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肥満の予防と治療

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最終更新日:2017年5月10日

肥満の予防と治療〜食べ物との関係〜

2017年5月

NPO法人「食と健康プロジェクト」 理事長 高田 明和
東京都済生会渋谷診療所 松岡 健平
東京都済生会中央病院 加藤 清恵
昭和女子大学生活科学部 高尾 哲也、小川 睦美、石井 幸江、清水 史子

【要約】

 肥満の原因の一つとして、砂糖または甘味料入り飲料の摂取が挙げられている。欧米では砂糖に税金を課して、摂取を減らそうとしている国、地域もある。しかし、日本では年々砂糖消費量が減っている。それでも、肥満の率、糖尿病患者の数は増加している。本研究では、砂糖摂取は肥満を引き起こさず、食物摂取量の増加が肥満の原因であることを示した。

はじめに

 米国の大統領選挙が行われた2016年11月8日、公衆衛生分野において重要なインパクトを与えるもう一つの投票が米国の幾つかの都市で行われた。サンフランシスコを含むカリフォルニア州湾岸都市、コロラド州のボルダーは、住民投票の結果、賛成多数で砂糖税の導入を決めたのである。この投票は同年10月11日に世界保健機関(WHO)が世界の国々に対し、砂糖税の導入を呼びかけたことに呼応するものである1)。このような課税は、すでに米国の他の都市、フランス、メキシコ、英国、南アフリカなどでも施行されている。

 WHOが発表した報告書(注)によると、甘味料入り飲料に税金を課すことで甘味料の消費を減少させ、肥満、2型糖尿病、虫歯を予防することになるとし、仮に甘味料入り飲料の値段を20%増加させると、それと同じ割合だけ消費量を減少させることができるとしている。また、このような消費量の減少は、カロリー摂取量の減少につながり、栄養状態の改善が期待できるとともに、過体重、肥満、糖尿病、虫歯に苦しむ人々の数を減らせるとしている。ここで言う甘味料とは、ブドウ糖や果糖のような単糖類、ショ糖のような2糖類を意味し、これらを含む食品、飲料、蜂蜜、シロップの消費の減少が健康につながるとしている。

 事実として、2014年には世界における成人(18歳以上)の3分の1以上(39%)が「過体重」であり、1980年と比べると2倍以上に増加している。「肥満」と分類された者は男性11%、女性15%に達する。5歳以下の子供にあっては4200万人が「過体重」または「肥満」とされ、この15年の間に1100万人増加したと推計されている(2015年時点)。これら肥満の子供の多くがアジア(48%)とアフリカ(25%)に住んでいる。糖尿病患者は1980年の1億800万人に対し、2014年には4億2200万人いるとされ、これを死因とする死者数は2012年の1年間だけで1500万人いるとされている。

 しかし、これらの議論において、しばしば砂糖を代表とする甘味料に焦点が当てられるが、本当に砂糖の摂取が肥満や糖尿病の原因であろうか。

 ここでは、まず最近の肥満の予防と治療に関する研究を紹介し、私たちが行ったショ糖および甘味料入り飲料の摂取と肥満に関する研究結果を紹介したい。

(注)WHO(2016)「Fiscal Policies for Diet and Prevention of Noncommunicable Diseases」

1.肥満の理論

 私たちはなぜ太るのだろうか。それは、私たちが摂取するカロリー量の方が消費するカロリー量よりも多いからである。摂取するカロリーは食べ物として身体に入ってくる。一方、私たちの身体は、心臓の拍動や呼吸、腸管の運動、発熱など生きる上で必要な基礎代謝(エネルギー)と、運動に用いられるエネルギー、さらに病気の際の発熱で放散されるエネルギーによってカロリーを消費している。この摂取と消費のバランスが均等していれば肥満になることも、痩せることもない。図1にこの仕組みを示す。

図1 肥満の理論

 しかし、最近では摂取するカロリー量が消費するカロリー量を上回っても、特定の食べ物さえ摂取しなければ肥満しない場合もあるという考えが出されている。その中で食べてはいけないとされる食べ物は炭水化物が含まれる食品である。理論としては、

 (1)炭水化物、つまり糖質の摂取によって血糖値が上昇する
 (2)血糖値の上昇を抑える働きがあるインスリンは、脂肪細胞にブドウ糖などの糖質を取り込み、これが脂肪に変わる
 (3)結果、肥満になる

とするのである。そのため、炭水化物の摂取を制限すれば脂肪は増えず、肥満にはならないとするのである。

図2 炭水化物摂取と肥満

 この方法による減量は、米国の内科医のロバート・アトキンス氏が提唱したことから、「アトキンス療法」と呼ばれていた。日本では「糖質制限ダイエット」とも呼ばれ、メディアなどでも多く取り上げられている。炭水化物を含む食品以外であれば何をどれだけ食べても血糖値さえ上がらなければ脂肪は増えず、肥満にはならないというのであるから、多くの人はこのダイエットに関心を持ち、実行している。

 この理論について論ずるのは、この論文の範囲を超えているので簡単に問題点だけを説明しよう。

 私たちの精神の安定にはセロトニンという神経伝達物質の存在が欠かせない。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られる。トリプトファンは肉類、魚、大豆などに含まれ、植物性タンパク質にはあまり含まれていない。トリプトファンは、インスリンの存在下で血液から脳に取り込まれる。つまり糖質を摂取すると脳内のセロトニンが増えるのである。また、インスリンの存在下でバリン、ロイシンなどの必須アミノ酸は筋肉に取り込まれる。インスリンの濃度が高まらない、つまりブドウ糖を摂取しないと、脳のセロトニン量は増えず、筋肉のアミノ酸量も増えないのである。

 その結果、精神的に不安定になり、結局ダイエットを続けることができなくなり、リバウンドが起きてしまうのである。

 最近『The New England Journal of Medicine』(NEJM)に掲載された肥満の予防と対策に関する総説2)に基づき、肥満の予防と治療について説明しよう。

表1 5〜10%の体重減少を達成し、維持するためのライフスタイルに関しての推奨事項

 彼らのまとめによると、減量と減量の維持には、(1)カロリー摂取の制限(2)有酸素運動(3)体重・食事・運動の記録(4)専門家とのディスカッション(カウンセリング、結果の報告、指導)−からなるライフスタイル介入を受けることを勧めている。ライフスタイル介入による十分な効果が得られない場合は、摂食を制限する薬物療法を併用する。

 薬物療法の一つに、胃や腸管での栄養物の摂取を抑制する薬剤がある。これは、血糖値を下げるGLP-1という腸管から出されるホルモンの放出を刺激しようとする「Liraglutide」、脂肪の吸収を抑える「Orlistat」などである。

 また、脳に作用して食欲を抑制しようとするものもある。セロトニンは満腹を抑制するので、セロトニン受容体を刺激する「Lorcaserin」、満腹感をもたらすノルエピネフリンの放出を刺激しようとする「Phentermine-topiramate」、物を食べて快感を持つことを抑制する「Naltrexone-bupropion」などがある。表2にこれを示す。

表2 長期の体重管理のために米国食品医薬品局(FDA)で承認されている薬

 では、これらの薬剤の減量効果はどうだろうか。薬剤で最も減量の効果のあったものはノルエピネフリン放出刺激のPhentermine-topiramateであった(図3)。しかし、生活習慣の改善による減量を目指すライフスタイル介入の効果とあまり差がなかった3)

図3 薬剤投与と生活習慣の改善との減量効果

 別のアプローチとして、近年、手術的に胃を切除したり、バイパスを作ったりして減量しようという試みがなされている(図45)。

図4 種々の手術的な介入の効果

図5 胃切除などの図示

 図4に示すように胃のバンディング4)、バイパス5)、胃の一部を切除する方法6)は、薬剤とライフスタイル介入よりもはるかに効果があることが分かる。つまり、食べ物が消化管に入らないようにすることが最も効果的なのだ。このことは肥満の原因が食べ過ぎであり、これを抑制しない限り減量はできないことを示している。

 では、絶食療法などはどうなのだろうか。絶食をすると、その間だけは減量するが、胃の大きさはそのままであるのでリバウンドが起こってしまい、結果、減量が続かないのである。つまり、ある特定の食べ物が肥満の主要な原因という考えには根拠がなく、『Nature』の論説に記載されているように、砂糖あるいは甘味料入り飲料の摂取が肥満の原因であるということはない。例え、砂糖税などで甘い物の摂取を抑えようとしても、胃の大きさに変化のない限り減量は不可能であることを示しているのである。

 私たちの肥満は運動不足と食べ過ぎによると先述した。最近、運動は減量に役に立たないという報告が出ている。米国のハンターカレッジ(Hunter College)の人類学のH.Pontzer教授は最新の代謝装置を用い、北タンザニアの住民の代謝を研究した。彼らは現存する最も未開な人種だとされており、狩猟活動を主な生業としている。彼らの運動は過酷を極めるが、代謝の率を測定すると、あまり運動せずに生活している都会暮らしの人たちのエネルギー消費量とさほど変わらないのである。彼らはさらに、運動の程度とエネルギー消費の関係を研究し、運動が盛んになると、運動と関係しない細胞の代謝などが低下し、結局、全エネルギー消費量は変わらないという結果を報告している。つまり、肥満は運動不足のためではなく、過食のためだという主張である7)。このような研究も肥満を予防するには、摂食量を抑えるしかないことを示している。

2.食べ物摂取と肥満の関係に関するわれわれの研究

 われわれは、既に若年男性と中高年男性について、食事摂取とBMIの関係を調べ、ある種の食事が肥満には関係しないということを示していることから、今回は、若年女性と中高年女性についても食事と肥満の関係を調べることとした8)

 若年層の男女は大学生から参加を募り、中高年層の男女は知り合いに参加をお願いした。データに影響を与えるような病歴(糖尿病、高血圧、心疾患など)がないことをあらかじめ確かめ、さらに脂質異常、高血圧、高血糖の薬を服用している人は除外した。これらの参加者に食事表に食事歴を記入してもらった。被検者の食事摂取状況は、食事記録法、24時間蓄尿、血清、二重標識水などを用いた方法で、簡易型自記式食事歴法質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire、以下「BDHQ」という)(注)を用いて調査した。BDHQの特徴は、食物摂取頻度法および食事歴法を用いた最近1カ月の食習慣についての質問票で、15分程度で回答が可能であることから、被検者の負担が軽減できることである。なお、BDHQは、日本人の食事摂取基準(2015年版)において、食事摂取基準の活用で用いる食事アセスメント法の参考資料として触れられている。

(注)妥当性、再現性の研究が行われている自記式食事歴法質問票(self-administered diet history questionnaire、〈DHQ〉)の簡易版として開発され、食品群摂取量や栄養素摂取量に関する妥当性の研究のために用いられる質問票。

3.結果

 質問票から算定すると、BMI、種々の栄養素の摂取量のいずれにおいても男性が女性を上回っていた(表3)。また、年齢を比較すると、中高年男性は若年男性より、また、中高年女性は若年女性より、エネルギー摂取、あるいは種々の食品摂取量が上回っていた。

表3 被験者の基礎的性状

 表4および図6〜9に示すように、エネルギー摂取量、タンパク、脂質および炭水化物の摂取量とBMIの間には相関がなかった。つまり、肥満でない健常な人々の場合、特定の食べ物の摂取量と肥満との間には何の関係もなかったのだ。

表4 種々の食物摂取量とBMIの相関

図6 中高年男女におけるショ糖、甘味料入り飲料の摂取とBMIの関係

図7 中高年男女の菓子類摂取とBMIの関係

図8 若年男女におけるショ糖、甘味料入り飲料の摂取とBMIの関係

図9 若年男女の菓子類摂取とBMIの関係

おわりに

 冒頭で述べたように、肥満の原因としてショ糖あるいは甘味料入り飲料の摂取の増加が問題とされている。われわれは、若年男性と中高年男性の場合、ショ糖、甘味料入り飲料の摂取がBMIにも中性脂肪量にも影響を与えないことを示している9)。 今回、若年女性と中高年女性を対象に、ショ糖、甘味料入り飲料の摂取が肥満に関係するかを調べた。結果、年齢や性別にかかわらずBMIに影響を与えなかった。結論としては、甘味料入りの飲料や菓子類の摂取は、健常な人々の肥満の原因になっていないということである。

 もちろん、過度にショ糖を摂取したり、炭水化物を摂取したりしている場合は別であろう。そのような場合にはショ糖の摂取量はBMIと相関するかも知れない。しかし、ショ糖そのものが肥満の原因かどうかは不明である。何か別の因子、例えば摂食行動の異常などが原因になっている可能もあるのである。


文献
1) 「Crystallizing sugar science」『Editorial Nature Medicine』2016,22、pp1369.
2) Heymsfield S.B、Wadden T.A(2017)「Mechanisms, pathophysiology, and management of Obesity」『NEJM』376、pp254-266
3) The Look AHEAD Research Group、Pi-Sunyer X、Blackburn G、et al(2007)「Reduction in weight and cardiovascular disease risk factors in individuals with type 2 diabetes: one-year results of the look AHEAD trial」『Diabetes Care』30、pp1374-83.
4) O’Brien P(2016)「Surgical treatment of obesity」『Endotext』(January 19)、De Groot LJ、Chrousos G、Dungan K、et al、South Dartmouth, MA: MDText.com
5) Schauer PR、Kashyap SR、Wolski K、et al (2012)「Bariatric surgery versus intensivemedical therapy in obese patients with diabetes」『NEJM』366、pp1567-1576
6) Schauer PR、Mingrone G、Ikramuddin S、Wolfe B(2016)「Clinical outcomes of metabolic surgery: efficacy of glycemic control, weight loss, and remission of diabetes」『Diabetes Care』39、pp902-11.
7) Pontzer H(2017)「The Exercise Paradox」『SCIENTIFIC AMERICAN』316、pp26-31
8) Shimizu F、Ogawa M、Takao T、Ishii Y、Takada A(2016)「Correlations among various foods uptakes and body mass index (BMI) or plasma parameters」『Obesity』 2(3) 、pp1-4 http://dx.doi.org/10.16966/2380-5528.123
9) Takao T、Ogawa M、Ishii Y、Shimizu F、Takada A(2016)「Different glycemic responses to sucrose and glucose in old and young male adults」『Journal of Nutrition & Food Sciences』6、pp460-465 http://dx.doi.org/10.4172/2155-9600.1000460
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