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干ばつ常襲地帯の与論島に適した農林23号の普及と昨今の島の課題

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最終更新日:2018年12月10日

干ばつ常襲地帯の与論島に適した農林23号の普及と昨今の島の課題
〜与論島製糖株式会社光富広次長からの聞き取りを中心に〜

2018年12月

鹿児島事務所 米元 健太

【要約】

 鹿児島県の最南端に位置する与論島は、比較的雨が少ない中、隆起サンゴ礁由来の石灰岩が土壌下に広がっていて粘土層が浅く保水性が低いため、干ばつが起こりやすいとされる。このため、同島のサトウキビ生産では、多収性に加え、耐干性がより重要視される中、与論島製糖株式会社の(ひかり)富広(とみひろ)氏は、平成29年時点で島内の収穫面積の64.3%を占める品種「農林23号」の選定および普及に深く携わり、現在の同島の生産体系の構築に尽力した。

はじめに

 与論島は、南北約600キロメートルに渡る鹿児島県の南に連なる奄美群島最南端に位置し、島の西側からは沖縄本島北端の辺戸(へど)岬を望むことができる(図1表1)。バブル期にリゾート開発が進み、以後現在に至るまで、県内外から多くの観光客が訪れる南国のリゾート地として名を()せているが、観光資源としては、与論ブルーとも評されるエメラルドブルーの海や、潮の満ち干きによって姿を現す砂州の「百合ヶ(ゆりが)(はま)」が代表的な存在である(写真1)。また、ギリシャ領でエーゲ海に浮かぶミコノス島と姉妹都市盟約を締結しているように、中心部を歩くとギリシャ風の白を基調とした建物と海の青さとのコントラストが織り成す南国特有の穏やかな空気感が訪れた人の心を和らげている。

 こうした与論島の産業の柱は、上述の観光業とサトウキビや肉用子牛(繁殖)経営を中心とした農業である。特に、サトウキビ産業については、長年、島の基幹産業として根付いており、農家の多くはサトウキビや、肉用子牛、牧草、野菜、花き類を組み合わせた複合経営により、リスクを分散させながら日々の暮らしを営んでいる。

図1 鹿児島県内の地理的分布

表1 与論町の概況

写真1 日本の夏の絶景として有名な百合ヶ浜からの景色(与論町役場の山下秀光主幹兼係長提供)

 この与論島を含む奄美群島は、亜熱帯に属し、年間の気温の変動幅が本土よりも小さく、温暖な気候である。夏場は、台風の接近・通過に伴う降雨が多い一方で、台風の接近が少ない場合は干ばつ状態に陥りやすい。特に、与論島については、製糖工場を有する鹿児島県内6島のうち、最も降水量が少ない傾向にあり、その気候や土壌に合った作物および品種の選定がより一層重要となっている(表2)。

 こうした中、与論島製糖株式会社(以下「与論島製糖」という)事業所次長兼業務部長の光富広氏は、島内占有率が6割を超えるサトウキビ品種「農林23号」の選定および普及に携わり、現在の与論島のサトウキビ生産体系の構築に尽力した結果、平成29年度(第18回)農林水産省農林水産技術会議会長賞(民間企業部門)を受賞した。

 本稿では、現在に至るまで与論島のサトウキビ生産に尽力してきた同氏の農林23号の選定および普及にかかる取り組みを紹介した上で、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会主催のさとうきび生産改善共励会の地域(島別)の部で最優秀賞を2年連続で受賞するなど、奮闘を続ける与論島のサトウキビ生産の現状と今後の課題を報告する。

表2 鹿児島県内の製糖工場を有する各島の月別降水量(平年値)

コラム1 農林水産技術会議会長賞とは

 今回、光次長が受賞した農林水産技術会議会長賞は、農林水産省および公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会が、農林水産業その他関連産業に関する研究開発のうち民間が主体となって行っているものについて、その一層の発展およびそれに従事する者の一層の意欲向上に資するため、優れた功績を挙げた者を表彰するものである。

 本表彰は、平成12年度から毎年行われており、29年度が第18回目となった。
 29年度の民間部門農林水産研究開発功績者表彰の受賞者については、下表のとおりである。このたびの受賞を受けて、光次長は、「品種選抜試験は業務の一貫であり、国や県の研究員と協力して進めたわけだが、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という)九州沖縄農業研究センターの方の推薦により、名誉ある賞を受賞することができた。ありがたい気持ちでいっぱいな反面、他の受賞者の業績を拝見すると恐縮してしまう」とのことであった。





 

1.与論島のサトウキビ生産の概要

(1)主要品種

 与論島の年平均気温は22.8度で、鹿児島市と比べると4度程度高い一方、降水量は、本土や奄美群島の他島よりも比較的少ない傾向にある。このため、与論島には干ばつに強い品種が適しており、現在の主要品種は農林23号(Ni23)である(図2)。

 この農林23号は、選抜試験を経て平成18年に鹿児島県の奨励品種に採用された品種で、以後与論島内でのシェアを急速に高めて、29年産(10月〜翌9月)時点で64.3%に達している(図3)。特徴としては、台風などで倒伏・折損の被害を受けやすい一方、発芽・萌芽、茎伸長に優れ、春植え、夏植え、株出しのいずれの作型でも多収である。黒穂病の抵抗性については、「弱」とされているものの、光次長いわく、「過去も含めてほとんど発生していない状況」である。

図2 鹿児島県と与論島の品種別収穫面積の構成比(平成29年産)

図3 与論島の品種別収穫面積割合の推移

コラム2 サトウキビの品種の名付け方の法則性

 サトウキビの品種は、農林8号といった呼称がある一方、正式な品種名は、“NiF8”のようにアルファベットや数字が連なった一見分かりづらいものになっている。しかしながら、この国際的な品種名にこそ、各品種の起源が盛り込まれており、交配採種地や育成地が一目で分かるようになっている(コラム2−図)。

 現在、鹿児島県や沖縄県で最も多く栽培されている品種は、NiF8であるが、そもそもサトウキビは外国から持ち込まれて普及した作物であり、過去を振り返ると、「POJ2725」や「NCo310」といった品種が席捲(せっけん)していた時代が長く続いた。こうした時代を経て、日本特有の土壌や気候に合った品種を造成すべく、現在の主力品種が選抜・育成され、それに続く品種の検定試験も進められている。
 

(2)生産量および作型

 与論島におけるサトウキビ生産量は、平成18年6月に「さとうきび増産計画」が策定されて各島でスタートして以降、一旦は増加したものの、23〜25年にかけて日照不足や台風、干ばつなどによる不作が続き、しばらくの間、その影響が後を引いた。28年産は、生育初期から気象条件に恵まれ、台風被害もなかったことから単収は平成に入り最高を記録したものの、翌29年産は、前年比27.1%減の2万3725トンと再び大きく落ち込んだ(図4)。

 29年産においては、7〜8月の降水量が極端に少なく干ばつに陥って生育が著しく停滞したほか、度重なる台風襲来による葉の脱落や葉部裂傷、潮害による葉の白化が発生して回復に時間を要した結果、登熟が平年よりも大幅に遅れ、ブリックス(注)および糖度が低迷した。

 (注)ブリックスは、純粋な糖分のほか、カルシウムや灰分などを含む。与論島製糖の平成29年産の圧搾実績のうち、サトウキビ平均糖度は11.3度。第一汁に限ってはブリックスが16.96度で、この内純糖率は84.34%(平均糖度14.3度)。

図4 与論島におけるサトウキビ生産量の推移

 作型について、与論島は年々株出しの割合が上昇傾向にあり、29年産の同割合は81.6%に到達した(図5)。県平均の同割合が71.9%である中、与論島は県内で最も高い水準である。背景には、他の島と比べて低コスト志向が強く、株出しの適性が高い農林23号が多く植え付けられていることによる(表3)。

 なお、奄美群島では、喜界島や徳之島、沖永良部島に国営かんがい排水事業で整備済みおよび建設途中のダムがある中、与論島には整備されていないため、干ばつ時や台風通過後の散水には、苦慮する場合が多い(表4)。こうした状況ではあるが、与論島は、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会が毎年開催する生産改善共励会において、生産振興に取り組み生産性および品質などの向上に取り組んでいる島を表彰する「地域(島別)の部」で、29年度まで2年連続で最優秀賞を受賞するなど、生産者および関係者の日々の努力が結果として表れているところである。

図5 両県と与論島における栽培型別生産実績(平成29年産)

表3 両県と与論島における株出し回数別面積(平成29年産)

表4 鹿児島県の離島地域における国営ダムの概要

(3)機械収穫の実施状況

 与論島における平成29年産のハーベスタ収穫率は、前年比1.3ポイント増の68.2%となった(図6)。これは、県内で最も低い水準にあるが、この要因は以下のとおりである。

 同島は、1筆当たりの()(じょう)面積が小さく、道路や圃場の間口が狭いところが多いことから、ハーベスタ収穫に向いていない圃場が一定数ある。また、29年度までのハーベスタ導入台数は13台(小型)と、収穫面積に対して数が足りない状況にあることから、相対的に機械収穫率が低くなっている。なお、小型ハーベスタ1台の1日当たりの処理量は、単純計算で20トン程度が理想とされる中、天候や圃場の立地条件などの問題により、必ずしも計画通りに進まず、結果的に作業が滞る場合が多い。こうした中、30年産より、元JAあまみの職員で長年サトウキビに携わっていた吉井満秀氏がハーベスタを導入して機械収穫作業に従事することとなり、依然として絶対数は十分と言えないものの、受け皿問題が若干緩和される見通しである。

 なお、光次長によると、手刈りはハーベスタに比べ作業効率が劣る一方、ハーベスタが作業を実施できないような雨天の中でも作業が可能なほか、トラッシュ率が低く圃場に残される量も少ないため、単収が向上する側面がある。

図6 両県と与論島におけるハーベスタ収穫率の推移

2.農林23号の導入と普及について

(1)導入までの経緯

 与論島で急速に普及した農林23号については、複合的な理由の下、適性が見いだされて定着したことに他ならない。前提として、与論島は耕地面積(および1戸当たり経営面積)が限られており、コストの安い株出し、しかも春植えからの株出体系が主流である中、品種の選定は、耐干性や多収性を追求することに加え、病害抵抗性や土壌適応性などを長い年月をかけて検証する必要がある。

 こうした点を踏まえて、農林23号を導入するに至った経緯について、奨励品種決定調査の現地適応性検定試験を進めた光次長に伺ったところ、以下の図7の通り説明を受けた。

図7 与論島における農林23号の導入の経緯

(2)農林23号の普及について

 与論島のサトウキビ生産振興については、行政、農協、製糖会社、生産者で組織する「与論町糖業振興会(事務局は与論町で、以下「糖業振興会」という)」が予算を確保しており、品種の普及のほか、干ばつ時の緊急対策などに係る各種糖業振興会事業を進めやすい体制が整っている(表5)。

 光次長によると、新品種の普及については、まず農研機構の種苗管理センター鹿児島農場(種子島)から調達した原苗を増殖して採苗のための圃場を設置し、併せて生産者への周知も随時進める。生産者は、新品種に非常に敏感であり、特に株出し適性の高い品種に対する関心はひときわ高いことから、高評価で有望な品種があると分かれば普及もスムーズに進む。農林23号の普及過程はその好例で、糖業振興会の各種事業を活用することにより、普及拡大の苦労は特になかったとのことであった。平成30年度においても、前年度事業を継続して、生産者をはじめ関係機関・団体が一体となって増産対策に取り組んでいる。

 また、平成28年には、近隣の沖永良部島に(なら)って「与論島さとうきび栽培指針」というマニュアル(冊子)の作成が県大島支庁沖永良部事務所と進められ、生産者や関係者に配布された(写真2)。これは、農林23号はもちろん、品種別の特性や、干ばつおよび病害虫発生時の対応について解決策などが一元的に明記された手引き書になっており、生産者への技術の普及・浸透に一役買っている。

表5 与論町糖業振興会が平成29年度に実施した主な事業

写真2 与論島さとうきび栽培指針各種対策が明記されており収量増に寄与

3.昨今の課題

 近年の与論島のサトウキビ生産を取り巻く環境は、他島と同様に、台風などの天候被害や高齢化以外に数々の課題が表面化している。ここでは、光次長からの聞き取りの中で見えてきた与論島における主だった課題について整理したい。

(1)サトウキビ生産(集荷)量の減少

 生産量の減少基調は、島で唯一の製糖会社である与論島製糖としても悩ましい状況である。同社における集荷量の大まかな損益分岐点は2万6000トンとされる中、台風や高齢化に伴う離農に加え、収穫面積の減少の影響を受けて、近年分岐点を下回る年も増えてきている(図8)。工場の稼動の際には燃料を多く使うため、原料が足りず圧搾計画数量に達しない場合は、工場の稼動時間を調整する必要がある。これにより、集荷されたサトウキビの圧搾が滞り、品質劣化および糖度の低迷といった悪循環を引き起こしている。

 同社は、こうした原料不足を受けて、平成29年産において島内関係者と協議の上、従来の稼動スケジュールを1カ月早めて、25年ぶりに年内操業を行った(29年産操業日:12月15日〜3月24日)。これについて、光次長は「収穫スケジュールを早めることで、生産者が収穫後の圃場の管理作業に時間を割けることにつながり、翌期以降の生産に好影響が期待できるほか、春植え推進期間の設置や工場のメンテナンスも余裕をもって行えるため、会社として3カ年(29〜31年産)は年内操業を続ける見込み」とのことであった。

 なお、30年産の島内のサトウキビ収穫面積は、410ヘクタール程度まで落ち込む見込みである。これは、統計のある昭和40年以降過去最低の水準であるため、年内操業に伴う好影響が期待されるところである。

図8 与論島のサトウキビの収穫面積と生産量の推移

(2)低コスト志向ゆえの散水実施率の低さ

 与論島のサトウキビの10アール当たりの単収は、近年増加基調で推移してきたが、平成28年産に平成以降、最高の7.7トンを記録したのもつかの間、翌29年産は、深刻な干ばつ被害が発生し、前年比27.5%減の同5.6トンに落ち込んだ(図9)。

 先述の与論島さとうきび栽培指針によると、サトウキビのかん水は、7日おきに、10アール当たり23トン程度が望ましく、少雨記録時(日雨量10〜20ミリメートル)は半分となるほか、大雨(同200ミリメートル)の場合はかん水が不要とされている。しかしながら、低コスト志向が根強いことから、干ばつに強い農林23号でも、深刻な干ばつが発生すると、単収低下に直結してしまう。
 


 なお、島内の畑かん整備率は32%程度(サトウキビ圃場のみのデータはなし)であるが、実際の利用はそれを下回り、天水および品種の能力頼みの圃場が多い(表6)。同指針によると、夏に2週間雨が降らない時点で見た目に変化がなくても、生育停止が始まってしまうとされ、地割れが入ってからのかん水は効果が薄いとされる。このため、収量増に向けては、早期かん水▽保水力向上(堆肥・緑肥)▽適期管理による初期成育促進などの対策が必要になるが、緑肥の作付けは夏植えが少ないために拡大が進んでいないほか、堆肥の製造能力も十分とは言えず乾燥処理にも課題を残しているとされる。

 30年産については、前年の干ばつ被害を教訓に、例年より早めの7月17日に干ばつ被害対策本部を立ち上げて散水への助成を実施した。このほか、水利資源および設備が限られる中ではあるが、定期的な散水の呼びかけを実施し、地域でのローテーション散水を行っている。

表6 与論町の水利資源の利活用状況

(3)働き方改革を受けた人員確保問題

 人員確保については、生産現場および製糖工場の両方で見られる課題である。
 生産現場では、機械収穫率が年々高まる中、作業受託の機械や作業員の絶対数が慢性的に足りない問題が顕在化している。

 一方、昨今の働き方改革では、与論島製糖をはじめとした島の製糖工場に対応が迫られている。法施行後5年間の適用猶予期間を経ての本格移行となったものの、猶予期間中から与論島製糖など2交代制から3交代制の導入を検討する必要が生じる製糖工場では、残業の上限が設定され、結果として従業員の収入低下が見込まれる。近年は、製糖期に限る期間労働者が十分に集まらない中、3交代制への移行による収入減で、ますます人手を集めるのに苦慮する可能性が危惧されている。

 与論島製糖としては、人手を集めるために、ハローワークや地域のネットワークなどを駆使して乗り切ろうとしているものの、周年雇用が困難な中、今後も悩ましい状況が続くものとみられており、難しい舵取りを迫られている。

(4)病害虫対策

 与論島においては、他の島と同様に、病害虫被害が毎年、一定程度発生している中、糖業振興会の病害虫防除事業などで農薬の一部助成を行っている。また、同会の助成により、病害抵抗性が強い優良種苗の購入にかかる一部助成も行われており、農家負担の軽減と収量の増加を後押ししている。このほか、病害虫とは異なるものの、サトウキビ生産を大きく左右する雑草対策として、雑草防除費用も一部助成されている。

 こうした中、干ばつ年およびその翌年については、害虫のバッタ類(セスジツチイナゴ)が大量発生して、成幼虫が葉を食害し、成育遅延、品質・収量低下などの被害が発生している。これについての防除対策としては、複数回農薬を散布して、若齢幼虫を防除することが求められているが、全ての圃場で対策が施されることは難しいほか、卵が年をまたいで孵化(ふか)することもあり苦慮しているのが実態である(表7)。

表7 害虫の種類別被害内容と防除対策

4.与論島の平成30年産の生育状況と低糖度対策

(1)平成30年産の生育状況

 平成30年産は、初期成育こそ良好で前年産からの盛り返しが期待されたものの、登熟期に入った9月下旬以降、複数の台風襲来の影響により、登熟の遅れが懸念されるところである。

 特に、9月29日前後に接近した台風24号によって、与論島製糖は、同島の30年産のサトウキビ生産量を当初の見立てから10%程度下方修正した。広範囲で葉の脱落や裂傷、全倒伏に加え、降雨が少なかったことから一部で潮害も発生したが、これにより、寒さが増して糖度が上がるタイミングで、糖度を蓄えるよりも自身の葉部などの回復に時間を要す可能性もあることから、関係者間では品質が判明する収穫時期まで心配が続く。

 なお、近年台風襲来の時期が遅くなっていることが指摘されているが、個数や時期について、これまでと大きく異なる兆しがあるわけではない(表8)。しかしながら、鹿児島地方気象台によると、温暖化に伴う海水温の上昇に伴い、大気中の水蒸気量が増加していることから、台風の威力は増している傾向にあるとされる。

写真3 台風24号の被害を受けた農林23号の様子(左:2月春植え、右:株出し)与論島製糖提供(10月1日時点)

表8 奄美群島に接近または通過した台風の数の推移

(2)低糖度対策

 農林水産省は、平成29年産サトウキビの品質について、特に鹿児島県で自然災害により低糖度などの被害が生じたことを受けて「さとうきびキャラバン」を実施し、現地の意見を踏まえ、特別対策として次年産に向けた土づくり、新植・補植、かん水作業対策などの取り組みを支援することなどを発表した。これを受け、与論島でも特別対策や生産性向上を図る基盤整備が検討・推進されているところである。

 この中で、セーフティネットに位置付けられる「さとうきび増産基金」の運用の改善がなされ、30年産については、29年産に一部地域で発生した糖度の低下などの状況を踏まえ、台風、干ばつ、病害虫発生などに対応した対策を講じるための「糖度減少発生」が発動要件に加わり、低糖度対策の充実が図られたところである(表9)。なお、30年度末で終了の可能性がある同基金については、気象災害が頻発していることを受け、団体などから継続を求める意見が寄せられている。

表9 平成30年度のさとうきび増産基金の発動要件

5.おわりに

 近年、与論島のサトウキビ生産は、天候などに左右されながら生産量は大きく変動している中、面積については漸減傾向で推移しており、正念場を迎えている印象を受けた。こうした中、関係者の日々の努力は計り知れないものがあり、前述の特別対策や各種事業を通じて少しでも状況が好転するように対策が講じられている。

 新品種に係る試験はその一環であり、長年時間と労力を投入して、光次長を中心に将来のための努力が続けられている。今回、長時間にわたる取材に対応いただいた光次長は、これまでの品種の選定試験やサトウキビ産業の一進一退の状況などについて詳細に説明された上で、台風常襲地帯の与論島におけるサトウキビ生産の課題を示唆された。その懇切丁寧さが、品種の試験段階から現場への普及に至るまでに大きく寄与し、現在に至るまで一貫して島の力になっていると実感した。

 元来、与論島には結いの精神が根付いており、地域および関係者の絆には温もりと共に一体感を感じる。平成29年末には天皇、皇后両陛下が初めて来島されて島が一段と活気付いたほか、最近では、大相撲・十両の千代ノ皇の活躍が島民を喜ばせている。訪れる度に元気をもらえるこの豊かな島の中心には、サトウキビ産業が間違いなく根付いており、バランスのとれた栽培体系を通じて現状の苦境を脱し、増収および繁栄に繋がることを心から祈念したい。

 最後に本稿の執筆にあたり、ご協力くださった与論島製糖の光富広次長をはじめ、与論町役場の山下秀光主幹兼係長、JAあまみ与論事業本部の山下鉄矢係長など、現地関係者の方々にこの場を借りて深くお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272