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畜産農家とサトウキビ栽培農家の連携による地域資源の利活用

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最終更新日:2019年8月9日

畜産農家とサトウキビ栽培農家の連携による地域資源の利活用

2019年8月

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター
生産体系研究領域 バイオマス利用グループ 主席研究員 田中 章浩

【要約】

  農業集落排水汚泥の安価な堆肥化技術を開発するとともに、豚尿のメタン発酵消化液と汚泥発酵肥料を利用したサトウキビ実証栽培を行いその効果を明らかにした。養豚農家では年間1頭当たり3200〜4000円の排せつ物処理経費の軽減、サトウキビ農家では10アール当たり6300〜7900円の収益改善効果を見込むことができる。また、消化液と牛ふん堆肥の局所施用により、サトウキビ収量が増加し、堆肥施肥に係る費用以上に収入が向上する可能性が示された。

はじめに

 

 沖縄県では、林業が少なく堆肥副資材が慢性的に不足している。また、畜産経営に関する暫定排水基準の見直しなどにより、沖縄県の農業収益の4割を占める畜産経営において堆肥化処理だけでは家畜排せつ物法の法律順守が困難になることが予想される。これらの状況に対応するため、高水分の家畜排せつ物を処理でき速効性有機液肥の製造ができるメタン発酵処理技術導入の必要性が高まっている。さらに、南西諸島の基幹作物であるサトウキビをめぐる情勢は、栽培が長期連作となっており()(じょう)への有機物投入不足による地力低下などから、収量が長期的に低下傾向にあるなど厳しい状況となっており、安価な堆肥や肥料の開発・利用が求められている(図1)。そこで、畜産農家と耕種農家の連携を軸とした地域資源循環の促進を図るために、農業集落排水汚泥の安価な堆肥(以下「汚泥発酵肥料」という)化技術を開発するとともに、豚尿のメタン発酵消化液(以下「消化液」という)と汚泥発酵肥料を利用したサトウキビ(農林8号)の実証栽培を行った。また、し尿と生ごみ、泡盛かすのメタン発酵消化液と牛ふん堆肥の局所施用による夏植えサトウキビ(農林25号)栽培試験を行い、それらの肥料効果などを明らかにした。

 

1.サトウキビ基肥用の汚泥発酵肥料

 農林水産統計によれば、サトウキビの全額算入生産費は2012年度で10アール当たり154116円(労働費は同6万7739円)であったのに対して、沖縄県の10アール当たり平均収量5.095トン(図1)から売り上げとしては10アール当たり11118円(買取価格1トン当たり2万1613円)であり、収支としてはマイナス4万3998円となっている。収支をプラスにするには単収を10アール当たり7トン以上に向上させるとともに、未利用資源などを活用し肥料コストなどを削減することが重要である(図2)。 

  

 

 そこで、農家への販売価格1トン当たり3500円以下の安価な有機質肥料の生産を可能とするために、農業集落排水汚泥を利用したサトウキビの基肥用堆肥製造技術の開発を行った。


 堆肥化では材料にオガクズなどを混合し30%程度の空隙を設け通気性を確保する必要があり、オガクズを副資材とした農業集落排水汚泥の堆肥化では初期の適正水分が70%であることを明らかにした。JAの下水汚泥堆肥品質基準では、C/N20以下、乾物当たり有機物量35%以上、窒素1.5%以上、水分50%以下、pH8.5以下(リン酸2%以上、アルカリ分25%以下)が示されている。しかし、オガクズを混合した農業集落排水汚泥の堆肥化では4週間の堆肥化でも水分蒸散が少なく、完成堆肥の水分が60%以上と、下水汚泥堆肥の品質基準の一つの水分50%を満たすことが難しい(図3)。そこで、豚ぷんを20%添加することで発酵を促進し「農業集落排水汚泥+オガクズ+豚ぷん」の組み合わせとすることで、3週間で水分49%と堆肥品質基準に適合できる堆肥化技術を完成させた。肥料製造原価は補助率0%の場合で1トン当たり1万1373円となるが、処理料として農業集落排水汚泥同7000円、豚ぷん同500円を徴収することで、製造費は同3253円と農家への販売価格同3500円以下の安価な有機質肥料の生産が可能となる。

  

2.消化液の簡易設置ホースによる散布技術

 クローラー車両を利用した消化液の散布で基肥と1回目の追肥が可能で、1.6トンの消化液散布に必要な時間は9分程度であった(10アール当たりに換算すると21分)。そこで、サトウキビ栽培の2回目以降の追肥に消化液を利用するための施肥方法として、直径50ミリメートル、長さ50メートルの散布用ポリエチレンホースをサトウキビの畝間に設置し、左右の畝に施肥する簡易設置ホース散布技術を開発・実証した。散布穴を長さ方向に1メートル間隔で均一に配置すると施肥誤差が28%と大きいが、給水側から10メートル区間の散布穴個数をそれぞれ6、8、101213カ所とすることで施肥誤差4%とほぼ均一に施肥可能となった。ホース6本、長さ50メートルの条件で施肥面積は8.4アールであり、4トンバキューム車(液肥積載量3.5トン)1台分の液肥を施肥すればサトウキビの追肥施肥割合とほぼ同量を散布することができる。散布システムの材料代は10アール当たり2万3455円である(図4)。 

 

 さらに、サトウキビ圃場での施肥の際のアンモニア揮散が、圃場にサトウキビ(ざん)()がない条件では1週間で10%であるのに対して、残渣ありの条件では30%となることを明らかにした。RQフレックス(注)によるアンモニア態窒素の簡易分析は現場での実用が可能な精度であり、現場において液肥のアンモニア態窒素と圃場面積から施肥量を決定できることを明らかにした(図5)。


 (注)RQフレックスは手軽に持ち運び可能な分析機器で、専用の試験紙を用いることで、多項目の成分の簡易分析が可能となる。分析項目の一つにアンモニアがある。

  

3.サトウキビの減化学肥料栽培

  サトウキビは他の作物に比べて10アール当たりの収量の変動が大きいが、夏植えおよび春植え・株出し栽培において、消化液を追肥とし化学肥料を70%代替しても、化学肥料栽培と同等の収量、甘しゃ糖度が得られた(図6)。また、夏植え栽培においては、さらに基肥に消化液と汚泥発酵肥料を組み合わせて施用することで化学肥料を100%代替しても、化学肥料栽培と同等の収量、甘しゃ糖度が得られた。

  

 春植え―株出し体系における栽培跡地土壌の可給態リン酸濃度は、化学肥料や消化液を施肥した区では栽培前土壌とほぼ同等(約6mg/100g)で国頭マージにおけるサトウキビ畑での土壌改良目標値10mg/100gより低いが、基肥に汚泥発酵肥料を10アール当たり1トン施肥した栽培では濃度が増加し目標値に近い値となった。また、土壌中の交換性カリ濃度は、化学肥料栽培、消化液や汚泥発酵肥料を施肥した全ての栽培で減少傾向を示し、消化液を施用した栽培では施肥基準に比較してカリ投入量が多いが、その影響は小さなものであった(図7)。 

 

4.メタン発酵消化液を利用したサトウキビの収益効果

  散布料込み消化液1トン当たり500円、同汚泥発酵肥料同3500円、全量化学肥料時の肥料費9700〜1万3300円(JA価格)で試算すると、10アール当たり35004400円の肥料費減となる。また、散布込みのため同28003900円の労働費節減効果が見込め、収益改善効果は同63007900円となる(表1)。

 

 沖縄県A町の場合、豚飼育頭数8267頭から発生する養豚農家の排せつ物処理経費は年間で2645400033068000円減となる。A町のサトウキビ栽培(夏植え栽培3.1ヘクタール、春植え栽培6.1ヘクタール、株出し栽培29.2ヘクタール)の化学肥料を消化液で70%代替すると年間で2447000円の経費が削減できる。


 豚尿のメタン発酵処理および農業集落排水汚泥の堆肥化を従来の地域バイオマスフローに導入することで、牧草などサトウキビ以外の作物への消化液利用も進みやすくなり、養豚農家と耕種農家の連携を軸とした地域資源利用が促進される(図8)。この結果、養豚農家・耕種農家・行政の負担低減が可能になる。

 

5.牛ふん堆肥の局所施用と消化液を利用したサトウキビ減化学肥料栽培

 

 石垣市の生産者圃場(42×45メートル、国頭マージ)において、し尿と生ごみ、泡盛かすのメタン発酵消化液と牛ふん堆肥の局所施用によるサトウキビ(農林25号)の夏植え栽培試験を実施した。試験区(7×45メートル)は(1)化学肥料区、(2)消化液区、(3)消化液+牛ふん堆肥区−とし、それぞれ2反復とした。基肥を施用した後に、全茎式ケーンプランターでサトウキビの植え付けを行った。消化液の肥料成分値は窒素(T-N=0.28%、リン酸(P2O5=0.06%、カリ(K2O=0.01%であった。また、消化液の肥効率は窒素0.65T-N)、リン酸0.8、カリ0.9と仮定し、肥料設計を行った。


試験区:

(1)化学肥料区:基肥と追肥3回を化学肥料

(2)消化液区:基肥と追肥1回目は消化液、追肥2、3回目は化学肥料(基肥は植え付け時と1カ月後の2回に分けて施肥)

(3)消化液+堆肥区:消化液区と同様であるが、追肥1回目に土作りのために10アール当たり牛ふん堆肥(乾物重量当たりT-N=2.0%P2O5=2.8%K2O=4.3%)を1.5トン、株元に局所施用


 基肥と追肥1回目を消化液で代替した場合の化学肥料削減率は、窒素(N)基準で施肥したことから
N50%P2O557%K2O:5%となる。化学肥料区では合計10アール当たり157キログラムの化学肥料が必要であるが、消化液を利用した区では同87.1キログラムと44%削減となった。化成肥料(877)が20キログラム当たり1441円、リン(P35)が同2882円、塩化カリ(K60)が同1831円、牛ふん堆肥が1トン当たり1万円、消化液(散布料込み)が同300円とした場合、(2)の消化液区では化学肥料区に対して10アール当たり2861円の肥料代削減となるが、(3)の消化液+堆肥区では同1万2139円の増加となる。サトウキビ価格を1トン当たり2万5000円とすると、10アール当たりの収量が0.486トン増加すれば、堆肥施肥代を補うことができる(表2)。

 

 植え付けから524日後に収量調査を行った(図9)。10アール当たり原料茎収量は化学肥料区14.5トンに比較して、消化液区12.9トン (対化学肥料比11%減)、消化液+堆肥区16.6トン(対化学肥料比14%増)となったが、処理区間に有意差は認められなかった。消化液の窒素肥効率を0.65T-N)と仮定したが、収量から算出すると0.50と見積もられた。また、消化液+堆肥区の同収量は、消化液区に比較して3.7トン増(10アール当たり約9万3000円増)、化学肥料区に対して2.1トン増(同約5万2000円増)となり、堆肥の局所施用(10アール当たり1.5トン)によって大幅に収量が増加し、堆肥施肥経費10アール当たり1万5000円を補う以上の増収効果が見られた。また、甘しゃ糖度に関して各処理区間に有意差は見られなかった。

 

6.今後の課題

 

 メタン発酵処理の普及促進には、効率的な消化液の施肥が課題の一つとなっている。クローラー散布車による消化液の散布は効率的な散布方法の一つであるが、散布車の価格や散布の均一性などに問題があり、機械の低価格化や均一施肥技術の開発が必要である。サトウキビの減化学肥料栽培では、消化液の追肥利用が可能なことが解明されたが、消化液の基肥利用に関しては化学肥料や堆肥との併用が今のところ必要である。南西諸島特有の土壌・気象条件におけるメタン発酵消化液の肥効率などを明らかにし、基肥利用を可能とするための試験を現在実施している。

謝辞

 本研究成果の一部は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「南西諸島における家畜糞尿を核とした地域バイオマス利活用モデル構築(課題番号24013)(20122014年度)」の研究費補助を受けて実施した。ここに深謝の意を表する。

〔引用文献〕
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(2015)「地域バイオマス利活用マニュアルVer.1」〈http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/Biomass_man_kincho_KARC2015.pdf〉(2019/7/4アクセス)
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