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てん菜生産の省力化と高単収の実現を図るために

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最終更新日:2017年10月10日

てん菜生産の省力化と高単収の実現を図るために
〜第5回高品質てん菜生産出荷共励会受賞者を事例に〜

2017年10月

札幌事務所 平石 康久

【要約】

 美瑛町の大規模生産者の農事組合法人平和生産組合は、移植や防除、収穫作業の共同化を実現し、作業時間を短縮している。また、小清水町の和田秀幸氏は、比較的小規模な生産者ながらも、近隣の生産者との共同作業により労力負担の軽減を実現している。  
 両者とも軽減できた労力を栽培管理に仕向けて、地域の平均を上回る生産成績を実現している。

はじめに

 北海道のてん菜生産は近年、高齢化や労働力不足を背景として、育苗作業などが省力化できる直播栽培が増加している。しかし、平成28年産の北海道のてん菜作付面積のうち、78%で移植栽培が行われており、依然として北海道のてん菜・砂糖生産を支えている(図1)。

 移植栽培は、3月ころからハウスに設置したペーパーポットで育苗した苗を、雪がなくなる4月中・下旬ころから()(じょう)に移植する栽培方法である。育苗の労力がかかるものの、直播栽培と比較して生育期間を長く確保できることにより、生産量の増加が期待できるため、昭和30年代後半以降増加し、平成7年には大部分が移植栽培による作付けになった。

 本稿では、移植栽培を行う生産者の優良事例として、一般社団法人北海道てん菜協会と北海道農政部が主催する「第5回高品質てん菜生産出荷共励会」で優秀賞を受賞した美瑛町の農事組合法人平和生産組合および小清水町の和田秀幸氏を紹介する。

図1 てん菜の作付面積と移植栽培の割合の推移

図2 美瑛町と小清水町の位置

1.農事組合法人平和生産組合(美瑛町)

(1)美瑛町の気象と農業

 美瑛町は北海道の内陸部の上川管内に位置し、夏は温暖であるが、冬は冷え込む内陸性の気候である(図3)。

 平成28年の耕地面積は1万2700ヘクタールで、町の総面積の約2割を占めており、標高の低い地域には主に水田が、標高のある丘陵地帯には畑が広がっている。品目別では、小麦が3240ヘクタールと最も多く、次いで飼料用作物、てん菜、水稲、ばれいしょ、大豆の順となっている。

 同町は、小麦、てん菜、ばれいしょ、豆類などを主体とした輪作が行われており、圃場によって異なる作物が作付けされることから、開花期に大地を彩る草花のコントラストは、まるでパッチワーク柄のようであり、北海道を代表する観光地にもなっている。

図3 美瑛町の気象

(2)農事組合法人平和生産組合の概要

 農事組合法人平和生産組合(以下「組合」という)は、平成18年に3戸の農家(8人)および非農家組合員の1戸(1人)を構成員として設立された法人である。設立以前から近隣の生産者と共同で作業を行っていた経緯があり、農作業や経営を共同化することに対する利点を皆が共有・認識していたため、抵抗なく法人化に移行することができたという。作付面積は約85ヘクタール(うち借地が6ヘクタール)であり、主要畑作4品目のほか、野菜の栽培も行っている(表1)。これは美瑛町の1戸当たりの平均経営耕地面積28ヘクタールを大きく上回る経営規模である。てん菜の作付面積も町平均の2倍以上の規模を有し、単収は町平均の1.3倍、糖度も町平均を上回る成績を実現している(表2)。

写真1 平和生産組合代表理事の酒本氏

表1 平和生産組合の品目別作付面積

表2 平成27年産てん菜の生産成績の比較

(3)経営

 組合は、設立以来、黒字経営を維持している。構成員への収入の分配は、給料制を採用し、年間の見込み収入と支出額に基づき1人当たりの給料を算出するが、年度末に残余が生じたときはボーナスとして支給する仕組みである。これにより、個々の生産者は、年間の収入があらかじめ見込める上、組合全体の業績が良ければ収入が増えることになる。
 なお、組合には、常時雇用する者が1人いるが、臨時雇用は行っていない。

(4)土作り

 同地域は粘土地が多いことから、サブソイラにより、毎年すべての圃場で心土破砕を行っている。

 てん菜、スイートコーン、小麦を作付けする前には、10アール当たり3.4トンの堆肥を投入している。堆肥は、近くの酪農家との麦稈(ばっかん)交換により調達し、組合が運搬業者を手配して圃場まで搬送している。堆肥の投入については、地力の増強に有効であることが構成員の間で理解・共有されたことから、法人化に併せて開始したものである。

 また、てん菜を出荷する日本甜菜製糖士別製糖所から提供されるライムケーキ(注)をpH調整剤として活用している。同資材については、炭酸カルシウムや消石灰と比べると、大量に確保しやすく、取り扱いが容易であることが利点であるとしている。また、散布機を効率的に利用するためには、1回の散布につき3ヘクタール以上の圃場を確保することが必要とされているが、法人化による経営の拡大によって、この恩恵を享受できるようになった。

(注)てん菜から抽出された糖液から不純物を除去するため石灰石を燃焼した粉末と炭酸ガスを投入し、不純分を吸着あるいは共沈させたもの。主成分は炭酸カルシウム。

(5)作業の共同化

 移植機と収穫機は、組合設立時に、組合の経営面積に適した規模のものを導入している。現在、2畦全自動移植機を1台、1畦収穫機を2台、防除機を2台所有している。3戸の生産者が個別に所有するのと比べ、稼働率の向上や維持コストの削減につながっている。

 また、法人化したことにより一般的なトラクターよりも高性能なハーフクローラ型のトラクターを導入することができた。1人当たりの農作業時間は必ずしも短くなったわけではないとしつつも、圃場の状態が悪くても作業可能な日が増えたほか、1人では数日かかっていた作業を組合員が分担して行うことにより半日で終わらせることができるなど、作業適期を逃さない作業体系を構築できたことが大きな成果となっている。

(6)栽培上の工夫

 組合では、2棟のハウスで育苗を行っている。ペーパーポットへの()(しゅ)は、1棟当たり2日を要するが、1棟の播種作業が完了した後、3日程度の間隔を空けてもう一方のハウスで播種を行っている。播種時期をずらすことによって、天候の影響などにより移植期が数日間にわたっても、移植適期を迎えた苗を植え付けることができる。

この他、苗ずらし(注1)を3回行ったり、無線でデータを送信できる温度計を育苗ハウス内に設置し、ハウス内の温度の変化を絶えず観察しながら、健全苗の生産にも努めている。

 移植時においては、移植機の後から人が追従して補植を行うことによって、欠株の発生を防ぎ、単収の増加につなげている。また、移植後の培土は、生産者が圃場を歩き回って作業を行うことが多いことから、行っていない。これにより、畦が高くなり過ぎることによって、除草作業時などに足をとられて作業効率が低下する心配がないという。

 また、除草剤の散布は、てん菜への生育への影響を緩和するため、年1回を基本とし、手作業やカルチ(注2)による除草にこだわっている。ただし、干ばつ傾向の時はカルチを行わないようにしている。同地域は丘陵地帯であるため、土層が浅いところでの土の飛散を防ぎ、傾斜地で干ばつの後の大量の降雨時に、表土が流れてしまうことを防ぐ効果があるという。

 このように、法人化によって生じた労働力を栽培管理に振り向けることによって高い単収を実現することに成功している。

 また、地域内で共励会を開催し、地域内の生産者が互いに技術を高めあって高水準の生産を維持できるような取り組みも推進している。

(注1)育苗ハウス内の苗を置き換えることによって、(1)伸びすぎた根を一度断ち切り、側根の生育を促し、移植時の活着を良好にする(2)水分・養分の吸収を抑えて苗の徒長を防止する(3)ハウスに置かれた場所の違いによる苗の生育のバラツキを抑える−ための作業。根切り作業も同様に、(1)や(2)の目的で行う。
(注2)カルチベーターによる作業のこと。カルチベーターは作物の中耕、除草、土寄せなどに用いる農機具。

写真2 圃場での作業風景

2.和田秀幸氏(小清水町)

(1)小清水町の気象と農業

 小清水町は北海道のオホーツク管内に位置し、おおむね夏は温暖で雨量が少なく、冬の積雪量はそれほど多くないことが特徴である(図4)。

 平成27年の耕地面積は1万400ヘクタールであり、町の総面積の約3分の1を占める。耕地面積の内訳は、畑地および牧草地・放牧地であり、畑地の内訳を品目別で見ると、小麦、てん菜、ばれいしょの畑作3品目が大部分を占めている。

図4 小清水町の気象

(2)和田秀幸氏の経営の概況

 和田氏は、夫婦2人の労働力で、てん菜、ばれいしょ、小麦の畑作物3品目を11.5ヘクタールで経営している(表3)。これは小清水町の1戸当たりの平均の経営耕地面積30ヘクタールを下回る経営規模である。一方、てん菜の栽培成績については、平成27年産の町平均と比較すると、単収が1.2倍、糖度も平均を上回っている(表4)。

写真3 和田秀幸氏

表3 和田氏の品目別作付面積

表4 平成27年産てん菜の生産成績の比較

(3)土作り

 和田氏の圃場の多くは火山灰土であり、水はけが良い一方、養分の流亡が多く、地力の維持が難しいという課題を抱えている。また、オホーツク地域は3品目の輪作が中心であるため、単収を維持するためには、土作りに力を入れる必要があると考えている。

 そのため、和田氏は小麦収穫後の残渣を圃場にすき込むとともに、10アール当たり4トンの堆肥を投入している。

 また、地元のJAが運営するでん粉工場から提供されるNKゆう水と呼ばれる液肥を散布して、土壌改良に努めている。これは、ばれいしょでん粉を製造する過程で発生する排液を、pH調整した後、有機カルシウム資材と混合して消臭し、窒素やカリウムを含んだ液肥としたものである。これにより、化学肥料使用量の削減と土壌微生物群の活性化を目指している。ばれいしょに吸収された養分が再度圃場に還元されることになり、環境にも優しい取り組みになっている。

 その他、てん菜の苗に使う土は、JAから購入するだけでなく、自ら所有する山土を混合して、経費の節減に努めている。

(4)作業の共同化

 和田氏は、親族などと機械を共同所有し、設備コストの削減に努めている。共同所有している機械は、移植機、カルチおよび堆肥の散布機である。

 また、てん菜の移植栽培において労力のかかる育苗作業のうち、ペーパーポットへの播種作業は、近隣の生産者と共同で1日〜1日半で一気に行い、負担軽減を図っている。

 機械所有や作業の共同化は、昭和46年に近隣農家と組合を作り、それまで農作業に利用していた農耕馬に換えて、トラクターを導入したことがきっかけとなったもので、現在もその関係が継続している。

(5)栽培や経営の工夫

 和田氏の栽培の特長としては、第一に、圃場の巡回による病害虫の発生予察の徹底である。これによって、病害が拡大する前に農薬を散布することができ、農薬の散布回数を減少させている。そのためには、JAや普及センターが発表する予察情報をこまめに参照することが欠かせない。

 第二に、除草剤の散布量の抑制である。2回目の散布は圃場全体に散布するブームスプレーヤーではなく、バンドスプレーヤーを使ってスポット的に行うことにより、散布量を抑えている。また、手作業での除草も併用するとともに、希釈倍率を大きくすることによって、薬剤の使用量そのものを抑えている。

 第三に、育苗についても工夫があり、苗ずらしの時には、新聞紙をポット下に敷き詰めている。新聞紙により根はポットより下に伸びることが出来なくなり、草丈が抑制されるため一定のサイズに収まるよう根や葉を切る必要がなくなり、労力を節減し、移植機で利用しやすい苗を作ることに成功している。

 他にも機械の維持管理は、可能な限り自身で対応している。約30年前に導入した機械の中には、修理しながら現在も現役で使い続けているものもあるという。和田氏は「小規模な生産者だからやれているだけ」と謙遜するが、こうした小さな工夫の積み重ねが良好な栽培成績を達成する()(けつ)であると実感した。

写真4 和田氏のてん菜圃場

おわりに

 両事例とも堆肥の投入を行うなど土作りを重視している。また、地域にある製糖工場やでん粉工場から発生する副産物をうまく活用していることも特長である。

 移植栽培で課題となる育苗作業については、生産者が互いに協力して短期間で播種作業を行うことが共通しており、平和生産組合は温度管理が容易な仕組みの導入、和田氏は根切り作業の回数の削減などにより省力化を図っている。

 生産コストに大きな影響を与える農業機械について、平和生産組合では、適正規模の農業機械を導入することで個別に所有する場合と比べ稼働率の向上や維持コストの削減につなげている。

 規模の大小に関わらず、「作業の共同化」が労力の削減・軽減に大きく寄与しており、これにより生じた余力を土作りや栽培管理に仕向けることにより優秀な成績につなげることができたものと考えられ、幅広い層の生産者の参考になるものと思われる。

 最後になりましたが、お忙しい中、本取材にご協力いただいた平和生産組合さま、和田秀幸さま、日本甜菜製糖美瑛原料事務所、美瑛町農業協同組合、小清水町農業協同組合の皆様に厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272