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スローカロリーの効果を高めるイソマルツロースの活用

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最終更新日:2019年10月10日

スローカロリーの効果を高めるイソマルツロースの活用

2019年10月

一般社団法人 スローカロリー研究会 理事長 宮崎 滋

1.スローカロリーとは

 スローカロリーとは栄養素、特に糖質の取り方や、「量」より「質」に着目し、糖質を緩徐かんじょ(スロー)に消化・吸収することで、糖代謝を含む代謝を調整し健康を目指すものである(図1)。 

 スローカロリーという新しい概念を普及させるため、2015年にスローカロリー研究会が設立された。本稿ではスローカロリーの概念と考え方、活用できる領域と効果、またスローカロリーがどのように理解され、活用されているか、どの程度認識されているかなどについて述べる。

 これまでの栄養学は、不足している栄養素、例えばタンパク質やビタミン、ミネラルなどをいかにして補うか、あるいは、過剰な栄養素、例えば脂質やエネルギー(カロリー)などをいかにして制限するかなど、主として「量」をどのように調整するかを問題としていた。「量」の制限は糖尿病や脂質異常症、肥満症などの疾患の治療だけでなく、健常者に生活習慣病を発症させないためにも利用されている。さらに、糖尿病や脂質異常症の治療には、極端な糖質制限(低糖質ダイエット)や脂質制限も行われているのが現状である。

 一方、スローカロリーは栄養素、特に糖質の消化・吸収を緩徐にして食後血糖値の上昇を抑え、食後高血糖の健康への害を取り除く方法であり、「量」より「質」を重視する考え方である。方法としては、ゆっくり食べる、よくんで食べる▽野菜をまず食べ、糖質は後で食べる▽食物繊維の多い食品を食べる▽消化・吸収の遅い糖質を食べる−などさまざまな方法がある。

 スローカロリー研究会では上記の方法を選択し、組み合わせることで健康増進・維持に役立つ情報を、管理栄養士や保健師、看護師などの医療職種を介し一般生活者に提供し、スローカロリーの普及に努めてきた。
 

2.スローカロリーの活用領域とその効果

 スローカロリーの応用、活用は多方面で期待されており、以下にその例を挙げる。

(1)糖尿病、肥満症

 まず食後高血糖を抑制することから、糖尿病(インスリンの作用不足により高血糖が慢性的に続く病気)やその前段階である境界型に対し用いられる。食事の取り方、食品の選択はもちろんのこと、砂糖(しょ糖)をイソマルツロース(パラチノース®。砂糖を酵素処理してできる天然の糖。以下「パラチノース」という)に置き換えることで食後高血糖を予防するなどの食事指導にスローカロリーの考え方が活用できる。

 一方、食後高血糖はインスリン分泌を促進し、高インスリン血症を生じるため、ブドウ糖が細胞内に取り込まれやすくなるので肥満になりやすくなる。肥満は糖尿病の他にも脂質異常症、高血圧、脂肪肝などの生活習慣病の原因となる。また、急激な血糖の上昇は血管壁に強いストレスを与え、動脈硬化を促進させるので、心筋梗塞、脳梗塞を起こしやすい。しょ糖は小腸上部で消化・吸収されるのに対し、しょ糖の異性体であるパラチノースは消化酵素で消化され難く、小腸下部まで達し同部で吸収されるので、インクレチン(GLP-1)(食事を取ると小腸などから分泌され、膵臓すいぞうを刺激してインスリンの分泌を促すホルモン)の分泌を徐々に促し、血中インスリン濃度を緩徐に高め、血糖を適度に維持する。パラチノースの摂食は糖尿病、肥満症に対して有効性が認められている。

(2)スポーツへの活用

 パラチノースが緩徐に消化・吸収される特性はスポーツにも活用されている。運動により糖質の供給が減少するとパフォーマンスが低下し、それが長時間に及ぶと糖新生(脂質やアミノ酸などの糖質以外の物質から糖〈グリコーゲン〉を作ること)が生じるため筋肉が失われる。その予防には運動前に、筋肉や肝臓にグリコーゲンを補充することが必要で、そのためには血糖を急激に上げるより緩徐に上げて補充させることが有効である。また、活動時間が長い時には運動中に効率よく補食し、血糖を維持しなければならない。この二つの機能を備えているのがスローカロリーの概念であり、糖質としてはパラチノースが活用できる。マラソンなど長時間継続する運動では、パラチノースは緩徐に吸収されるため適度な血糖濃度が維持されやすく運動能力も維持されるので、大変有効である。

 パラスポーツにおいても、特に頸椎けいつい損傷者は血糖変動が大きく、低血糖、高血糖を容易に生じ、運動の継続に支障を生ずることがあるが、パラチノースの摂食によりその予防が可能との報告がある。

(3)摂食障害

 精神的な理由で食事の取り方が異常になる疾患で、神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害の3病型がある。中でも神経性やせ症は死亡率が高く、死因の7割は餓死、低血糖である。その予防は補食と血糖測定であり、血糖維持のためにはスローカロリーの特性を持つパラチノースの利用が勧められている。やせ志向の女性は、炭水化物、糖質を避け、野菜類などの線維の多い食品を選び、食事量を減らすことが多い。摂食障害に対する栄養指導においても、糖質の量より質を重視した指導を行うと受け入れられやすく、食材としてパラチノースの利用が勧められる。

(4)高齢者

 高齢者は、脂肪は健康に良くないという考えから、脂肪を減らし糖質、野菜を主にした食事を取りがちであることに加え、内臓脂肪が加齢とともに増加し、食後高血糖が生じやすい。パラチノースの摂取で食後の血糖の急上昇が抑えられると、内臓脂肪が減り、血圧が低下したという報告がある。高齢者は耐糖能が低下しており、食後高血糖が生じやすいので、予防にスローカロリーの活用が有益である。

(5)お菓子に利用

 お菓子(スイーツ)には砂糖が用いられており、間食としてお菓子を食べるのは、精神面やエネルギー補足などで効果があるが、砂糖が主であるがために食べ過ぎると血糖の急上昇を招き、糖尿病や肥満の原因であるかのように見なされてきた。お菓子の砂糖をパラチノースに置き換え、甘くてかつ体に優しいお菓子を作る試みがさまざまな所で行われている。また、マラソン前に食べると適度な血糖濃度が維持される効果があるパラチノース入りようかんも発売され、マラソン愛好者の必需品になっていると聞く。今後もさらに多くの分野・領域で上手に活用されることが期待されている。

3.スローカロリーの認知状況

 2019年2月の第5回スローカロリー研究会開催に当たり、スローカロリーについて認識度、理解度などを調査したのでその結果を紹介する。調査は2019年1月にウェブにてアンケート調査を行い、98人から回答を得た。職種別に見ると(重複選択あり)、保健師36人(36.7%)、管理栄養士・栄養士34人(34.7%)、看護師24人(24.5%)、健康運動指導士6人(6.1%)などであった。参加者の年代は50歳代が最も多く38人(38.8%)であり、次いで40歳代25人(25.5%)、30歳代17人(17.3%)などであった。勤務先を見ると、企業・産業保健が37人(37.8%)、健診施設・人間ドック12人(12.2%)、次いで教育機関および診療所が各11人(11.2%)であり予防医療関係者の参加が多く見られた。

 次にスローカロリーという言葉の認知度は、「よく知っている」が75人(76.5%)、「全く知らない」が23人(23.5%)であった(図2)。認知度が高いのは当研究会に参加を希望されている人たちを調査したものであるので、当然と言えば当然である。スローカロリーという言葉を知っている人に対し、スローカロリーを理解しているかを問うと、そのうち理解していると回答した人は59人(78.7%)であった。アンケートに回答した全体から見るとほぼ6割の人がスローカロリーを理解していると回答している。さらに実践の経験があるかの問いに対しては「実践している」と答えた人が43人(57.3%)であり、6割の人がスローカロリーについての指導を行っていることが分かった。ではどのような人に指導しているかを尋ねると、最も多かったのが「肥満の方」で30人(30.6%)、次いで「血糖が高めの方」25人(25.5%)、「血圧が高めの方」11人(11.2%)であり、肥満や高血糖の方を対象に行っていると考えられる(図3)。回答者の多くは、スローカロリーは体重や血糖のコントロールに有効であると考えているわけで、妥当な結果であると思われる。では実践できない理由は何かというと、「理解が不十分である」とか、「指導方法が分からない」、「指導のためのツールがない」などが挙げられている。
 
 次に、炭水化物と糖質の違いについて理解しているかという質問には、56人(57.1%)が「理解している」と回答したが、41人(41.8%)は「何となく理解している」と回答しており、十分に理解されていない様子がうかがえる。また、カロリーコントロールと糖質コントロールの違いを理解して説明しているかという質問では、「理解して説明している」との回答が41人(41.8%)、「何となく理解して説明している」が48人(49.0%)、「全く分からない」が9人(9.2%)と、十分理解しておらず説明ができない人が58.2%と半数以上であった。ただし、何となく、および全く理解していないと答えた人の全員が、興味があり情報として知りたいと答えており、スローカロリーの実際を知り、指導対象者や一般生活者に伝えたいという意欲が感じられる。また、スローカロリー作用を持つ代表的糖質であるパラチノースを「知っている」と回答した人が50人(51.0%)、「聞いたことがある」が38人(38.8%)、「全く知らない」が10人(10.2%)であった(図4)。消化・吸収が遅く摂取後の血糖上昇が緩徐なパラチノースを活用した指導に興味がないのは1人のみであり、「大変興味がある」と回答した人が35人(35.8%)、「情報として知りたい」が62人(63.3%)と、ほぼ全員が興味を示していることが分かった。
 

4.スローカロリーの効果を高めるパラチノースの有用性

 今回紹介したパラチノースは、しょ糖に比べ消化酵素で消化され難く、小腸での吸収が遅く血糖の上昇が緩やかというまさにスローカロリーの効果を高めるのにふさわしい糖質である。食事の食べ方、食べる順序、線維や脂質が多い食事と組み合わせることで、安定した血糖値が維持されることから、糖尿病や肥満症の治療に用いるだけではなく、生活習慣病の予防にも十分効果がある。

 本稿に示したように、スポーツ時の活用、摂食障害、高齢者などに対しても緩徐に血糖を上昇させ、適度に血糖を維持するので有用性が高い。今後、その他の分野、領域においても活用されることが期待されている。
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