広げることにより、管理作業の機械化を進めた圃場において、生産性の向上が図られるか検証する取り組みである(写真6)。繁一氏もこの取り組みに作業協力をしており、さとうきび生産の省力化に貢献できればと考えている。

写真6 ミニトラクターの実証用の圃場

 このほか、近年、畜産業が好調であることなどを背景に、若手の生産者を中心に離農跡地などを牧草地へ転用する事例も見られることから、繁一氏は、畜産農家に少しでもさとうきびを作ってもらうよう声を掛けるなど畜産農家との連携を模索する取り組みも行っている。

 繁一氏が抱える課題は、自身のさとうきびの生産面である。ハーベスタ導入を機にさとうきび生産を開始したため、生産者としての経歴は短いものの、これまでの功績などが認められ、現在、あまみ農業協同組合(与論事業本部)のさとうきび部会副会長の職にも就いている。これに加えて、若手の生産者を育成するため、指導農業士(注)になってもらえないかと頼まれたこともあったというが、生産者としての実績や経験はまだまだとの思いから「その誘いは断った」と繁一氏は語る。それだけ関係者から生産者としても高い期待が寄せられている。

 このような背景に加え、離農する生産者の多くは、引き続きさとうきびの生産を続けてくれる人に貸したいと考えているため、離農跡地を積極的に借り受け、平成24年産には約10ヘクタールまで収穫面積を増やした経緯がある。しかし、作業受託の依頼が増え、部会活動にも追われる日々であることから、さとうきび生産に手が回らず近年では約5ヘクタールにとどめている(表5)。

表5 町繁一氏のさとうきびの生産実績

 繁一氏は、「まずは作業受託への対応を優先しつつ、オペレーターの人材育成に励み、作業受託の担い手確保に目途がつけば、さとうきびの生産に、もう少し注力したい」と生産者としての意欲をのぞかせた。

 繁一氏は、今後の展望として、「与論島のさとうきび生産者と関係者は互いに集まって、意見を交わし、課題を共有することができる環境にあることが大きい。ここから生まれた取り組みが少しずつ実を結び、人材確保や調苗班などの取り組みが成功するとともに、作業受託体制が整った先に自分の作業受託者と生産者としての適切なバランスを築ければと考えている」と語った。

(注)各地域で青年農業者の育成・指導に取り組む農業者として各都道府県知事から認定された者のこと。

おわりに

 今回取材させていただいた繁一氏には、島を代表するもう一つの顔がある。それは、平成5年に国の重要無形民族文化財の指定を受けた「与論十五夜踊り(豊年祭)」の踊り手としての顔である(写真7)。与論十五夜踊りとは、島民慰安のためと同時に、島中安穏、五穀豊穣の祈願(雨乞い)、または、感謝の意味を持つ奉納踊である(参考:与論町役場ホームページ)。
  繁一氏は、島の五穀豊穣を祈願して、踊り手としてさとうきびの増産も願いながら今年も大役を務めあげた。

写真7 (左)島を代表する役を務める繁一氏、(右)太鼓を奏でる繁一氏(11月14日撮影)

 今回の取材を通じて、さとうきびの生産への関わり方は多種多様であることが改めて理解できた。トラクターによる受託専門業者として起業した繁栄氏、その父の背中を追ってハーベスタ導入に踏み切った繁一氏の取り組みの背景や情熱を知るにつれ、さとうきびの生産が与論島の人々にとって、いかに重要であり、いかに大切にされてきたものであるかを肌で感じた。「結」により関係者の皆さまが協力し合い、新たに始めた人材確保や調苗班の取り組みに今後も注目をしていきたい。

 
そして、いつの日か、繁一氏が生産者として十二分に取り組める環境が整った暁には、その話を伺える機会を持てることを楽しみに待ちたい。

 
今回の取材にあたり、ご協力いただきました町繁栄様、繁一様、与論島製糖光事業所次長、与論町産業振興課山下主幹兼係長、あまみ農業協同組合(与論事業本部)吉井満秀係長、関係者のみなさまに感謝申し上げます。


【参考】
鹿児島事務所、那覇事務所「平成28年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要〜地域の実情に合致したさとうきび増産体制の取り組み〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年1月号)

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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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