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さとうきび生産における作業の受託体制の効率化および株出し栽培における単収確保に向けた取り組みについて

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最終更新日:2020年2月10日

さとうきび生産における作業の受託体制の効率化および株出し栽培における単収確保に向けた取り組みについて

2020年2月号

鹿児島事務所 小笠原 健人

【要約】

 さとうきび栽培において労働力不足が問題となる中、より効率的な作業の受託体制の構築や、収穫面積に占める割合が高まる株出し栽培における単収の確保が課題となっている。

 本稿では、徳之島において、情報通信技術(ICT)を活用することによって効率的な受託体制を構築しようとする取り組みおよび沖永良部島において、多回数に及ぶ株出しを行っているにもかかわらず、地域の平均以上の単収を維持している事例を紹介する。

はじめに

 さとうきび栽培においては、栽培農家戸数の減少と高齢化などを背景として、収穫作業をはじめとした管理作業の受委託が進展し、個々の経営の労働力不足を、ハーベスタなどの大型農業機械を保有する受託組織が補う体制が構築されてきた。

 しかしながら、結果として、収穫時期などの繁忙期にはそれら受託組織に作業が集中することによって、適期の管理作業が難しくなるなどの課題も発生しており、今後も栽培農家戸数の減少と高齢化の進行が見込まれる中で、より効率的な受託体制の構築が必要となっている。

 このような状況の中、徳之島においては、有限会社南西サービス(以下「南西サービス」という)がICTを活用した独自の取り組みにより受託体制の効率化を実現し、地域の農家からの作業委託の受け皿としての役割を果たしてきたが、今後はその取り組みに行政も介入することで、地域一体となって取り組む動きがある。

 そこで、徳之島において、南西サービスが受託体制の効率化を実現した事例とともに、今後の取り組みについて紹介する。

 また、栽培型に目を向けると、鹿児島県における収穫面積に占める株出し栽培面積の割合は、平成10年産では55.1%であったのに対し、30年産では72.0%まで増加している(図1)。さらに、夏植えの面積の減少に伴い、株出し回数1回の収穫面積の割合が減少傾向にある一方で、同2回以上の収穫面積の割合が増加している傾向にある(図2)。

 株出し栽培における株出し回数は、鹿児島県では、春植えで2回、夏植えで1回が目安となっているが、近年は高齢化などにより新植に要する労働力が確保できないために、取りあえず株出しを行うといった消極的な選択としての株出しが増加しており、株出し回数の増加傾向につながっているとの見方もある。

 鹿児島県農業経営管理指導指標では、株出しにおける単収は春植えを上回ることに加え、生産費については、植え付けに必要となる種苗費がかからず、トラクターなどの農業機械の稼働に必要となる動力光熱費や労働費も春植えや夏植えと比較して少ない(表1)。そのため、株出しは省力的で収益性が高い栽培型と言えるが、株出し回数を重ねると、収穫茎数の減少や細茎化などにより、単収が減少する傾向がある。

 前述のような消極的な選択として株出しを行っている()(じょう)では、単収の減少により必ずしも収益性が高いとは言えず、株出しにおいて高い収益性を確保するためには、補植や株出し管理などを適切に実施することで単収の減少を防ぐことが求められる。

 そこで、多回数に及ぶ株出しを行いながらも、地域の平均以上の単収を実現している芋高千鶴子氏の事例を紹介する。

 

 

 

1.ICTの活用による作業受託の効率化に向けた取り組み

(1)地域の概況

 徳之島は、鹿児島県本土から南西約450キロメートルに位置する奄美群島の一つであり、徳之島町、天城町、伊仙町の3町から成る(図3)。総面積は2万4785ヘクタールで、群島中では奄美大島に次いで大きい。耕地面積については6880ヘクタールと群島中で最大である。さとうきび生産を主体に、平成24年に「鹿児島ブランド産地」に指定されたばれいしょ、カボチャなどの野菜生産やマンゴー、肉用牛との複合経営が行われている。さとうきびの作付面積は3777ヘクタールで、全体の約6割を占めている(図4)。

 徳之島は、収穫作業を中心として早くから作業の受委託が浸透してきた地域である。30年産の機械による収穫率は、収穫面積および収穫量いずれも97.9%と、県内では最も高い水準となっている。

 

 

(2)南西サービスについて

 南西サービスは、平成19年に製糖会社である南西糖業株式会社の子会社から農業関連の事業を引き継ぎ、自営農場でのさとうきびの栽培に加え、管理作業の受託、肥料、飼料および農薬の販売などを行っている。同社は現在、自社生産の強化を柱とした安定経営を目指して、自営農場の面積の拡大および平均単収の向上を図っている。具体的には、さとうきび栽培の開始当初、18ヘクタールあった収穫面積を、最終的に40ヘクタールまで拡大することを目標としている。令和元年産については、35ヘクタールの目標に対し、実績は38ヘクタールと目標を上回っており、令和2年産には40ヘクタールの目標面積を達成できる見込みである。単収については、現在、島内の平均単収をやや上回っているものの、今後さらに向上させ、島内平均と比較して5%以上の高単収を目指しているところである。

 また、農業機械についてはハーベスタ7台、トラクター15台などを所有しており、収穫作業や管理作業の受託も行っている。ここ3年間の受託実績では、約200戸の農家から延べ面積で約800〜1000ヘクタールを受託している(表2)。近年、受託面積は増加傾向にあるものの、自営農場を管理しながら受託作業を適期に実施することは難しいことから、受託した作業を地域の協力農家に再委託する取り組みも行っている。現在、32戸の農家が協力農家として登録されており、平成30年産では延べ約430ヘクタールの作業を再委託している。

 なお、南西サービスは大規模経営でありながらも自営農場の単収が徳之島の平均を上回っていることに加えて、地域の農家からの作業委託の受け皿としての取り組みも行っていることなどが評価され、令和元年度さとうきび生産改善共励会の団体の部において優秀賞にあたる独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞している。

 

 

(3)南西サービスの受託体制効率化に向けた取り組み

 徳之島においては従来、南西糖業株式会社が区域ごとに、さとうきびの植え付け面積や生育状況などを調査する担当員を配置していた。担当員はどこに、誰の、どのような圃場があるのかを熟知していることから、南西サービスが農家から作業を受託した際は、担当員の協力を得ながら作業する圃場の場所を特定していた。

 しかしながら、平成27年に担当員が配置されなくなり、作業受託した圃場の正確な位置を把握することが困難となったため、作業を受託した際には委託者とともに作業責任者が圃場の現場を確認していた。しかし、現場までの移動は時間的、コスト的に多大な負担となっていたことから、より効率的な仕組みが必要となった。検討の結果、半年間の試験運用を経て、28年からクボタスマートアグリシステム(以下「KSAS」という)を本格的に導入した。KSASは、システムに入力した圃場の位置情報をインターネットの地図と連携させることで、圃場の位置をインターネットの地図上に表示することが可能で、登録したスマートフォンに専用のアプリをダウンロードすると、外出先でも確認できる(写真2)。

 これまでは南西サービスの作業責任者が現場の事前確認と、オペレーターの誘導に最低でも2回は圃場に足を運ばなければならなかったが、KSAS導入後は作業実施前の現場確認が不要となり、大幅な時間短縮につながっている。なお、事前の現場確認を省略したことにより、誤って別の圃場を作業してしまう可能性を生じるが、その防止策として、インターネットの地図で圃場付近の詳細な地形などを画像で確認しつつ、作業の申込み者自ら、作業を委託した圃場であることを知らせる棒を立てるなどアナログな方法も併用することとしている(写真3)。

 また、受託した作業の進捗状況の確認についても地図上に色分けして表示するようにしており、これまでの紙の台帳での管理と比較して、視覚的にも分かりやすく作業進捗を共有できるようになった(写真4)。

 さらに、その日の作業計画は作業指示者からアプリを介してオペレーターに送信することができるようになったことに加え、作業記録についても、スマートフォンの画面上で作業の開始時と終了時にボタンを押す操作一つで作成できるようになったため、作業計画や進捗状況の共有に要する時間や、作業記録の取りまとめに要する時間が短縮され、省力化につながっている。

 このほかに、KSASの導入と併せて、料金体系やその支払い方法も変更している。導入前は、受託料金は作業時間により決定していたため、料金は後払いであったが、これには未収金が発生するリスクがあったほか、請求書作成などの作業的負担も発生していた。そこで、KSAS導入後は、圃場の面積を計算できる機能を活用し、料金を作業面積当たりの単価で計算することとしたほか、申込み受付時に作業料金を前払い制としたことで未収金が発生するリスクの解消や支払いに係る事務負担が低減された。

 KSAS導入前後の作業申込みから実施までの流れを以下に示す(表3)。

 前述の協力農家への作業の再委託においては、作業料金は南西サービスを介して支払われるため、再委託を受けた協力農家は、自らが直接作業を受託した場合と比較して、料金の徴収に要する手間がかからないといったメリットがある。

 

 

 

(4)今後の展望〜さとうきび受委託調整センターの設立について〜

 これまで述べてきた、作業の受託や協力農家への再委託の取り組みは、南西サービスが独自に実施してきたものであるが、今後は、徳之島3町の行政、JA、南西糖業株式会社から構成される徳之島さとうきび生産対策本部が「さとうきび受委託調整センター」を立ち上げ、これまで同社が行ってきた業務を徳之島一体となって実施する予定である。同センターは運営上のルールの策定、苦情対応などを担い、作業申込みの受け付けやオペレーターへの作業指示などの業務は、南西サービスが委託を受けて実施することで、南西サービスがこれまで構築してきたノウハウを活用していく予定である。

 この取り組みには、さとうきび栽培とは繁忙期が重なっておらず、収穫時期などには作業余力を有している他の作目を生産する農家が、協力農家としてさとうきびの作業受託に参入しやすくなるようにするという狙いもある。同センターは、令和2年7月から作業の受託を本格的に開始する予定であり、この取り組みによって地域全体の受託体制が充実し、適期の管理作業ができるようになることが期待されている。

2.沖永良部島における株出し栽培の高単収事例(芋高千鶴子氏)

(1)地域の概況

 沖永良部島は、徳之島の南西に位置し、鹿児島県本土からは南方約552キロメートルの地点にある奄美群島の一つであり、和泊町、知名町の2町から成る(図5)。総面積は9365ヘクタールで、群島中では奄美大島、徳之島に次ぐ3番目の大きさである。また、平坦地が多いことから農耕地に恵まれており、耕地面積は4470ヘクタールと、群島中では徳之島に次いで2番目の規模である。きく、ゆり、ソリダゴなどの花き生産を主体に、ばれいしょ、サトイモなどの野菜生産またはさとうきび生産もしくは畜産との複合経営が確立されている。さとうきびの作付面積は1970ヘクタールであり、全体の約5割を占めている(図6)。

 株出し栽培の収穫面積の推移を見ると、平成10年産では32.0%であったのが、30年産では70.7%まで上昇している。なお、20年産前後までの間、株出し栽培の収穫面積の割合が県全体の平均と比較して著しく低い時期が続いているが、これは、3年産ごろからハリガネムシ類による害虫被害が問題となったことから、食害による不萌芽の被害が発生しやすい株出し栽培が敬遠されていたことによるものである(図7)。沖永良部島においては、ハリガネムシ類の殺虫剤として、19年ごろから普及が進められたプリンスベイト剤が高い防除効果を示したことで被害が終息し、その後の株出し面積の拡大に寄与している。

 

 

 

(2)経営概況

 芋高千鶴子氏は、沖永良部島の和泊町の生産者である。平成30年産の収穫面積は169アールであり、品種別では農林8号が合計125アール、農林22号が合計44アールである(表4)。

 圃場は全て、植え付け以来新植をせずに株出しを続けており、30年産の時点では、最も株出し回数が多い圃場で9回目の収穫を迎えた(写真5)。植え付ける品種は、一般的に、株出しでの萌芽性に劣るほか、株上がり(萌芽位置から土壌表面までが浅くなること)しやすいといわれている農林8号を主体としているが、30年産における単収は5974キログラムであり、同地域の平均である5211キログラムを上回っている(写真6)。

 同氏の年間スケジュールは以下の通り(表5)。

 

 

 

 

 

(3)株出し栽培の単収向上に向けた栽培管理

 株出し栽培においては、複数年にわたって圃場に地下茎が存在し続けることから、圃場の全面を耕うんすることができず、雑草が繁茂しやすいというデメリットがある。そのため、同氏は中耕培土を行った後は、背負い式散布機により月1回の頻度で除草剤を散布しており、雑草の防除を徹底している。

 また、収穫後は1週間以内を目安として根切り、株揃え、施肥を行っている。気温が18度を下回ることがある1〜2月中は、低温により芽が枯死する可能性があることから、3月に入ってから実施している。同氏は、株出し栽培において単収を確保する上で、欠株を出さないことが最重要と考えていることから、株揃え後はある程度芽が伸長してきたところで欠株の生じた箇所を確認し、補植を行っている。補植の際には、ナタ式の株割り機(写真8)を使用して、補植用の溝を掘る作業を効率的に実施している。溝の深さは株揃えの位置から15センチメートルの深さになるようにしており(写真9)、補植用の苗としては、一芽苗と比較して乾燥に強いとの考えから二芽苗を使用している。また、溝の底に接地していない苗は活着せずに枯死する可能性が高くなることに加え、萌芽したとしても、萌芽位置が不揃いとなり、収穫時の引き抜きが起こりやすいことから、投入した苗が溝の底に接地するように注意している。補植の際の苗の投入量は、10アール当たり600本前後となり、1人で作業を行った場合、30アール前後の圃場で半日程度の時間を要している。

 補植作業の際は、自走式クローラー(写真10)に補植用の苗を入れて使用することで、苗を運びながら移動する作業の負担を軽減するための工夫をしている。

 この他、地力を維持するため、3年に1回は堆肥を投入している。堆肥の散布は沖永良部農業開発組合に依頼しており、10アール当たり3トンを散布している。

(4)今後の展望

 同氏は、収益性を確保するためには、他の栽培型と比べて低コスト生産が可能な株出し栽培で一定以上の単収を確保することが最も重要と考えている。そのため、前述してきた通り、栽培管理と補植を徹底した結果、株出し回数を重ねても収量が減少しているとは感じておらず、実際に地域の平均以上の単収を実現している。栽培管理と補植を徹底することに伴い、必然的に労働負担は大きくなるものの、新植と比較すると明らかにトラクターなどの稼働時間は短く、低コスト生産ができていると実感している。また、管理作業の中でも比較的負担が大きな作業については、機械を上手く活用することで省力化を図っていることから、同氏が行う株出し栽培は、多回数の株出し回数にもかかわらず新植並みの単収を確保しながらも省力的であり、高い収益性を実現しているものと思われる。

 さらに、現在、毎月1回の頻度で実施している除草作業については、背負い式散布機での作業に大きな負担を感じていることから、令和2年産からは自走式の散布機を導入する予定である。そのため、今後、高い単収を維持しながら、さらなる省力化が期待できる。

おわりに

 さとうきびの栽培農家戸数の減少や高齢化の進行によって労働力不足が続くことが見込まれる中、限られた担い手で生産量を増産していくためには、より効率的な受託体制の構築や、省力的な株出し栽培における収量の維持が必要となる。

 このような状況の中、徳之島においては、南西サービスがICTを活用しながら構築してきた受託体制を行政主導へと体制を強化することで、島内一体の取り組みとして実施しようとしているところであり、今後の動向に期待したい。

 また、沖永良部島の芋高氏については、消極的な選択として株出しを行うのではなく、積極的に株出しを選択した上で、多回数の株出しにもかかわらず、新植並みの単収を実現している。さとうきび栽培においては新植の有無により、毎年の労働負担が変動するが、同氏の栽培方法で労働負担が一定となる効果も期待できるため、新植を行う余裕のない生産者にとって一つの解決策となり得るかもしれない。株出し栽培の収穫面積は今後も高い割合で推移するものと思われるが、今後、消極的ではなく積極的な選択としての株出し栽培が増加し、さとうきびの増産に寄与することに期待したい。

 最後に、本稿の執筆に当たり取材にご協力いただいた有限会社南西サービス、芋高千鶴子さま、南西糖業株式会社、天城町役場農政課、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場など現地関係者の皆さまにこの場を借りて深くお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272