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与論島におけるさとうきび機械化の現状と課題

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最終更新日:2020年6月10日

与論島におけるさとうきび機械化の現状と課題
〜さとうきびを中心にした耕畜連携によるスマート農業化に向けて〜(後編)

2020年6月

元鹿児島大学農学部教授 宮部 芳照

【要約】

 前月号(2020年5月号)では、与論島の農業生産全体とともに、各農業分野における各種作業の機械化の現状と課題について報告したが、後編となる本稿では、製糖工場の現状と課題について報告するとともに、さとうきび生産を中心に耕畜連携によるスマート農業化に向けた展望について考察を行う。

4.製糖工場の現状と課題

(1)原料の集荷状況について
 令和元/2年期の操業期間は、令和元年12月中旬ごろから翌2年3月下旬ごろまでを予定している(令和元年11月時点)。1日当たり約380トンの原料圧搾量を計画しているが、実際には雨天時のハーベスタ収穫の遅れなどもあり、計画通りのコンスタントな搬入量が確保されていない。また、収穫の機械化が進み、仮に手刈りによる原料茎が無くなり、ハーベスタ収穫茎のみになった場合は、現状では同220トン程度の搬入量になり、操業率の低下はもちろん刈り置きすることにより歩留まり低下の原因にもなる。

(2)製糖歩留まりなどについて
 分みつ糖歩留まりは、過去5年間平均11.13%であったが、近年は減少傾向にあり、平成30/令和元年期は10.11%であった。また、バガスやフィルターケーキ、糖みつは燃料用や、堆肥用、飼料用添加剤、精製糖会社用に利用されているが、バガスは繊維食材として、フィルターケーキや糖みつは堆肥発酵材料などへの有効利用法も考えてよい。

(3)労働力の確保について
 平成30年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布され、長時間労働に関する制度見直しが行われつつある。時間外労働の見直しは労働者確保に大きな影響を与えるのは必至である。与論島製糖の製糖作業は2交代制を採用しているが、現在でも人手不足は極めて深刻な状況にある。その中で例えば、3交代制への移行となると人員および人件費の増加は避けられず、労働者の確保は非常に厳しいものになる。また、3交代制での賃金体系で必要人員が集まるのか、さらに本島はそもそも島全体の人口が少ないこともあり、人材確保は深刻な状況になる。現在、本工場ではシフト調整などに可能な限り取り組んでいるが、この課題は一企業だけでの対応力を超えるものであり、離島のさとうきび産業の存立にも大きく関わる問題である。関係機関の理解と支援が是非必要である。

 また、既に全国の一部の地域では農繁期が競合しない複数の産地が連携して援農者を確保する取り組みがJAを中心に行われている。さらには、農業分野でも外部雇用として、各地を転々としながら働くいわゆるノマドワーカーの一形態である農業アルバイターの存在も注目されてきている(ノマドの語源:放牧などを行いながら居住地を移動する遊牧民)。また、外国人雇用については、31年4月から「出入国管理法」の改正により、農業分野においても働き方の自由度が高まってきたが、本島における外国人材の活用は通年雇用の難しさもあり現在のところ考えられない。

(4)製糖機械・施設について
 工場内のほとんどの機械・施設は、建設から半世紀以上も経過しており、かなり老朽化が進んでいる。今後、耐震補強を含めた更新に向けて計画的設備投資が必要であるが、一民間企業だけでは対応が難しい設備投資もあり、中期的課題として何らかの支援策が必要である。さらに、機械・施設の集中制御化を含む技術革新も是非必要である。

(5)精脱葉装置について
 装置の更新については、補助事業を活用するとしても、本町の財政状況では糖業振興会などによる導入はかなり厳しい状況にある。今後は小型化・低廉化した装置の開発が望まれる。

(6)その他
 深刻な人材不足の中で、従業員の待遇改善、作業環境の改善は急務であり、これが人材確保につながる。原料搬入量の確保、品質劣化の防止、歩留まりの向上、コスト削減など、課題は山積しているが、生産者、企業、行政が連携した解決が望まれる。現状では製糖会社の存続すら危ぶまれる状況である。

 以上、与論島農業の現状と課題について述べてきたが、特にさとうきびの機械化については、ハーベスタ収穫を中心にした機械化体系の確立の他に、与論島の栽培環境に適した小型機械(特に調苗、植え付け、脱葉搬出作業の小型機械類)を組み込んだ機械化体系も現状では必要であり、同時に兼業農家対策も是非必要である。また、圃場(ほじょう)区画面積の拡大につながる基盤整備と中心的経営体への農地集積・集約化、集落営農の組織化、受委託組織の確立および干ばつ対策などは不可欠である。加えて、耕畜連携を推進するための施策と効率的な機械化体系の確立が将来の与論島のさとうきび産業ひいては地域農業の発展につながり、またこれは以下に述べる与論島なりのスマート農業化の方向へと歩を進めることにもつながる。

5.与論島農業のスマート農業化について

 スマート農業とは、ロボット・AI(人工知能)・IoT(モノをインターネットにつなぐこと。通信によってモノの遠隔操作や自律的作業が可能になる。)などの先端技術を活用して、超省力化・精密化や高品質生産などを実現する農業のことである。例えば、ドローンなどの小型無人航空機(UAV)の利用や無人走行ロボットトラクター、自動収穫ロボット、果樹園用自動走行車などに加えて播種(はしゅ)・水管理・運搬などをつかさどるロボット農機の開発が期待されている。これが作業の省力化、軽労化、熟練農業技術の継承につながる。また、近年話題のドローンは、病害虫診断によるピンポイントの農薬散布、作物生育・土壌モニタリングによる最適な施肥量の散布(可変施肥)、粒状種子の(さん)()(バラ播き)作業、鳥害防止などに、安全性を確立した上で利用できるようになってきている。写真22にドローンによる農薬散布を示す。

 

 ここで、与論島における耕畜連携によるスマート農業化実現に向けて、まず部門ごとにその可能性を探った。

(1)耕種部門のスマート農業化について

ア.さとうきび栽培のスマート農業化

 与論島のさとうきび栽培のスマート農業化は、限られた小面積(飼料畑などを含む全耕地面積、約1100ヘクタール)の中で、畜産分野を含む複合的な経営形態を生かす必要がある。栽培面積に限界がある本島においては、大規模なスマート農業化を目指すのではなく、与論島なりのスマート農業(スマートアグリ・アイランド・ヨロン)の実現を目指す必要がある。

 まず、現在の1筆当たりの区画面積が0.1ヘクタール程度の狭隘(きょうあい)な圃場において、スマート農業化が可能であると考えられる分野、技術を挙げる。

(ア)経営管理

 収量データや出荷計画・履歴およびコスト管理データを見える化して収益率の向上と経営コストの低減を図る。

(イ)水管理

 本島の畑地かんがい整備率は約33%(平成30年度)と低いが、ため池やかん水の整備が進んでいる地域では、気象情報に合わせた畑地センサー技術を利用して適正な水管理を行う。遠隔操作や自動制御による給排水制御によってかん水作業の超省力化ができる。

(ウ)除草

 遠隔操作や自動制御による高性能自動草刈り機を利用することにより除草作業の効率化や安全性の向上が可能になる。特に緩斜面作業の安全性が図られる。

(エ)収穫

 パワーアシストスーツによる重量収穫物の運搬、積み込み・積み下ろし作業の軽労化が図られる。特に高齢者、女性による作業の軽労化が可能である。

 ここで、圃場区画面積を含む農地の規模拡大がさらに進んだ場合のスマート農業化について考えてみる。本格的なスマート農業化を進めるためには、農地の規模拡大が不可欠である。比較的大規模化が進んでいる北海道(1戸当たりの経営耕地面積約28.9ヘクタール、都府県平均の約13倍〈平成30年〉)くらいの地域ではスマート農業化による費用対効果は大きい。本島のような小区画圃場と経営規模面積の小さい地域では農地集積・集約化による規模拡大が必須である。北海道における大規模化による農業機械の効率的な運用とコスト低減を図るための一例として、情報通信技術(ICT)農業技術を活用したトランスボーダーファーミングがある(南ドイツの畑作地帯で複数の地権者の圃場をあたかも一つの圃場かのようにして管理する、いわゆる仮想的農地集約型の機械の共同利用〈農地・地権者の境界を越えた機械利用〉のことで、平成12年に運用開始された)。ただし、注意すべき点として、各枕地で区切られた圃場の地力・土質に違いがあることや各地権者間の利害調整などがある。もちろん本島へそのまま取り入れられないが、農地と機械の効率的な運用法の一つとして考慮してみる必要がある。また一方で、農地中間管理機構を介した担い手への農地集積・集約化を是非進める必要がある。

 今後、本島において農地の基盤整備と規模拡大が進んだ状況の下で、スマート農業化が可能と考えられる分野、技術について、上述したものに加えて挙げる。

(オ)耕うん・整地

 全球測位衛星システム(GNSS)ガイダンストラクターを利用することによって経路誘導や自動操舵が可能になる。その場合、トラクターには作業者が乗車し、直進キープで枕地でのPTO(Power Take Off:作業するための動力をエンジンから取り出す装置)のオン・オフや作業機の上・下は作業者が操作することになる。直進・追従アシストシステムによって耕うん、整地、(うね)立て作業が可能になるが、位置補正(±3センチメートル程度、RTK−GPS)が必要になる。また、後付けオプションが可能であり、トラクター作業が楽で未熟な作業者でも精密な作業ができる。現状では自動操舵システムの価格がやや高い(200万〜300万円程度)が、低廉化への努力がなされている。

 また、将来はロボットトラクターの導入も考えられる。作業者が乗車しない無人操舵が可能であり、最初に圃場形状を登録しておくと枕地旋回(PTOのオン・オフや作業機の上・下)も自動操舵可能で、位置誤差も±3センチメートル程度である。また、有人・無人の協調作業(1人当たりの作業量が2倍)や夜間作業も可能になる。厳格な安全性(障害物検知)と費用対効果(価格1200万〜1500万円程度)を高める圃場の規模拡大は必須である。写真23にトラクター協調作業を示す。

 

(カ)栽培管理

 ドローン、無人ヘリコプターに搭載したマルチスペクトルやハイパースペクトルカメラなどを利用して、圃場全体の作物生育状況、土壌状況、病害虫被害状況などを空撮する。得られた情報を見える化して作物生育マップ、土壌マップ(土壌診断)などを作成する。これらの生育情報(葉色画像の診断・解析)や病害虫情報を基にドローンなどによる肥料・農薬の散布作業や施肥マップベースによる可変施肥作業を行うことができる(地力のバラツキ解消)。また、ドローンなどを利用したピンポイント農薬散布によって農薬使用量の削減や降雨直後の散布も可能になるが、水稲以外の登録農薬数が現状では少ない(さとうきび3農薬〈うち除草剤0〉、いも類24農薬〈同0〉、野菜48農薬〈同3〉、果樹18農薬〈同0〉、稲・麦類463農薬:平成31年2月現在)。今後はさとうきび、野菜、果樹など用の農薬登録の拡大が急務である。また、ドリフトの軽減や葉裏面への農薬付着率の向上、ダウンウォッシュの強化、散布ノズルの改良、特にピンポイント散布では、ドローンの姿勢制御や位置精度の向上が今後の技術課題として挙げられる。

(キ)収穫・運搬

 収量センサーを利用(収穫物重量、水分計測)してハーベスタによる収量管理や自動収穫物運搬システムによる運搬作業の省力化を図ることができる。 さらに、さとうきび栽培用や他作業用にも対応可能になるロボット農機として、プラウ、ハロー、サブソイラ、カルチベータ、可変施肥機、播種機、ブロードキャスタ、田植機、プランタ、ディガー類が挙げられる。しかし、ロボットスプレイヤ、ロボットハーベスタ類は今後のシステム開発を待たなければならない。

 以上の通り、ロボット農機による無人・自律作業で大幅な作業精度・作業効率のアップが期待されるが、一方で厳格な安全対策が求められることは言うまでもない。

 イ.野菜、花き、果樹栽培のスマート農業化

 本島の野菜、花き、果樹栽培については現在、ほとんどがスマート農業化されていないが、将来スマート農業化が可能と考えられる分野、技術について挙げる。

 野菜、花き栽培では

(ア)経営、栽培管理システム

 生産プロセスやコスト管理などをデータ化して作業状況を的確に把握して、作業効率を高め、単収アップと計画出荷による経営改善を図ることができる。

(イ)耕うん、整地

 自動走行トラクターを利用して耕うん、整地、畝立て作業の省力化と精度の向上を図ることができる。

(ウ)播種、育種

 全自動播種プラントの利用によって播種作業の省力化が図られる。また、高速・高精度播種機を利用して高速・局所播種を行い、播種精度の向上と作業の省力化を図ることができる。さらに、太陽光、LEDを活用した育苗施設では、温湿度、光照射、CO2濃度、pH、EC値などのセンサー情報によって複合的環境制御を行い、健苗育成と品質向上、単収アップを図ることができる。

(エ)移植

 半自動乗用型移植機を利用して移植作業の省力化と効率化を図ることができる。

(オ)施肥

 可変施肥機を利用して施肥作業の省力化と肥料費の削減、生育・品質のばらつきの均一化を図ることができる。

(カ)生育管理

 ドローンなどを利用して作物生育モニタリングを行い、的確な生育診断に基づく生育管理と適期収穫により、品質向上および単収アップを図ることができる。

(キ)防除

 乗用型管理機による防除作業の省力化と効率化が図られる。また、ドローンなどを利用して病害虫モニタリングを行い、病害虫判定情報を得て効率的な適期農薬散布を行うことが可能になる。

(ク)収穫、運搬

 特に、重量野菜用の自動走行収穫機の利用と収穫物自動運搬システム、パワーアシストスーツなどの利用によって収穫、運搬作業の軽労化を図ることができる。

 今後は、全自動乗用型移植機、切り花収穫・調製ロボット、自動鮮度保持処理機などの開発が望まれる。

次に、施設園芸では

(ケ)栽培管理

 ハウス内の生育環境と栽培管理をデータ化してハウスの遠隔監視、装置の遠隔制御を行い、栽培管理の省力化と効率化が可能になる。

(コ)育苗

 LED照射と適切な施肥管理による健苗育成と照明コストの削減を図ることができる。

(サ)生育管理

 ハウス内の光合成情報(光合成速度、蒸散速度の計測)などの複合的な環境制御データを得て、生育ムラの解消、生育促進、品質向上および単収アップを図ることができる。

(シ)収穫

 収穫作業の省力化と効率化を図るために、収穫・調製ロボットの開発が望まれる。

果樹栽培では

(ス)経営、栽培管理システム

 生産プロセス、コスト管理などをデータで見える化して経営、栽培管理の改善を図ることができる。

(セ)育苗
 
 全自動接ぎ木ロボットの利用によって接ぎ木苗生産の省力化を図ることができる。

(ソ)摘果

 熟練作業者のノウハウを見える化した学習支援モデルを作成して摘果技術の継承を図ることができる。

(タ)かんがい、施肥

 AI技術によるマルチドリップの適正かん水と同時施肥の自動化を図ることができる。

(チ)除草

 リモコン式自動草刈り機による緩傾斜地を含む除草作業の安全確保と省力化を図ることができる(最大傾斜40度まで対応可能な機種もある)。

(ツ)防除

 自動走行車両の利用による防除作業やドローンなどによる農薬散布作業の省力化を図ることができる(特に傾斜地作業の安全性と省力化)。

(テ)収穫、運搬
 
 自走式高所作業車による作業の省力化やパワーアシストスーツによる運搬作業の軽労化を図ることができる。

(ト)予措(よそ)、選果

 予措(果実を貯蔵、輸送する際に鮮度を保つためにあらかじめ行う措置)装置、自動選果機械による果実の品質向上と作業の省力化を図ることができる。

 以上、耕種部門における与論島農業のスマート化について述べてきたが、スマート農業化は全国的に見て、ほとんどが大規模な水田、畑作を中心に進んできた傾向がある。今後、野菜、花き、果樹や圃場の基盤整備などが劣る中山間地、特に離島農業へも積極的な展開を図るべきである。

 本島のような地域では、農地の集積・集約化と受託面積の拡大を積極的に図りながら、まず、GNSSガイダンストラクターやドローンなどを先行導入しつつ、今後のスマート農業の展開へとつなげて行くことが必要である。また、離島や中山間地向けのロボット農機の開発と同時に通信環境の整備も急ぐ必要がある。現地に合わせた技術開発が重要であり、技術・経営効果を明らかにしつつ、スマート農業技術の実証と社会実装へ進展させて行く必要がある。

(2)畜産部門のスマート農業化について

 与論島の肉用牛を中心にした畜産部門のスマート農業化は、ほとんど進んでいない。現在、飼養農家数戸数は277戸、1戸当たり飼養頭数(子取り用雌牛飼養頭数)は平均約20頭であるが、20〜49頭の飼養農家が約15%、50〜100頭が約2%存在する。一方で、高齢化などにより農家戸数は減少傾向にあり、また多頭飼養化と専業化が進んでいる。今後、粗飼料増産が必要になる中で、本島畜産のスマート農業化が可能である、あるいは必要であると考えられる分野、技術について挙げる。

ア.粗飼料生産作業のスマート農業化

 まず、粗飼料生産作業の機械化一貫体系の一例を表5に示す。

 写真24にレーキによる集草作業を示す。

 

 

 本島の現状では、近い将来、次の作業などのスマート農業化が可能であると考えられる。  

(ア)ドローン利用によるリモートセンシングの導入(作物の生育状況調査、収量予測)。  

(イ)自動操舵システムトラクターによる耕起・砕土・整地・心土破砕作業の省力化・高精度化。  

(ウ)可変施肥機によるドローン空撮生育マップ・土壌マップに基づく施肥作業の省力化・高精度化。  

(エ)高速施肥播種機による施肥播種作業の省力化・高精度化。  

(オ)ドローンによる肥料、農薬散布作業の省力化・高精度化。  

(カ)リモコン式草刈り機による除草作業の省力化。  

(キ)ICT機器を利用した水管理システムによる取排水作業の省力化・高精度化。  

(ク)自動操舵収穫調製支援システムによる収穫調製作業の省力化・高精度化。  

(ケ)生産プロセスをデータ化して作業状況などの把握による栽培管理の改善および作業効率の向上。

イ.飼養管理作業のスマート農業化

(ア)給餌

・自動給餌器導入による給餌作業、飼養管理の省力化。

・哺乳ロボット導入による子牛への哺乳作業の省力化。

(イ)見回り・飼育・繁殖管理

 個体情報の検知・行動管理システム導入による精度の高い飼育・繁殖管理の省力化・効率化。

・牛の首に取り付けたタグ(複数センサー内蔵)により、採食・飲水・反すう・動態・起立・横臥(おうが)・静止行動のモニタリングや牛の顎に取り付けた電池レスビーコンによる採食・反すう行動の監視。

・体温センサーによる体調管理(体温変化検知)で早期疾病の発見。

・赤外線モーションセンサー(カメラ)による個体行動の監視。

・クラウド牛群管理システムによる牛群情報の管理・記録・分析・共有。

・分娩予知・監視、発情発見システムにより分娩・発情兆候特有の体温変化を検知して種付け適期の見極め、受胎率の向上、分娩事故率の減少を図る(牛の足首や首に取り付け歩数変化を検知して発情発見・分娩監視する牛歩や〈写真25〉、体温変化を検知して発情・分娩監視する牛温計など〈例:1式当たり発情発見装置160万円、分娩監視装置60万円〉)。

(ウ)畜舎環境管理(舎内管理・洗浄)

・横断換気システムによる舎内の熱負荷軽減と悪臭拡散の抑制。

・洗浄ロボットによる洗浄作業の省力化(例:洗浄ロボット〈養豚〉1台当たり800万円)。

 以上、現状でスマート農業化が考えられる分野、技術について挙げたが、一方で費用対効果(限界費用、限界収入)を見極めながら進めて行くことが是非必要である。

 

(3)さとうきびを中心にした耕畜連携によるスマート農業化について

ア.耕畜連携によるスマート農業化の必要性

 先述したように、与論島の耕地面積は約1100ヘクタール、農家戸数723戸であり、1戸当たり耕地面積0.3〜1.0ヘクタールの農家が最も多く、全体の約42%を占めている。その中で、さとうきび収穫面積(411ヘクタール)は飼料栽培面積と耕地をほぼ二分している。また近年、肉用牛生産量は順調に増加しているのに対してさとうきび生産量は減少傾向が続き、野菜、花き、果樹生産量はやや横ばいかあるいは減少傾向にある。

 このような状況の下で、いかにしてさとうきび生産を中心に耕畜連携によるスマート農業化が進められるか検討する。

 まず、さとうきび栽培を含む耕種農家と飼料作物を必要とする畜産農家との間でさとうきび梢頭部(しょうとうぶ)などを家畜飼料として利用すること(近年は、ハーベスタ収穫によってほとんど利用されていないが)と家畜ふん尿を資源とした堆肥をさとうきび圃場などへ還元する有機的な結びつきが必要である。これは、家畜ー(土地)ー作物の土地を介した資源循環型農業の優れた生産システムであり、土地生産性を高める耕畜連携の基本をなすものである。

 近年、減産傾向にあるさとうきびの増産を図るためには、先述したように、農地中間管理事業を生かした農地の集積・集約化を積極的に進め、個別農家経営の枠を超えて、スケールメリットを生かした生産組織の育成が必要である。

 また一方で、近年の家畜飼料の自給率は低下傾向にあり、これは主に粗飼料自給率の低下に起因するものであるが、長期的な粗飼料確保のためには、自給粗飼料の生産拡大が不可欠である。そのためには、さとうきび栽培と同様に粗飼料畑の集積・集約化を進め、農作業の効率化を図る必要がある。さらに、耕畜連携によるスマート農業化を進めるためには、現在の農業経営形態・規模から見て、さとうきび栽培を中心に粗飼料栽培を含めた生産組織が必要になる。そこで、耕畜両部門の農作業の請負組織として、コントラクターにその役目を求めることが必要になると考える。これが、耕種と畜産部門をつなぐ役割を果たし、地域農業発展の核として存在することになる。

イ.コントラクターについて

 一般に、コントラクターの経営形態として、株式会社、法人経営体、農業公社、農協直轄、営農集団などがある。コントラクター利用のメリットは、農作業効率が高められ、自作よりも低コストでの生産が可能になる▽規模拡大が可能になり、増収益につながる▽農作業の一部を外注(アウトソーシング)することで、さとうきびや粗飼料栽培に係る時間に余裕ができ、適期を逃がさない管理作業や肉用牛の飼養に集中できる▽大型機械により良質サイレージの給餌ができるーなどがある。

 将来のコントラクターの経営形態としては、本島の有する農業経営形態・規模から見て、前述の中で農業公社かあるいは農協直轄型が望ましいと考えられる。いずれにしても、その際、必要なことは年間を通じていかに作業を平準化し、多くの作業を確保できるかである。そのためには、労働のピークを迎える粗飼料の収穫・調製時期とさとうきびの収穫や植え付け・管理作業時期が競合しない作付け体系が必要になる。また、各種機械の年間稼働率を高めるためには、収穫作業を中心にした受託作業の多角化が必要である。例えば、耕起、植え付け(播種)、肥培管理、肥料・堆肥散布、収穫運搬、サイレージ・乾草調製、ふん尿処理、堆肥生産(販売)などの耕種、畜産両部門にまたがる多種多様な作業の中で可能な限り多くの受託作業を取り込むことが重要である。また、本島に現在ある堆肥センターが耕種と畜産農家との間の仲介・調整役になって、いわゆる耕畜連携の橋渡し役としてその役割を果たすことが重要である。さらに、将来的には飼料生産受託はTMR(注)供給へ発展させることも必要になるであろう。その他、重要な課題として、農作業受委託の調整・仲介▽組織の財政健全化▽農家の利用料金への理解▽オペレーターの確保・技術向上―などが挙げられる。

(注)粗飼料、濃厚飼料、ミネラル、ビタミン、添加物などを混ぜ合わせ、必要な栄養素を全て含んだ混合飼料。

 以上、与論島農業のスマート化について述べてきたが、まずは、農業公社として、「公益財団法人与論農業開発組合」(仮称)を立ち上げ、農地集積・集約化を図りつつ、さとうきびを中心にした耕畜連携による与論島なりのスマート農業の確立のために、上述した実現可能な分野から、官民挙げて一歩ずつ、体系的に取り組むことが必要である。

 ここで、耕畜連携によるスマート農業化実現に向けて、最初に取り組むべき分野、技術について簡潔にまとめておく。

 耕種部門(飼料作物生産を含む)では、GNSSシステム構築による基本的農作業である耕起〜肥培管理〜収穫作業までの省力化・高精度化(GNSSガイダンストラクターなどの利用)▽ドローン、IoTを活用した生育、環境情報に基づく肥培管理、防除作業の省力化・高精度化▽IoTを活用した生育、環境情報に基づく水管理システムによるかん水作業の省力化・高精度化▽施設園芸では、ハウス内の光合成情報などの複合的な生育環境データを基にした栽培管理作業の遠隔制御による省力化・高精度化―が挙げられる。

 畜産部門では、個体情報の検知・行動管理システムを利用した分娩予知・監視や発情、早期疾病発見による飼育・繁殖管理の省力化・高精度化▽自動換気制御システムを利用した舎内の熱負荷軽減と悪臭拡散防止などの畜舎環境管理作業の省力化―などが挙げられる。

おわりに

 与論島は周囲24キロメートルの小さな島である。農業形態はさとうきびを中心に肉用牛、野菜、花きを組み合わせた複合経営が行われており、最近ではマンゴーなどの熱帯果樹栽培も盛んである。耕種、畜産部門とも小規模経営農家が多く、特にさとうきび農家の1戸当たり収穫面積は約0.67ヘクタールで1筆当たり面積も約0.1ヘクタールと狭隘である。近年、肉用牛生産量は増加傾向にあるが、一方さとうきび生産量は減少傾向が続いている。原因はいろいろ考えられるが、高齢化、生産者の減少はもちろん小規模経営、干ばつ、土づくり、適期管理、機械化の遅れなどが複雑に絡んでいる。特に機械化の遅れはハーベスタ収穫率から見ても県内最低(72%〈鹿児島県94%〉)である。これは、圃場区画面積の狭隘さに大きく起因している。担い手の育成(担い手そのものも高齢化している)と担い手への農地集積・集約化は喫緊の課題である。さらに、集落営農組織、受託組織、オペレーターの育成も不可欠であり、これらは後述するスマート農業化への前提になる。

 また、さとうきびの減産は製糖会社の経営に大きな影響を及ぼし、原料確保に懸命な努力が払われているが、これが操業率の低下(56.7%)に表れている。また、働き方改革への対応も進められているが、人手不足は極めて深刻な状況にある。これは一企業だけでの対応力を超えるものであり、関係機関の理解と支援が是非必要である。さらに、機械、施設の老朽化への対応も急務である。

 耕種農業の基本である土づくりでは、堆肥の投入量が少ない(さとうきび畑は1ヘクタール当たり平均1.5トン)。緑肥すき込みを含めた地力増進に取り組む必要がある。また、堆肥センターも稼働以来12年が経過しており機械、施設の老朽化が否めない。耕畜連携を進める上でも早急な更新が必要である。

 野菜、花き、果樹の生産量は横ばいか減少傾向にあり、機械、栽培施設の導入が遅れている。また、調製、選果機械類の導入やハウス内生育環境の自動制御などによる省力化と増収および品質向上を図る必要がある。有機栽培の拡大による安全・安心な生産も望まれる。

 飼料作物については、近年の肉用牛の増頭傾向に伴う自給粗飼料の生産拡大が不可欠である。そのためには、さとうきび栽培と同様に粗飼料畑の集積・集約を進め、機械の共同利用による生産組織の育成が必要である。また、ヘイモアー、ロールベーラ類の機械導入はかなり進んでいるが、播種から収穫・調製作業に至る機械化一貫体系の確立が急務である。

 飼養管理用機器類は、肉用牛個体情報の検知・行動管理システムを利用した分娩予知・監視や発情、早期疾病発見による飼育・繁殖管理の省力化・高精度化▽自動換気制御システムを利用した舎内の熱負荷軽減と悪臭拡散防止などの畜舎環境管理作業の省力化―などが望まれる。

 与論島農業の中で、特にさとうきびの機械化については、ハーベスタ収穫を中心にした機械化体系の他に一方では与論島の生産規模に合った小型機械(特に調苗、植え付け、脱葉搬出作業の小型機械類)を組み込んだ機械化体系も現存しており、兼業農家対策も必要である。また、さとうきび、粗飼料栽培においては、圃場区画面積の拡大につながる基盤整備と干ばつ対策、中心的経営体への農地集積・集約化および受委託組織の確立は不可欠である。加えて、耕畜連携を積極的に推進する施策と効率的な機械化一貫体系の確立こそが将来の与論島のスマート農業化(スマートアグリ・アイランド・ヨロンの実現)に向けて歩を進めるものである。これがひいては与論島の地域農業の発展につながる。

 次に、さとうきびを中心にしたスマート農業化への取り組みについては、本島においても、今後、高齢化や生産者の減少が急速に進む中で、農作業の省力化、効率化は不可欠であり、また熟練技術の継承と精度の高い生産体系を確立するためにはスマート農業の推進が是非必要である。そのためには、まず農業公社として、「公益財団法人与論農業開発組合」(仮称)を立ち上げ、本公社が核になって農地集積・集約化を図りつつ、さとうきびを中心にした耕畜連携の与論島なりのスマート農業の確立に向けて努力すべきである。その際、現在の堆肥センターが参画し、堆肥を介してさとうきびと園芸作物を含む耕種と畜産農家との間の仲介・調整役になり、耕畜連携の橋渡し役としてその役割を果たすことが重要である。さらに、緑肥、粗飼料生産を含むさとうきび生産受託組織(コントラクター)を育成し、本組織が耕畜連携したスマート農業の推進役を担うことが必要である。

 また、本論で挙げた具体的な耕種および畜産スマート技術、分野については、ここで改めて述べないが、これらの実現のためには、まずは島全体のGNSS化を図り、現場に合った技術体系の確立に向けた実証が必要である。同時に、機械・装置の開発、導入に当たっては、費用対効果も忘れてはならない。

 以上、与論島のスマート農業の社会実装を図るために、生産者、行政、研究機関、企業がコンソーシアムを組織し、スマート技術を生産から出荷に至るまで、体系的に組み立てた実証研究を行い、最適な技術体系の確立に向けて官民挙げた取り組みを強く望みたい。

 最後に、与論島のスマート農業化が地域農業の構築につながり、奄美群島のスマート農業の先進地として発展することを期待する。

〈謝辞〉
 今回の現地調査(令和元年11月5日〜7日)の際に、ご多忙の中ご協力いただいた、聞き取り農家の皆さまをはじめ、鹿児島大学農学部柏木純孝技術専門員、鹿児島県大島支庁沖永良部事務所前田二郎技術専門員、与論町役場産業振興課山下秀光主幹、渉裕則課長補佐、山下高明主事、与論町堆肥センター中村隆浩主任、与論町和牛改良組合田畑嘉明組合長、与論島製糖株式会社与論事業所中野貴志事業所長、光富広次長の皆さま方にこの場を借りて厚くお礼申し上げます。
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