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3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年11月時点予測)

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最終更新日:2019年12月10日

3. 世界の砂糖需給に影響を与える諸国の動向(2019年11月時点予測)

2019年12月

 本稿中の為替レートは2019年10月末日TTS相場の値であり、1ドル=110円(109.88円)、1元=15.76円である。

ブラジル

2019/20年度、輸出量はわずかに減少する見込み  
 LMC International(農産物の需給などを調査する英国の民間調査会社)の2019年11月時点の予測によると(以下、特段の断りがない限り同予測に基づく記述)、2019/20砂糖年度(4月〜翌3月)のサトウキビ収穫面積は、砂糖の国際価格の低迷により他作物へ転作する動きが見られるため、851万ヘクタール(前年度比1.6%減)とわずかに減少するものの、生育期間を通じて天候がおおむね良好で、順調に生育していることから、サトウキビ生産量は6億3110万トン(同1.7%増)とわずかに増加すると見込まれる(表2)。

 砂糖生産量は、長期化する砂糖の国際価格低迷などの影響を受けて、多くの製糖業者でエタノール生産を強化する動きが目立つことから、3109万トン(粗糖換算〈以下、特段の断りがない限り砂糖に係る数量は粗糖換算〉、同0.4%減)と横ばい、輸出量は2046万トン(同2.4%減)とわずかに減少すると見込まれる。

ブラジル大統領、サトウキビの作付け制限を緩和
 ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は11月5日、サトウキビの作付け区域を制限することでアマゾン川流域の環境保全に一定の役割を果たしてきた「サトウキビの農業生態学的ゾーニング制度」(注)を取り消すと表明した。

 2009年に行政命令によってスタートした同制度は、全土に広がるさまざまな土壌の性質、立地などの情報を基にサトウキビの作付けに適した土地であるかどうかを地域ごとに判定し、その情報を広く提供することによって適地適作を促すことを主な目的としている。この制度で適地とされた土地以外でサトウキビを栽培した場合、製糖工場の建設に関わる許認可や政策的な支援・優遇措置が受けられないとされる。しかし、サトウキビの作付けが許された土地のほとんどがサトウキビしか育たないようなやせた土地で占められているため、この制度は以前からサトウキビの単収向上を阻害する要因の一つとして指摘されてきた。このため、製糖業者やサトウキビ生産者などからは、作付け要件の見直しを求める声が上がっていた。

 今回の決定によってアマゾン川流域での森林伐採が加速するとの懸念が出ているが、政府は「森林伐採による農地転用を禁止する法律や、持続可能な生産を促進するための政策は措置済み」と強調した。また、同国のテレザ・クリスチーナ農務相は「制度の取り消しの目的は、サトウキビ生産に係る複雑な行政手続きを簡素化すること」と説明し、国民に理解を求めた。

(注)ブラジルでは、世界的なエネルギー資源の需給逼迫への懸念を背景に、2000年代からバイオエタノール産業が発展した反面、原料となるサトウキビの作付けを拡大する手段として森林伐採により農地を開墾する事例も見られた。このため、この制度は環境と調和のとれたサトウキビ生産を実現することを基本理念として掲げている。

表2 ブラジルの砂糖需給の推移

(参考)ブラジルの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

インド

2019/20年度、輸出量は大幅に減少する見込み
 多くの製糖業者が経営難に陥り、生産者への原料代(サトウキビ代金)の支払いが滞っていることから、生産者の生産意欲の減退を招いているほか、西部地域の各地で発生した洪水により()(じょう)の浸水被害に見舞われたことなども影響して、2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は459万ヘクタール(前年度比9.8%減)、サトウキビ生産量は3億6695万トン(同8.8%減)と、ともにかなりの程度減少すると見込まれる(表3)。

 9月からエタノールの取引価格が引き上げられたことを受け、今後サトウキビをエタノール生産へ仕向ける動きが活発になると予想されるため、前述したサトウキビ生産の落ち込みによる影響も併せて考慮すると、砂糖生産量は2933万トン(同17.8%減)、輸出量は442万トン(同19.7%減)と、ともに大幅に減少すると見込まれる。

インド政府、中国と貿易障壁の縮減に向けた交渉を開始
 インドと中国は10月12日、モノやサービスの貿易、投資に関する障壁の縮減に向けた交渉を開始することに基本合意した。また、11月13日・14日にブラジルで開かれた、ブラジル、ロシア、インド、中国および南アフリカの5カ国(BRICS)の首脳会議でも、インドと中国の両首脳は個別に会談し、今後の交渉について円滑で建設的な協議を行うことを確認した。

 インドは、対中貿易で約530億ドル(5兆8300億円)の貿易赤字を抱えているとされ、以前から中国政府に対し貿易不均衡の是正に向けて市場アクセスの拡大を求めてきた。今回の合意は、インドの呼び掛けに中国がようやく応じた形となった。インドのナレンドラ・モディ首相は、「われわれは、相互にバランスの取れた貿易関係の構築に向け、高いレベルの貿易協定の締結を目指している。実現すれば、砂糖やコメなどの農産物の対中輸出が拡大するだろう」と期待を示した。

 現地報道によると、インド政府が東アジア地域包括的経済連携(RCEP。図3)からの離脱を表明したことを受け、「今後のRCEP交渉の行方次第では、中国との貿易協定を締結しても、中国への砂糖輸出量がインド政府の期待通りに増加するか不透明」との声がインド国内の製糖関係者から上がっている。

図3 アジア・太平洋地域における経済連携の状況

表3 インドの砂糖需給の推移

(参考)インドの砂糖(粗糖・精製糖別)の輸出量および輸出単価の推移

中国

2019/20年度、輸入量はかなり大きく増加する見込み
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のサトウキビの収穫面積は122万ヘクタール(前年度比0.4%増)と横ばいで推移するものの、天候不順などの影響で生育が停滞していることから、サトウキビ生産量は7369万トン(同6.2%減)とかなりの程度減少すると見込まれる(表4)。てん菜については、収穫面積は24万ヘクタール(前年度同)と横ばいで推移するが、主産地である内モンゴル自治区で広範囲の害虫被害が発生した影響から、てん菜生産量は1137万トン(前年度比2.5%減)とわずかに減少すると見込まれる。

 これに伴い、砂糖生産量は1075万トン(同7.6%減)とかなりの程度減少し、その不足分を賄うため、輸入量は545万トン(同12.9%増)とかなり大きく増加すると見込まれる。

広西チワン族自治区政府、砂糖の備蓄在庫を放出
 広西チワン族自治区政府は11月11日、砂糖の備蓄在庫のうち約13万トンを放出すると発表した。同政府は、その理由を「広西チワン族自治区の2019/20年度の砂糖生産量が前年度と比べかなり減少すると見込まれるため、国内産糖の安定供給を確保する必要がある」とした。しかし、同自治区における2019/20年度の砂糖生産量の見通しについて、具体的な数字は明らかにされなかった。

 現地報道によると、夏場の日照不足と長雨の影響でサトウキビの収量、糖度ともに著しく低下する生育障害が多発しており、2019/20年度の砂糖生産量は前年度の630万トンに届かないとみられる。なお、今回の備蓄在庫の放出は入札によって行われる予定で、最低落札価格は直近1カ月の市場価格(卸売価格)とほぼ同水準の1トン当たり5800元(9万1408円)に設定されている。
 

表4 中国の砂糖需給の推移

(参考)中国の砂糖(粗糖・精製糖別)の輸入量および輸入単価の推移

EU

2019/20年度、輸出量は大幅に減少する見込み
 2019/20砂糖年度(10月〜翌9月)のてん菜の収穫面積は161万ヘクタール(前年度比5.7%減)とやや減少すると見込まれている(表5)。てん菜生産量は、深刻な干ばつに見舞われた前年度からの反動で1億1748万トン(同2.8%増)とわずかに増加すると見込まれる。

 前年ほどではないものの平年より高温・乾燥した状況が続いた、EU最大の砂糖生産国フランスにおけるてん菜生産の落ち込みが響き、砂糖生産量は1796万トン(同1.6%減)とわずかに減少し、生産量が消費量を下回ると予想されることから、輸出量は115万トン(同39.8%減)と大幅に減少すると見込まれている。

欧州委員会、ネオニコチニノイド系農薬の一種「チアクロプリド」の農薬登録を失効へ
 欧州委員会は10月22日、ネオニコチノイド系農薬の一種であるチアクロプリドの農薬登録について2020年3月をもって失効させると発表した。同薬剤は、てん菜の黄化症状が多発した際の緊急防除剤としての使用が認められているほか、ばれいしょや小麦、豆類などの穀物の病害虫防除に広く用いられており、EUでは「カリプソ」「ビスカヤ」のブランド名で販売されている。2020年4月から農薬メーカーは同農薬をEU域内で製造・販売することができなくなるが、すでに市場に出回っている在庫品の販売・使用については一定の猶予期間が与えられるとみられる。

 EUでは、2018年末にクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムを主成分とする三つの薬剤について屋外での使用を禁止する規則が施行されるなど、近年、ネオニコチノイド系農薬の使用を規制する動きが見られ、今回の欧州委員会の決定によってその動きがさらに進むことになる。

 一方、こうした規制をめぐっては、規制理由の一つにミツバチに及ぼす影響が挙げられているが、てん菜など開花する前に収穫する作物への使用も一律に規制することを疑問視する声は今も根強くある。

表5 EUの砂糖需給の推移

(参考)EUの主要国別砂糖生産見通しおよび生産割合(2019年9月時点)

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