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黒糖利用に関する研究の現状と課題

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最終更新日:2021年3月10日

黒糖利用に関する研究の現状と課題

2021年3月

沖縄県工業技術センター 広瀬 直人

はじめに

 サトウキビは沖縄県の基幹作物として、県内ほぼ全域で栽培されている。そのうち約1割が含みつ糖(黒糖)生産に用いられ、主に8カ所の離島にあるボイラー式工場で黒糖が生産されている。黒糖の生産量は原料のサトウキビ生産量にほぼ追随して推移し、低温や日照不足および台風の影響などで大きく減産した2011砂糖年度を除き、年間8000トン前後で推移している。

 黒糖はショ糖や水分以外に「非ショ糖成分」を含んでいる(図1)。非ショ糖成分にはアミノ酸やポリフェノール類などが含まれ1)、血糖値上昇抑制、高血圧防止、免疫増強、美白、抗う(しょく)作用など多様な機能性が報告されている2)。また、ストレス負荷前に黒糖を摂取するとストレス低減効果に影響を与える3)など、新しい機能性も見いだされている。

 黒糖には「味」「香り」「色」など、精製された砂糖にはない特性を持つ。黒糖を料理に使うと、香りや色が良くなるばかりでなくコクも増す4)など、調理や食品加工原料に黒糖を用いる場合には、甘味としての役割に加えて、これら特性が料理や食品に及ぼす効果が期待されている。そこで本稿では、これら黒糖の特性に関する最近の研究について紹介する。また、新しい黒糖の製造技術に関する研究について、いくつかを紹介する。
 

1.黒糖の味に関する研究

 黒糖の味は、生産される島(地域)によって異なることが経験的に知られている。秋永ら5)は、黒糖の「おいしさ」「辛味」はリン酸およびミネラル(カリウム、マグネシウム、塩素)などの無機成分に影響されることを示している。藤井ら6)は味認識装置を用いて沖縄産および鹿児島産の黒糖を分析し、「塩味」「うま味コク」および「ミネラル系苦味」の測定値をもとに算出する「黒糖味指数」を提唱している。この黒糖味指数は黒糖に含まれる各種ミネラルと相関を示し、味の強さや味質を特徴付ける影響が高いことを示している。これらの結果から、ミネラルが黒糖の味に大きく影響することは明らかである。黒糖のミネラル含有量は原料であるサトウキビ搾汁液、すなわちサトウキビに由来する7)ことから、適切なミネラル含有比を持つサトウキビ品種の育成や栽培方法を開発することで、「意図した味の」黒糖が製造できると考えられる。

2.黒糖の香りに関する研究

 黒糖の香りを構成する成分は、サトウキビ由来のイオウ化合物やアルデヒド類と、黒糖製造過程中の加熱によって生成するピラジン類やフラノン類などメイラード反応物に分けられる8)。黒糖を常温で保存すると黒糖の香りは変化し、サトウキビ由来の刺激的なにおいは揮散して減少するが、一方でメイラード反応は緩やかに進行して、「香ばしい香り」や「甘い香り」に関連する成分が生成する9)。このほか、常温保存によって黒糖の着色度増加が認められることから、黒糖でも「熟成」による新商品開発が可能と思われる。

3.黒糖の色に関する研究

 黒糖の色は、主に製造過程中の加熱によって生成するポリフェノール重合物、メイラード反応物、そしてカラメルによって構成される。原料サトウキビを圧搾するミルのローラーなどに由来する鉄分は、ポリフェノールとの結合やメイラード反応の促進などによって黒糖の着色に大きく影響する。また、サトウキビ搾汁から不純物を除去するライミング処理も着色を進めることから、ステンレス製ローラーを用いて圧搾したサトウキビ搾汁を、ライミング処理せずにそのまま製糖することで、きわめて明るい色調の黒糖を製造できる10)。このほか、原料のサトウキビ品種や系統によっても、黒糖の色は大きく異なる(図2)。
 

4.新しい黒糖の製造技術に関する研究

(1)エアイン黒糖

 黒糖は、サトウキビ搾汁を過飽和になるまで加熱濃縮したのちに、モチ状になるまで冷却撹拌(かくはん)操作を行い、さらに放冷・固化させて製造する。このモチ状の黒糖を減圧下に置くと内部の空気が膨張し、そのまま放冷・固化すると通常の黒糖に対して2〜3倍に膨張した「エアイン黒糖」(図3)が製造できる11)。エアイン黒糖は通常の黒糖より破断荷重が小さく、かみ砕きが容易である。また、溶解性と崩壊性が向上して口溶けも良い。
 

(2)フレーバー黒糖

 黒糖製造におけるサトウキビ搾汁液の加熱濃縮は、ブリックス(注)70程度のハイシラップまで濃縮する過程と、ハイシラップを130度程度に達するまで加熱する「仕上げ加熱」に分けられる。「仕上げ加熱」で発生する蒸気にはピラジン類をはじめとするさまざまなメイラード反応生成物が含まれ、これを回収することで黒糖の香気成分液が得られる。この香気成分液をハイシラップに再添加したのちに製糖すると、香気が強化された黒糖を製造できる12)

(注)搾汁液の中に溶けていて乾燥させると固まる物質(可溶性固形分)の割合。搾汁液には、ショ糖、転化糖、その他の成分が溶けており、これをブリックスと表すが、糖分そのものではない。

(3)GABA黒糖

 黒糖の原料であるサトウキビ搾汁液は微生物(特に乳酸菌)が繁殖しやすく、工場では悩みの種である。この性質を逆に利用して、サトウキビ搾汁液に有用物質を生産できる乳酸菌を接種・培養したのちに製糖することで、有用物質を強化した黒糖の製造が可能になる。サトウキビ搾汁液にγ−アミノ酪酸(GABA)の前駆体であるグルタミン酸を添加して乳酸菌Lactobacillus brevis NBRC3345を接種・培養したのちに製糖すると、100グラム当たり300ミリグラム程度のGABAを含有する黒糖が製造できた13)。本方法は適切な乳酸菌株や培養条件によってGABAの強化以外にも応用が可能であり、黒糖が持つ健康機能性をさらに高めることができると考えている。

おわりに

 消費者の健康志向にあわせて、「サトウキビを搾りそのまま煮詰めて製造した黒糖」のニーズが、海外でも広まりつつあるようである。これまでの「味」「香り」「色」に「健康機能性」を含めた黒糖の特性解明が必要である。また、先に述べたように、異なるサトウキビ品種を原料とした黒糖は色が大きく異なるほか、黒糖を原料とした蒸留酒の酒質に影響を及ぼすことが報告されている14)。ニーズに即した特性を有する黒糖を製造するためには、黒糖製造条件の研究に加えて、特定の品質に特化したサトウキビ品種の育成を進める必要があると思われる。九州や四国を中心に地域の伝統産業復活、あるいは6次産業化のツールとして黒糖製造が見直されている15)。これらの動きも踏まえ、黒糖の利用がさらに広がることを期待している。
参考文献

1)Velásquez, F., Espitia, J., Mendieta, O., Escobar, S. and Rodríguez, J. (2019)「Non-centrifugal cane sugar processing: A review on recent advances and the influence of process variables on qualities attributes of final products」『J. Food Eng.』255:pp32-40.
2)Jaffe’, W. R. (2015)「Nutritional and functional components of non centrifugal cane sugar: A compilation of the data from the analytical literature」『J. Food Compost. Anal.』43:pp194-202.
3)Takahashi, M., Kinjo, Y., Uechi, S., Hirose, N., Mizu, M., De-Xing, H. and Wada, K. (2017)「Effects of oral intake of noncentrifugal cane brown sugar, Kokuto, on mental stress in humans」『Food Preserv. Sci.』43:pp123-132.
4)栄野比美徳、鈴木隆一、川原博基、首藤亜耶乃、恩田聡(2017)「首都圏における黒糖の消費拡大方法-ホームユーステスト及び味覚センサーの測定結果による-」『食農と環境』20:pp75-81.
5)秋永孝義、野瀬昭博、岡留博司、國府田佳弘(1996)「黒糖の品質に関する基礎的研究(第2報)-黒糖の品質と無機成分の関係-」『農業機械学会誌』58:pp11-17.
6)藤井沙代子、塩見和世、古田到真、永井幸枝、河合俊和、平田昭夫(2019)「味認識装置による黒糖の評価」『日本食品科学工学会誌』66:pp249-260.
7)広瀬直人、前田剛希、高良健作、和田浩二(2019)「黒糖製造期間中におけるサトウキビ搾汁液の成分変動と黒糖品質の関係」『日本食品保蔵科学会誌』45:pp141-147.
8)Asikin, Y., Takahara, W., Takahashi, M., Hirose, N., Ito, S. and Wada, K. (2017)「Compositional and electronic discrimination analyses of taste and aroma profiles of non-centrifugal cane brown sugars」『Food Anal. Methods』10:pp1844-1856.
9)広瀬直人、前田剛希、高良健作、和田浩二(2015)「沖縄産黒糖の常温保存における物理化学的およびフレーバー特性の変化」『日本食品保蔵科学会誌』41:pp253-259.
10)氏原邦博、吉元誠、和田浩二、永井竜児、広瀬直人、照屋亮(2009)「黒糖の色調と品質に及ぼすサトウキビ搾汁機ローラーの材質とライミング処理の影響」『日本食品科学工学会誌』56:pp343-349.
11)前田剛希、広瀬直人(2018)「真空脱気を利用して膨張させた黒糖(エアイン黒糖)の基本製造条件と特性」『沖縄県農業研究センター研究報告』12:pp7-13.
12)広瀬直人、前田剛希、照屋亮、高良健作、和田浩二(2018)「香気を強化した黒糖の製造技術開発」『沖縄農業』49:pp11-19.
13)広瀬直人、前田剛希、照屋亮、高良健作、和田浩二(2017)「乳酸発酵によってGABAを強化した黒糖の開発」『日本食品保蔵科学会誌』43:pp269-273.
14)奥津果優(2020)「黒糖焼酎の製造に適したサトウキビ品種の選抜」『サンケイ科学振興財団研究報告』30:pp11-19.
15)寺内方克、境垣内岳雄、吉田孝、追立祐治、羽生道明、服部太一朗、石川葉子、田中穣(2014)「九州における小規模なサトウキビ生産と製糖の実態と課題」『九州沖縄農業研究センター報告』61:pp89-97.
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