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砂糖の消費拡大に向けた「天下糖一」の取り組み

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最終更新日:2021年8月10日

砂糖の消費拡大に向けた「天下糖一」の取り組み

2021年8月

天下糖一プロジェクト事務局
北海道農業協同組合中央会 農政対策部 主査 相川 健亮

1.取り組みの背景

(1)砂糖の消費の減少

 砂糖は国民の食生活や、わが国の食文化にとって無くてはならない食品ですが、その消費の減少が続いています。農林水産省のまとめによると、平成元砂糖年度(SY)に257万トンあった砂糖(分みつ糖)の需要量は、令和元SYには172万トンと、30年間で85万トン程度減少しました。

 ここで一つ注目すべきデータがあります。砂糖に、加糖調製品(砂糖に他の食品素材を混合したもの)・異性化糖(でん粉を酵素分解して作られる液状糖)を加えた甘味全体の需要量は、図1の通り微減傾向で推移しているのです。

 つまり、日本人が食べる「甘味」の量はあまり減っていないにもかかわらず、「砂糖」を食べる量だけが減っていると言うことができます。

 これは、食生活の変化や、ダイエットブームによる低カロリー甘味料の使用量の増加、砂糖は「太る」「糖尿病の原因」といった誤ったイメージが広まっていることなどが原因ではないかと考えられます。
 

(2)砂糖の消費減少の影響

 では、砂糖の消費減少がどのような問題につながるのでしょうか?

 国内で作られる砂糖は、てん菜とサトウキビを原料としています。てん菜は北海道における「輪作」の構成品目として、サトウキビは台風や干ばつの多い鹿児島県南西諸島や沖縄県における代替困難な作物として、地域に欠かせない作物です。また、両方とも産地の製糖工場で加工されるため、地域経済においても重要な役割を果たしています。

 一方、国内産の砂糖は製造コストが高く、海外産の砂糖との間に大きな価格差が存在するため、わが国では、輸入糖からの調整金収入を主な財源とする「糖価調整制度」によって国内産糖の振興を図っています。

 砂糖消費量の減少は、この日本独自の仕組みである「糖価調整制度」の運営に支障を来し、最終的には、北海道や鹿児島県・沖縄県の地域経済や、国民に対する砂糖の安定供給に影響を及ぼす可能性があります。

 持続可能な農業の振興と国民への安定した食料供給に向けては、砂糖全体の消費拡大が必要であり、JAグループ北海道では、砂糖の消費拡大対策「天下糖一」プロジェクトに取り組むこととしました。

2.天下糖一プロジェクトの概要

 天下糖一プロジェクトは、北海道農協畑作・青果対策本部(JAグループ北海道における畑作農政および系統事業に係る対策の決定機関)を主体に、生産者からの拠出(てん菜作付10アール当たり100円)を財源に実施し、砂糖の年間消費量を200万トンまで回復させる目標を掲げています(図2)。

 先述の通り、砂糖の消費減少の背景には砂糖に対する誤った認識の存在があることから、砂糖の悪いイメージを払拭(ふっしょく)し、イメージアップを図ることを大きな目的に(1)総合啓発施策(2)道内向け施策(3)イメージアップ施策―の3本の柱で展開しています。この3本の柱の主な取り組みについて紹介します。

(1)総合啓発施策

ア WEBやSNSを活用したイメージアップ

 本プロジェクトの“命題”である砂糖のイメージアップに向けて、まずは砂糖の正しい知識を発信するポータルサイトを整備しました。ポータルサイトは、「天下糖一」という名称から、戦国時代をイメージしたビジュアルとし、甘いものが大好きな武将「甘口糖兵衛」をはじめとしたユニークなキャラクターを登場させることで、一般消費者にも興味を持って見てもらえるページを意識しています(図3)。ポータルサイトでは、砂糖に対する正しい知識や、砂糖に関わる方々のインタビュー記事など、学べるコンテンツを充実させ、砂糖やてん菜について理解を深めることができる内容としています。また、後述する各施策についてポータルサイト上で情報発信することで、各施策とポータルサイトの相互流入を促し、プロジェクトの認知度向上へつなげる仕組みとしています。

 さらに、天下糖一キャラクターのLINEスタンプを作製し、天下糖一キャラクターを身近に使ってもらう仕組みを作りました。

イ 新たな活用方法による消費拡大

 砂糖には高い保湿効果があり、天然の保湿剤とも言われていることをご存じでしょうか?その機能に着目し、砂糖を主原料とする入浴剤を用いた「砂糖のなごみ湯」と、砂糖を使用した保湿剤「シュガースクラブ」の普及に向けた取り組みを行っています。

 砂糖のなごみ湯については、昨年度札幌市内42カ所の銭湯の協力のもと実施し、利用者からも好評だったことから、今年度は、北海道内と東京都内の銭湯に規模を拡大して実施予定です。

 砂糖の保湿効果のPRは、「食べる」以外の消費方法を広めるほか、砂糖のイメージアップにも貢献するものと考えています。

(2)道内向け施策

ア 次世代を担うパティシエへの支援

 北海道内で開催されている、高校生たちのお菓子コンクール「ハイスクールパティシエロワイヤル」に特別協賛しています。このコンクールで入賞した作品は道内のコンビニチェーンで商品化されるため、パティシエを目指す高校生にとっては、大きな目標の場となっています。

 また、コンクール参加校を中心に、道内高校において、砂糖に関する出前授業もあわせて実施していますが、要望に応えきれないほどの開催依頼があるなど、好評を博しています(図4)。

 高校生世代は、これからの社会を担っていく人材ですので、そういった方に砂糖の正しい知識を持ってもらうことは、将来的な消費拡大に向け重要なことであると考えています。
 

イ プロの料理家向け講習会

 プロの料理家を対象とした講習会「シュガーセミナー」を開催しています。われわれもこの取り組みを行って分かったことですが、プロの料理家の中にも砂糖に対してマイナスのイメージを持っている方がいました。

 プロの料理家は、一般消費者に対して強い情報発信力を持ったインフルエンサーでもあるので、砂糖に対する正しい知識を持ってもらうことは、一般消費者への普及効果も期待できると考えています。

(3)イメージアップ施策

 砂糖のイメージアップに向け、普段砂糖について意識することが少ない方にもアプローチしていくため、有名人を活用したイメージアップ動画を作製・配信することを中心に取り組んでいます。話題性を作り、これまでわれわれJAグループになじみが薄かった消費者層にも届けていくため、インパクトのある内容を意識した施策としています。

 令和元年度には、北海道出身の大食いタレント、アンジェラ佐藤さんが、アンジェラ「砂糖」さんに改名して砂糖PR動画を配信しました。令和2年度にはアンジェラ砂糖さんから複数の大食いタレントを巻き込んで砂糖のPR動画を配信し、多数の視聴回数を獲得しました。

 また、顔面凶器と呼ばれる小沢仁志さんを起用した「砂糖の妖精」CMは、固いイメージのあるJAグループとしてはこれまでにないバラエティ感のある動画が話題を呼び、各種メディアでも取り上げられました。

 今年度も、レシピ動画の配信やスイーツの販売など、楽しく、砂糖が食べたくなる施策を展開していきます。

3.最後に

 社会情勢やライフスタイル、価値観など、さまざまなものが大きく変わっていく時代、砂糖の消費拡大は容易なことではありません。直近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、砂糖の消費も大きく減っています。まさに「砂糖に甘くない時代」です。

 しかし、甘いものを食べると幸せになる、疲れた時は甘いもので一息…、誰もが経験のあることだと思います。私たちの生活に「砂糖」は無くてはならないものです。砂糖の正しい知識が広がり、みんなが砂糖で笑顔になる…、そんな「甘い世づくり」のために、これからもさまざまなことに取り組んでいきたいと思います(図5)。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272