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サトウキビ栽培の適地

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最終更新日:2021年4月9日

サトウキビ栽培の適地

2021年4月

神戸国際大学名誉教授 米浪(こめなみ) 信男(のぶお)

【要約】

 サトウキビは世界の約80カ国の多様な環境の下で栽培されている。サトウキビは自然的条件が適しているだけでなく、人為的要因が加わることで栽培されている。そのため、サトウキビ栽培の適地は、自然的条件から見た場合と収量・効率の面から見た場合では異なる。

はじめに

 サトウキビは原産地のニューギニア島から東方へは紀元前8000年ごろソロモン諸島、ニューヘブリディーズ諸島へ、西方へは紀元前6000年ごろフィリピン諸島、インドネシア、マレー半島へ伝播したとされている。その後、サトウキビは多様な環境に適応し、現在では世界の約80カ国で栽培されている。

 世界のすべてのサトウキビ栽培地域をくまなく訪問することは時間と費用の関係で困難を伴う。しかし、できる限り多数の地域の栽培実態を調査し、そこから効率の良いサトウキビ栽培・甘しゃ糖生産の一般原則を導き出すことは重要である。本稿では、世界各地のサトウキビ栽培地域の実態調査を実施するとともに多数の資料を収集し、分析したヘルムート・ブルーメ博士による文献を基に、サトウキビ栽培の適地について紹介する。

1.サトウキビ栽培の環境決定因子

 サトウキビの生育期間中は、萌芽(ほうが)と根の発生、生長、成熟の3期に分かれ、各期で求められる環境決定因子(気温、日照、降水量など)の適した条件は異なる。

(1)気温:サトウキビは熱帯原産の植物であり、萌芽・生長のためには高温が必要である。サトウキビの萌芽の最適気温は26〜33度で、20_ 度以下になると萌芽は緩慢になる。生長の最適気温は30〜34度で、16度以下または38度以上になると生長しない。熱帯高地で見られる昼夜間の温度差は、含糖量(茎中糖分)の増加に寄与している。気温は根の吸水にも影響し、28〜30度で最高となり、 10〜15度では止まる。

(2)日照:日照はサトウキビの根の発生、生長、成熟に影響する。日照の強度は、標高、湿度、雲量によって異なる。日照時間が長く、日照の強度が増すとともに含糖量は上昇する。

(3)降水量:サトウキビは年平均1200〜1500ミリメートルの降水量を必要とする。生長期には大量の水を必要とする。そのため、降水量の少ない地域では、干ばつに備えるためにかんがい設備が必要となる。サトウキビは生長を止めるときにショ糖が蓄積されるので、成熟期の要水量は少ない。気温と降水量だけを考慮に入れる限りでは、熱帯の湿潤(雨季)−乾燥(乾季)気候がサトウキビ栽培に適している。

(4)風:サトウキビの生長期間中の風は蒸散増加の原因となり、繊維分の生産を弱める影響を及ぼす。熱帯低気圧の来襲や強風によって損傷したサトウキビは、病害虫の被害を受けやすい。他方、成熟期間中の風は、含糖量を増す。

(5)地形:サトウキビの栽培には平坦な地形または傾斜度8度未満の緩傾斜地形が望ましい。傾斜度の高い斜面は、土壌浸食があり、機械化を図る場合の障害となる。

(6)土壌:サトウキビは生長に必要な養分と水を土壌から吸収する。サトウキビの栽培に適している土質は、次の通りである。すなわち、(1)砂(約60%)、シルト(沈泥)、粘土を含む壌土(2)耕運、耕作がしやすい粒状構造(3)貯水能力があること(4)カルシウム、窒素、リン、カリウムの無機養分とアルミ ニウム、鉄、マグネシウムなどの土壌の母材または有機物由来の諸要素を含んでいること(5)pHは6〜8の間であること―が挙げられる。甘しゃ農業にとって理想的な土質は、80〜90センチメートルの土壌の厚さがあり、水はけ(自然排水)が良いことである。

(7)土壌–水バランス:サトウキビは生長に必要な水分の大部分を根から吸収する(いく分かは、葉からも吸収する)。サトウキビの蒸発散は、気温、日照、空気の湿潤、風、土中の水供給に影響される。土壌–水不足は土中への水供給量が要水量よりも少ない状態であり、葉は巻くようになり、さらに乾燥すると黄化し、しおれる。

 サトウキビの理想的な生育地は、自然的要因からは(1)熱帯湿潤−乾燥気候(2)霜、熱帯低気圧から免れていること(3)高い肥沃(ひよく)度、耕運、耕作が容易な土壌― であるが、さらに人為的要因として局地的環境に適した品種の選抜、栽培・収穫などの農業技術が加わることで商業的甘しゃ農業が成立する。

2.サトウキビ栽培における自然災害

 サトウキビ栽培における環境上の制約である自然災害には気象上の影響と生物学上の影響がある。サトウキビ栽培の歴史は、環境上の制約の克服の歴史でもある。気象上の影響としては、以下の点が挙げられる。

(1)霜:霜は亜熱帯のサトウキビ栽培地域では要注意である。霜は細胞液を凍結させ、細胞破壊の原因となる。霜害の程度は、サトウキビ品種、植物の年齢、地形と土壌の型(本質的な要因)および降霜期間、特に霜の強度(軽度:−2度、中程度:−2〜−4度、重度:−4度以下)による。霜害に対処する方法としては、(1)耐霜性または早生のサトウキビ品種の使用(2)製糖工場へ早く輸送できるようにする収穫および輸送設備の改善(3)霜で損傷したサトウキビからの砂糖生産を可能にする工業技術―が採用されている。

(2)干ばつ:干ばつはサトウキビの生長に影響する。降水量が不足し、乾燥状態が続く場合には、サトウキビの生長に適度の土壌–水バランスを保持するためにかんがいと適切な排水が必要である。

(3)過度の降雨:熱帯のサトウキビ栽培地域では1時間に50〜100ミリメートルの豪雨に見舞われ、激しい土壌浸食、河川の氾濫、シルト化(沈泥化)などの損害を被ることがある。また、過度の降雨はサトウキビの土壌–水供給過剰となり、含糖量の減少をもたらす。

(4)熱帯低気圧:熱帯低気圧は、赤道をはさむ南北緯度8度の熱帯で発生する。熱帯低気圧がもたらす強い風速と過度の降雨は、サトウキビに甚大な被害をもたらす。すなわち、(1)強風による茎の折損(2)茎の折損によりサトウキビが病害虫にかかりやすくなること(3)過度の降雨による損害―などの被害が発生する。
 次に、生物学上の影響としては、

(5)病害虫:サトウキビの伝播とともに病害虫もまん延していった。サトウキビの病気には菌類、細菌、ウイルスを原因とするものがあり、害虫には穿孔(せんこう)虫そして有害生物としてはネズミがサトウキビに甚大な損害をもたらしている。そのため、耐病性品種の改良、病害虫防除法の開発が重要である。

3.サトウキビ栽培・収穫の農業技術

 サトウキビ栽培・収穫は、環境上の制約を受ける。しかし、サトウキビの理想的生育地でない地域でも、環境上の制約を克服する以下のような農業技術の改良によって栽培が可能になっている。

(1)土壌–水管理:サトウキビの生長には土壌–水バランスの管理が重要である。土壌–水管理の目的は、サトウキビの生長期間中の土壌–水不足を防止することである。乾季があり、干ばつの心配がある地域では、かんがいシステム(スプリンクラーかんがい、点滴かんがいなど)の設置が欠かせない。土壌–水バランスの管理のためには排水システム(地下排水、開放溝システム)も必要である。効果的な土壌–水管理に必要なかんがい・排水システムの設備が効果的に機能するかどうかは圃場(ほじょう)配置に依存している。

(2)土壌保全:過度の降雨は、急傾斜地では土壌流出をもたらす。そのため、急傾斜地でサトウキビ栽培をする場合には、(1)サトウキビ圃場内の表面流水の流出速度を緩め、自然水路へ放出すること(2) 等高線に沿ったサトウキビの作条配列―などの土壌浸食防止措置が必要となる。

(3)土壌管理:自然の状態でサトウキビ栽培に適している土壌は少ない。耕運と施肥は、土質を改良するために実施される。耕運の目的は、土壌の通気性を良くすること、根の伸長を促進することである。大型の農業機械で踏み固められた土壌は、丁寧に深耕されなければサトウキビの生長に悪影響を及ぼす。さらに、土質に応じて無機質肥料(窒素、リン、カリ)と有機質肥料(剥葉、バガス、濾過(ろか)ケーキ、蒸留廃液)の施肥が必要である。サトウキビは養分を根からだけでなく、葉からも吸収するので、広大な圃場では飛行機による可溶性肥料の散布を実施している地域もある。

(4)植え付け・収穫作業:熱帯湿潤−乾燥気候の下では、サトウキビの植え付けは雨季の終わりか初めに、収穫は乾季に実施される。そのため、作業は季節的で、労働集約的である。植え付けは(うね)穴を掘り、切断した(しょ)茎を埋め、覆土する作業があり、世界的に機械化が遅れている。一方、収穫は現在でも手作業による刈り取りを行っている地域はあるが、1940年ごろから機械化が始まり、世界的に普及している。サトウキビの収穫前に火を入れることは、刈り取り費用と時間の削減というメリットがある一方、燃焼後ただちに収穫しなければ糖分が損失すること、大気汚染というデメリットがある。

(5)株出し:株出しは植え付け作業が不要で、植え付け費用がかからないため、甘しゃ農業の収益性に寄与している。新植栽培の場合には植え付け前に耕運と施肥が行われるが、株出し栽培の場合にはそれらの土壌管理が適切に行われることは少ない。そのため、重量のある農業機械による土壌の踏み固めや株出し回数の増加とともにサトウキビ収量は減少する。

(6)輪作と間作:サトウキビは単作(モノカルチャー)で栽培されるケースが多い。サトウキビの植え付けと収穫の間に十分な期間がある東南アジアやエジプトの人口稠密(ちゅうみつ)地域では、食用作物との輪作が行われており、サトウキビ収量の増加をもたらす場合もある。また、サトウキビの間作で大豆、落花生、ジャガイモ、トウモロコシなどの作物が栽培される場合があるが、サトウキビと間作の作物の間で養分吸収の競合がなければ、サトウキビ収量の減少は避けられる。

4.甘しゃ農業の分布

 世界の約80カ国での甘しゃ農業の分布は、環境への適応と環境上の制約の克服の結果である。大多数の甘しゃ糖生産地域は、熱帯に位置している。甘しゃ農業は亜熱帯にも分布しているが、年平均気温が20度の等温線の間に位置する地域に限られている。しかし、実際の甘しゃ農業の分布は北緯37度から南緯31度まで広がっている。また、気温は標高が上昇するにつれて低下するが、強い日射によって相殺される高緯度地域では甘しゃ農業が分布している。

 現代の甘しゃ農業においては、環境上の制約を克服する農業技術が開発されている。そのため、自然的条件だけを考慮したサトウキビの理想的生育地と現代の甘しゃ農業の理想的な環境は一致しない。すなわち、収量(収穫面積当たり収量、砂糖収量)に関する甘しゃ農業の理想的な環境は、土壌–水バランスの管理が万全に実施されている状態であれば、熱帯の半乾燥または乾燥環境であり、比較的低い気温で、著しい日較差温があるとさらに好結果が得られる。

5.環境の収量・効率への影響

 サトウキビ栽培地域の微気候、地形、土壌などの自然的条件だけでなく、栽培されているサトウキビ品種、病害虫防除、収穫・輸送・サトウキビ圧搾効率などは収量に影響する。収量を左右する3カテゴリーは、含糖量、サトウキビ収量、砂糖収量である。

(1)含糖量:世界のサトウキビ栽培地域における含糖量は、相当な差異が見られる。含糖量は一般的に年平均気温が比較的低い21〜24度、年平均降水量が比較的少ない500〜1000ミリメートルの地域では高い。とりわけ、含糖量はサトウキビの成熟期間中に比較的低い気温と少ない降水量の地域では高い。なお、土壌–水バランスが人為的に制御される場合には、熱帯の乾燥環境でも強い日射と著しい日較差温は含糖量を増加させる。

(2)サトウキビ収量:収穫面積当たり収量の高い地域は、一般的に年平均気温が高く、年平均降水量が多い。サトウキビの生育期間の長さは地域によって異なり、栽培面積と収穫面積が一致しない(植え付け後のサトウキビが同じ年にすべて収穫されない)ことから、収穫面積当たり収量は栽培面積当たり収量よりも多い。さらに、栽培面積当たり面積集約度は、サトウキビの生育期間が長い地域では生育期間の短い地域と比べて低いが、高い栽培面積当たり収量または高い含糖量によって相殺される。

(3)砂糖収量:栽培面積当たりの砂糖生産量を表す砂糖収量は、一般的に含糖量と同じように、年平均気温が比較的低く、年平均降水量が比較的少ないサトウキビ栽培地域では高い。栽培面積当たりの高い砂糖収量は、高い栽培面積当たり収量または高い含糖量のいずれかに起因している。

 甘しゃ糖生産の効率は、収穫面積当たり収量、サトウキビの質または含糖量、砂糖歩留まりに依存する。前二者は、環境と農業的効率が決定因となる。とりわけ、甘しゃ糖生産における効率の良いサトウキビ栽培適地(環境)は、高い面積集約度、高い収穫面積当たり収量、良好なサトウキビの質(高い含糖量)を持つ地域である。後者(砂糖歩留まり)は、製糖工場の効率と含糖量が決定因子となる。従って、甘しゃ糖生産の効率を表す収穫面積当たり砂糖収量は、環境、農業的効率、製糖工場の効率に依存する。甘しゃ糖業は農産加工業であり、サトウキビの栽培・収穫・輸送・製糖の一連の過程が効率的に進行できる組織が確立されていなければならない。つまり、農業的効率と製糖工場の効率は、どのような経営組織の下で農業経営および工場経営が効率的に行われるかに依存する。

むすび

 サトウキビは熱帯、亜熱帯の多様な環境の下で栽培されている。サトウキビ栽培の適地はどの地域かと問われれば、次の通りである。すなわち、

(1)自然的条件だけを考慮に入れたサトウキビの理想的生育地は、(1)熱帯湿潤−乾燥気候(2)霜、熱帯低気圧から免れていること(3)高い肥沃度、耕運、耕作が容易な土壌に恵まれている地域―である。

(2)サトウキビ栽培の環境上の制約を克服した結果、収量(収穫面積当たり収量、砂糖収量)に関わる甘しゃ農業の理想的な環境は、土壌–水バランスの管理が十分であれば、熱帯の半乾燥または乾燥環境の下では比較的低い気温で、著しい日較差温がある地域である。

(3)甘しゃ糖生産の効率の面から見たサトウキビ栽培の適地は、高い面積集約度、高い収穫面積当たり収量、良好なサトウキビの質(高い含糖量)を持つ地域であるということがいえる。

注:本稿で紹介したGeography of Sugar Cane の著者ヘルムート・ブルーメ博士(1920〜2008年)は、 1953年に米国・ルイジアナ州で甘しゃ糖生産に関わる人文地理学的研究に携わって以来、母語のドイツ語のほか英語、フランス語、スペイン語で多数の論文を発表してきた。本書はドイツのテュービンゲン大学教授時代の1979〜1983年に「サトウキビの地理学」と題する研究プロジェクトの下で世界各地のサトウキビ栽培地域の実態調査を実施するとともに多数の資料を収集し、その分析結果を英語で取りまとめたものである。

【参考資料】

Helmut Blume(1985), Geography of Sugar Cane―Environmental,structural and economical aspects of cane sugar production, Berlin, Verlag Dr.Albert Bartens,pp.43-88, pp.287-296, p.312.
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