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タイにおけるサトウキビ栽培機械化の研究最前線と日本の栽培体系の再考

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最終更新日:2019年12月10日

タイにおけるサトウキビ栽培機械化の研究最前線と日本の栽培体系の再考

2019年12月

沖縄県南部農業改良普及センター 新里(しんざと) 良章
琉球大学農学部 (たから)(がわ)  拓生、渡邉 健太
沖縄県農業大学校 小橋川 隆一

【要約】

 2018年3月、タイ東北部コーンケーン県の研究施設を訪問し、日本のサトウキビ栽培機械化の新たな方向を模索した。現地の栽培土壌は沖縄の3種土壌に類似するか、より劣悪であり、独自に開発が進んできた機械化技術は日本の生産現場でも有用であると考えられた。現地視察や文献資料を通して、農地集約化と併せたけん引型作業機やトラッシュ被覆などの技術の日本への導入可能性を検証し、タイと日本双方のサトウキビ産業の持続的発展を目指し、考察を行った。

1.タイのサトウキビ生産環境

(1)気象環境と作型

 今回訪問したコーンケーン県の属する東北部は国内サトウキビ栽培面積の約4割を占める一大生産地である(図1)。主なサトウキビ生産地の気象条件は図2の通りである。12月から翌2月にかけてやや気温が低下するが年中高温で、4月が年間で最も高温となる。降水量については、雨季と乾季が明瞭で、5〜11月ごろが雨季、12〜翌4月ごろが乾季となっている。雨季はしばしばスコールや洪水に見舞われる。気温も低く雨も少ない冬季が過ごしやすい気候であると言えそうだ。タイではこのような温暖な気候の下サトウキビが栽培され、近代的な製糖産業が1930年代より発達した1)。近年コメ栽培からの転作が奨励されたこともあり、栽培面積および生産量が増加し、2018/2019年期現在で世界第4位のサトウキビ生産国にして世界第2位の砂糖輸出国となっている。

 タイの作型は、雨季の影響を強く受け、主に雨季前植え付け栽培(時期的に日本の春植えに相当)、雨季後植え付け栽培(日本の夏植えに相当)、株出し栽培の3種に分類される3)。日本とは対照的に株出し1年目でも収量が低く、白葉病や病害虫被害による欠株の増加により3回以上の多回株出しはほとんど行われない。そのため、多回株出しに向く品種の育成や白葉病防除方法の確立などが主要な生産課題となっている4)



 



 
(2)土壌環境

 タイ東北地方の()(じょう)は、土性分類としては図3aの砂質土と図3bの粘土質の土壌が多く見られる。図3aの砂質土壌はコーンケーン県の平地に多く分布し、山間部に近い圃場は図3bの粘土質の土壌が多く分布するとのことである。今回、視察したミトポンサトウキビ研究所の圃場には、図3aとb双方の土壌が見られた。図3aの土性に関しては、手に取って握った感触、色や土塊は沖縄県に分布するニービ(注1)に近い感触であった。また、図3bについては粘土質で図3cに示す島尻マージ(注1)の感触であった。

(注1)沖縄県内に分布する各土壌の特長は以下の通り。

 ニービ…沖縄本島中南部および一部離島に分布する粒子の細かい砂岩で、畑地土壌になる場合の名称としてニービと呼ばれている。乾燥しやすく保肥性に劣る。

 島尻マージ…沖縄本島中南部や宮古島に分布し、石灰岩に由来する暗褐色土壌である。弱酸性から弱アルカリ性まで分布し、重粘土壌で耕うん性が低いが、保湿力が弱く干ばつの被害を受けやすい。

 国頭マージ…沖縄本島中北部、石垣島や西表島に分布する黄〜赤色土壌である。pHが5.0以下の土壌がかなり分布しており、強酸性の粘性土壌である。


 ジャーガル…クチャと呼ばれる固結粘土の風化土壌がジャーガルと呼ばれている。アルカリ性の重粘土壌で排水不良ではあるが、沖縄県では肥沃な土壌である。
 


 

 タイ東北部で島尻マージやニービなど沖縄県内の土壌に似た圃場で稼働できる作業機は、県内に広く分布する国頭マージ(注1)や島尻マージなどでも利用可能と思われる。ただし、気象に由来する土壌条件はかなり差異がある。視察時は収穫期で乾季であり、訪問先の大規模農家では80〜100ps(馬力)トラクタとディスクプラウ(注2)で耕起作業(図4a)を行っているところで、耕深33センチメートル、耕幅125センチメートルで耕起としては充分な精度を確保していた(図4b)。また、別農場を訪れた時、粘土質土壌の圃場で20psクラスのトラクタとPTO(注3)駆動ロータリによる中耕除草作業(図4c)を見学した。しかし、土壌はかなり固くわずか5センチメートル程度の耕深しか確保できず(図4d)除草の効果はあるが中耕作業としては不十分であり、タイの乾季の圃場の土壌硬度は予想以上であった。なお、沖縄県内の圃場は、干ばつ時期以外は適度な圃場水分があり、降雨のタイミングに合わせて耕起、耕うんなどの各作業を行うので、ロータリの耕うんやけん引型作業機でも適度な耕深が確保できる。

 (注2)曲面を持った直径60センチメートル程度の皿状の円盤により耕起作業を行うプラウで通常2〜3枚の円盤を配置している。

 (注3)Power Take Off:作業するための動力をエンジンから取り出す装置。


 

2.タイにおける作業体系の現状と課題

 タイのサトウキビ栽培の機械化は豪州や日本の技術も参考に独自に発達し、各作業行程で機械化が進展している3)。収穫は、日本とは対照的に手刈り圃場を中心にバーンハーベスト(梢頭部や葉身などをあらかじめ焼却してから収穫する方法)が多く存在するが、近年はグリーンハーベスタ(バーンハーベストを必要としないタイプのハーベスタ)の普及が拡大している。畑作においては、圃場集約の進展に伴って、けん引型の複合作業機が主流となり、ICT機器の実装に合わせて圃場作業と圃場の情報管理が最適化されていくことが予想される。土地利用型のサトウキビ栽培について、ブラジルやタイなど世界的にはけん引型作業機の利用が主流であるが、後述するように、けん引型作業機は安価で高能率という利点を備えており、農家の経営には有益である。沖縄県内のサトウキビ農家にとっても、農地を集積して規模拡大を図るためには、けん引型作業機の導入を積極的に進めていく必要がある。

 日本のサトウキビ生産地におけるけん引型作業機の導入可能性を探るためタイの大規模農家の作業機を視察したほか、コーンケーン大学農業機械学研究室のKhwantri Saengprachatanarug准教授(以下「Khwantri准教授」という)との検討会およびミトポン東北部農業機械センターの視察を行った。

(1)大規模農家の事例

 訪問した大規模農家はキャッサバとサトウキビの相場を勘案しながら植え付けを行っているので、農機具ヤードには双方の作業機が混在していた(写真1)。サトウキビ用作業機としてはパワーハローが唯一PTO駆動型であった。パワーハローとはロータリと同様に耕うん砕土を行うが、耕うん爪が縦型に取り付けられた作業機である。利用としては粘土質土壌の圃場を中心に植え付け部のみを耕うんした後、植え付け作業を行うとのことであった。

 

 

 訪問時は、畝長420メートル、畝幅165センチメートルの圃場では、ハーベスタ(型番:TOFT7000)による収穫作業中であった。ビレットプランタ(ハーベスタで採苗した苗を植え付ける機械)では420メートルを賄う種苗を搭載できないので、200メートル程度の中間地点に10メートル幅の作業道を設けて種苗の積み込みを行い、植え付け作業を行っているとのことであった。収穫作業や肥培管理は畝長420メートルを区切りなく連続して効率的に行っていた。収穫時の立毛状況は、風による倒伏はなく、自重により倒伏する個体が一部見られた。また、無効分げつ茎も少ないように見えた。高培土ができればさらに茎数が増え倒伏もほとんどなくなると思われるが、沖縄県内で見るような高培土までは行われていなかった。しかし、沖縄のように台風による影響がなく収穫時もサトウキビはほぼ直立しておりハーベスタで収穫するのにほとんど支障のない立毛角であった(写真2)。

 

 

 近隣の農機具販売所では、2列植え全茎式プランタが多く陳列されており(写真3)、訪問先の大規模農家の機械ヤードも数台の2列植え全茎式プランタを所有していた。2列植え(40センチメートル間隔)は畝幅160〜180センチメートルの圃場で、早期にサトウキビの葉が圃場を覆い、雑草の繁茂を防ぐ。また、密植栽培では増収になるので経営に有利であるとのことである。

 

 

 沖縄県でも平成10〜15年ごろに2列植えによる密植栽培が研究された。新植では茎数の増加により増収するという結果であった。タイで見る同様な2列植えの植え付け機も試作されたが、株出し以降の収量には差がなかった。タイとの大きな違いは、沖縄県では台風や台風の影響による強風でサトウキビが倒伏するということである。高培土を行う際に、2列植えでは土壌が列間に十分に供給されず、倒伏を軽減することが困難であった5)。また、2列植え圃場では小型ハーベスタ収穫による刈り残しが多く発生するため、ハーベスタそのものの改良が必要となるなど課題が多くあり、普及には至らなかった。台風による倒伏がないタイでは高培土の必要性が低く、平均培土時に行う低い培土であればよい。また、大型ハーベスタではベースカッターの刈り取り間口が広いので、収穫ロスが少なく、新植での増収には密植栽培が適していると思われる。
 ただし、畝幅については問題がある。図5に示すようにハーベスタの(りん)(きょ)(左右の車輪の中心間の距離)は185センチメートル、タイヤ幅が60センチメートルで、伴走車の輪距は185センチメートル、タイヤ幅は65センチメートルであった。畝幅は165センチメートルで、2列植えでは、タイヤ外側と株の距離は20センチメートルしか離れていないので、株出しの生育に踏圧の影響が出ると思われる。

 
(2)コーンケーン大学農業機械学研究室での検討会

 Khwantri 准教授は沖縄での留学経験があり、現在コーンケーン大学工学部で農業機械の研究を精力的に続けており(Bio-Sensing and Field Robotic Laboratory所属)、沖縄県のサトウキビ栽培や農業機械にも詳しい(写真4)。Khwantri准教授の助言としては、沖縄県のような粘土質土壌の圃場では、耕うん後の土塊径を考慮すると、耕うん作業をすべてけん引型にすると不具合を生じる場合もある。通常2〜3回行うPTO駆動型の作業を1回程度行い、残りはけん引型を組み合わせたほうが良いのではないかとのことであった。実際に、Khwantri 准教授が指導する大規模農家はそのような栽培方法を行っており、砂質土壌では植え付け作業の前に、ディスクプラウとディスクハロー(注4)を一回施行することで十分であるが、粘土質土壌ではさらに植溝をパワーハローで耕うんし、土壌を細かくした上で植え付け作業を行っているとのことである。

 (注4)曲面を持った皿状の円盤が一定の間隔で数枚並び、砕土を行う機械。

 

 

(3)ミトポン東北部農業機械センターにおける作業体系改良の試み

 
 ミトポン東北部農業機械センターはハーベスタ27台(ホイールタイプ20台、クローラタイプ7台)、100〜200psのトラクタを57台、そして各種の作業機を111台所有する大規模なコントラクタ(農作業請負業者)である。ミトポン製糖工場周辺の圃場約3500ヘクタールの管理と収穫などを請け負っている。また、ハーベスタ収穫を中心とした効率的な圃場整備やかんがい、機械化栽培法についても調査研究を行っている。ここでは、ミトポンモダンファームと呼ばれる栽培技術の導入に向けた当センターの取り組みについて説明を受けた。

〇ミトポンモダンファームの4本の柱(4 Pillars)

 1990年代の豪州で、サトウキビ単収と生産量の伸び悩みから、その原因を究明するため10年以上にわたる研究が行われた。サトウキビ単作により土壌バランスが崩れ、サトウキビ根系の病原菌の悪影響が生じたことなど、多くの要因に起因する複雑な問題であると結論付けられた。この対策としては四つの手法が提唱された。▽マメ科作物との輪作▽過剰な耕うんを避けサトウキビとマメ科の植え付け部分のみを耕うんする減耕起または耕うんしない不耕起栽培▽ハーベスタなど作業機の通過する畝間の固定▽株出し栽培ではトラッシュ(収穫後の葉などの未利用部分)をそのままに施肥・農薬散布のみ行うトラッシュ被覆−の4点である6)

 これらの技術は、当センターにも導入され、モダンファームの名称でタイ版の技術確立を目指している(図6)。まだ、試験的な導入にとどまっているようであるが、マメ科作物の輪作では、ササゲとクロタラリアなどを栽培している。3点目の畝間の固定については、畝幅を作業機の輪距以上にし、作業機・収穫機の通路を固定する「コントロールドトラフィック」を行うことで、作物への踏圧の影響を最小限とする試みが行われている。畝幅をハーベスタとトラックの輪距185センチメートルに合わせ、185センチメートルの2列植えとしている。前述の図5に照らし合わせると、タイヤの外側と株の距離は40センチメートル確保できるので、株出し栽培での踏圧の影響はより小さくなる。





 

 タイにおける機械収穫後の株出し栽培では、施肥と農薬散布が主な作業である。多くの農家は収穫前後に火入れを行うが、火入れを行わない場合、グリーンハーベスタでの収穫直後は厚いトラッシュ被覆に阻まれて株出し管理作業が困難である。1〜2カ月後、出芽が(そろ)った圃場で株出し作業が可能となり、筋撒(すじまき)機などによる肥料散布が行われ、雑草対策として除草剤が散布される。除草目的でロータリやディスクカルチにより畝間作業を行うこともあるが、畝間の心土破砕や培土などはあまり行われない。訪問した大規模農家のヤードにも、肥料筋撒機が多数保管されており、小型・中型トラクタ用のシンプルなタイ製のブームスプレーヤも見かけられた(写真5)。早期施肥が可能であれば、トラッシュ被覆の技術についてはすぐにでも普及できそうであるが、訪問中よく聞かれた“株出し圃場の不意の火災”は大きな課題である。
 


3.沖縄におけるタイの生産技術の導入可能性

(1)けん引型作業機

 沖縄県のサトウキビ栽培では、植え付け準備、植え付け、中耕除草や高培土そして株出し管理で利用される作業機はPTO駆動型作業機が中心であり、けん引型作業機としては圃場準備のためのプラウやプラソイラ程度である。農地一筆が狭く、小規模農家の多い沖縄では、労働集約的な作業が多く、耕運機やトラクタのロータリを多用するというのが従来からのサトウキビ栽培である。県内にはけん引型作業機は少ないが、タイなど海外のサトウキビ生産地には機種やサイズなど豊富にある。農地の集積・集約を進める沖縄県にとって、今後、導入の可能性を検討していくことは重要である。

ア けん引型作業機の利点

 室内で58kWの供試トラクタを用いて、エンジン回転数と燃料消費量の関係を定置状態で測定した(図7)。燃料消費量は、回転数の増加に伴って増加する。58kWトラクタを用いる作業機のエンジン回転数の目安は、けん引型で約1500rpm、PTO駆動型で2000rpm程度である。けん引型は作業時のエンジン回転数が低く燃料消費が少なくなるので、時間当たりの燃料消費量はPTO駆動型の約70%である。





 

 例えば、代表的な作業機としてPTO駆動型ではロータベータ(回転耕運機、図8a)、けん引型としてはディスクハロー(図8b)があり、いずれも砕土・整地作業用である。


 


 

 タイの農機具販売所で取り扱われているけん引型小型ファロー(管理機、図9b)は、沖縄県内で広く普及する軽トラクタ(図9a:17〜20ps)に適応可能なサイズである。また、県内では既に、石垣島の一部や伊平屋島の石礫(せきれき)が多い圃場向けに、同様の作業機(図9c)が製造販売されている。


 


 

 PTO駆動型培土機(図9a)とけん引型培土機(図9c)の性能調査における作業速度はPTO駆動型が秒速0.42メートル、けん引型が同0.89メートルで、けん引型はPTO駆動型の約2倍の作業速度であった。畝長50メートル、面積25アールを想定した圃場で、作業時間と燃料消費量を試算したのが図10である。けん引型の作業時間は、PTO駆動型の65%、燃料消費量は49%となり、けん引型は高効率である。



 


 また35kW程度の中型トラクタ用の培土機のPTO駆動型培土機としては図11aの2連ロータリ、けん引型培土機としては図11bのディスクカルチやタイで普及している図11cのツースハローがある。


 



 
 ツースハローはタイでは除草機として用いられているが、4本のタインとカッタウェイディスクやモールドボードの取り付けが可能である7)。同様な機種がけん引式で中耕除草や高培土用作業機として県内にも導入されたが、普及に至らなかった。

 価格に関しては国内で製造販売されているけん引型はPTO駆動型の半額程度である。タイで普及している培土機は構造的にさらに低価格と思われる。

 このように、けん引型はPTO駆動型に比べて、作業速度が速く作業能率が高いことに加え、燃料消費量が少なく、さらに構造の面ではけん引のみの作業機なので安価である点から、生産法人やコントラクタにとって、導入すれば経営上有利である。

イ けん引型作業機を中心としたサトウキビ機械化体系の再構築

 日本におけるサトウキビ機械化体系では前述したようにPTO駆動型の作業機を多用する場面が多い。新植ではまず、プラウやパワーショベルでの耕起の後、ロータリ(PTO駆動)による砕土作業がある。人力植え付け作業ではロータリ耕による砕土作業の後リッジャ(培土板)を装着して作溝を兼ねながら2回目のロータリ耕が行われたのち植え付け作業となる。生産法人や規模の大きな農家ではロータリによる砕土作業の後に、ロータリ装着型全茎式植え付け機で植え付け作業が行われる。植え付け後は20ps程度の軽トラクタに装着されたロータリにより平均培土と高培土が行われる。株出し管理では、PTO駆動型の株出し管理機で、株揃え、施肥および除草剤散布が行われる。そして、心土破砕後に、軽トラクタに装着されたロータリにより平均培土と高培土が行われる(図12)。






 前述したように、タイではけん引型作業機が主に利用され、沖縄県と類似する土壌もあり、それらの作業機は栽培上、有効に能力を発揮している。すべての作業をけん引型の作業機で代替する必要はないが、まず、耕起ではプラソイラ、耕うん砕土でディスクハロー、植え付けはビレットプランタかロータリ装着型小型植え付け機、中耕培土はウイダレーキ、そして高培土用にファローが利用できる。沖縄県や鹿児島県のメーカーで製作しているものもあるしタイの作業機を導入することも考えられる。また、株出し管理にはけん引型の株出し管理機を国内メーカーが試作している。現在、サトウキビ栽培の現場では、植え付け、肥培管理そして収穫作業などのかなりの部分を生産法人やコントラクタが担っており、高齢化と後継者不足が深刻さを増す中、彼らの役割は年々大きくなっている。規模拡大や受託面積の拡大にはさらなる省力化と経営費の縮減が不可欠である。けん引型作業機を中心とした機械化体系の再構築(図13)はそれらを可能にし、経営体の収益向上とサトウキビ産業の活性化に大いに貢献していくと考えられる。

 
(2)トラッシュ被覆の可能性

 タイでは、小型の肥料筋撒機が、農機具販売店の店頭に陳列されていた。沖縄にも中型トラクタ用に筋撒き施肥機(センターアプリケータ)が導入された経緯がある(写真6)。株出し栽培でのトラッシュ被覆は畝閧フ中耕、高培土などによる土壌の過剰な攪拌(かくはん)を避ける栽培方法である。沖縄県のごく一部の農家でも行われており、早期の施肥と適宜に除草剤散布を行うことにより収量低下を回避しているが、明確な評価は行われていない。


 


 

 1995年当時沖縄県でも、不耕起栽培や減耕起栽培について調査・研究がなされ、その際トラッシュ被覆も言及されたが、具体的な検討には至らなかった。当時はハーベスタを中心とした機械化体系確立が急務で、沖縄の収穫時期のように圃場の湿度が高い地域で、トラッシュを被覆したままでの発芽の問題や病害の問題について、深く議論する余地がなかった。

 沖縄県における機械収穫後のトラッシュ被覆について、作業上の問題点の一つは、収穫圃場の土壌水分が高いということである。乾季に機械収穫を行うタイとは違い(図14a)、小型ハーベスタによる収穫でも、場合によっては深い(わだち)が形成されることがある。そのままでは、株上がり(萌芽位置から土壌表面までが浅くなる状態)が顕著で、株出し回数の減少が懸念される。ジャーガルなど重粘土壌で過湿状態の時に収穫すると、轍が25センチメートル程度の深さに達する場合もある(図14b)。25センチメートルの高さでは株元を適正に被覆する培土はできないので(図14c)、その場合は株揃え作業が有効と考えられる。





 

 ハーベスタ収穫後は、心土破砕と複合管理機による早期株出し管理(株揃えまたは株上のトラッシュ除去、施肥、除草剤散布)を行い、増収を図ることを基本とする。しかし近年、高齢化や後継者不足の進展で早期の株出し管理が適宜実施できない農家も増えている。また、収穫作業と株出し管理作業の時期が重なっており、生産法人など規模の大きな農家でも株出し管理が適正に行えない圃場が多く発生している。その場合は、とりあえず早期の筋撒施肥と適宜に除草剤散布(例えば2-4D+アージラン)を実施し、実質的にトラッシュ被覆状態にしておくということも検討する時期になっていると思われる。また、人力による収穫を主眼とした栽培方法、特に新植時に20センチメートル程度の高培土を実施するような栽培法を、機械化収穫予定の圃場では低めの培土にするなど工夫が必要である。

おわりに

 日本のサトウキビ生産技術は確かに向上したが、高齢化の進展によって対応が急がれる新たな課題が多くなっている。こうした社会状況の変化に適した栽培体系を模索するべく、現行の作業体系および作業機を逐次再検討していく必要がある。近年の科学技術の進歩がこれを後押しすることに疑いの余地はないが、同時に海外の事例から柔軟に学んでいくことも重要である。サトウキビの生産に係るタイの自然環境や社会整備の状況は日本とは異なる点も多い。しかし、上述のように土壌環境や産業が置かれる状況には類似する点が多いことも事実である。タイの農機具は既に沖縄にもいくつか導入されている。今後はそれら農業機械の適応性や栽培手法の工夫について農家の意見を参考にしながら、沖縄県・鹿児島県の関係機関が協力して検討を進めていく必要があると痛感している次第である。
 
謝辞

コーンケーン大学工学部Khwantri Saengprachatanarug 准教授および研究室の皆さま、タイ国立農業機械センター研究員Thanankorn Jaiphong博士およびThienyaem Titinai氏、ミトポンサトウキビ研究所の皆さまには現地での圃場視察や情報収集に際しお世話になった。また、共著者である寳川は琉球大学後援財団の研究助成による渡航支援を受けた。ここに記して感謝申し上げる。


【参考文献】

 1)山本博史(1998)『タイ糖業史』御茶の水書房

 2)丸吉裕子、谷村千栄子(2015)「変革期にあるタイの砂糖産業」『砂糖類・でん粉情報』(2015年9月号)独立行政法人農畜産業振興機構

 3)赤地徹、前田建二郎、新城健浩(2016)「タイ王国のサトウキビ作機械化と導入が進む中型収穫機」『砂糖類・でん粉情報』(2016年11月号)独立行政法人農畜産業振興機構

 4)安藤象太郎、小堀陽一、寺島義文(2015)「東北タイでのサトウキビの多用途利用に向けて」『砂糖類・でん粉情報』(2015年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構

 5)寳川拓生、上野正実、川満芳信、孫麗亜(2018)「機械化の迫る中国から見るサトウキビ品種と機械化の関係〜品種の機械化適応性とは〜」『砂糖類・でん粉情報』(2018年8月号)独立行政法人農畜産業振興機構

 6)Garside et al.(2005)「Managing yield decline in sugarcane cropping systems」『International Sugar Journal』107(1273):pp16-26.

 7)Usaborisut(2018)「Progress in Mechanization of Sugarcane Farms in Thailand」『SugarTech』20(2):pp116–121.

 8)Sriroth et al. 2016「The Current Status of Sugar Industry and By-products in Thailand」『SugarTech』18(6):pp576-582.
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