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沖縄県における貨物船による分みつ糖輸送について

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最終更新日:2019年12月10日

沖縄県における貨物船による分みつ糖輸送について

2019年12月

琉球海運株式会社 池内 陽木

はじめに

 沖縄県はその地図を見れば明らかなように、四方を海で囲まれており、船舶を用いたさまざまな物資の運搬、つまり海運は県民の生活に必要不可欠なものである。琉球海運株式会社は戦後間もない1950年(昭和25年)の創立以来、そのような沖縄県の発展および県民の生活を支えるため「夢とくらしと文化をはこぶ」をモットーに地域社会に根ざした企業として歩んできた。現代の「万国津(ばんこくしん)(りょう)(注)を目指し、定期航路と不定期航路を並立させることで、日本全国のみならず海外にまで及ぶ充実した航路網を有している。近年では荷主さまのさまざまな要望に応じるため、海上輸送にとどまることなく、グループ会社と協力することで、集荷、海上輸送から配送、さらには倉庫保管までのトータル物流サービスを提供し、地域社会の発展に努めている。

 以下では、本稿のテーマである不定期航路による分みつ糖輸送についてその全体像を素描した後、分みつ糖輸送の内情を多様な角度から紹介し、最後にその意義を考えたいと思う。

(注)万国津梁とは「世界の架け橋」を表し、首里城正殿にかけられていた銅鐘に刻み込まれている銘文に由来する言葉である。

1.不定期船航路について

 当社において、沖縄県の基幹産業であるさとうきびから製造される分みつ糖の輸送を担っているのが不定期船航路である。不定期航路部門はその名の通り、決まった航路を運行しているわけではなく、効率的な運行を目指し、荷主や取引先と交渉し、日本全国津々浦々、貨物のある港へ船を配船している。いわば、人が乗車するか否かを問わず決まった運行スケジュールに沿って動いている電車やバスではなく、タクシーであると考えると分かりやすいかもしれない。

 不定期航路は499型(注)の多目的一般貨物船を運行することにより、葉タバコや小麦、肥料、鋼材、大型のプラント、さらにはモノレールや新幹線といった多様な貨物の輸送を担っている。定期航路を運行している大型の船舶(RORO船)ではコンテナやトレーラー、トラック、さらには乗用車など、一度の航海で多様な貨物を積載し輸送するが、不定期航路においては基本的に単一の貨物を、一度に大量(約1500トン積載可能)輸送していることが特徴である。

 そのような不定期船のメイン貨物となるのが、分みつ糖の県外への輸送である。沖縄県の製糖工場は、分みつ糖工場が8社9工場(8島)、含みつ糖工場が4社8工場(8島)操業しており、その貨物形態からばら積み貨物としてしか輸送できない分みつ糖輸送を不定期船が担っているのである(図、写真1)。

 当社では分みつ糖出荷時期である12月から翌年4月までの約5カ月間は、貨物船8隻を充てて輸送を行う(5月から11月までの期間は4隻が基本体制)。

 さらに当社不定期船は友好船社から船員も含めて全隻チャーターしており、自社保有船舶にて運行している定期船部門とは積載貨物内容以外にこの点についても異なっている。そのため、船の特徴(積載能力や速力、さらには船長の資質など)を考慮しつつ担当者は配船業務に当たらなければならないのである。

(注)499総トンの船舶。内航(日本国内の港の間)で最も汎用性の高い標準船型。
 
 
 

2.分みつ糖輸送について

 分みつ糖輸送では沖縄本島はもちろん、宮古、石垣島といった先島諸島、さらには南大東島も含め貨物船へ積み込みを行い、日本各地の精製糖工場へ納めている。揚地港もさまざまで、千葉港、横浜港、(きぬ)(うら)港をはじめ、大阪港や博多港、宮崎県の細島(ほそしま)港などへ輸送を行っている。当社は荷主さまである沖縄の各製糖会社より依頼を受け、貨物船を分みつ糖出荷のタイミングに合わせて滞りなく配船している。一言で出荷に合わせた配船と言っても、その業務にはいくつかの特徴がある。以下では特筆すべき3点を紹介したい。

(1)さとうきび栽培から分みつ糖製糖

 一日で製糖される分みつ糖量だけでなく、製造された分みつ糖を保管できる倉庫容量についても製糖会社によって異なる。製糖時期に突入すると各社は、24時間体制で工場をフル稼働させることになる。近年では、さとうきび収穫作業の省力化を図るため、畑で手刈りを行い収穫するのではなく、国庫補助事業などを活用して導入したハーベスタを用いての収穫が主流となっている。島や地域ごとにその普及率は異なるものの、県全体では約450台のハーベスタが稼働しており、収穫率は全体の収穫面積の約8割となっている。機械化の導入により、収穫の効率化、人員負担の減少などのメリットも多くあるものの、雨天時や地面がぬかるんでいる時などは収穫することができない。収穫ができた場合でも作業効率の低下やトラッシュの増加など、計画通り工場に搬入することが困難であり、配船に大きな影響を及ぼすことになる。

 不定期航路担当者は、工場の製糖能力を把握し、ある程度の見立てやスケジュールを立てて船を運行させ、船積みに備えるが、思わぬ雨天の継続により、分みつ糖が出来ず、積港での滞船が生じることがある。他方で予報に反して雨の降らない日が続けば、収穫および製糖が可能となり、急きょ船が必要となる(雨天予報が出れば、滞船を避けて効率の良い配船を行うため、揚地港で分みつ糖を荷揚げ後、すぐに沖縄に回航せず、本土内航間で1、2航海することが多い)。さらに当然ながら沖縄本島が雨であっても、先島諸島が雨とは限らず、常に天気予報へ注意を払う必要がある。

 ここでは、揚地港での雨天について深くは言及しないが、分みつ糖は基本的に雨天荷役ができないため、揚地港での荷役不可による滞船も当然生じることとなる。その際、沖縄が晴天で分みつ糖が順調に製糖されていれば、たちまち船不足となってしまう。

(2)海上時化との関係

 製糖は冬場に行われるので、海上の時化とは切っても切れない関係にある。ばら積載する分みつ糖は荷崩れの心配が少なく、かつ1500トンの満船状態での運行が主流となるため、船長にとっては比較的輸送しやすい貨物であるが、冬場の時化には大きな影響を受けざるを得ない。それは大型のRORO船ではない貨物船であるがゆえになおさら時化の負担は大きくなる。

 さらに最も遠方にある石垣島から千葉県の精製糖工場へは通常航海で約4日間かかり、船員はもちろん担当者は気の休まらない日々が続く。たとえ先島諸島や沖縄本島周辺は穏やかな海上状態であれ、千葉までの航海中、宮崎県の都井(とい)(みさき)が時化ていることもあれば、和歌山県の(しおの)(みさき)が時化ていることもある。一度時化に遭遇してしまうと、安全運行を念頭に避難地を検討する一方、その後の予報を見つつ運行継続という選択肢もあり得る。

 また仮に、2隻がほぼ同一の航路をたどっていたとしても、船長により避難場所や航海の過程は異なることになり、(かい)(しょう)とともに船長の心も読み取りながらの業務となる。当然ながら航海先と沖縄の天候は異なる場合もあることから、時化による避難中にも、沖縄が晴天であれば分みつ糖は製造されるため、船が必要となる。そのような状況下において、いかに船を効率的に配船するか。担当者の手腕が問われることとなる。

(3)南大東島での積み込み

 安全運行への取り組みの一環として、南大東島での積み込みを一例として挙げたい。南大東島は沖縄本島から約400キロメートル東方に位置する大東諸島の一島である。周囲を断崖絶壁に囲まれた、いわば「絶海の孤島」とも呼べる島であり、島全体に大きな波が四六時中打ち寄せるため、他の港のように直接貨物船を接岸することができない(写真2)。南大東島での接岸は、沖と岸壁の中間地点に船を係留させることで成立する(岸壁から約200メートル程度沖の海中に係船ブイが位置しており、港湾業者によりブイを海上へ出して係船することとなる)。

 船舶は、荷役中、常に大きなうねりを直接受け左右に揺られる状態が続く。岸壁に近づきすぎると、断崖絶壁に船が当たることになり船体が破損してしまう。しかしながらそれを懸念しすぎるあまり沖に係留しすぎると荷役を行うクレーンが船まで届かず積み込みができない。

 うねりが大きな日であれば、まずもって接岸することができず、一度南大東島に近づいても予報以上にうねりが大きく本島へ引き返すこともしばしばある。

 また、いざ積み込みが開始してもうねりが大きく危険性が増せば、一旦離岸させ、沖待機や再接岸、もしくは再接岸できずに積み込み途中でその日の荷役は終了、翌日に再開ということも起こる。さらに、南大東島は風向きによって3港(北港、西港、島の南に位置する(かめ)(いけ)港)を使い分けて当日の天候に最も適した港で荷役が行われることとなる。

 南大東島のような非常に特殊な港では、船員や不定期航路担当者はもちろん、港湾従事者や見守ってくれている農家の方々など、現地関係者の協力の下、荷役の安全性が確保されている。安全運航への配慮が必要なのは航海中や避難中だけではないことが分かる事例となっている。

 上記のように分みつ糖輸送には、船を運行する上での海象のみならず天候も加味し、各工場の能力をも頭に入れつつ、船員と協力しながら業務に当たらなければならない。また南大東島の他にも、接岸だけでなく荷役スタイルにも特徴のある離島港はいくつかあるので細心の注意を払いながらの配船となる。本稿では紙幅の関係上記述する余裕はないが、積港のみならず県外の揚地港においても注意すべき港がいくつかあることも留意すべき点である。
 

おわりに

 内航海運業界、特に沖縄を拠点とする船会社は、観光業をはじめとする県経済の発展、好調に支えられ順調に推移している。貨物船による分みつ糖輸送についても、天候に左右される部分はあるものの、沖縄県が策定した「さとうきび増産計画」や「沖縄21世紀ビジョン基本計画」に基づいた各種取り組みや農家への支援などのかいもあり平年並みのさとうきび生産量がここ数年は維持され、順調な貨物量を輸送している。しかし沖縄航路に従事する船員の高齢化と後継者不足は、不定期航路における昨今の重要課題であり、内航船各社が今後取り組んでいくべきことの一つとなっている。

 さて、琉球海運ではこれからも不定期船を用いた分みつ糖輸送を行っていく。それは沖縄県に根ざした企業として誕生し、そして沖縄県に支えられてこれまで歩んできた当社の使命であると考えているからである。多くのサトウキビ農家が安心して栽培を続けるためにも、わが社は安全かつ確実に、沖縄本島や離島で製造された分みつ糖を県外の精製糖工場まで届けなければならない。またこのことによって、多くの離島で基幹産業となっている製糖業を守り、関連産業に従事する人々も含めた、島の暮らしや文化を守ることにつながる。ここにわれわれが「夢とくらしと文化」を運ぶ地域に根ざした企業としての社会的使命があり、分みつ糖輸送の意義があるのである。

参考文献

沖縄県農林水産部糖業農産課(2019)「沖縄県における平成30年産さとうきびの生産状況について」『砂糖類・でん粉情報』(2019年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構
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