[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
検索
alic 独立行政法人農畜産業振興機構
砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > サトウキビ株出し栽培による宮古島の持続的農業の可能性

サトウキビ株出し栽培による宮古島の持続的農業の可能性

印刷ページ

最終更新日:2018年1月10日

サトウキビ株出し栽培による宮古島の持続的農業の可能性
〜「水無し農業」からの脱却〜

2018年1月

沖縄県立八重山農林高等学校 前里 和洋
琉球大学農学部 中原 麻衣、川満 芳信

【要約】

 宮古島の栽培環境は整備され、サトウキビ産業の礎が整いつつあるが、単収および糖度向上などの課題が改めて問われている。われわれの研究グループは、サトウキビ生産拡大のカギを握る株出し栽培について、土壌肥料・土壌微生物学的な視点で製糖副産物の利用を検討し、大きな知見を得た。

はじめに

 宮古島のサトウキビ農業は、台風および干ばつなど自然災害との闘いの歴史である。1990年代にわが国初の地下水を活用した農業用水用の地下ダムが完成し、農地にかん水施設が設置され、干ばつの影響は部分的には解消した。しかし、単収および糖度向上などの課題が改めて問われている。また、同島の農耕地の特徴として、有効土層が浅く保水力が低い土壌から構成され、年降水量は多く土壌養分の溶脱が起こり、地下水が汚染されやすい現状にある。このことから、島外から移入される化学肥料のみに依存したこれまでの施肥方法を改め、化学肥料を減らしつつ島内で肥料成分となりうる有機資源を可能な限り循環させる必要がある。このような、化学肥料の低投入型施肥技術(LISA〈Low Input Sustainable Agriculture〉)を確立し、同島の農業に適用させることは、地下水の保全やサトウキビ産業を持続する上で極めて重要である。

 われわれの研究グループは、サトウキビ生産拡大のカギを握る株出し栽培について、土壌肥料・土壌微生物学的な視点で製糖副産物の利用を検討し、大きな知見を得た。

1.宮古島土壌の特徴とリン成分

 作物栄養の重要な要素の一つであるリンは、土壌中の陽イオンに吸着されやすく、難溶化しやすいことから、しばしば作物栽培の制限要因になる。宮古島には、サンゴ由来の琉球石灰岩を母岩とする暗赤色土(島尻マージ土壌)でカルシウム(Ca)を豊富に含有した土壌群が広く分布しているが、分析の結果、作物に利用されにくい難溶性無機リン酸は全リン酸の9割以上を占めることが明らかとなった。

 現在、リン肥料の原料となるリン鉱石の枯渇が世界的に問題視される中、わが国にはリン資源はなく、その全てを海外からの輸入に頼っているのが現状である。現行の技術で採掘可能なリン鉱石資源量の耐用年数は約100年と推定されており、持続的な食料生産の見地からも大きな問題になっている。そこで、宮古島の土壌中に難溶性無機リン酸として過剰に蓄積されているリンをうまく可溶化し、サトウキビに供給することができれば、持続的なサトウキビ生産技術の構築の一助となると考えた。

2.サトウキビの株出し栽培におけるリン成分の活用

 われわれの研究グループは、宮古島の土壌に蓄積した難溶性無機リン酸の可溶化を図るために、有機酸生成能を有する土壌微生物であるリン溶解菌の利用について検討した。その中で島尻マージ土壌を分離源に選抜した菌の中から、有機酸生成能が高く難溶性無機リン酸の可溶化に優れる菌を選抜することに成功した。しかし、菌単独で島尻マージ土壌に接種するとリンの可溶化に関して期待した結果が得られなかった。

 そのためリン溶解菌の効果を安定的に発現させるため、接種菌を土壌中で保護し、定着させる資材としてサトウキビの搾りかすであるバガスを炭化させた難分解性のバガス炭と、接種菌を増殖させる資材として易分解性のバガスの利用について検討した。その結果、これらの処理をすることで、リン溶解菌による難溶性無機リン酸の可溶化が安定して認められ、春植えサトウキビのリン吸収は高まり、生育と品質も向上した。

 ところで、国内のサトウキビ産業が低迷する中、2016/17年期の宮古島のサトウキビ生産量は44万166トンを維持しており、沖縄県全体の生産量は93万7000トンで17年ぶりに90万トンを越える中、宮古島のサトウキビ生産量は沖縄県全体の41.1%を占めている。宮古島では近年、株出し栽培が推奨され2009/10年期に収穫面積の5%にすぎなかった株出し面積は、今期は50%まで拡大し、今後も栽培面積は拡大する可能性がある。

 そこでわれわれは、バガスとリン溶解菌を接種したバガス炭の施用を、株出しサトウキビの栽培に応用するために、これらが根域土壌中におけるリンの形態にどのような影響を及ぼし、春植えサトウキビで見られた処理効果が同様に株出し栽培で確認されるかについて検証した。

3.サトウキビの株出し栽培試験

 株出しサトウキビに対するリン溶解菌の接種試験を、沖縄県立宮古総合実業高等学校の第二農場内にある面積1ヘクタールの()(じょう)で行った。用いた品種は農林8号(Saccharum spp. cv. NiF8)を使用し、前年において畝間135センチメートル、株間40センチメートルで春植えしたサトウキビの株を使って株出し栽培を行った。栽培試験に用いた土壌は島尻マージ(暗赤色土)で行った。基肥は、2月28日に沖縄県施肥基準の窒素((NH42SO4)およびカリウム(K2SO4)を10アール当たり22.0キログラムおよび同7.0キログラムを施用した。リンについては土壌蓄積リンの利用を評価する目的で、リン肥料を施肥しない区(P0区)と沖縄県施肥基準であるリン(CaHPO4)を同7.0キログラム施肥する区(P7区)の2処理区を設けた。

 リン溶解菌(写真1)の培養には、1/2NB(ニュートリエントブロス)培地を用い、培養条件は30度として、暗条件下で30日間回転振とう培養(回転数150rpm)を行った。培養した菌株は1ミリリットル当たり8×108個の菌密度として試験した。

写真1 菌株22の栄養細胞(赤色)および胞子(青色)

 バガスとバガス炭(写真2)を99:1の重量比で混合した資材を10アール当たり0.5トン施用する区と1トン施用する区を設け、リン溶解菌の接種区はあらかじめ菌液を接種したバガス炭(バガス炭1グラム当たり1×107個)をバガスと混合し、接種資材とした。基肥の施肥と同時に、これらの資材を株元の表層3〜5センチメートルの土壌に施用した。各処理区の面積は10アールとした。栽培期間中のかん水、除草および培土(平培土および高培土)などの栽培管理は、製糖用サトウキビ栽培に準じて慣行通りに行った。施用後12カ月に当たる2月27日に、各処理区について、茎長、茎生体重、節数、茎径、株当たりの茎数および単位面積当たりの収量を試算した。なお、収量は調査面積(3メートル×135センチメートル)の全茎の茎生体重を測定し、10アールに換算した。茎長は地際から最上部の肥厚帯までの長さとした。茎径は葉鞘を取り除いた後、茎中央の節間の短径部分を測定した。糖度の品質調査は、製糖用サトウキビ品質検査法に準じて、搾汁液の糖度を測定し、甘蔗(かんしゃ)糖度を算出した。採取した個体は50ミリリットルの搾汁液を試験管に入れ栓をして、凍結後ドライアイスを詰めたまま琉球大学に移送し、各種元素はICPプラズマ発光分析装置(ICP-2000S〈島津製作所〉)を用いて測定した。甘蔗糖度とICPによる搾汁液のリン含有率の値との相関関係を解析した。2月28日に、各処理区における土壌からのリン供給能を評価するために収穫時の株元近くの土壌を採取し、可給態リン酸含有率およびバイオマスリン含有率を調査した。

写真2 走査型電子顕微鏡(SEM)によるバガス炭のハニカム構造

4.サトウキビの株出し栽培試験結果

 処理後12カ月に当たる2月27日における、株出しサトウキビの生育量および収量を表1に示した。リン酸を10アール当たり7キログラム施用したP7区の処理区間では、茎長、節数、茎径および茎数に違いは見られなかったが、茎生体重および収量はリン溶解菌を接種した区で高かった。なお、バガスの施用量による違いは認められなかった。

一方、リン酸無施用のP0区では、茎長および茎径には処理区間で差は見られなかったものの、茎生体重および節数はバガス資材を添加しなかった対照区に比べて、各施用区において高い値を認め、茎数および収量はリン溶解菌の接種区において高い値であった。

 

表1 リン溶解菌含有バガス処理が株出しサトウキビの生育および甘蔗糖度に及ぼす影響

 われわれは、これまでにリン溶解菌をバガス炭の担体に接種し、それをバガスと混合した資材を土壌に施用し、ナス、ピーマン、春植えサトウキビを用いて栽培試験を行い、各作物においてリン吸収量の増加に伴う生育促進効果を認めた。本試験ではこれらの結果と同様に、株出しサトウキビにおいてもリン溶解菌をバガス炭に接種しバガスと混合して施用することで生育促進が生じることが示された。

 P0区およびP7区のバガス添加量0.5トン施用区はどちらについてもリン溶解菌接種区の甘蔗糖度は高く、バガス添加量1.0トン施用区は各施用区において甘蔗糖度は高い値を認めた(表1)。搾汁液中の無機成分濃度は、P0区とP7区においてやや異なる傾向を示したが、リンおよびケイ素についてはバガス資材およびリン溶解菌の接種区において高い傾向が認められた。他の養分については、P0区ではカリウムおよびマグネシウムは、リン溶解菌を接種した資材の施用区で無施用区よりも高い傾向を示した。カルシウムは、全ての施用区間で違いは見られなかった(表2)。搾汁液のリン酸含有率量と甘庶糖度との相関関係を解析した結果、両者には有意な正の相関関係(r=0.63)が認められた(図1)。このことは、リン溶解菌接種バガス炭とバガスを混合した資材の施用によって難溶性無機リン酸が可溶化し、そのリン酸を株出しサトウキビが吸収し生育が促進され、甘蔗糖度が高まったことを示す。

表2 株出しサトウキビ搾汁液の成分含量に及ぼすリン溶解菌含有バガスの影響

図1 甘蔗糖度と搾汁液中のリン含量の関係

 収穫時の土壌バイオマスリンおよび可給態リン酸は、いずれもバガス資材の施用区では無施用区と比較して高い値を示す傾向にあった。特に、リン溶解菌を接種した資材の施用区では、バガス資材の施用量にかかわらず、バイオマスリンおよび可給態リン酸は、無施用区よりも高い値を示した(表3)。

表3 株出しサトウキビ栽培土壌のバイオマスリンおよび可給態リンに及ぼすリン溶解菌含有バガス処理の影響

 リン溶解菌接種バガス炭をバガスと混合した資材を土壌に施用することにより、リン溶解菌が有機酸を放出することで難溶性無機リン酸が溶解され可溶性リン酸となり、土壌に生息する微生物に取り込まれ土壌バイオマスリンを形成する可能性が示された。これらの微生物のターンオーバーに伴い土壌バイオマスリンが土壌中へ放出されて、可給態リン酸となり、サトウキビに吸収されることを推察した。しかし、本試験は収穫時の土壌について調査したものであり、土壌微生物を介した難溶性無機リン酸の可溶化によるサトウキビへのリン吸収の過程は、さらに経時的な土壌調査によって明らかにする必要がある。

おわりに

 宮古島のサトウキビ栽培は、2年1作の夏植え栽培の割合が減り、1年1作の株出し栽培が増加したことにより今期のサトウキビ生産実績が大幅に増加した。一方で、サトウキビ連作による土壌成分の収奪により地力の低下が懸念される。今後は、良質な有機物の施肥による土作りの重要性を確認し、農家、行政および製糖工場が協力しながら実践することが望まれる。また、近年、化学肥料の価格高騰が農家の経営を圧迫する中、有機物施用による地力向上を目指した土作りは、化学肥料成分の利用率向上または抵投入型の化学肥料の施肥につながり、地下水保全の可能性が期待できる。われわれの土壌微生物を活用した株出しサトウキビへのリン成分供給試験の成果が、農家の経営のお役に立てれば幸いである。

 本試験を実施するに当たり、沖縄製糖株式会社、沖縄県農業研究センター宮古島支所の職員をはじめ多くの方々にご協力頂き、心より感謝申し上げます。
【参考文献】
前里和洋、中原麻衣、小宮康明、上野正実、川満芳信(2016)「バガス炭を担体としたリン溶解菌による難溶性無機リン酸の可溶化が株出しサトウキビの生育および養分吸収に及ぼす影響」『日本作物学会紀事』85(3)pp.246-252.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



このページのトップへ

Copyright 2016 Agriculture & Livestock Industries Corporation All rights Reserved.