でん粉 でん粉分野の各種業務の情報、情報誌「でん粉情報」の記事、統計資料など

ホーム > でん粉 > 話題 > 多糖類としての難消化デキストリンの特徴

多糖類としての難消化デキストリンの特徴

印刷ページ

最終更新日:2018年2月9日

多糖類としての難消化デキストリンの特徴

2018年2月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
食品加工流通研究領域 上級研究員 佐々木 朋子

はじめに

 厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査によると「糖尿病が強く疑われる者」の推計人数は9年以降増加し続けており、28年には約1000万人に達した。さらには糖質制限ダイエットや低糖質に着目した食品、食事メニューが流行し、食品に含まれている糖質の量および種類について消費者の関心は高くなっている。一言で糖質と言っても、さまざまな種類があり、化学構造や結晶構造などによって特性も大きく異なる。糖質は単体である単糖類、これらの数個の縮合体であるオリゴ糖、さらに多数の単糖からなる多糖類に分類され、用途によって使い分けされている。多様な生理機能を示し、現在では非常に多くの特定保健用食品(トクホ)に使用されている「難消化性デキストリン」は多糖類の一種である。難消化性デキストリンの詳細な特性と用途については、本誌2015年9月号に難消化性デキストリンを生み出した松谷化学工業株式会社の前田氏による記事「難消化性デキストリンの特性と用途」をご参照頂きたい1)。本稿では、難消化性デキストリンと他の多糖類との違いを中心に情報をまとめたのでご紹介する。

1.デキストリンの仲間としての難消化性デキストリン

 デキストリンは、でん粉を原料として酵素、酸、または加熱処理を行い、部分的に加水分解することによって得られる多糖類のことである。原料となるでん粉はアミロースとアミロペクチンの2種類の多糖類から構成されている。アミロースはグルコースがα-1,4結合で直鎖状に連結しているほぼ直線状の高分子で、アミロペクチンはα-1,4結合で直鎖状に連結したグルコースにα-1,6結合でグルコース基が連結することによって多岐に分岐した3次元構造を持つ。そのため、デキストリンはでん粉と同様にグルコースから構成されている多糖類であるが、原料となるでん粉の種類、分解した際の低分子化の程度およびグルコースの結合の仕方で特性が大きく異なる。でん粉の加水分解の程度を表す指標としてDE(dextrose equivalent)と呼ばれている数値が国際的に利用されている。DEはグルコースがアルデヒド基を持つ還元糖であることを利用した数値で、固形分に対する還元糖の百分率として示される。DEが100に近いほど単糖のグルコースの状態に近くなるため、グルコース重合度が小さく、デキストリンの平均分子量が小さいことを示す。逆にDEが0に近づくほど加水分解が進んでいないでん粉の状態に近いため、分子量が大きいことを示す。デキストリンの中でマルトデキストリンと呼ばれている多糖類はDEが20以下のデキストリンの中では比較的分子量が大きい多糖類であるが、製造過程の加水分解の方法によってα-1,4結合の直線状に結合している分子の比率が変化するため、溶解性などの水溶液の特性は異なる2)。一般的にはDEが低いほど甘味度も低くなるので、甘味は少ない。DEが20〜35のデキストリンを粉末化したものは粉飴(Corn syrup solids)として分類され、マルトデキストリンよりも分子量が小さいため、溶解性は高く、甘味も強くなる。このようにデキストリンは加水分解の程度によって特性が大きく異なるため、用途に合わせて各種食品に使用されている(3)
表 DE(dextrose equivalent)の数値とデキストリンの特性との関係
  一方、難消化性デキストリンはでん粉に微量の酸を添加し、加熱処理をした焙焼デキストリンにα-アミラーゼやグルコアミラーゼといったグルコース間の結合を切断する酵素を作用させ、これらの酵素によってグルコースに分解されなかったデキストリンの部分を精製したものである4)。難消化性デキストリンは、平均分子量は2000程度のデキストリンで、DEの値は20以下のためマルトデキストリンの仲間であるが、分子構造に特徴がある。でん粉由来のα-1,4とα-1,6結合に加えて、ヒトの消化酵素では分解できないβ-1,2、β-1,3結合やレボグルコサン構造といった特殊な結合および構造が含まれており(図1)、でん粉や通常のデキストリンに比べると複雑な枝分かれ構造を持っている2),4)。酸の存在下ででん粉を焙焼することにより、α-1,4およびα-1,6結合していたグルコースが他の水酸基に転移し、さらにはアミロースとアミロペクチンの各でん粉分子が分解後再重合をし、複雑な分岐構造が形成されると考えられている(図22),4),5)。でん粉や通常のデキストリンは摂取されると、唾液および膵液中のα-1,4結合のみを特異的に加水分解するα−アミラーゼによりマルトース、マルトトリオース、イソマルトース、α-リミットデキストリン、一部はグルコースまで分解されて小腸に入る。その後、小腸粘膜に存在する二糖類分解酵素によりグルコースまで完全に分解されて吸収される。しかし、難消化性デキストリンは製造過程ですでに消化酵素を作用させており、その複雑な構造から消化酵素の作用に耐えて分解されず残った多糖類であるために、小腸内での消化をすり抜けて大腸へと入っていき、食物繊維としての機能性を発揮する。
図1 デキストリンおよび難消化デキストリンにおけるグルコースの結合様式
図2 でん粉の焙焼の過程で起こる構造変化

2.水溶性食物繊維としての機能と食品への利用

 食物繊維の定義は、時代と共にさまざまな新素材が開発されていることもあり、国際的に見ても、いまだ統一されていないようだが、広義的には「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」がよく使われている。食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維があり、物理化学的性質に違いがあるため、異なった挙動を示す。難消化性デキストリンは水に溶けやすいため、水溶性食物繊維としてヒトの体内で、多様な生理機能を示すことが報告されている1),4)。代表的な作用は、血糖値上昇抑制作用▽中性脂肪低下作用▽コレステロール低下作用▽整腸作用▽内臓脂肪低減作用▽ミネラル吸収促進作用−などである。同じ水溶性食物繊維の仲間であるグアガムやβ−グルカンなども血糖値上昇抑制作用を持つことが報告されているが、難消化性デキストリンと大きく異なる点は、これらの多糖類は水に溶けると粘性が高くなる点である。粘性の高い多糖類による血糖値上昇抑制作用についてはさまざまな説があるが、粘性が高いためにグルコースの拡散を阻害し、腸管からの吸収を遅らせるために血糖値上昇が抑制されるという考えが一般的である6)。しかし、難消化性デキストリンの水溶液は粘度が低いため、これらの水溶性多糖類とは異なる抑制メカニズムを持ち、二糖類分解酵素の活性への影響などが要因として考えられている4)

 精製された難消化性デキストリンは水に溶けやすく、異臭味がなく甘味もわずかで保存中も水溶液として安定している。さらに水溶液は低粘性であるという特徴が多くの食品・飲料に使われている大きな理由である。粘性の高い多糖類は食品のテクスチャーに大きな影響を及ぼすために、添加する対象の食品も、添加量も限定される。顕著な食品の機能性向上が期待できる素材であっても、食品の味や食感を損なう素材であれば長期的に消費者に受け入れられることは難しい。消費者庁が公開している特定保健用食品許可(承認)一覧(2017年12月現在)によれば、難消化性デキストリンを関与成分とする特定保健用食品は379品目にも及び(再許可なども含む)、そのうち飲料関係が297品目もあることから、難消化性デキストリンが低粘性のために飲料分野に強いことは明らかである。2015年4月から開始した「機能性表示食品」制度では、特定の保健の目的が期待できる食品の機能性を表示することができる。トクホとは異なり、国が安全性と機能性の審査は行っていないが、安全性および機能性の根拠に関する情報などを販売前に事業者が消費者庁に届け出て受理された食品に機能性を表示できる制度である。難消化性デキストリンを機能性関与成分とする受理された届出はすでに174件に達しており(2017年12月現在)、今後も増加が予想される。

おわりに

 デキストリンはグルコースだけで構成されているシンプルな多糖類であり、でん粉由来の構造を持つデキストリンは消化されやすく、エネルギー補給型の食品にも多く使用されている。そのデキストリンが、製造過程で複雑に構造を変えることによってまったく異なる特性を持つ消化されない多糖類に変身するとは非常に興味深い現象である。今後も既存の素材が見事な変身をとげ、消費者にとって有益な新素材が生まれることを期待したい。
参考文献
1)前田栄彰(2015)「難消化性デキストリンの特性と用途」『砂糖類・でん粉情報』(2015年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構
2)BeMiller, J. N. (2007)『Carbohydrate Chemistry for Food Scientists』pp198-203.
3)大崎繁満(2003)『澱粉科学の事典:4.3 水飴類』pp433-438.
4)岸本由香、大隈一裕(2009)『ルミナコイドの保健機能と応用−食物繊維を超えて−:第18章 難消化性デキストリン』pp164-173.
5)Thomas, D. J. and Atwell, W. A.(1999)『Starches: 4 Starch Modifications』pp38-43.
6)Jenkins, A. L., Jenkins, D. J. A., Wolever, T. M. S., Rogovik, A. L., Jovanovski, E., Bozikov, V., Rahelic, D., and Vuksan, V. (2008)「Comparable postprandial glucose reductions with viscous fiber blend enriched biscuits in healthy subjects and patients with diabetes mellitus: Acute randomized controlled clinical trial」『Croatian Medical Journal 49』pp772-782.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272