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人工甘味料と糖代謝

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最終更新日:2017年6月9日

人工甘味料と糖代謝

2017年6月

金沢医科大学医学部衛生学 准教授 櫻井 勝

【要約】

 人工甘味料の代表的な摂取源であるダイエット清涼飲料水の摂取が糖尿病発症リスクを高めることが報告されている。人工甘味料は血糖値やインスリン分泌に直接影響を与えないものの、味覚刺激や最近では腸内細菌(そう)の変化を介して糖代謝に影響することが考えられている。人工甘味料は、砂糖の代替甘味料として肥満や糖尿病の予防や治療に有用と思われるが、慢性的な健康影響も考慮した上で上手に利用すべきである。

はじめに

 特定健診・特定保健指導をはじめとするわが国の肥満・メタボリックシンドローム対策により国民の肥満に対する意識が向上し、また、健康志向・ダイエット志向が広がりを見せ、世の中には低カロリーやカロリーゼロ、シュガーレス(砂糖不使用)などをうたった商品があふれている。これらの食品には、砂糖の代替甘味料として人間の体内では消化や吸収、代謝がされにくい、糖アルコールや非糖質系甘味料(天然甘味料、人工甘味料)が用いられている。

 人工甘味料は、砂糖よりも低カロリーな上に少量でも甘味が強いため、摂取カロリーの節減や摂取後の血糖値の上昇を抑制する効果が期待される。米国糖尿病学会と米国心臓病学会は共同で人工甘味料に関する声明を発表し、砂糖の代わりに人工甘味料を使用することで肥満・糖尿病の予防や治療に有用な可能性がある、と提言している1)。一方、人工甘味料の糖代謝に及ぼす影響についてはまだ十分わかっていないことも、声明の中で付記されている。今回は、われわれの行っている疫学研究の成果や最近の研究報告を基に、人工甘味料の糖代謝に及ぼす影響について考えてみたい。

1.人工甘味料について

 人工甘味料は砂糖のような自然に存在するものと異なり、人工的に化学合成された甘味料である。代表的なものとしてアスパルテーム、アセスルファムカリウム(アセスルファムK)、スクラロースがある。

 アスパルテームは、アスパラギン酸とフェニルアラニンの2種類のアミノ酸を縮合させて製造されるアミノ酸系甘味料である。1グラム当たりのカロリーは、砂糖と同様の4キロカロリーであるが、甘味度は砂糖の200倍であるため、砂糖と比べて少量で甘味を実現でき低カロリーにつながる。アセスルファムKは、酢酸由来のジケテンと酸性洗浄剤などとして利用されているスルファミン酸を合成反応させた後に、三酸化硫黄を反応させ、水酸化カリウムで中和、結晶化したものである。1グラム当たりのカロリーは0キロカロリーで、甘味度は砂糖の200倍である。スクラロースは、砂糖を原料とし、砂糖の3カ所の水酸基を選択的に塩素原子に置換することにより生成される。甘味度は砂糖の600倍であり、1グラム当たりのカロリーは0キロカロリーである。

 これらの人工甘味料は、(1)苦みが少ない(2)甘みの持続が長い(3)熱に安定している(4)水に溶けやすい−など、おのおのの特徴を生かして、主にダイエット清涼飲料水や減糖タイプのコーヒーなどの飲料、ガムや錠菓などの菓子類に使用されている。

2.人工甘味料を摂取しても血糖値は上昇しない

 でん粉や砂糖を摂取した際は、消化管で単糖(ブドウ糖、果糖)まで分解されてから吸収される。吸収されたブドウ糖は血管内に入り血糖値が上昇する。血糖値の上昇により膵臓(すいぞう)からインスリンが分泌され、インスリンの働きにより血液中のブドウ糖が肝臓や筋肉に取り込まれることで、血糖値は元に戻る。インスリンによるブドウ糖の取り込みは脂肪細胞でも行われ、脂肪細胞に取り込まれたブドウ糖は脂肪に変換され蓄積される。従って、食後の血糖値の上昇が大きいと、インスリン分泌の増加により脂肪蓄積が進み太りやすくなるとともに、インスリンの分泌増加は膵臓への負担となり糖尿病を発症しやすくなる。このことから、血糖値が上昇しにくい炭水化物を選ぶ「低インスリンダイエット」や、糖質 そのものの摂取量を控える「低糖質ダイエット」など、食後の血糖値やインスリン値を意識した食事が肥満や糖尿病の予防や治療に有用と考えられている。

 一方で、人工甘味料にはブドウ糖は含まれないため、人工甘味料を摂取しても血糖値は上昇しない。実際に、健常人にブドウ糖、果糖、または3種類の人工甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)のいずれかを投与して血糖値、インスリン値の反応を比較検討した報告では、ブドウ糖を投与したときは、血糖値、インスリン値はともに上昇したが、人工甘味料を投与したときは、血糖値、インスリン値ともに上昇は認められなかった2)

3.ダイエット清涼飲料水で糖尿病を予防できるか?

 われわれは、人工甘味料の代表的な摂取源であるダイエット清涼飲料水について、習慣的な摂取量と糖尿病発症との関連を検討した3)。富山県の金属製品製造業事業所の従業員を対象に、2003年に栄養調査を行い習慣的なダイエット清涼飲料水の摂取量を調査した。このうち糖尿病のない35〜55歳の男性2037人について、毎年の健康診断の結果を追跡して糖尿病発症を確認した。2010年までの7年間で新規に170人が糖尿病を発症した。2003年のダイエット清涼飲料水の摂取量と糖尿病発症との関連を検討すると、ダイエット清涼飲料水を週に1カップ(237ミリリットル)以上飲む人は、飲まない人と比べて糖尿病発症の危険が1.7倍高かった(図1)。

図1 習慣的なダイエット清涼飲料水の摂取量と7年間の糖尿病発症との関連

 ダイエット清涼飲料水の摂取量と糖尿病の発症を観察した研究は欧米でもいくつか報告されているが、ダイエット清涼飲料水の摂取量が肥満と独立して糖尿病発症と関連を認めた、というという報告と関連は認めるものの肥満を考慮すると関連はなかった、という報告とがあり、結果は一様ではない4)。実際に、もともと糖尿病になりやすい肥満者がダイエット清涼飲料水を好んで摂取している可能性はあるので、結果の解釈には注意が必要である。しかし、近年になり、人工甘味料の血糖値を介さない糖代謝への影響についていくつかの可能性が報告されており、ダイエット清涼飲料水の摂取が糖尿病のリスクを高めるメカニズムについても明らかになりつつある。

4.人工甘味料の糖代謝への影響が考えられるメカニズム

 人工甘味料が血糖値の上昇もなく熱量も無視できる程度であるにもかかわらず肥満や糖尿病と関連する理由として、これまでは、人工甘味料の利用による節減エネルギーを過大評価したり、摂取エネルギーを節減できたことに安心したりすることで、余分に食べ過ぎてしまうのではないか、という心理的な理由が考えられていた。しかし近年、人工甘味料の味覚に及ぼす生理的な反応が摂食行動に影響を与える可能性が報告されている5)。本来、日常の食事の中では、甘味の感覚に続いて血糖値が上昇することが条件付けされているが、人工甘味料の場合は甘味の後に血糖値の上昇が起こらないため、エネルギーの恒常性が崩れ、脳の反応を介して摂食行動などが促進され、むしろ太りやすくなる、というものである。また、人工甘味料の強い甘味に慣れると、甘味に対する感覚が鈍麻(どんま)し、より甘い糖質を多く摂取する可能性もある。最近では、味覚を感じる細胞が舌だけでなく腸管に存在することも明らかになり、腸管で甘味を感じると、腸から分泌されるインクレチンというホルモンがインスリン分泌を促進したり、腸からの糖の吸収が促進されたりすることが報告され、腸管での味覚刺激が糖代謝に影響する可能性も考えられている。

 最近、人工甘味料による糖代謝の影響を考える上で重要視されているのが腸内細菌(そう)(腸内フローラ)である6)。マウスにブドウ糖または人工甘味料の一つであるサッカリンを投与すると、サッカリンを投与されたマウスでは、糖負荷試験で耐糖能異常(注)を認めた。サッカリンを投与されたマウスとブドウ糖を投与されたマウスを比較すると、両者では異なった腸内細菌叢の分布を示した。また、サッカリン投与マウスの耐糖能障害は抗生剤を投与すると改善すること、サッカリン投与マウスの腸内細菌叢やサッカリン存在下に培養された腸内細菌を無菌マウスへ移植すると耐糖能障害を引き起こすこと、ヒトにおいてもサッカリン投与により耐糖能異常を認めたものでは投与前後で腸内細菌叢の変化を認め、投与後の腸内細菌叢をマウスに移植することで耐糖能異常を引き起こすこと、などの結果から、サッカリンによる腸内細菌叢の変化により耐糖能異常が生じていると考えられた。機序としては、サッカリン投与により腸内細菌のグリカン分解経路が活性化し、 それに伴いエネルギー吸収の増加につながる短鎖脂肪酸が腸管内に増加することが示され、そのことが耐糖能異常を誘発したと考えられている。

 このように、人工甘味料による肥満・耐糖能障害の発症の機序はいくつか想定されているものの、まだ不明な点が多く、さらなる動物実験やヒトを対象とした研究が必要と思われる。

(注)耐糖能とは血糖値を正常範囲に保つ能力のことであり、糖尿病ほどではないが血糖値が正常よりも高い状態を耐糖能異常という。耐糖能異常があると、将来糖尿病に進展する危険が高く、また耐糖能が正常の者よりも動脈硬化が進行しやすい。耐糖能異常や軽度の糖尿病状態では空腹時よりも糖負荷後に血糖値が上昇しやすいので、耐糖能の評価には糖負荷試験が重要である。

おわりに

 人工甘味料は砂糖の代替甘味料として血糖値の上昇や摂取カロリーを抑制する効果が期待され、肥満・糖尿病の予防や治療に有用と思われる。一方で、習慣的な人工甘味料の使用は、味覚や腸内細菌叢の変化を介し、糖代謝に悪影響を及ぼしている可能性もある。このような人工甘味料の利点と欠点とを考慮すると、「低カロリー志向」という理由による安易な人工甘味料の常用摂取は控えるべきであり、食事全体の熱量、栄養や味のバランスを考慮した上で、上手に人工甘味料を活用することが必要であろう。
 
参考文献
1)Gardner C、 Wylie-Rosett J、 Gidding SS、 et al ; American Heart Association Nutrition Committee of the Council on Nutrition、 Physical Activity and Metabolism、 Council on Arteriosclerosis、 Thrombosis and Vascular Biology、 Council on Cardiovascular Disease in the Young; American Diabetes Association (2012)「Nonnutritive sweeteners: current use and health perspectives: a scientific statement from the American Heart Association and the American Diabetes Association」『Diabetes Care』35、 pp.1798-1808
2)Steinert RE、 Frey F、 Topfer A、 et al (2011)「Effects of carbohydrate sugars and artificial sweeteners on appetite and the secretion of gastrointestinal satiety peptides」『British Journal of Nutrition』 105、 pp.1320-1328
3)Sakurai M、 Nakamura K、 Miura K、 et al (2014)「Sugar-sweetened beverage and diet soda consumption and the 7-year risk for type 2 diabetes mellitus in middle-aged Japanese men」 『European Journal of Nutrition 』53、 pp.251-258
4)Imamura F、 O'Connor L、 Ye Z、 et al (2015)「Consumption of sugar sweetened beverages, artificially sweetened beverages, and fruit juice and incidence of type 2 diabetes: systematic review, meta-analysis, and estimation of population attributable fraction」 『the British Medical Journal』351、 h3576
5) Pepino MY、 Bourne C (2011)「Non-nutritive sweeteners, energy balance, and glucose homeostasis」『Current Opinion in Clinical Nutrition & Metabolic Care』14、 pp.391-395
6)Suez J、 Korem T、 Zeevi D、 et al (2014) 「Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota」 Nature 514、 pp.181-186
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