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平成30年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要

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最終更新日:2019年1月10日

平成30年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要
〜持続的・安定的なさとうきび生産への取り組み〜

2019年1月

鹿児島事務所、那覇事務所

【要約】

 平成30年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会では、「持続的・安定的なさとうきび生産への取り組み」をテーマに、鹿児島県および沖縄県の生産者代表や行政関係者などによる報告が行われた。生産者代表からは、持続的・安定的なさとうきび生産実現のための優良事例として、各生産者の取り組みが紹介された。

はじめに

 当機構は、鹿児島県および沖縄県の基幹作物の一つである、さとうきびの生産に関するさまざまな課題を両県の関係者が一丸となって解決していくことを目的として、毎年「さとうきび・甘蔗糖関係検討会」(以下「検討会」という)を開催している。

 17回目となった今回は、鹿児島県徳之島の天城町防災センターで「持続的・安定的なさとうきび生産への取り組み」をテーマに開催した(11月6〜7日)。

1.会議の概要

 検討会1日目は、農林水産省地域作物課長より 「砂糖をめぐる現状と課題について」説明があり、次に、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場の作物研究室長佐藤光徳氏をコーディネーターに据え、行政および各地域の生産者によるパネルディスカッションが行われた。まず、行政サイドから、鹿児島県農政部農産園芸課の指宿(いぶすき)浩係長と、沖縄県農林水産部糖業農産課の喜納(きな)幹雄班長から労働力不足の解決に向けた受託組織の育成や機械化推進、収量増加に向けた地力増進や適期管理の推進などの各県の取り組みが報告され、続いて生産者代表による報告、活発な意見交換が行われた。

 午後からは、琉球大学農学部、鹿児島大学大学院連合農学研究科の(たから)(がわ)拓生氏および琉球大学農学部教授の川満芳信氏から「品種の経年評価を通したサトウキビの長期的低収要因の検証」の講演が行われた。講演後はさとうきび培養苗実用化推進機構のメリクローン苗(注)生産施設や鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場などの視察が行われた。

 2日目は、両県の研究者からの研究成果発表が行われた。発表では、各研究者がさとうきび栽培を取り巻く現状および課題を示した上で、課題の解決に向けた栽培技術の確立や新品種の育成などに関する取り組み状況を報告した。続いて、平成29年産さとうきびの低糖度被害の対応に関する優良事例が報告された。

 本稿では、本会議のテーマである持続的・安定的なさとうきび生産への取り組みについての4人の生産者代表からの報告を紹介する。

(注)植物の茎の先端(茎頂)にある成長点を切り出して培養することで得られた苗のこと。成長点付近の組織はウイルスへの感染が少ないことから、この部分を培養することで、ウイルスに侵されていない健全な苗を得ることができる。

写真1 会場の様子

2.生産者代表による報告

(1)徳之島代表の若山秀也氏
〜徳之島におけるサトウキビと畜産の複合経営の在り方〜

 若山秀也氏は、鹿児島県天城町でさとうきびの栽培および黒毛和種の繁殖の複合経営を営んでいる。同氏の経営規模はさとうきびの作付面積15ヘクタールと繁殖雌牛60頭である。今回の発表では、複合経営のメリットを生かし、経営の規模拡大を目指す取り組みが紹介された。

 さとうきびは台風などの被害を受けても一定の収入が見込めるほか、取り引き価格が決まっていることから、収入が比較的安定しており、経営の見通しを立てることが容易であるというメリットがある。しかし、収入が収穫期に限られる上、市場価格の変動による高値取り引きが難しいというデメリットも抱えている。また、労働負担が収穫から植え付けの時期に集中し、人手不足により労働力の確保が難しいことも課題となっている。

 一方、肉用牛繁殖経営は、年間を通じて収入が得られ、市場価格によっては高収入が期待できるほか、時期を限らず管理作業が発生するため、常時雇用による労働力の確保が必要となる。さとうきび経営と畜産経営を組み合わせることは、収入の安定化および管理作業の平準化という点で経営を安定させることに期待ができる。

 また、畜産部門から生じるふん尿を用いた堆肥を()(じょう)に還元することで土づくりのコストを削減したり、イノシシによる被害が増加している圃場や、排水性に難がある圃場のような、さとうきびの栽培に適さない圃場は牧草の栽培に利用するなど、副産物や土地を有効に活用している。

 こうした複合経営のメリットを生かしながら、法人化による規模拡大を目指しており、現在の作付面積を維持しながら、繁殖雌牛の飼養頭数を100頭まで増頭することを今後の目標としている。同氏は「さとうきびは、台風常襲地帯である徳之島においてなくてはならない作物。現在、肉用子牛の市況が好調ではあるが、さとうきび部門と畜産部門の二本柱を維持し、徐々にそれぞれの規模拡大をしていき、労働力も増やしていきたい」と意気込みを語った。

写真2 若山秀也氏

(2)種子島代表の川内田行博氏
〜私の求めるこれからのサトウキビ経営について〜

 (かわ)(うち)() 行博氏は、鹿児島県南種子町においてさとうきびの栽培を行うほか、平成30年5月に設立した「株式会社 SUGAR HERO」において、農業機械の輸入販売・開発などを行っている。今回の発表では、さとうきび業界において、高齢化や後継者不足などによる労働力不足が課題となる中、現場に適合した農業機械を開発・供給することによる労働負担の軽減に向けた取り組みが紹介された。

 同氏は農業機械の開発と機械化栽培体系の構築による労働負担の軽減を、栽培面積の拡大に繋げることで「儲かるさとうきび経営」を目指している。その中で、管理作業の中でも労働負担が大きい採苗作業に着目し、農業機械により労働負担を軽減するための方策を模索した。農業機械での採苗は、一部の大規模生産者において、ビレットプランターでの植え付けを前提として、ハーベスタを使用して行われている。しかし、機械の導入コストが大きいことに加え、植え付け時の苗の投入量も多くなることから、導入が難しい生産者が多くいるのが現状である。

 そこで、タイのさとうきび栽培現場で使用されていた「刈り倒し機」に着目し、日本の栽培現場向けに改良することとした。刈り倒し機はその名の通り、さとうきびを根元から刈り倒す機械で、ハーベスタのように茎の裁断や粗脱葉などの機能を持たない。この機械を改良するにあたり、茎が曲がったさとうきびへの適応などが課題となったが、自ら何度もタイに赴き、試行錯誤を重ねた結果、改良型の刈り倒し機を開発することに成功した。開発した刈り倒し機は、トラクターのアタッチメントとして装着が可能であり、大規模生産者以外でも導入しやすくなっている。

 同氏は「自らも一農家」という意識のもと、今後も現場に求められる機械開発を進め、自身の作付面積を拡大することはもちろん、他の生産者とも一体となって、さとうきび業界を盛り上げようと奮闘している。

写真3 川内田行博氏

写真4 川内田行博氏が開発した刈り倒し機

(3)沖縄本島南部地域代表の比嘉正行氏
〜早期補植で株出しの単収アップ〜

 比嘉正行氏は、沖縄県糸満市でさとうきびを栽培している。糸満市が位置する沖縄本島南部地区の土壌はジャーガル土壌と呼ばれ、沖縄県に分布する主要な土壌の中では最も()(よく)な土壌であり、古くから株出し主体の栽培が行われてきた。平成28年産では株出し収量10アール当たり13.26トンを達成し、第41回沖縄県さとうきび競作会の農家の部において第1位(農林水産大臣賞)の成績を収めている。今回の発表では、株出し栽培における管理方法などについての紹介があった。

 株出し栽培において単収を確保するためのポイントの一つとして、萌芽性を良好に保つことを重視しており、畝幅を通常より広い150センチメートル以上としている。このことは、除草作業のしやすさや畝の数が減ることによる作業負担の軽減につながっている。また、収穫時の枯死茎が減少するというメリットもあるが、植え付け本数の減少に伴い収量が減少する懸念もある。そこで、一茎重に優れ、株出し回数を重ねても細茎化しにくいという特徴を有する「農林21号」を栽培品種とすることで、このデメリットを補っている。さらに、収穫時に発生した欠株については、徹底した補植を行うことにより、茎数の確保に努めている。

 発表の中で「ハーベスタでの収穫が普及し、収穫時の欠株が発生しやすくなった現在であるからこそ、補植により茎数を維持することが単収の確保のために必要」と補植の重要性を強調した。

写真5 比嘉正行氏

(4)石垣島代表の山城由久氏
〜石垣市における受託作業の取り組み〜

 山城由久氏は、沖縄県石垣市伊野田地区において、さとうきびの栽培および管理作業の受託を行っている。伊野田地区では、高齢化に加えて、トラクターなどの農業機械を保有している生産者が少ないことから、作業受託の取り組みが、地域農業の維持に重要な役割を果たしている。

 所有する農業機械は、トラクター、ブルトラ各1台および各種のアタッチメントである。受託作業の内容は、株出し管理、耕転、植え付けを主とする管理作業全般であるが、株出し管理が受託面積の大半を占めている。株出し管理の受託面積は年々増加傾向にあり、平成25年の受託開始当初は27ヘクタールであったものの、ここ2、3年は、伊野田地区の作付面積の約3分の2に当たる40ヘクタール前後まで増加している。なお、受託作業は基本的に一人で行っているが、人手が必要な場合には臨時雇用により労働力を確保している。

 年々増加する作業受託に対し、栽培面積の拡大などにより経営の安定を図り、安定的な労働力を確保することおよびトラクターの追加導入による作業の効率化により対応することが課題であるとした上で「地域の高齢化が進み、トラクターなしでは農業を続けていくことが難しい方が増加する中、今後も作業受託をすることで地域農業の維持に貢献していきたい」と今後の意気込みを語った。

写真6 山城由久氏

(5)まとめ

 発表では、各生産者の特色ある取り組み事例が示された。発表後は活発な意見交換が行われ、特に、株出し栽培に関する質問や意見が多く見られた。高齢化などにより労働力不足が懸念される中、株出し栽培における収量の確保に対して関心が強いことがうかがえた。

写真7 現地視察の様子(徳之島支場)

おわりに

 今回の検討会において、持続的・安定的なさとうきび生産の実現に当たっての多くの課題に対し、鹿児島県と沖縄県の各地域の取り組み事例の情報共有がなされた。地域によりさとうきび生産を取り巻く状況は異なるが、今回共有がなされた情報が生産現場で活用されることにより、課題解決の一助となることを期待したい。

 最後に、本検討会の開催に当たって、ご協力いただいた徳之島をはじめ鹿児島県、沖縄県のさとうきび生産に携わる関係者の皆様には改めてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報部)
Tel:03-3583-9272