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中国の餡と月餅のはなし

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最終更新日:2020年9月10日

中国の餡と月餅のはなし

2020年9月

中国文化センター

中国の餡のはなし

 日本語で「(あん)」、「(あん)()」というと豆や芋、栗などで作った甘いペーストのイメージが強いですが、もともと「餡」は餃子や中華まん、点心、お菓子などに「詰めるもの」全般を意味する言葉です。ですから、ひき肉や野菜のみじん切りももちろん「餡」。むしろ中国では「肉餡」や「菜餡」など、おかずとしてのイメージが強くあります。一般的にペースト状の、いわゆる「あんこ」を指すときは「棗泥(ザオニィ)」「南瓜泥(ナングワニィ)」というように「材料+泥」で呼び、小豆餡は「紅豆沙(ホンドウシャー)」、あるいは単に「豆沙(ドウシャー)」と呼びます。

 このように、「餡」の意味は日本とは少し違いますが、小豆餡は中国人にも非常になじみ深い食材です。中国では古くから、赤色には邪気を追い払う力があるとされ、小豆にも強い厄よけの力があると信じられています。また唐代の大詩人・王維が「相思」という有名な小豆の詩を詠んだことで、小豆は「相思豆」とも呼ばれ相思や愛情の象徴となりました。

 豆沙は唐代から普及が始まったといわれ、一説によると、太宗皇帝(598〜649年)の長患いを心配した皇后が病邪を払うために宮女に命じて作って食べさせたのが始まりといいますから、1400年ほどの歴史があります。以来、あんまんや月餅、ゴマ団子などをはじめ、豆沙入りおやきの「豆沙餅(ドウシャービン)」、餅で豆沙を巻いた「リューダーグン」、菊花の形を模した春節のお菓子「ジウホアスー」(写真1)、大福のような「マーツー」などなど、さまざまな豆沙を使ったお菓子が生まれ、今では全国的に小豆が栽培され、生産されています。
 

 しかし、今でこそ東北地区の黒龍江省などで生産が盛んですが、小豆はもともと熱帯の植物で、中国では広東省、広西省、雲南省一帯が原産です。そのため今でも中国北部よりは南部の食文化とより密接なようで、南部では春節に神に捧げる蒸しケーキ「ファーガオ」や(くつ)(げん)(中国の戦国時代の楚の政治家・詩人)をしのぶ端午のちまき、祖先を祭る中秋の月餅など、さまざまな節句や慶事のお菓子に豆沙が使われる傾向があります。

 一方、北部ではナツメ文化が浸透しています。例えば上述の春節のファーガオや中秋の月餅などには棗泥(ナツメ餡)が、端午のちまきには干しナツメがそのまま入れられます。栄養豊富で保存性に優れ、食用の簡便なナツメは華北・河南・山東など北方の黄河流域やその周辺では8000年以上も前から食されていたようです。また、赤いナツメには厄よけの力があるとされるだけでなく、「棗(そう)」の発音が「早」と同じであることから「早く出世する、早く世継ぎが生まれる」に通ずる非常に縁起の良い食べ物とされ、古来、官民問わず祝事の贈答品や祭事の供物、結婚式の支度品などとしても用いられてきました。

 棗泥がいつ始まったかは定かではありませんが、以前は寒食節(冬至後105日目)に棗泥が入った小麦菓子「子推燕(ズートゥイイェン)」を捧げるという風習がありました。寒食節は春秋時代の晋国の文公が功臣・(かい)()(すい)の死を悼んで始めたといいますから、制定当初からの習慣なら、山西省一帯では2500年前には棗泥を作っていたことになります。いずれにせよ、棗泥が昔から中国北部の人々にとって身近な食材であったから子推燕の餡として使われたのだと推測できます。

  もちろん、「北は棗泥、南は豆沙」と明確に分けられているわけではありません。北京でも旧暦10月15日の下元節では「豆沙包」(あんまん)を食べますし、広州にも「ザオニィガオ」(ナツメの蒸しケーキ)があります。さらに現代では流通の発達により文化の融合が進み、南北食文化の差異は小さくなりました。しかし、そういった文化の傾向は確かに存在し、棗泥が豆沙と並んで中国文化を代表する餡であることは間違いありません。

 続いて、餡を使用した代表的なお菓子である「月餅」についてご紹介しましょう。

月餅のはなし

 みなさんは「月餅」と聞いてどのような形や餡を思い浮かべますか。おそらく、丸くて茶色いしっとりした皮の小豆餡のお菓子を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。確かに、日本でも中国でもそういう月餅がよく普及していますが、本場中国の月餅は小豆餡以外にも、非常に多様な形、餡が存在します。

 もちろん、月餅は月を模して作るため円柱型やドーム型が基本です。しかし(こう)(しゅう)式(広式)、()(しゅう)式(蘇式)、()(きん) 式(京式)(写真2)、(うん)(なん)式(テン式〈「テン」はさんずいに眞〉)、(ちょう)(さん)式(潮式)などそれぞれの地域の月餅があり、京式などの中には四角形のものも存在します。広式や京式は表面に複雑な細工があしらわれていて精緻な印象を受けますが、蘇式やテン式などはせいぜい食紅で字を書いたり、ゴマをかけてあるだけでとても素朴です。
 

 月餅の生地は大きく三つに分けられます。一つ目に、日本でよく見る月餅は「糖漿皮(タンジャンピー)」といい、シロップと油を練りこんでいるのでしっとりしています。もともとは北京天津、広東地区を中心に作られていましたが、現在では全国的、世界的に主流となりました。二つ目は「焼餅」(おやき)文化の流れをくむパイ生地の「酥皮(スーピー)」で、蘇式、テン式、潮式をはじめ多くの地域で作られています。そして三つ目はこの15年ほどで流行している「冰皮(ビンピー)」です。蒸したもち米皮のモチモチとした歯触りが特徴で、冷やして食べます。これら三種の生地は色にも違いが見られます。「酥皮」は小麦粉自体の黄白色や卵黄を塗った黄金色で素朴な色合いですが、「糖漿皮」と「冰皮」の色は茶、赤、緑、白、黒、紫など非常にカラフルです。

 月餅の餡は非常に多彩で、中国餡文化の懐の深さを感じさせます。一般的に広式はしっとりした餡を使い、京式などの北方系は水分が少ない餡を使う傾向がありますが、月餅の起源の一つとされる「胡餅」には胡桃(くるみ)、落花生、松の実、麻の実、ゴマなどさまざまな果物やナッツ類が入っていたようです。この餡は現在でも「五仁餡」として販売されており、これに「蛋黄蓮蓉」(塩漬け卵黄入り蓮の実餡)、そして「棗泥」と「豆沙」(写真3)を加えた四種がとりわけ多く流通しています。ほかにも緑豆餡、白豆餡、黒豆餡、サンザシ餡、紫芋餡、カボチャ餡、松の実餡、ゴマ餡など多種多様な餡があって、さらには地域によってココナッツや栗の実、バラやキンモクセイの花びらなど、それぞれの風土に合わせた月餅が作られ、流通しています。
 

 中国では甘くない餡の月餅も非常にポピュラーです。広式の香辣牛肉(辛味牛肉)や、肉松(肉のでんぶ)、蘇式の肉月餅や椒塩月餅、テン式のハム月餅(テン式火腿)などが広く知られています。こうした月餅は「酥皮」で作られていることが多く、日本人のイメージする「月餅」よりは「おやき」に近く感じます。

  さらに最近では、アイスクリームやチョコレートといった洋菓子風のものや「コーヒー月餅」「ウーロン茶月餅」「緑茶月餅」「カレー月餅」など次々と新しい月餅が登場しており、若い層を中心にこうした月餅も受け入れられています。

 このように中国の月餅は生地も餡も地域や様式によってさまざまで、本当に同じ「月餅」なのかと思ってしまいます。しかし、中国では陰暦8月15日前後には必ずさまざまな月餅が人々の間を行き交い、中秋節を祝います。最近は中秋節に帰省せず、勤務地で家族や友人らと過ごす人々も出てきていますが、今日でも、月餅は中国文化を象徴するお菓子として、家族や仲間のだんらんと共にあり続けています。皆さんもぜひ中秋の時期に近しい人たちと月餅を食べ、中国の月餅、餡の文化を堪能してみてはいかがでしょうか。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272



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