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グアテマラを中心とする中米産砂糖の現況

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最終更新日:2021年7月9日

グアテマラを中心とする中米産砂糖の現況

2021年7月

中部大学 国際関係学部 国際学科 田中 高

【要約】

 中米3カ国は古くからの砂糖産出国として、重要な役割を果たしてきた。中でもグアテマラは生産性向上などにより、顕著に生産量を増やしている。米国の特恵措置、重回帰モデルによる分析結果なども踏まえて、砂糖生産の現況について述べる。

はじめに

 本稿では、グアテマラを中心として、エルサルバドル、ニカラグアの砂糖生産の現況について紹介する(図1)。グアテマラのサトウキビ生産量は2020/21年280万トン(粗糖換算)で世界第11位1)、輸出量は同年197万トンで同第4位、エルサルバドルはそれぞれ80万トン、53万トン、ニカラグアは77万トン、51万9000トンとなっている(図2)。
 
 
 わが国の砂糖輸入先実績を見ると、中米諸国からの輸入量はあまり多くはなく、2015年にグアテマラから粗糖6万1904トンの輸入が記録されて以降(表1)、2020年まで貿易統計上、輸入実績はない。またエルサルバドル、ニカラグアについては、少なくとも過去10年間、輸入実績はない。

 周知のようにわが国の砂糖輸入先は豪州とタイの2カ国で、全輸入量のほぼ9割を占めている。安定的な供給源を確保する視点からも、グアテマラなどの中米諸国と、一定の輸入量を継続する必要もあるのではなかろうか。

 グアテマラをはじめとする中米諸国の砂糖生産の様子は、わが国ではこれまで十分に紹介されることはなかった。そこでまず中米のサトウキビ生産の略史を紹介する。そのうえで、グアテマラの現況につき、コロナ禍、2020年11月の2度にわたる大型ハリケーンの影響、生産と輸出の近況を述べる。

 さらに米国の貿易上の優遇措置について触れる。米国は長年にわたり、中米産砂糖に特恵措置を講じてきた。その内容と、近年の動向について簡述する。最後に、筆者が行ったこれら中米3カ国の砂糖生産に関して、供給関数、輸出関数を用いた重回帰モデルの分析結果を紹介する。
 

1.中米におけるサトウキビ生産の概要

 あまねく知られるように、17世紀頃になるとカリブ海で大規模なサトウキビ生産がスタートした。イギリス領植民地であったジャマイカ、バルバドスが先陣を切り、フランス領ハイチがサトウキビ生産の中心的な役割を果たした。その後スペイン領であったキューバとドミニカ共和国が、カリブ海における主要砂糖生産国となった。特にキューバは、米国資本が製糖業に多額の投資をしたこともあり、インフラが整った。1959年のキューバ革命後はしばらくの間、世界最大の砂糖輸出国の地位を占めた2)

 カリブ海における砂糖生産が、資本制生産のスタートとして、またヨーロッパと新大陸(=南北アメリカ)とアフリカをつなぐ三角貿易の舞台として、歴史家の関心を惹いてきたのに比べると、中米諸国の砂糖生産は比較的地味な存在である。

 中米諸国は、エルサルバドルを除いて、太平洋とカリブ海の双方に面している。サトウキビ生産に適した自然条件を備えているものの、輸出作物として本格的な生産を開始したのは1950年代以降である。それまでグアテマラはもっぱらバナナ、エルサルバドルはコーヒーと綿花、ニカラグアは綿花と食肉、コーヒーなどが主要輸出農産品であった。ホンジュラスはバナナ生産が盛んで、コスタリカもバナナとコーヒーなどを輸出してきた。

 中米諸国に共通するのは、サトウキビ生産が太平洋岸の平地で行われていることである。気候は熱帯性で、年間平均気温は26度以上、5月から10月が雨季となる。砂糖会計年度は11月から翌年10月である。サトウキビの植え付けは11月から翌年4月で10〜14カ月後の翌11月から翌々4月頃に収穫される。収穫はいずれの国も、主に手刈りである。

 中米の中でも抜きんでてサトウキビ生産が多いのは、グアテマラである。太平洋岸南部のエスキントラ県を中心に、国内サトウキビ栽培面積の90%が集中している。国内で稼働する13の製糖工場のうち、同県に7工場が立地している。

 さらに同国は、太平洋岸に積み出し港を有し、輸出に適している。砂糖輸出専用のターミナルを有するケツァル港は、1時間当たり2000トンの砂糖を船積みでき、砂糖保管庫も設置されている3)

 グアテマラのサトウキビ生産の概況について述べる前に、世界中に多大な災厄を及ぼしているコロナ禍が、砂糖生産に与える影響について簡単に触れておきたい。米国農務省(USDA)などの報告書によれば、概要は次のようである。まずグアテマラ経済全体で見ると、2020年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス2%、2021年には急回復してプラス6%の成長を見込んでいる。砂糖生産は2020年5月までの推定に基づく集計値で、輸出額4億2990万ドル、輸出量は122万7500トンとなっている。

 USDAの需給見通しによると、2020年の砂糖輸出量には大きな変動はない。なおこの点は、エルサルバドル、ニカラグアについても同様の見立てである。コロナ禍が直接及ぼすマイナスの影響としては、農業労働者の確保、製糖工場の操業、原料運搬などがあろうが、現時点では軽微とみられる。

 中米地域は、ハリケーンの通過地点であるため、毎年大きな被害が生じる。2020年11月にはEta、 Iotaという二つの大型のハリケーンがこの地域を襲い、グアテマラでは16万5000ヘクタールが被災、被害額は430万ドルに上った。被害が大きかった農作物は、黒豆、トウモロコシ、米、ゴム、パーム油、コーヒー、野菜類であった。

 在グアテマラ米国大使館農務官報告によると、「被害の少なかった農産物は、レモン、ポテト、キャッサバ、サトウキビ、野菜類など」とのことである4)5)6)。サトウキビの植え付けは11月に開始されること、また収穫も11月頃にスタートするので、ハリケーンの影響を免れた可能性もある。

 以上、中米のサトウキビ生産の特徴をグアテマラを中心に紹介した。次に米国が中米産砂糖の輸入に適用している特恵措置について述べたい。
 
 

2.米国の特恵措置

 グアテマラをはじめとする中米・カリブ諸国は長年にわたり、対米国向け砂糖輸出について、関税割当(TRQ)などの特恵的な扱いを受けてきた。このような措置の背景には、米国内の砂糖生産者を保護するという目的が濃厚ではあるものの、同時に、中米・カリブの砂糖輸出国に対する、経済協力的な性質があることも事実であろう。USDAの砂糖課長を長年務めたダン・コラチコ(Dan Colacicco)氏は筆者とのインタビューで、「中米産糖の特恵措置は、経済支援策の一環である」と明言している(注)

 TRQで割り当てられる米国の輸入価格は、中米・カリブ諸国の場合、ICE16番の先物取引価格が適用される。自由市場の砂糖国際価格であるICE11番と比較すると、年度によりばらつきはあるものの、前者は後者のほぼ2倍である。また米国は中米・ドミニカ共和国との間で、米国・中米自由貿易協定(DR–CAFTA)を結んでおり、別建てで追加的なTRQの枠組みを設けている。2018年のデータでは、中米全体で12万1190トンが割り当てられている。

 米国はTRQとは別に、再輸出プログラムにより、特定国からの砂糖輸入に優遇措置を適用している。同プログラムは、化粧品や食品添加物を生産するのに必要な多価アルコール生産のための粗糖輸入と、世界市場向けに生産する食品に投入する粗糖輸入という、二本立てとなっている。このプログラムで認可を受けた製糖企業は自由市場の国際価格(ICE11番)で粗糖を輸入し、加工したのち輸出することができる。ICE16番とICE11番の価格差により、製糖企業から輸出向け加工食品企業に供給される砂糖の価格が引き下げられるので、輸出インセンティブにつながる(表2)。

 2019年のデータでは、再輸出プログラムによる全輸入量の約40%はグアテマラ(11万3532トン)、エルサルバドル(3万3522トン)、ニカラグア(1万3718トン)が占めている。このように、中米諸国は他の砂糖輸出国に比べて優遇されている。輸出量を安定的に確保したい中米砂糖輸出国にとり、近年輸出先の多角化が進んでいるとはいえ、米国は依然として重要な取引相手である。

(注)コラチコ氏とのインタビューは2020年2月24日、ワシントン特別区にある、ASA(American Sugar Alliance)本部で行った。
 

3.グアテマラのサトウキビ生産・砂糖輸出

 グアテマラのサトウキビ生産が堅調に推移している要因の一つとして、単収の増加がある。1990年には1ヘクタール当たり85.742トンだったが、2017年には121.119トンへと実に1990年比で41%増加した。次節で紹介する重回帰モデルによる成長要因分析では、単収増加(技術進歩)は説明要因として明示的にはインプットされない。そこで栽培面積・単収増加が生産量増加に与える寄与度を試算したところ、63%という高い数値となった7)。残りの37%がこれ以外の、例えば天候などの自然条件、刈り入れの技術進歩や輸送網などのインフラ整備ということになるのではなかろうか。

 生産拡大と単収増加=技術進歩には、グアテマラ砂糖産業協会(以下「ASAZGUA」という)が大きく貢献している。ASAZGUAは1957年に設立された製糖業界の団体で、国内にあるすべての製糖企業13社が参加している。主たる活動は(1)農地と製糖工場の技術と生産性の向上(2)人材の育成(3)出荷・製品流通の改善(4)地方公共団体との連携―などである。

 このような取り組みの中でも、品種改良と人材育成に大きく貢献したのは、ASAZGUAの下部組織で、1992年に創設されたサトウキビ人材育成センター(以下「CEGNICAÑA」という)である。発足当時はコロンビアのサトウキビ生産者協会の協力を得て、もっぱら品種改良に取り組んだ。海外9カ国から1400品種に及ぶ種子導入試験を実施、病害に耐性のある改良を行った。同センターが育成したグアテマラ産オリジナル品種は、栽培面積の33%で利用されている。

 CEGNICAÑAは品種改良のほか、総合的病害駆除(IPM)を実施し、天敵、微生物を用いた総合的病害駆除技術を確立し、普及に努めてきた。かんがいについては施設整備と利用促進を図り、太平洋岸平地にあるサトウキビ栽培地の70%がかんがいを利用している。

 グアテマラの砂糖輸出の概要は、次の通りである。2019年の主要輸出先は、1位がカナダで全輸出量(以下同じ)の14.5%を占め、2位の米国は、13.9%、3位チリ10.7%、4位モーリタニア8%、5位台湾5.7%、6位中国5.2%と続く(図3)。興味深いのは、グアテマラは台湾との外交関係を維持し、2006年には両国間に自由貿易協定が成立しているにも関わらず、近年の傾向として、中国との貿易が増加していることである。このような動きの背景には、中国の積極的な外交政策がある。
 

4.中米産砂糖の成長要因数量分析

 本節では、中米3カ国の砂糖生産成長要因について、重回帰分析を用いて計測した結果を紹介する。計測期間は1991年から2017年である。重回帰式モデルは2本立てでそれぞれ供給関数と輸出関数と呼称する。供給関数の回帰モデルは、砂糖生産量を被説明変数、人口指数、砂糖輸出量、GDP成長率を説明変数として用いる。輸出関数の回帰モデルは、被説明変数に砂糖輸出量、説明変数に砂糖生産量、砂糖国際価格、砂糖在庫量をそれぞれ対数変換したものを用いた。砂糖は一般に下級財=必需品と分類され、需要の所得弾力性は高くないと前提されるが、この点について3カ国の弾力性を計測し、確認した。

 供給関数

砂糖生産量 Y:1000トン
人口指数  NINDEX:2010年基準
砂糖輸出量 EX:1000トン
GDP成長率 GDP:% 2010年実質価格基準より算出。

Y=A0+A1NINDEX+A2EX+A3GDP+U

 輸出関数

砂糖輸出量  EX:1000トン
砂糖生産量  Y:1000トン
砂糖国際価格 Pt-1:期待価格。前年度データ。セント/ポンド。ニューヨーク先物11番(ICE11番)。
砂糖在庫量  St-1:前年度期末在庫量 1000トン

lnEX=C+C1lnY+C2lnPt-1+C3lnSt-1+U

グアテマラの計測結果

 供給関数は、期待価格Pt-1を除いて、三つの説明変数を用いた回帰式では、式全体のあてはまりを示す有意性F=P値は3.550/1012で帰無仮説は棄却された。GDP%のt値は1以下で、有意性は認められないが、EX=輸出量とNINDEX=人口指数は、それぞれt値は2.375と3.542で、比較的よくフィットした。この結果から、グアテマラの砂糖生産は、輸出量と人口増加に影響を受けていると推測される(表3)。

 輸出関数は、有意性F=P値は2.595/1011で、帰無仮説は棄却された。t値から判断すると国際価格の係数の有意性は低く、生産量の係数の有意性が比較的高い数値となった。生産量が1%増加すると、輸出量は0.9923%増加すると推定される。なお在庫量St-1の有意性は低い。

 計測の結果では、需要の所得弾力性は0.826である。1人当たりGDP1%の増加で、1人当たり砂糖消費量は0.826%増加となる。弾力性は低く、砂糖が必需品であることが確認できた。

 エルサルバドルとニカラグアの概要については、次の通りである。エルサルバドルの供給関数は、輸出量係数の有意性が高く、人口とGDP係数の有意性は確認できなかった。輸出関数は、生産量係数の有意性は高く、国際価格と在庫量の係数の有意性は高くはなかった。所得弾力性は0.761で、砂糖が必需品であることを確認した。

 ニカラグアは、供給関数は、輸出量と人口ともによくフィットした。輸出関数については国際価格、在庫量の係数はともに有意性は認められないが、生産量の有意性が高い。所得弾力性は0.305でかなり弱い。ニカラグアの所得水準は他の2カ国に比べて低いので、今後の研究課題としたい。
 

おわりに

 中米の砂糖生産は堅調に増加している。特にグアテマラは単収の大幅な増加をてこに、製糖業は国内経済を支える主要産業の地位を築いてきた。長年にわたり米国は中米産糖に特恵措置を付与してきたが、近年の傾向として、中国などへの輸出先多角化を進めている。

 さらに供給・輸出関数による重回帰モデルの計測では、輸出量と生産量に相関関係のあることを明らかにした。また砂糖は必需品であることを確認した。

 以上の分析を踏まえると、中米産糖はこれからも堅調に増加し続けると判断される。わが国にとり中米は、量は限定的ではあるが、安定的な供給源となることが期待できよう。

参考資料

1)USDA(United States Department of Agriculture) [2020] 「Sugar: World Markets and Trade, November」.
2)田中高(2012)「日本・キューバ貿易と米国の対日政策−1960年代キューバ糖貿易をめぐる、3カ国の外交姿勢とナショナリズム−」『国際政治』第170号、pp.61–75.
3)独立行政法人農畜産業振興機構(2015)「拡大するグアテマラの砂糖産業」『砂糖類・でん粉情報』(2015年6月号)、pp.60–73.
4)CEPAL(Comisión Económica para América Latina)[2020], Los efectos del COVID-19 en el comercio internacional y la logística, agosto.
5)USDA[2020], 「COVID-19 Impact on Guatemalan Agriculture」, Report Number: GT2020–0010, June.
6)USDA [2020] 「Preliminary Assessment of Eta and Iota Tropical Depressions Impact on Guatemalan Agriculture」, Report Number: GT2020-0022, December.
7)田中高(2020)「中米糖業の成長要因について−エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアの定性・定量分析−」『貿易風—中部大学国際関係学部論集—』第15巻、pp.7–30.
8)田中高(2017)「日本製糖業の直面するいくつかの課題について:糖価調整法の行方」『産業経済研究所紀要』第27号、pp.1–25.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272